top of page

カナダMAID(安楽死)の実態|2023年統計・条件・問題点を徹底解説【第5回年次報告書より】

執筆者の写真: リップディー(RiP:D)
リップディー(RiP:D)
2025年11月15日
読了時間: 19分

更新日:4 日前

最終更新日:2026年7月20日


👉 安楽死の基本的な仕組みや全体像を知りたい方は、まずこちらの記事をご覧ください」


👉 安楽死の定義と分類(積極的・消極的・間接的)の違いは、こちらで整理しています↓



カナダの安楽死は

・年間約1.5万人規模

・約96%が末期患者

・制度は拡大しつつも厳格



カナダの安楽死制度「MAID(Medical Assistance in Dying)」は、世界でも最も急速に拡大している制度の一つとして注目されています。


2016年の合法化以降、対象となる患者の範囲は段階的に拡大され、現在では終末期に限らず、さまざまなケースに適用されるようになっています。


一方で、その拡大は大きな議論も呼んでいます。特に、精神疾患への適用、社会的弱者への影響、緩和ケアとの関係など、倫理的・制度的な課題が国内外で指摘されています。



本記事では、カナダの安楽死(MAID)について、制度の仕組み、利用条件、最新の統計データ、そして問題点までを体系的に整理し、世界の安楽死制度との違いも含めてわかりやすく解説します。




👉 世界各国の安楽死制度を知りたい方は、こちらで解説しています↓



🎧音声による動画解説



要約図(自由使用可)


カナダのMAID(安楽死)の実態を解説する統計インフォグラフィック。山岳風景とカナダ国旗の下、利用者数やTrack1/2の円グラフ、各種数値が並ぶ。


👉カナダの安楽死制度「成立の歴史」については、こちらをご覧ください↓


👉 世界各国の申請プロセスをまとめて確認する場合はこちら(ハイライト)↓




カナダ 安楽死 MAID|現状と実績データ



カナダの安楽死制度 MAID とは(正式名称と概要)


カナダでは『安楽死(Euthanasia)』という言葉は使わず、


MAID(Medical Assistance in Dying)


と呼称します。

※ちなみにアメリカのMaidは(Medical aid in dying)となります(紛らわしいです)。




カナダにおける MAID 利用者数の推移データ


利用者数の急増


カナダの安楽死制度(MAID:Medical Assistance in Dying)は、2015年に法案が可決され、2016年に正式に施行されました。

また2021年に法改正があり、後述するように、安楽死の対象が非末期疾患へと拡大しています(ただし審査はより厳格化)。


そして、こちらの 2023年度までの利用率グラフを見ると、制度開始からの利用者数の伸びが非常に大きいことが分かります。

制度開始から利用者数は“爆増”と言って良いほど増加し、上昇率は極めて急速です。


カナダの安楽死者数を示すグラフ。2016年から2023年にかけて青と紫のバーで増加を表し、赤は特定の死亡タイプを示す。

年間件数の推移(概略)


  • 2016年:約1,000件

  • 2019年:約5,000件

  • 2023年:10,000件以上


⇒ わずか数年で約10倍に増加



オランダでは制度成立から約20年かけて、年間死亡者に占める安楽死の割合が5%を超えました。

👉 オランダの安楽死制度の完全解説は、以下より参照↓



一方で、カナダは たった7年間で4.7%(2023年) に達しており、5%目前です。

2024年のオランダでは 5.8%(9,958人) に増加していますが、

その20年の道のりを、カナダはわずか数年で追い抜こうとしています。



(※あくまで参考ですが、日本での年間死亡者のうち自殺で亡くなる割合は約2.4%。)

オランダの「安楽死」での死者数を示す棒グラフ。2002年から2024年までのデータで、全体的に増加傾向。

※この急増ぶりに、カナダ国内の宗教系団体(特にキリスト教福音派)が敏感に反応して焦りを感じたのか、陰謀論めいた批判をメディアで世界中に拡散・展開しているのは、“さも、ありなん”という状況でしょう。

👉 日本を含めて安楽死を反対する人々の正体は、こちらをご覧ください↓



急増の理由としては大きく3点あります。


・制度導入の背景:

 市民が訴訟を通じて権利を勝ち取った歴史(自負心)


・後発国の優位:

 既に他国の制度設計ノウハウが整備されていたオランダの影響が強い


自己決定権を重視するカナダの文化政治的背景


つまり、制度の発展段階を最短距離で駆け抜けられる環境が整っていたという事です。

訴訟と導入の経緯については、別回で報告します。




安楽死(MAID):適格の条件


・18歳以上

・精神的に健全=判断能力があること

・重篤な疾患、または障害がある

・進行した衰退状態

・緩和できないほどの心理的な過度の苦痛、障害、衰退状態



※👉 特に“緩和ケアとの関係”は重要な論点です。詳しくはこちら



注意点として、基礎となる疾患が『精神疾患の場合』は対象外であることは覚えておきましょう。精神疾患もOKの、オランダ、ベネルクス3国、ドイツ、スイスとは異なります。


実は、2023年3月17日に、基礎疾患が精神障害でも対象となるはずでした。

しかし1年延期が決定されたあと、2024年2月に『2027年までは検討しないという方針』が決議された…そのような経緯があります。

ただ、それを不服としてオンタリオ州では裁判が起きています。




👉 安楽死と自殺の違いについては、誤解されやすいためこちらで詳しく解説しています↓


※👉カナダ安楽死の申請から実施までの全プロセスはこちら↓




2023年のMAID 利用者数:詳しいデータ内訳


・安楽死を申請した人:

 19,660人


・実際に安楽死で亡くなった人:

 15,343人


・申請したが亡くなるまでに間に合わなかった人:

  2,906人


・不適格と判断された人:

  915人


・申請したが安楽死を選ばなかった人:

  496人



制度全体を俯瞰すると、申請者のうち 約22%が実際には安楽死に至っていない ことが分かります。


カナダの安楽死に関する年次報告書2023の表紙。淡い青と紫の背景に赤文字で日本語のタイトル。下部にカナダのロゴ。


👉 データのソースは、2024年に公開された第5回年次報告書』

非常に読みやすい内容と構成になっているので、興味ある方は是非読んでみましょう。




トラック1(末期)とトラック2(非末期)


カナダの安楽死制度についてのインフォグラフィック。トラック1と2の違いを説明し、未病と非未病のケースを比較。テキスト多数。

カナダの安楽死を語る上で気を付けてほしい点があります。

それは、例えば、アメリカやオーストラリア、今まさに安楽死法案を審議中のイギリスとは違って、カナダ安楽死では対象条件に非・末期疾患の患者が含まれるということです。

これは先述のとおり、2016年の施行から5年後の2021年の法改正により決定されました。


カナダのデータを見ていくと、トラック1、トラック2という表現が頻出しますが、

前者が末期疾患後者が非末期疾患、の患者群と覚えておきましょう。



・トラック1

本人に差し迫った『死』が「合理的に予見可能」

つまり近いうち(1年以内ぐらい)には亡くなると合理的に判断できたケース。



・トラック2

重篤な疾患を抱え、安楽死の条件をクリアしながらも、寿命の推測に関しては不確定という状態の中、安楽死するケースです。

「 生きようと思えばまだ長く生きられます。しかし、心理的な苦痛が壮絶すぎて、もうムリ」…そのような患者さんをイメージすると良いでしょう。




ザックリ説明してしまうと、

トラック1は、『末期のがん』が代表的です。


トラック2は、寿命は不確定で末期ではない『ALS、パーキンソン病などの神経疾患』『(首から下が動かない)四肢麻痺』。

もっと言えば『重度の精神障害』も非末期疾患と言えるでしょう。


オランダでは、『カップル安楽死』が認められ注目されていますが、あちらも寿命は不確定なので“非末期”の安楽死と言えます。



トラック2のケースを『認めるのか、認めないのか?』

ここは今後の安楽死制度の発展の中で、非常に重要なテーマとなってくるので意識して覚えておくと良いでしょう。




トラック1(末期)とトラック2(非末期)の内訳


2023年のMAID利用データのインフォグラフィック。安楽死申請19,660人、実施15,343人、トラック1・2比較、円グラフと医師・高齢者の図、青基調。


・トラック1(末期):

 95.9%(14,721人)


・トラック2(非末期):

 4.1%(622人)



つまり、カナダで安楽死を受ける人の



約96%は

「余命1年以内の末期疾患」



です。



トラック1の特徴(末期)

・主な基礎疾患は がん(64.1%)

・平均年齢は77.7歳


国際的に見ても典型的な構造で、「安楽死=主に末期がん患者」というイメージ通りの結果です。



トラック2の特徴(非末期)

・基礎疾患は ALS、パーキンソン病、脊髄小脳変性症などの神経疾患が中心

・その他:糖尿病、虚弱、慢性疼痛、自己免疫疾患など

・平均年齢は 75歳


ただし、トラック2は



・利用者が少ない

 (全体の4.1%)


・不適格率が高い

 (26・9%)



という大きな特徴があり、審査がかなり慎重に行われていることが読み取れます。


難病患者数の規模を考えると、「少なすぎるのでは?」という指摘もありますが、これは審査手順そのものが慎重すぎるのか、あるいは制度の運用上の問題か、継続的な議論が必要な部分となっています。


カナダの安楽死に関するインフォグラフィック。末期疾患と非末期疾患の比較、統計、年齢層、批判を示す。主な疾患はがん。

※このトラック2に関しては、カナダだけでなく、同じく非末期の安楽死を認めているオランダやその周辺国も含めて、

WHO、国連人権団体、世界医師会、緩和ケア医業界、とりわけキリスト教原理主義メディアが、

しつこく執拗に「トラック2安楽死は止めろ」と糾弾してくる点でもあります。




カナダ MAID:よくある誤解とデマ


安楽死制度を反対する人々の中には、



>障害者や経済的弱者が強制的に安楽死を選択させられている


>カナダでは生活保護より安楽死の申請のほうが簡単らしい


>「障害者が安楽死で間引きされている、カナダがナチス化してる」


>カナダ政府は社会保障費を抑制するために安楽死制度を進めている



…と非難して、カナダの安楽死に非常に悪いイメージを付与して言及する人々がいます。



※👉 “安楽死=弱者圧力”という議論の構造はこちら↓



テキスト画像: 合法化後、安楽死の件数が増加。カナダで福祉支援が必要な人々が間引きに導かれ、選ばれた死が圧力で増えると述べる。

※児玉真美など障害者運動の系譜として、安楽死を反対する集団の詳細はこちら↓




しかし、それは『嘘』です。


既述のように実際のデータとは完全に矛盾しています。



・トラック2(非末期)は「全体の4.1%」

・それは神経疾患が中心

・審査はむしろ極めて厳しい



したがって「障害者が大量に安楽死させられている」というデマは間違いと断じることができます。

👉詳しくは「カナダ安楽死デマとは何だったのか」を参照してください↓



それではデマを流すだけでなく『陰謀論アプローチ』さえ取りながら、安楽死制度を非難・否定している人々の正体は誰か?それは、



・安楽死を“丸ごと”全体否定する勢力

・“安楽死”という概念自体、

 沽券と利権の点から非常に都合が悪いと考える勢力



そういう人達です。また海外だけでなく『日本でも!』下記のような教義を持った人々が、各業界の上層階に蔓延っています



「安楽死は自殺であって(キリスト教的)生命倫理に反する卑劣な行為である」


「自殺は神様を裏切る極めて冒涜的で恥ずべき行為である」


「キリストの受難がそうであるように“苦しみには意味がある”




👉 このような議論の背景には、賛成・反対それぞれの思想があります


👉「安楽死に反対する障害者団体の素顔」については以下で解説↓




地域特性・所得分布から見える現実|MAID 利用者


カナダ保健省の報告書。コミュニティ分析結果を示し、強調された部分があり、テキストはMAID受給者と地域の特徴について。
カナダ安楽死『第5回年次報告書』より

カナダの2023年安楽死者の所得分布を示す棒グラフ。色分けは収入の五分位で、各トラック別のデータが記載されている。
平均〜やや高い所得層に偏る傾向

よく言われるような「貧困層が安楽死に追い込まれている」という主張も、データとは一致しません。むしろ、


所得分布との明確な関連性はない

・むしろ、将来的には

安楽死が富裕層の特権となる可能性」すら指摘されている


という状況です。


カナダの安楽死と所得の関係を示す2023年インフォグラフィック。所得分布の棒グラフと人型アイコン、結論は強い相関なし。

※元画像から作成した簡略図



👉詳しくは「安楽死は貧困層が選ばされているのか」をご覧ください↓




緩和ケアと障害者支援:制度の基盤は機能している


※👉 緩和ケアとは何か、その役割はこちら↓



緩和ケアと障害者支援サービスの受給状況を示す図。赤で強調されたテキストが含まれ、詳細な数値情報が箇条書きで記載。


表5.1a: MAID受給者の緩和ケアサービスの受給状況。必要で受領済み11,510人(75.0%)。ケアにアクセスできませんでした6人(<0.1%)。黄色で強調。


カナダは歴史的に緩和ケアを非常に重視してきた国です。

“Palliative Care” という名称そのものを最初に提唱したのもカナダの医師です。


そのため、安楽死制度のせいで緩和ケアが軽視されているという主張は当てはまりません

実際にトラック1(末期)の患者では



76%が緩和ケアを受けていた



と報告されています。これはつまり、



緩和ケアが提供された上で、それでもなお、

苦痛が緩和できない場合には、人々は安楽死を選択


という実態があります。




👉「緩和ケアの限界とは?」についての解説は以下よりご覧ください↓


👉「日本での法制度や現状については、こちらの記事で詳しく解説しています」




カナダ MAID 制度の現状まとめ


カナダの安楽死制度は、制度開始から短期間で急速に拡大しましたが、その背景には



・市民の権利闘争としての制度誕生


・後発国としての制度設計の完成度


・緩和ケアと並列での慎重な運用


・末期疾患(特にがん)が中心の利用構造


・厳格な審査と専門スタッフの増加



といった土台がありました。それと同時に



障害者が大量に安楽死させられている」

貧困層が標的にされている」といった言説は、



実際の統計とは一致しないことは明らかである事実は覚えておくと良いでしょう。

 決して制度は乱用されておらず、むしろ慎重運用で支えられています。


実際には厳格な評価体制・緩和ケアとの両立・市民の権利としての正統性を土台にしており、データからは秩序立った成熟した制度 が立ち上がりつつあることを確認できます。


カナダは、緩和ケア先進国として知られつつも、個人の自己決定権を強く尊重する法体系を持つため、安楽死制度は医療的ケアの延長ではなく、患者の尊厳と主体的選択を重視する権利として位置づけられています。


当会では、カナダの安楽死について完全なエビデンスとデータを元に、今後も積極的に論じていこうと思います。




👉 安楽死とは何かを整理したい方は、こちらで全体像を確認できます↓


👉 日本の安楽死における現状は│歴史などは、こちらをご覧ください↓


👉 地図で確認する安楽死が合法の国 一覧と各国制度は、こちらで詳しく解説しています↓




2023年MAIDの全体像

項目

2023年

MAID申請報告

19,660

MAID提供

15,343

Track 1

14,721(95.9%)

Track 2

622(4.1%)

不適格

915

他原因による死亡

2,906

取り下げ

496

緩和ケア利用

75.0%



Track 1 / Track 2」比較表

項目

Track 1

Track 2

自然死

合理的に予見可能

合理的に予見可能ではない

2023年MAID提供

14,721人

622人

割合

95.9%

4.1%

追加セーフガード

通常のセーフガード

追加のセーフガードあり

90日評価期間

原則なし

原則あり

支援・代替手段の検討

あり

より明示的に要求

専門家相談

条件による

条件により必要

精神疾患のみ

現在対象外

現在対象外



👉 世界の安楽死制度の成立経緯を年代順で知りたい方は、こちら↓




FAQ|カナダMAIDについてよくある質問


Q1.カナダのMAIDとは何ですか?

A. MAID(Medical Assistance in Dying)は、カナダの法律に基づき、一定の適格要件とセーフガードを満たした人に対して提供される「死への医療的援助」です。2016年に連邦法による制度が導入され、その後2021年の法改正などによって制度の対象や手続きが変更されています。


Q2.カナダでは誰でもMAIDを利用できますか?

A. いいえ。18歳以上で意思決定能力があること、自発的な申請であること、重大かつ回復不能な医学的状態があること、その状態に関連して本人にとって耐え難く、本人が受け入れ可能と考える条件では緩和できない苦痛があることなど、法律上の要件を満たす必要があります。


Q3.MAIDと「安楽死」は同じ意味ですか?

A. 完全に同じ言葉ではありません。MAIDはカナダ法上の制度名称であり、医療者が薬剤を投与する方法だけでなく、本人が薬剤を自己投与する方法も含みます。本記事では日本語での理解を容易にするため「安楽死」と表記する場合がありますが、制度を正確に説明する場合には「MAID(Medical Assistance in Dying)」という原語を併記します。


Q4.MAIDと自殺は同じですか?

A. 医学・法律上は区別されています。MAIDは、法律で定められた適格要件を満たした人に対して、医療制度の中で提供される制度です。一方、一般的な自殺はそのような制度上の適格性審査を経た医療行為ではありません。


Q5.Track 1とTrack 2は何が違いますか?

A. Track 1は、自然死が「合理的に予見可能(reasonably foreseeable)」と評価されるケース、Track 2は、自然死が合理的に予見可能ではないケースです。

Track 2では、より長い評価期間、苦痛を緩和するための利用可能な手段についての説明・検討、必要に応じた専門家への相談など、追加のセーフガードが設けられています。

なお、Track 1を単純に「余命1年以内の末期患者」と理解することは正確ではありません。


Q6.カナダでは精神疾患だけを理由にMAIDを受けられますか?

A. 2026年9月現在、精神疾患のみを基礎疾患とするMAIDの適用は認められていません。カナダ政府は、その適用開始を2027年3月17日まで延期しています。


Q7.カナダではMAIDを受ける人の多くが緩和ケアを受けていますか?

A. はい。Health Canadaの2024年報告書では、2024年にMAIDを受けた人の74.1%が緩和ケアを受けていました。

ただし、この数字だけから「緩和ケアを受けても苦痛がなくならなかったためMAIDを選択した」と因果関係を推定することはできません。緩和ケアとMAIDの関係については、医学・倫理の両面から現在も議論が続いています。


Q8.カナダでは貧困層がMAIDを選ばされているのでしょうか?

A. 現在公表されている統計から、「貧困層が一律にMAIDへ誘導されている」という単純な構図を確認することはできません。

Health Canadaの2024年報告書では、MAID受給者の居住地域の所得分布は、カナダの自然死者全体の分布と大きく異なっていません。また、BMJ Openの研究では、低所得層の患者は高所得層よりMAIDを受ける割合が低いことが報告されています。

ただし、個々の患者が置かれた社会的・経済的状況や、障害・住宅・介護・医療へのアクセスなどの問題を統計だけで完全に評価することはできません。この点は現在も重要な倫理的論点です。


Q9.障害者への強制的なMAIDが行われているという批判はありますか?

A. はい。障害者の権利や社会的支援へのアクセスをめぐって、MAID制度に慎重な立場から批判が提起されています。カナダ国内外の研究・人権機関などでも議論されています。

一方、現在の公的統計だけから「障害者が制度によって大量に死へ追い込まれている」と結論づけることもできません。

したがって、本記事では、個別事例、統計、学術研究、制度上の議論を区別して扱います。


Q10.MAIDには反対・慎重論もありますか?

A. あります。主な論点として、本人の意思決定能力をどのように確認するか、社会的・経済的圧力が意思決定に影響しないか、障害者や高齢者など脆弱な立場の人をどのように保護するか、緩和ケアや社会的支援へのアクセスを十分に確保できているか、制度拡大をどこまで認めるか、監視・報告制度が十分か、といった問題があります。

本記事では、制度化を支持する研究だけでなく、これらの慎重論を扱う査読付き研究も紹介しています。


Q11.MAIDは本当に「濫用されていない」と言えますか?

A. 公的統計から、MAID制度全体が一律に濫用されているとは確認できません。一方で、統計だけから「濫用がまったく存在しない」と断定することもできません。

重要なのは、利用件数、適格性審査、Track 1・Track 2、緩和ケア、社会的支援、個別事例、監視制度などを分けて検討することです。


Q12.カナダのMAID制度は日本の制度設計の参考になりますか?

A. 参考になる部分はありますが、そのまま日本へ移植できるわけではありません。

カナダでは、最高裁判所の判決、連邦刑法、州・準州の医療制度、監視・報告制度などが組み合わさって現在の制度が形成されています。

日本で制度を検討する場合には、カナダの実績だけでなく、オランダ、ベルギー、スイス、オーストラリア、ニュージーランドなどの制度も比較し、日本の医療・司法・社会保障制度に適合したセーフガードを検討する必要があります。




嘆願書送付アクション

本サイトでは、各国制度、安全性・濫用防止、緩和ケア、身体疾患による苦痛と自殺などについて、国会提出用の補足資料も公開しています。



書類 一覧


嘆願書 本文『人道的終末選択の法制化に関する提言書』

補足資料① 日本における安楽死制度の法的現状と制度的空白

補足資料② 各国制度比較と日本への制度モデル

補足資料③ 制度設計・安全性確保・濫用防止策

補足資料④ 緩和ケアの限界と終末期医療の課題

補足資料⑤ 身体疾患・身体障害による苦痛と自殺の実態

カバーレター:ご挨拶(1ページ)

要約文(2ページ)






参考文献・主要資料


1.カナダ政府・公的資料

・Health Canada. Sixth Annual Report on Medical Assistance in Dying in Canada. 2025.

2024年のMAID申請、適格性評価、実施件数、Track 1・Track 2、緩和ケア、社会経済的背景などをまとめた、現在利用できる最新の年次報告書です。


・Health Canada. Medical assistance in dying: Monitoring and reporting.

MAIDの監視・統計公表制度と各年次報告書を確認するための政府公式ページです。


・Department of Justice Canada. Canada’s medical assistance in dying (MAID) law.

MAIDの現在の適格要件、Track 1・Track 2のセーフガード、最終同意、自己投与など、現行制度の法的枠組みを確認できます。Justice Canada:Canada’s MAID law


・Supreme Court of Canada. Carter v. Canada (Attorney General), 2015 SCC 5.

カナダでMAID制度化へ至る重要な憲法判例です。生命・自由・身体の安全、自己決定、脆弱な人の保護など、制度成立の法的背景を理解する上で重要です。



2.査読付き学術論文

・Li M, Watt S, Escaf M, Gardam M, Heesters A, O’Leary G, Rodin G.“Medical Assistance in Dying — Implementing a Hospital-Based Program in Canada.”New England Journal of Medicine. 2017;376(21):2082–2088.DOI: 10.1056/NEJMms1700606PMID: 28538128

カナダでMAIDを病院制度として導入した経験を整理した代表的論文です。制度運用、評価、患者・医療者双方への配慮を理解する資料として使用します。PubMed:PMID 28538128


・Redelmeier DA, Ng K, Thiruchelvam D, Shafir E.“Association of socioeconomic status with medical assistance in dying: a case-control analysis.”BMJ Open. 2021;11(5).DOI: 10.1136/bmjopen-2020-043547PMID: 34035092

低所得層ほどMAIDを受けるという単純な仮説を検証した研究で、オンタリオ州の緩和ケア患者を対象としています。PubMed:PMID 34035092


・Downar J, MacDonald S, Buchman S.“Medical Assistance in Dying and Palliative Care: Shared Trajectories.”Journal of Palliative Medicine. 2023.DOI: 10.1089/jpm.2023.0209PMID: 37428971

MAIDと緩和ケアを単純な対立関係としてではなく、両者の歴史的・倫理的な関係から検討しています。PubMed:PMID 37428971


・Coelho R, Maher J, Gaind KS, Lemmens T.“The realities of Medical Assistance in Dying in Canada.”Palliative and Supportive Care. 2023;21(5):871–878.DOI: 10.1017/S1478951523001025PMID: 37462416

MAID制度の安全策、監視、データ収集、社会的支援へのアクセスなどについて批判的に検討する論文です。PubMed:PMID 37462416


・Christie T, Li M.“Medically assisted dying in Canada and unjust social conditions: a response to Wiebe and Mullin.”Journal of Medical Ethics. 2024;50(6):423–424.DOI: 10.1136/jme-2023-109327PMID: 37451856

社会的不公正や経済的困難を背景としたMAID申請の倫理的問題について、慎重な立場から検討しています。PubMed:PMID 37451856


・Bahji A, Delva N.“Making a case for the inclusion of refractory and severe mental illness as a sole criterion for Canadians requesting medical assistance in dying (MAiD): a review.”Journal of Medical Ethics. 2022;48(11):929–934.DOI: 10.1136/medethics-2020-107133PMID: 33849958

精神疾患のみを基礎疾患とするMAIDについて、制度化を支持する側の医学・倫理的議論を整理したレビューです。PubMed:PMID 33849958


・“Medical Assistance in Dying: A Review of Canadian Health Authority Policy Documents.”2023.PMID: 37168395

カナダ各州・準州のMAID政策文書を分析し、本人の選択、チーム医療、セーフガード、医療者の良心的拒否など、制度運用上の論点を整理しています。PubMed:PMID 37168395



3.本記事の立場について

RiP:Dは日本における安楽死制度の法制化を支持する立場から情報発信しています。

そのため、本記事にも制度化に肯定的な評価が含まれます。

一方で、MAIDをめぐっては、障害者への影響、社会的・経済的圧力、意思決定能力、緩和ケアへのアクセス、医療者の倫理、制度拡大、監視・報告体制などについて、慎重論・批判的研究も存在します。

本記事では、これらを無視するのではなく、公的統計・法令・裁判例・査読付き研究などを確認した上で、「公的データから確認できる事実」と「そこから導かれる評価・意見」をできる限り区別して整理します。




本記事の調査方法・情報源について

本記事では、カナダのMedical Assistance in Dying(MAID)について、制度の内容・利用状況・安全対策・倫理的論点をできる限り一次資料に基づいて整理しています。

制度・法令については、カナダ政府、Health Canada、Department of Justice Canada、Parliament of Canada、カナダ最高裁判所などの公的資料を優先しています。


利用件数や申請状況については、Health Canadaが公表する「Annual Report on Medical Assistance in Dying」を主要な統計資料として使用しています。

医学・生命倫理に関する論点については、PubMedで収載を確認できる査読付き論文を優先し、可能な限り著者名、論文タイトル、雑誌名、発行年、巻号、ページ、DOI、PubMed IDを明記しています。


また、本記事ではMAIDの制度化を支持する研究・議論だけでなく、障害者への影響、社会的・経済的圧力、意思決定能力、緩和ケア、制度上のセーフガード、監視体制などについて慎重な立場から論じる研究・公的資料も確認しています。

なお、個々の研究結果とRiPの見解は区別して記載しています。公的統計から直接確認できない事項については、統計だけから断定しないよう努めています。


情報源の優先順位

  1. 各国政府・公的機関の一次資料

  2. 法令・裁判所判決・議会資料

  3. 査読付き学術論文

  4. PubMed等の医学文献データベース

  5. 国際機関・専門学会等の資料

  6. 報道機関等の二次資料


記事公開後に制度変更、統計更新、研究結果の追加などが確認された場合には、内容を更新します。また、事実関係の誤りが判明した場合には修正します。

コメント

5つ星のうち0と評価されています。
まだ評価がありません

評価を追加

Rest in Peace with Dignity
 (RiP:D リップディー)
~安楽死の合法化をめざす会~

連絡先

・X公式アカウント
 

鶴 折り紙アイコン

YouTube 公式チャンネル

リップディーのYouTubeチャンネルの紹介画像

国内外の安楽死制度・法律・社会的議論について
最新情報を毎日発信しています。

安楽死制度・法制度の理解に役立つ、

国内外の解説動画や関連コンテンツを
YouTubeで紹介しています。

リップディー(RiP:D)~安楽死の合法化をめざす会~| 安楽死制度の成立

bottom of page