『安楽死が合法の国で起こっていること』を読む前に|児玉真美と“命の選別”思想の背景
- リップディー(RiP:D)

- 5月24日
- 読了時間: 10分
更新日:7月26日
※最終更新日:2026年5月24日(随時更新)
👉 安楽死の基本的な仕組みや全体像を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください↓
👉 安楽死の定義と分類(積極的・消極的・間接的)の違いは、こちらで整理しています↓
はじめに|なぜ『安楽死が合法の国で起こっていること』(安楽死反対論)が注目されているのか

近年、日本でも「安楽死」や「尊厳死」をめぐる議論が急速に広がっています。
SNSでは、
「回復の見込みがなく、耐え難い苦痛が続く場合には、
本人が尊厳ある最期を選べる制度も必要ではないか」
「家族や周囲のためではなく、
自分自身の意思として最期を選択できる自由は尊重されるべきだ」
「最終的には、自らの生き方と死に方を
本人が決める自己決定権を尊重すべきだ」
といった声が日常的に流れるようになりました。
その中で、2023年に出版され大きな反響を呼んだのが、
児玉真美氏の著書
『安楽死が合法の国で起こっていること』です。
しかし、この本を正確に読むためには、単に「安楽死反対本」としてではなく、
“誰が、どのような思想背景から書いているのか”
を理解する必要があります。
なぜなら児玉氏の議論は、一般的な生命倫理論とは大きく異なり、
障害者運動
反優生思想
自立生活運動
左派系ケア論
という文脈の中に位置づけられるからです。
👉 安楽死をめぐる賛否の論点を体系的に整理したい方は、こちらをご覧ください↓
🎧音声による動画解説
要約図(自由使用可)

児玉真美とは何者なのか
児玉真美氏は1956年生まれ。
京都大学文学部を卒業後、米国カンザス大学教育学部で修士課程を修了しています。
現在は、日本ケアラー連盟代表理事を務めています。
また、重度障害児を育ててきた経験をたびたび公表しており、その経験が思想形成に大きな影響を与えたとされています。
児玉氏は一貫して、
「役に立つ命」
「社会の負担になる命」
「生産性のある人間」
という尺度で人間を評価する社会に強い危機感を示してきました。
この問題意識は、後の安楽死批判へとつながっていきます。
※参考👇
児玉真美の思想|単なる安楽死反対ではない
児玉氏の特徴は、単なる「安楽死反対論者」ではないことです。
彼女は、
出生前診断
選択的中絶(※注1)
尊厳死
安楽死
命の選別
を別々の問題としてではなく、全ての項目を
「現代型優生思想」
として連続的に捉えている点が重要です。
つまり、
「障害者は生まれない方がよい」
という思想と、
「重度障害者は死んだ方がよい」
という思想は、本質的には同じ構造ではないか、という問題提起です。
(あるいは、そこに共通する「被害者意識の構造」を問うものでもあります。)
障害者運動と反優生思想の歴史
この考え方は、1970年代以降の障害者運動、特に
青い芝の会
反優生保護法運動
自立生活運動
などの思想的系譜に近いものです。
👉『障害者運動』の詳細と歴史的変遷については、以下2つの記事で説明しています↓
【障害者運動の歴史的変遷】👉上記の記事より

【障害者運動・反優生思想の年表】👇

※参考👇
※注1:児玉真美氏の中絶に対する見解↓

DPI日本会議・JCILとの関係
児玉氏の思想は、
・DPI日本会議 や、
・JCIL(日本自立生活センター)系
の思想と強い親和性を持っています。
※👉DPI日本会議のホームページはこちら↓
※👉日本自立生活センター(JCIL)のホームページはこちら↓
DPI日本会議は公式に、
「命の選別」
「優生思想」
「尊厳死法制化」
への反対を掲げています。
同団体は、
「どんなに障害が重くても地域で暮らせる社会」
を理念として掲げています。
児玉氏の主張もまた、
「死ぬ自由」より「生きられる社会条件の整備」
を優先する立場です。


👉尊厳生 | DPI 日本会議:関連書籍より↓

京都ALS嘱託殺人事件と障害者運動
2025年2月、京都で開催された講演会では、
第一部で
「JCILによる京都ALS嘱託殺人事件の報告」
が行われ、第二部で児玉真美氏が講演しています。
※ALS患者嘱託殺人の全容については以下から学べます↓
※林優里さんが残した言葉↓

京都市居宅介護等 事業連絡協議会
京都市生活介護等 事業(障害者デイサービス)連絡協議会
2025年2月合同研修会


これは、
障害者運動
自立生活運動
反安楽死運動
が相互に接続していることを示す象徴的な構図と言えるでしょう。
また、この事件は障害当事者運動の中で、
「支援不足が死を望ませる社会」
という文脈でも語られてきました。
※👉参考:
安楽死制度は不要なのか?社会支援が行き届けば解決するという主張の限界を検証する↓
なぜ児玉真美は「自己決定権」に懐疑的なのか
児玉氏の特徴的な点は、
一般的なリベラル派が重視する「自己決定権」に対しても批判的であることです。
彼女が問題視しているのは、
「その自己決定は、本当に自由なのか?」
という社会構造の問題です。
例えば、
貧困
孤立
介護不足
障害差別
家族負担
医療費削減圧力
が存在する社会では、
「死にたい」という意思そのものが社会によって形成される可能性がある
と考えているのです(≒妄想しているのです)。
この視点は、
障害学
左派フェミニズム
新自由主義批判
とも接続しています。
※👉安楽死における滑り坂論とは何か|反対論とその反論を制度と事実から整理
相模原障害者施設殺傷事件への視点
2016年の相模原障害者施設殺傷事件について、児玉氏は繰り返し、
「植松聖だけが異常なのではない」
と主張してきました。

彼女が問題視したのは、
「障害者は不幸」
「家族の負担」
「社会保障費」
「生産性」
を基準に命を語る社会の空気です。
つまり、
「役に立たない命を減らす」
という思想が、社会全体に広がっているのではないか、という問題提起でした。
※👉安楽死は命の序列化か|制度要件と自己決定の観点から検証する
日本基督教団系ネットワークとの接点
先ほど紹介した児玉真美氏の講演会では、事務局に「西陣会」の名が記載されています。

西陣会は、「日本基督教団」系統の流れを持つ
プロテスタント系福祉団体です。
同団体は、
「隣人を愛することによって平和と正義が確立される」
という理念や、
「人間のかけがえのない価値と尊厳」
を掲げています。

また、同志社や日本組合基督教会、日本基督教団との歴史的つながりも紹介されています。
ここには戦後日本で形成された、
左派プロテスタント
福祉運動
平和運動
社会運動
のネットワークとの接点を見ることができます。
もちろん、児玉氏自身を単純に宗教人として語ることはできません。
しかし、
障害者運動
福祉運動
左派キリスト教
反優生思想
の接点の中で活動していることは、思想背景を理解する上で重要です。

※👉児玉真美氏が関与するグループの注目事件↓
尊厳死法制化に反対する理由とは?反対運動の構造と2012年尊厳死法案「未提出の真相」
『安楽死が合法の国で起こっていること』を読む際の注意点
『安楽死が合法の国で起こっていること』は、海外事例を扱ったルポのように見えます。
しかし実際には、
「国家や社会が、弱者に死を勧める構造」
への強い警戒感を基盤に書かれています。
そのため、
単に「安楽死制度の問題点を紹介した本」として読むだけでは、児玉氏の本来の問題意識を誤読してしまう可能性があります。
彼女の議論の中心にあるのは、
障害者運動
反優生思想
命の選別批判
新自由主義批判
だからです。
※👉安楽死の強制リスクとは何か│社会的圧力・同調圧力は本当に現実的なのか
安楽死をめぐる議論で私たちは何を考えるべきか
安楽死をめぐる議論は、単純な「賛成」「反対」だけでは整理できない複雑な問題です。
現実には、
耐え難い身体的苦痛
長期療養による精神的負担
介護疲れ
孤立
将来への不安
の中で苦しみ続けている人々が存在します。
※👉 安楽死と自殺の違い・関係を整理したい方は、こちらをご覧ください↓
その一方で、
「命の選別」や「社会的圧力」の危険性を指摘する声にも、耳を傾ける必要があるでしょう。
児玉真美氏は、障害者運動や反優生思想の立場から、
「死を選ばされる社会」
への警鐘を鳴らしてきました。
しかし同時に、
回復の見込みがなく、本人が耐え難い苦痛の中で熟慮の末に望む選択については、
「本人の尊厳ある生き方・死に方」
として議論すべきだという考え方も、世界的には広がりつつあります。
※👉 世界各国の安楽死制度を知りたい方は、こちらで解説しています↓
※👉 混同されやすい、安楽死と尊厳死の違いをを知りたい方は、こちら(延命治療との関係も整理)↓
重要なのは、どちらか一方の理念だけで語ることではなく、
十分な福祉や支援
緩和ケアの充実
障害者支援
本人意思の確認
制度の厳格な運用
を前提に、
「人が最期までどう生きるか」
を社会全体で考えていくことではないでしょうか。
※👉 安楽死と関係が深い「緩和ケアと安楽死の違い」は、こちらで整理しています↓
児玉氏の思想的背景を理解することは、安楽死問題を多角的に考える上で重要です。
その上で私たちは、
「生きることを支える社会」
と同時に、
「本人の尊厳ある選択」
についても、冷静に議論していく必要があるのかもしれません。
👉 日本における安楽死の法律的な扱いについては、こちらで詳しく解説しています↓
👉 安楽死とは何かを整理したい方は、こちらで全体像を確認できます↓
👉 地図で確認する安楽死が合法の国 一覧と各国制度は、こちらで詳しく解説しています↓
FAQ
Q1 日本で安楽死は合法ですか?
A 日本では積極的安楽死は法的に認められていません。一方で、延命治療の中止など「尊厳死」に関する議論は続いています。
Q2 児玉真美とはどのような人物ですか?
A 児玉真美氏は日本ケアラー連盟代表理事であり、障害者運動や反優生思想の立場から安楽死問題を批判的に論じている人物です。
Q3 DPI日本会議とは何ですか?
A DPI日本会議は、障害者の権利擁護を目的とする団体で、「命の選別」や優生思想への反対を掲げています。
Q4 なぜ障害者運動は安楽死に反対するのですか?
A 障害者運動の一部では、「社会支援不足によって死を選ばされる危険性」があるとして、安楽死制度に慎重な立場を取っています。
Q5 安楽死と尊厳死は同じ意味ですか?
A 一般的には異なります。安楽死は積極的に死を早める行為を含み、尊厳死は延命治療の中止などを指す場合が多いです。
Q6 「命の選別」とは何ですか?
A 障害・生産性・医療費などを基準に、人命の価値を区別する考え方を指して使われる言葉です。
出典・参考文献
一次資料(著者本人の著作・発言)
『安楽死が合法の国で起こっていること』
児玉真美 公式ブログ・掲載記事・講演資料
一般社団法人日本ケアラー連盟
関連団体
日本障害フォーラム(JDF)
DPI日本会議
日本ALS協会
日本の終末期医療
厚生労働省
人生の最終段階における医療・ケア
日本緩和医療学会
国際機関
世界保健機関(WHO)
Integrating Palliative Care and Symptom Relief into Primary Health Care(2018)
European Association for Palliative Care(EAPC)
各国制度
オランダ政府
Euthanasia
Health Canada
Medical Assistance in Dying (MAiD)
https://www.canada.ca/en/health-canada/services/medical-assistance-dying.html
Regional Euthanasia Review Committees(オランダ安楽死審査委員会)
医学・学術資料
New England Journal of Medicine(NEJM)
The Lancet
BMJ(British Medical Journal)
Journal of Medical Ethics
法律・人権
国際連合
Universal Declaration of Human Rights
https://www.un.org/en/about-us/universal-declaration-of-human-rights
欧州人権裁判所(ECHR)
Pretty v. United Kingdom
欧州人権裁判所
Lambert and Others v. France






















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