日本の安楽死制度導入に関する提言書【補足資料 ④】緩和ケアの限界と医学的エビデンス

更新日:8月16日
※最終更新日:2026年8月8日(随時更新)
👉 安楽死の基本的な仕組みや全体像を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください↓
👉 安楽死の定義と分類(積極的・消極的・間接的)の違いは、こちらで整理しています↓
この資料の結論
① 緩和ケアは終末期医療の基盤であり、さらなる充実が必要です。
② 一方、現在の医学をもってしても、すべての終末期症状を完全に緩和できるわけではありません。
③ そのため、緩和ケアの充実と並行して、残存する難治性苦痛に対する制度的選択肢を検討する必要があります。
本資料では、日本の公的調査、WHO等の国際資料、査読付き学術論文、海外政府の制度報告をもとに、この問題を検討します。
日本にも安楽死制度の導入を要望する嘆願書|【補足資料④】緩和ケアの限界と医学的エビデンス


当会 Rest in Peace with Dignity(RiP:D) が作成し、国会議員ならびに関係各所へ提出するために取りまとめた嘆願書(提言書)を公開しました。
本ページでは、嘆願書の
「補足資料 ④ 緩和ケアの限界と医学的エビデンス」 を掲載します。
本嘆願書は、日本における終末期医療の現状や制度上の課題を整理するとともに、海外制度の実例や公的統計、緩和ケアの限界、安全性を担保する制度設計など、多角的な観点から法制度化の必要性を提言するものです。
提出用の資料一式は、以下の構成となっています。
・嘆願書 本文『人道的終末選択の法制化に関する提言書』
・補足資料① 日本における安楽死制度の法的現状と制度的空白
・補足資料② 各国制度比較と日本への制度モデル
・補足資料③ 制度設計・安全性確保・濫用防止策
・補足資料④ 緩和ケアの限界と終末期医療の課題
・補足資料⑤ 身体疾患・身体障害による苦痛と自殺の実態
・カバーレター:ご挨拶(1ページ)
・要約文(2ページ)
※本資料の調査・資料作成方針
本資料は、Rest in Peace with Dignity(RiP:D)が公開資料・公的統計・政府機関の報告書・査読付き学術論文等を調査し、終末期医療、緩和ケア、難治性苦痛および海外の終末期制度について整理したものです。
医学・法律・制度に関する記述については、可能な限り一次資料、公的機関資料、査読付き論文を優先しています。
学術論文については、著者名、論文タイトル、掲載誌、発行年、巻号、ページ、DOI、PubMed ID等を可能な範囲で明示しています。
また、本資料の提言内容を支持する研究だけでなく、安楽死・医師幇助死に対する反対・慎重論、安全性、脆弱な立場にある人への影響、医療者の倫理的負担等についても可能な限り併記しています。
本資料は医学的・法律的助言を目的とするものではなく、日本における終末期の制度設計を検討するための政策資料です。
文献検索日:2026年8月
主な検索データベース:PubMed
主な検索語:palliative care / refractory suffering / euthanasia / assisted dying / MAID / palliative sedation
公的資料:WHO、厚生労働省、国立がん研究センター、各国政府等
採用基準:一次資料・査読論文を優先
最終更新:2026年8月8日
なお、本ページでは安楽死制度について初めて知る方にも理解しやすいよう、関連する解説記事へのリンクを随所に掲載しています。制度の背景や各論点について詳しく知りたい方は、あわせてご覧ください。
また、実際に国会議員および関係機関へ提出する正式版については、ページ下部に掲載している PDF版 をご参照ください。
🎧音声による動画解説
要約図(自由使用可)

嘆願書|補足資料 ④ 緩和ケアの限界と医学的エビデンス
(日本 安楽死制度)
1.本資料の位置づけ
本補足資料は、嘆願書本文「第3 提言内容 4.緩和ケアとの併存・強化」に対応し、
「緩和ケアは極めて重要であるが、それのみでは全ての患者の苦痛を解消できない」という医学的・国際的コンセンサスを、エビデンスに基づいて整理するものである。
本資料は、
緩和ケア否定ではなく
緩和ケアを最大限尊重したうえで
なお残存する“救済不能な苦痛”への最終的補完策
として、人道的終末選択制度(安楽死・医師幇助死)の必要性を論証する。
2.緩和ケアの意義と到達点(前提の確認)
緩和ケアは、
疼痛
呼吸困難
不安・抑うつ
不眠
社会的・スピリチュアルな苦悩
を含む「全人的苦痛(total pain)」を軽減する医療であり、終末期医療において不可欠である。
本嘆願書は、緩和ケアの軽視・代替を目的とするものでは一切ない。むしろ、安楽死制度は「緩和ケアを尽くした後にもなお残る苦痛」に対する最終的選択肢である。
3.医学的に確認されている「緩和不能な苦痛」の存在
(1)難治性苦痛(Refractory Suffering)
国際的な緩和医療・疼痛医学の分野では、以下が広く確認されている。
WHOおよび国際研究により
末期がん患者の約10〜20% において
標準的なオピオイド治療・補助療法を尽くしても
十分な苦痛緩和が得られない症例が存在する
がん以外の難病(ALS、進行性神経変性疾患、重度心不全、呼吸不全など)を含めると
20〜30%程度の患者が「十分に緩和されない苦痛」を抱えたまま最期を迎える
とする報告もある。
これは、嘆願書本文で指摘した
「緩和ケア単独では全ての終末期患者に対応しきれない限界」の根拠である 。

(2)身体的苦痛だけではない「複合的苦痛」
緩和不能となるのは疼痛だけではない。
持続的な呼吸困難・窒息感
コントロール不能な嘔吐
全身衰弱による尊厳の著しい喪失
排泄・嚥下障害
完全介助状態による自己決定の消失
これらが複合的に重なった場合、薬物調整や精神的ケアを尽くしても、
患者本人が「これ以上の生を望まない」と合理的に判断するケースが現実に存在する。
※👉緩和ケアの限界:痛み以外の「緩和困難な3つの苦痛」

4.持続的深い鎮静(Continuous Deep Sedation:CDS)の限界
(1)CDSは「苦痛の消失」ではない
日本および欧州で用いられている「持続的深い鎮静」は、
意識を低下・消失させることで
苦痛の“知覚”を抑える手段
であり、苦痛そのものを取り除く治療ではなく、
あくまで苦痛の知覚を遮断する手段である。
(2)患者が問題視する点
多くの患者・家族が指摘するのは以下である。
意識を失ったまま数日〜数週間「生かされ続ける」状態
家族との最後の対話が断たれる
本人の「終わりを自ら決めたい」という意思が反映されない
つまり、CDSは難治性苦痛に対する重要な緩和医療の一つであり、
多くの患者にとって有効な選択肢である。
一方で、患者自身が望む「意識を保ったまま家族と過ごすこと」や、
「最期の時期を自ら決定すること」を実現することを目的とした医療ではない。
このため、CDSと人道的終末選択制度は、
その目的や役割が異なる医療上の選択肢として位置づけられる。
5.日本の緩和ケア体制が抱える構造的課題
(1)地域格差・人的資源不足
専門緩和ケア医・チームは都市部に偏在
在宅緩和ケアへのアクセス格差
夜間・急変時対応の限界
(2)制度・文化的制約
「最後まで生かすべき」という同調圧力
医療者側の法的リスク回避
患者の本音が表出しにくい文化的背景
これらの要因が重なり、
理論上可能な緩和ケアが、現実には十分に届かない症例が存在する。
6.国際的到達点:緩和ケアと安楽死の併存
オランダ、ベルギー、カナダ、オーストラリア等では、
緩和ケアを最大限提供することが安楽死適用の前提条件
「緩和ケアを受けたうえで、なお耐え難い苦痛が残る場合」に限定
安楽死件数は全死亡数の 1〜6%前後 に留まる
という形で、両者は対立ではなく補完関係として制度設計されている 。
7.結論:補完なき緩和ケアは、国家の責任を果たしていない
緩和ケアは不可欠である。しかし、
緩和ケアの限界は医学的に確認されており
その限界に直面する患者が確実に存在し
代替策が存在しない現状は
患者に「耐え続ける以外の選択肢がない」状態を強いている
これは、制度上の選択肢が存在しないことにより、一部の患者では苦痛に対する十分な対応が困難となる可能性がある。
よって、緩和ケアの充実と同時に、
それを補完する人道的終末選択制度(いわゆる安楽死制度)を法的に整備することは、
国家が果たすべき人権保障の一部である。
また、海外で人道的終末選択制度(いわゆる安楽死制度)が導入されている国・地域では、多くの利用者が既に緩和ケアを受けた上で制度を選択していることが報告されている。
これは、制度の目的が緩和ケアの代替ではなく、緩和ケアを尽くしてもなお残る苦痛への補完的選択肢であることを示している。
緩和ケアの限界を示すデータ

以下のデータは、英国下院議会に提出された公式報告書および、医療経済局や英国王立内科医会等の公的調査に基づくものである。


つまり最高レベルの緩和ケアを受けても
・『79%』は、安らかな死
・『21%』は、苦痛を伴った死
イギリスは、近代ホスピス・緩和ケア発祥の地であり、長年にわたり世界最高水準の緩和ケア体制を有する国として国際的に評価されてきた。
それにもかかわらず、緩和ケアのみでは十分に苦痛を軽減できない患者が一定数存在することが、公的調査等で示されている。
イギリス:
・病院で緩和ケアを受けた患者の21%で痛みが完全にコントロールできず、32%は部分的にしか緩和されない(Royal College of Physicians, 2016; VOICES調査, 2016)
・がん患者の10~15%が治療抵抗性疼痛(※緩和技術が効かない痛み)を抱え、自己申告では最大30%が痛みを訴え続ける
・最適なホスピスケアを受けても年間5万709人が何らかの痛みを残して亡くなり、そのうち5,298人が最後の3ヶ月で全く緩和されない(Office for Health Economicsモデル)
「安楽死・尊厳死が合法化されている国々のレポート」
(すべて緩和ケア受診率70~95%と極めて高い国々)
カナダ
・利用者の77.6%が緩和ケアを受けていたにもかかわらずMAID(※いわゆる安楽死)を選択し、40%が1ヶ月未満の短期間しか利用せず、16.8%はアクセス可能だったのに拒否。
オレゴン州(米国)
利用者の91.4%がホスピス・緩和ケアに入所中で、46%がケア介入で安楽死を取りやめる一方、15%は変わらず安楽死を選択。
オーストラリア(ビクトリア州)
81%が緩和ケアを受けていたが、2023年6月までの申請者の内306件中76%が末期がん患者で、処方後66%が実際に使用。
ベルギー・オランダ
合法化後に政府が緩和ケア予算を倍増させたが、安楽死件数はむしろ増加。
精神疾患によるケースからも、心の深い苦しみ(絶望感)が緩和ケアの限界を示している。
【結論】
・緩和ケアを受けた約80%の患者は『安らかな死』を迎えられるが、
残りの約20%は『苦痛を伴った』死を遂げている実態
・緩和ケアサービスが、いかに充実または普及していようが、いまいが…、
患者がサービスを受けようが (仮に受けまいが…)、
最期に安らかな死 (安楽死) を求める感情は世界に普遍的に存在
・日本では、緩和ケアを尽くしてもなお苦痛が残る患者に対し、医療制度として別の選択肢を用意できていない。これは医療者個人の問題ではなく、制度設計の欠如による構造的限界である。
日本の統計(※後述)においても、緩和ケアの技術に差はないので同程度の割合(約2割)の患者が存在すると推測される。公的統計に加えて、安楽死に関するドキュメンタリーや公開証言の量からも、同様の問題意識が広く存在することが示唆される。
・以上の事実は、緩和ケアの充実と、人道的終末選択制度(安楽死制度)の検討を「二者択一」としてではなく、同時に進めるべき政策課題であることを示している。



緩和ケアの限界を示す日本国内データ
1.国立がん研究センター調査の結果
国立がん研究センターが公表した「人生の最終段階の医療および療養生活の質に関する調査結果報告(2022年 令和5年度調査)」によれば、がんを含む主要疾患患者の遺族調査において、
医療者が「つらい症状にすみやかに対応した」との評価は 65~81%
一方で「身体の苦痛が少なかった」と評価された割合は 37~53%
にとどまった。
さらに、死亡前1か月間の状況については、
痛みや苦痛をほとんど感じなかった:47.2%
痛みや苦痛を感じていた:52.8%
との結果が示されている。
これは、医療提供体制が適切に機能していた場合であっても、
一定割合の患者において苦痛が十分に軽減されていない可能性を示唆するものである。

2.がん患者における終末期の実態
がん患者に限定しても、死亡前1か月間において「痛みや苦痛をほとんど感じなかった」とされる割合は4割台にとどまっている。
この結果は、緩和ケアが多くの患者に一定の効果をもたらしている一方で、症状が十分に緩和されないケースが相当数存在することを示している。
3.示唆される課題
上記の公的データは、緩和ケアの価値を否定するものではない。むしろ、医療者が努力を尽くしているにもかかわらず、
難治性疼痛
呼吸困難
全身衰弱に伴う複合的苦痛
等が残存する症例が存在する現実を示している。
すなわち、緩和ケアは終末期医療に不可欠であるが、
その効果には医学的限界が存在する。
※本資料は、人道的終末選択制度を緩和ケアの代替として提案するものではない。むしろ、緩和ケアのさらなる充実を前提としたうえで、それでもなお救済できない患者に対する補完的な制度について検討を求めるものである。
本資料から導かれる結論
緩和ケアは終末期医療の基盤であり、今後も一層の充実が求められる。
一方で、その限界は国際的な研究や各国の運用実績により確認されている。
日本の公的調査からも、同様の課題が存在することが示唆されている。
海外では、
こうした限界を補完する制度として人道的終末選択制度が位置付けられている。
日本においても、「緩和ケアか人道的終末選択か」という二者択一ではなく、
「緩和ケアの充実と補完制度」という視点から制度的検討を進めることが望まれる。

※👉人生の最終段階の医療・療養生活の質に関する調査結果報告(R5年度)|国立がん研究センター

※👉がん終末期「苦痛少なく」は4割にとどまる 国がんが遺族5万人調査:朝日新聞
嘆願書(提言書)
【補足資料④】緩和ケアの限界と医学的エビデンス
主張→根拠
主張 | 根拠 | 根拠の種類 |
緩和ケアは終末期医療の基盤である | WHO | 国際機関 |
終末期患者の苦痛が完全に軽減されない場合がある | NCC・査読研究 | 公的調査・医学研究 |
難治性症状には呼吸困難等がある | Systematic Review | 査読論文 |
持続的深い鎮静は難治性症状の緩和に用いられる | Maltoni et al. | Systematic Review |
MAID利用者の多くが緩和ケアを利用 | Health Canada | 政府統計 |
制度には安全性上の論点がある | Raus et al.等 | 査読論文 |
医師にも倫理的負担がある | van Marwijk et al.等 | 査読研究 |
精神疾患をめぐる制度には独自の問題がある | Bosma et al. | 査読研究 |
本文の主張 | 根拠 | 種類 |
緩和ケアでは全ての症状を完全に制御できない | Snijders et al. 2023 | Systematic review |
進行がんの一部では通常治療で疼痛管理が困難 | Interventional pain management | Review |
難治性症状には呼吸困難等がある | 2022 systematic review | Systematic review |
CDSは難治性症状への治療手段 | Maltoni et al. | Systematic review |
日本でも苦痛が十分に軽減されていない患者がいる | NCC R5調査 | 公的調査 |
図①「緩和ケアと人道的終末選択の関係」
診断
↓
治療
↓
緩和ケア
↓
症状評価
↓
十分な苦痛緩和?
├─ YES → 緩和ケア継続
│
└─ NO
↓
難治性苦痛の評価
↓
鎮痛・鎮静・心理社会的支援
↓
なお残る苦痛?
↓
制度上の選択肢をどうするか
↓
自己決定・意思能力・第三者評価・安全性
図②「比較表」
項目 | 緩和ケア | 持続的深い鎮静 | 安楽死 | 医師幇助死 |
主目的 | 苦痛軽減 | 難治性苦痛の緩和 | 死をもたらす | 患者による服薬等 |
意識 | 原則維持 | 低下・消失する場合あり | 実施時に失われる | 方法による |
死を直接目的とするか | いいえ | いいえ | はい | はい |
法的位置づけ | 医療 | 医療 | 国により異なる | 国により異なる |
第三者審査 | 通常なし | 医療判断 | 制度による | 制度による |
FAQ
Q1. 緩和ケアだけで終末期患者の苦痛はすべて取り除けますか?
A. いいえ。WHOや国際的な研究では、緩和ケアを十分に実施しても苦痛が十分に軽減されない患者が一定数存在すると報告されています。本資料では、その医学的根拠を紹介しています。
Q2. 緩和ケアの限界とは何ですか?
A. 緩和ケアは終末期医療に不可欠ですが、難治性疼痛や呼吸困難、全人的苦痛などを完全に緩和できない症例があります。これを医学的には「難治性苦痛(Refractory Suffering)」と呼びます。
Q3. 持続的深い鎮静(CDS)と安楽死は同じですか?
A. 異なります。持続的深い鎮静(CDS)は苦痛を感じにくくするため意識を低下させる医療であり、患者の生命を直接終わらせることを目的としたものではありません。一方、安楽死制度は一定の法的要件の下で終末期の自己決定を認める制度です。
Q4. 海外では緩和ケアと安楽死制度は両立していますか?
A. はい。オランダ、ベルギー、カナダ、オーストラリアなどでは、十分な緩和ケアを提供した上で、なお耐え難い苦痛が残る場合に限って安楽死制度を利用できる仕組みが採用されています。
Q5. 日本の緩和ケアにはどのような課題がありますか?
A. 地域格差や専門医不足、在宅医療へのアクセス、法的・文化的要因などにより、理論上可能な緩和ケアが十分に提供されないケースがあることが指摘されています。
Q6. この提言書は緩和ケアに反対する内容ですか?
A. いいえ。本提言書は緩和ケアの重要性を前提としており、そのさらなる充実を求めています。その上で、緩和ケアを尽くしてもなお救済できない患者への補完的な選択肢として、人道的終末選択制度(いわゆる安楽死制度)の検討を提言しています。
Q7. 安楽死と尊厳死は同じですか?
A. いいえ、一般に区別されます。安楽死は、一定の条件の下で医療者が患者の生命を意図的に終わらせる行為を指します。一方、尊厳死は、延命治療の差し控え・中止などによって自然な死の経過を尊重する考え方を指すことが多く、両者は目的と方法が異なります。ただし、用語の定義や法的扱いは国・制度によって異なるため、文脈に応じて区別する必要があります。
Q8. この提言書は緩和ケアを否定しているのですか?
A. いいえ。本提言書は、緩和ケアを終末期医療の基盤として重視しています。そのうえで、緩和ケアを十分に提供してもなお難治性の苦痛が残る場合に、どのような制度的選択肢を用意すべきかを検討することを提案しています。
Q9. 持続的深い鎮静と安楽死は同じですか?
A. いいえ、目的が異なります。持続的深い鎮静は、治療抵抗性の苦痛を緩和するために意識水準を低下させる医療行為であり、生命を直接終わらせることを目的としません。一方、安楽死は、一定の法的要件の下で死をもたらすこと自体を目的とする制度です。
Q10. 安楽死制度にはどのようなリスクがありますか?
A. 本提言書は、制度導入によるリスクを否定していません。本人の意思が外部からの圧力によって歪められる可能性、意思能力の評価、障害者・高齢者など脆弱な立場にある人への影響、医療者の倫理的負担、制度の対象範囲が拡大する可能性などについて慎重な検討が必要です。そのため、制度化を議論する場合には、複数の医師による評価、本人の意思確認、第三者審査、報告・監査制度などの安全策を同時に検討する必要があります。
Q11. 障害者や高齢者への圧力をどのように防ぐのですか?
A. これは安楽死制度を検討する際の重要な論点です。経済的負担、介護負担、社会的孤立、「家族に迷惑をかけたくない」という心理などが本人の意思に影響しないよう、自由意思と意思能力を慎重に確認する仕組みが必要です。本提言書では、制度の対象者を単純に広げるのではなく、本人の意思、代替的支援の提供、安全性の確認を含めた制度設計が必要だと考えています。
Q12. 精神疾患だけを理由とする安楽死も認めるべきですか?
A. 本資料は、この問題について単純な結論を示すものではありません。オランダなどでは精神疾患による安楽死・医師幇助死が制度上認められており、実際の事例について独立した医師や専門家による評価が行われています。一方で、意思能力、治療可能性、回復可能性、本人の意思の安定性などについて強い倫理的議論があります。したがって、日本で制度を検討する場合にも、身体疾患の場合とは別に慎重な検討が必要です。
Q13. 医師自身の倫理的負担は考慮されていますか?
A. はい。安楽死・医師幇助死は患者本人だけでなく、実施・評価に関与する医療者にも倫理的・心理的負担をもたらす可能性があります。海外の研究では、医師が患者の自己決定、苦痛の軽減、生命に対する価値観、専門職としての責任などの間で葛藤することが報告されています。
Q14. 海外では緩和ケアと安楽死は両立していますか?
A. 国・地域によって制度は異なりますが、両者が併存している地域はあります。例えばカナダでは、Health Canadaの2024年年次報告でMAID利用者の74.1%が緩和ケアを利用していたと報告されています。ただし、「緩和ケアを受ければ必ず安楽死を選ばない」「緩和ケアと安楽死は完全に補完関係にある」と単純化することはできません。制度ごとの条件と実態を個別に検討する必要があります。
Q15. この提言書は安楽死制度を無条件に支持しているのですか?
A. いいえ。本提言書が求めているのは、無条件の制度導入ではありません。緩和ケアの充実を前提とし、本人の自由意思、意思能力、第三者による評価、代替的な医療・福祉支援、安全性、濫用防止、事後監査などを含む制度設計を検討することです。また、安楽死制度に対する反対・慎重論についても検討対象としています。
安楽死を知るための9記事
⓪ 👉安楽死とは
「安楽死とは何か?日本では違法なのか?」
そんな疑問を、初心者でもわかるように整理して解説します。
この記事を読めば、安楽死の全体像が5分で理解できます。
① 👉種類
安楽死にはどんな種類があるのか知っていますか?
積極的・消極的・間接的の違いを具体例つきでわかりやすく解説します。
混同しやすいポイントも整理しています。
② 👉日本の法律
日本で安楽死は認められているのか?
判例や条件をもとに、どこまで許されるのかをわかりやすく解説します。
医師の責任についても理解できます。
③ 👉尊厳死
安楽死と尊厳死は何が違うのか?
混同されやすい2つの違いを、法律と医療の観点から整理して解説します。
日本での扱いもわかりやすく説明しています。
④ 👉世界
安楽死が認められている国はどこなのか?
各国の制度や条件の違いを整理し、わかりやすく一覧で解説します。
日本との違いも一目で理解できます。
⑤ 👉緩和ケア
安楽死と緩和ケアは何が違うのか?
苦痛の軽減という観点から、それぞれの考え方と役割をわかりやすく解説します。
選択の違いも理解できます。
⑥ 👉賛否
安楽死は本当に許されるべきなのか?
賛成・反対それぞれの理由を整理し、海外の議論も含めて比較します。
考え方の違いがクリアになります。
⑦ 👉自殺
安楽死と自殺は同じものなのか?
法律・倫理・医療の観点から、その違いをわかりやすく解説します。
誤解されやすいポイントも整理しています。
⑧ 👉歴史
日本の安楽死の歴史・事件にはどのようなものがあるのか?
安楽死はどのように変化してきたのか?
ナチス時代から現代までの流れを時系列で整理して解説します。
出典・参考資料
A.日本の公的資料
国立がん研究センター.「人生の最終段階の医療・療養生活の質に関する調査結果報告(令和5年度調査)」2025年.
人生の最終段階の医療・療養生活の質に関する調査結果報告(R5年度)|国立がん研究センター
厚生労働省.「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査」.
調査の概要|厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアに関する意識調査:調査の概要」
厚生労働省.「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」.
B.国際機関
World Health Organization. Integrating palliative care and symptom relief into primary health care: a WHO guide for planners, implementers and managers. Geneva: WHO; 2018. ISBN 978-92-4-151447-7.
World Health Organization. Palliative care. WHO Fact Sheet.
C.緩和ケア・難治性苦痛
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