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イギリス安楽死法案はなぜ否決されたのか?2026年9月の下院採決と世論の隔たりを解説

執筆者の写真: リップディー(RiP:D)
リップディー(RiP:D)
18 時間前
読了時間: 26分

最終更新日:2026年11月7日|随時更新


👉 安楽死の基本的な仕組みや全体像を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください↓


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👉 混同されやすい、安楽死と尊厳死の違いをを知りたい方は、こちら(延命治療との関係も整理)↓






※本記事は、2026年6月29日公開の記事「イギリス安楽死法案とは?2026年〖復活〗の経緯・制度内容・今後の見通しをわかりやすく解説」以降の動きを整理したものです↓


2026年11月7日時点で確認できる公的資料・報道をもとに、法案の再提出から下院での否決までを解説します。



はじめに|2026年9月、イギリス安楽死法案が下院で否決


2026年6月、イギリスで再提出された終末期患者への医師幇助死を認める法案。

前回の法案は下院で可決されたものの、貴族院での長期審議と大量の修正案提出によって、会期中に成立することなく失効しました。

そのため、2026年に新たな法案が提出されたとき、再び議会で審議が進み、今度こそ制度化に向かうのではないかという期待が広がりました。


しかし、結果は前回とは異なるものになりました。

2026年9月11日、再提出された法案は下院第二読会で否決され、

審議を続けることができなくなったのです。


注目すべきなのは、イギリス国内の世論調査では、

終末期患者への幇助死の合法化に一定の支持が続いていたことです。


世論では賛成が多数を占める一方、議会では法案が否決される。

なぜ、このような結果になったのでしょうか。

そして、前回の法案に賛成した議員の一部が、なぜ今回は賛成しなかったのでしょうか。


本記事では、2026年6月29日以降の経緯を時系列で整理しながら、法案否決の背景、議員たちの判断、世論との隔たり、そしてイギリスの議会制度が抱える課題について考えていきます。


2025年の旧法案から2026年9月の新法案否決までを示す年表


英国の安楽死法案の軌跡を示す縦長インフォグラフィック。2024〜2026年の審議日程と採決結果が青・赤の枠で一覧表示されている。



👉 世界各国の安楽死制度を知りたい方は、こちらで解説しています↓


👉 世界の安楽死制度の成立経緯を年代順で知りたい方は、こちら↓



🎧音声による動画解説



要約図(自由使用可)


英国国会とビッグベンを背景に、安楽死法案の経緯と2025年・2026年の採決結果を棒グラフや円グラフで示す日本語インフォグラフィック。



1.前回のイギリス安楽死法案はなぜ成立しなかったのか


まず、2026年の再提出を理解するために、

前回の法案がどのような経過をたどったのかを確認しておきましょう。


前回の法案は、労働党のキム・リードビーター議員が提出した、


「Terminally Ill Adults (End of Life) Bill 2024–26」


です。


この法案は、2025年6月20日に下院で最終採決が行われ、賛成314票、反対291票で可決されました。

つまり、下院では賛成が反対を23票上回っていたのです。

その後、法案は6月23日に貴族院へ送られました。


ところが、



貴族院では法案に対する修正案が大量に提出され、

審議に多くの時間が費やされました。



法案の安全性や実施体制、本人の意思確認、審査手続きなどをめぐって議論が続き、

最終的に2026年4月24日の会期終了までに成立することはありませんでした。


👉 イギリス安楽死法案はなぜ停滞したのか?|貴族院の遅延戦術(フィリバスター)を解説



イギリスでは、議会の会期が終了すると、成立しなかった法案は原則として失効します。

したがって、前回の法案は下院で可決されていたにもかかわらず、法律にはならなかったのです。


ここで重要なのは、下院で可決されたことと、法律として成立することは同じではないという点です。法案が法律になるためには、原則として下院と貴族院の双方で必要な審議・可決を経なければなりません。

この一連の経過は、イギリスの二院制が法案成立に大きな影響を与えることを示しました。


※👉出典




※👉 イギリスでは世界では珍しく「政教分離の原則がない」国家となっています

出典:教会と国家 |イングランド国教会

⇩⇩⇩

・イギリス安楽死法案はなぜ成立しなかった?貴族院の審議遅延・宗教の影響を解説


・イギリス安楽死法案はなぜ停滞しているのか|7人の反対と10万人署名の構造




2.2026年6月、イギリス安楽死法案が再提出


前回の法案が失効した後も、安楽死制度をめぐる議論は終わりませんでした。

2026年6月17日、労働党のローレン・エドワーズ議員が、新たな法案を下院に提出しました。

法案の名称は、前回と同じ、

「Terminally Ill Adults (End of Life) Bill 2026–27」

です。


この法案は、前回のリードビーター法案を基本的に引き継ぐ内容でした。

対象となるのは、イングランドおよびウェールズに居住する18歳以上の成人で、余命6か月以内と見込まれる終末期患者です。

また、本人に十分な判断能力があり、死を望む意思が明確で、自発的なものであることなどが条件とされていました。


申請後は、少なくとも7日間の間隔を置いて2人の医師が独立して評価し、さらに複数の専門家による審査パネルが適格性を確認する仕組みです。

審査を通過した場合にも、一定の熟慮期間を設け、最終的には本人が薬剤を自己投与することを前提としていました。


つまり、単に本人が希望すれば認められる制度ではなく、

複数段階の確認と保護措置を組み込んだ制度設計でした。

ただし、こうした安全措置が実際に十分なものなのか、制度を運用する医療・行政体制が整うのかについては、議員の間でも意見が分かれていました。


英国の安楽死制度を解説する縦長インフォグラフィック。申請から投薬までの流れ、緑青青系の安全対策、2024年5月時点の法案状況を図解。

今回の法案が提出されたことで、イギリスでは再び、終末期における自己決定と社会による保護のあり方が議会で問われることになったのです。


※👉出典




👉 イギリス安楽死法案2026|申請・審査・保護措置をわかりやすく解説




3.2026年9月11日、イギリス安楽死法案は下院で否決


再提出された法案は、2026年9月11日に下院第二読会を迎えました。

第二読会は、法案の具体的な条文を細かく審査する前に、その法案の基本的な考え方を受け入れ、次の審議段階へ進めるかどうかを判断する重要な段階です。


この日の議論では、賛成・反対双方の議員が、それぞれの立場から意見を述べました。

賛成する議員は、終末期に耐え難い苦痛を抱える人に選択肢を与えること、本人の意思を尊重すること、家族が抱える苦悩を軽減することなどを訴えました。


一方、反対する議員は、本人の意思が周囲の圧力によって変化する可能性や、高齢者・障害者・社会的に孤立した人々が不利益を受ける危険性、制度を安全に運用できるのかという問題を指摘しました。


そして、採決の結果は次の通りとなりました。

採決

賛成

反対

2025年6月20日・前回法案の最終採決

314

291

2026年9月11日・再提出法案の第二読会

270

286


英国国会の安楽死法案の採決結果比較図。2025年は賛成314・反対291、2026年は賛成270・反対286で否決。


2026年の採決では、賛成270票に対して反対286票となり、法案は16票差で否決されました。

なお、同日の採決では、その直前に議論を打ち切って採決に進むための動議も採決されており、こちらは賛成293票、反対218票で可決されています。


この293対218という数字は、法案そのものへの賛否ではありません。

法案の第二読会を通過させるかどうかを問う最終採決は、

あくまで賛成270票、反対286票です。


この違いは、採決結果を正しく理解するうえで重要です。

今回の否決によって、2026–27年の法案は下院第二読会を通過できず、

次の審議段階へ進むことができなくなりました。


前回のように上院で審議が長引いて失効したのではなく、

今回は下院の段階で法案が止まったのです。


※👉出典




4.なぜイギリス安楽死法案に反対する議員が増えたのか


今回の否決で特に注目されるのは、



前回の採決と比べて

賛成票が44票減少



したことです。

一方、反対票は291票から286票へと5票減っています。


つまり、今回の結果は、単純に反対派が大幅に増えたというよりも、



前回賛成した議員の一部が、

今回は賛成票を投じなかったこと



が大きく影響したと考えられます。

では、なぜ議員たちは判断を変えたのでしょうか。


その背景には、法案の理念そのものへの賛否だけではなく、

具体的な制度設計や安全性をめぐる問題がありました。



① 法案の理念には賛成でも、具体的な制度には不安が残った

今回の法案審議では、本人の意思が本当に自由なものなのか、周囲からの圧力をどこまで排除できるのかという問題が繰り返し取り上げられました。


たとえば、家族に経済的な負担をかけたくないと考える人や、介護を受けることに申し訳なさを感じる人がいた場合、その人の希望は本当に自由な意思と言えるのでしょうか。

また、貧困や孤立、医療・福祉サービスへのアクセスの格差がある社会で、本人の選択をどのように確認すべきなのでしょうか。


こうした問題は、

単に医師が本人の意思を確認するだけでは解決できない可能性があります。

法案に賛成することと、法案に含まれる安全措置が十分だと判断することは、必ずしも同じではありません。


👉 安楽死の強制リスクとは?社会的圧力・同調圧力は本当に現実的なのか



② 前回賛成したジャネット・ダビー議員が、今回は反対に転じた

今回の議論で象徴的だったのが、労働党のジャネット・ダビー議員の発言です。

ダビー議員は、前回の採決では安楽死法案に賛成していました。

しかし、2026年9月11日の審議では、

自身の判断を変更し、今回は反対票を投じると明言しました。


その理由の一つとして、議員はHIV/AIDSと診断された人との会話を紹介しています。

その人は、治療法が現在ほど進歩していなかった時代に深刻な病状を告げられ、

当時は安楽死が可能であれば選択していたかもしれないと話したそうです。


しかし、その後、

医療の進歩によって病状が安定し、現在は仕事を続けながら生活しているといいます。

この経験を踏まえ、ダビー議員は、病状の見通しや医療の進歩によって、将来の可能性が変わることを改めて考えるようになったと説明しました。


さらに、貧困、孤立、身体障害、精神的な問題、支配的な人間関係などによって、

本人の意思が影響を受ける可能性にも懸念を示しました。


また、医療サービスにおける格差が存在するなかで、

社会的に不利な立場にある人々が制度の影響を不均衡に受ける可能性を指摘しています。


これは、ダビー議員個人の経験と判断に基づく発言です。

一つの証言だけで制度全体の危険性が証明されるわけではありません。

しかし、議員がなぜ前回と異なる判断に至ったのかを理解するうえで、重要な証言といえるでしょう。



③ 法案を修正せずに成立させることへの懸念

もう一つの大きな問題は、前回の法案を基本的に引き継いだ形で再提出し、

議会法(Parliament Acts)の適用も視野に入れるという進め方でした。


議会法は、一定の条件のもとで、

貴族院の同意が得られない場合でも

下院の意思を反映させることを可能にする仕組みです。


しかし、今回の法案については、前回の審議で指摘された問題点を十分に修正しないまま、成立を急ぐことになるのではないかという懸念が示されました。

議員のなかには、安楽死制度の導入そのものを否定しているわけではなくても、本人の意思確認や保護措置をさらに検討する必要があると考える人もいました。


つまり、今回の採決では、

「安楽死制度を認めるべきか」

という理念の問題だけでなく、


「この法案を、この内容のまま、今の手続きで成立させてよいのか」

という具体的な判断が問われていたのです。


※👉出典




5.イギリスの世論調査では安楽死合法化に68%が賛成


今回の法案をめぐって、もう一つ考えさせられるのが、

イギリス国内の世論と議会の判断との隔たりです。


2026年9月7日、調査会社Ipsosは、安楽死制度に関する世論調査の結果を公表しました。

調査は2026年8月28日から31日にかけて、

イギリスの16~75歳の成人1,133人を対象に実施されたものです。


主な結果は次の通りです。

質問・回答

割合

条件を満たす終末期患者への医師幇助死の合法化に賛成

68%

法案の再提出を支持

61%

緩和ケアへの追加投資とセットで合法化すべき

34%

緩和ケアへの追加投資がなくても合法化すべき

30%

合法化すべきではない

17%


この結果を見ると、終末期患者への幇助死の合法化について、

イギリス国民の間には一定の支持が存在していたことが分かります。


しかし、ここで注意しなければならない点があります。

68%という数字は、一定の条件を満たす終末期患者への幇助死を認めることについての賛成割合です。

つまり、2026年に提出された法案のすべての条文や安全措置について、68%が賛成していたという意味ではありません。


また、緩和ケアへの追加投資を条件とする回答が34%を占めていたことも重要です。

人々は、単に安楽死制度を導入するかどうかだけではなく、

終末期医療や緩和ケアが十分に提供されることも重視しているのです。


したがって、この調査から読み取れるのは、安楽死制度の理念に対する支持が広く存在する一方で、その実施条件や医療・福祉体制については慎重な意見もあるということです。


「合法化に賛成する人が多い」ことと、

「提出された法案の内容をそのまま承認する人が多い」ことは、同じではありません。


この違いを理解することが、今回の議会採決を考えるうえで欠かせません。


Ipsos世論調査の結果


英国旗と国会議事堂を背景にしたIpsos世論調査のインフォグラフィック。安楽死法案の合法化に68%、再提出61%、条件付き34%支持。

※👉出典




👉 安楽死をめぐる賛否の論点を体系的に整理したい方は、こちらをご覧ください↓


👉 安楽死反対運動とは?|宗教・緩和ケア・情報発信から見る背景と構造


👉 安楽死反対派・慎重派の人物と団体一覧|医師・障害者団体・法律・宗教・学者の主張を整理【完全ガイド】




6.なぜ世論とイギリス議会の採決結果は一致しなかったのか


世論調査では合法化に賛成する人が多数を占めていたにもかかわらず、議会では法案が否決されました。

この結果を見て、「国民の意思が議会に反映されていないのではないか」と感じる人もいるかもしれません。


しかし、イギリスの議会制度を考えると、

世論調査の結果と議会採決が一致しないことには、いくつかの理由があります。



① イギリスは直接民主制ではなく、議会制民主主義を採用している

イギリスでは、国民が個々の法案について直接投票するのではなく、選挙で選ばれた議員が議会で審議し、採決を行います。

そのため、世論調査で多数が賛成していたとしても、

議員がその法案に賛成しなければ、法律にはなりません。


今回のような終末期医療や生命倫理に関わる問題では、政党の方針に従うのではなく、

議員が個人の良心に基づいて投票する「自由投票(Free Vote)」が採用されました。

政府も、安楽死制度の是非については中立の立場を示していました。

つまり、今回の採決は、

政府が法案成立を強く推進する通常の政府提出法案とは異なる性格を持っていたのです。



② 世論が支持する理念と、議会が判断する法案の内容は異なる

世論調査では、

終末期患者が一定の条件のもとで選択できる制度を支持する人が多くいました。


しかし、議会で問われたのは、単なる理念への賛否だけではありません。


本人の判断能力をどのように確認するのか。

家族や周囲からの圧力をどのように排除するのか。

医師や審査機関はどのような責任を負うのか。

緩和ケアや社会的支援が十分でない場合、本人の選択にどのような影響が生じるのか。


こうした具体的な問題を含めて、法案を通過させるかどうかが判断されました。

したがって、世論の多数が制度の理念を支持していても、議会で法案が否決されることはあり得ます。



③ 小選挙区制による議席と得票率のずれ

イギリスの下院選挙では、基本的に小選挙区制(First Past the Post)が採用されています。

各選挙区で最も多くの票を得た候補者が当選する仕組みです。


そのため、政党が全国で獲得した得票率と、

議会で占める議席の割合が大きく異なる場合があります。


たとえば、2024年の総選挙では、

労働党は全国の得票率33.7%で、下院650議席のうち411議席を獲得しました。


これは、得票率と議席割合が必ずしも一致しないことを示す事例です。

ただし、今回の安楽死法案の採決は、

通常の政党別の議席数によって決まる党議拘束付きの採決ではありません。

自由投票であったため、小選挙区制による議席配分の偏りが、

そのまま今回の否決を引き起こしたと説明することはできません。


ここで問題となるのは、選挙制度そのものだけではなく、国民の意見をどのように議会の政策判断へ反映させるのかという、代表制民主主義の仕組み全体です。



④ 世論調査と国民投票は異なる

もう一つ重要なのは、世論調査と国民投票は別のものだということです。

世論調査は、一定の方法で選ばれた回答者の意見から、

社会全体の傾向を推計するものです。

一方、国民投票は、対象となる有権者が直接、賛成・反対の意思を示す制度です。


今回のイギリスの安楽死法案について、国民投票が実施されたわけではありません。

したがって、

「国民の多数が支持していたのに議会が無視した」と単純に断定することはできません。

しかし、

国民の間に一定の支持がある政策が、

議会でどのような理由によって否決されたのかを検証することは、

民主主義にとって重要な課題です。


※👉出典




👉 日本における安楽死の法律的な扱いについては、こちらで詳しく解説しています↓




7.イギリス安楽死法案の否決後、今後の制度化はどうなるのか


2026年9月11日の採決によって、

今回提出された法案は下院第二読会を通過できませんでした。

したがって、この法案がそのまま委員会審議や貴族院での審議へ進むことはありません。


前回の法案は、下院を通過した後に貴族院で成立を阻まれました。

しかし、今回は下院で否決されたため、

前回とは異なる形で審議が終了したことになります。


では、イギリスで安楽死制度が今後も議論される可能性はなくなったのでしょうか。

そうとは言い切れません。

今回の否決は、あくまで2026–27年の法案に対する議会の判断です。


今後、別の議員が新たな法案を提出したり、

法案の内容を修正して再び議論を提起したりする可能性は残されています。


一方で、今回の採決では賛成270票、反対286票と、議会内の意見が大きく分かれていることも明らかになりました。


今後、制度化を目指すのであれば、賛成派は本人の自己決定を保障する制度の必要性を説明するだけでなく、反対派が指摘する安全性や社会的格差の問題に、具体的な制度設計で答えていく必要があるでしょう。

また、緩和ケアや終末期医療の充実を求める声についても、安楽死制度の議論とは切り離さずに検討することが重要です。


2026年11月2日時点では、今回の法案は否決されており、同じ法案の審議が継続しているわけではありません。


※👉出典




👉 安楽死と関係が深い「緩和ケアと安楽死の違い」は、こちらで整理しています↓


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まとめ|イギリス安楽死法案の否決から日本が考えるべきこと


2026年6月に再提出されたイギリスの安楽死法案は、

9月11日の下院第二読会で否決されました。


前回の法案は下院で可決された後、貴族院での審議が会期内に終わらず失効しましたが、今回は下院の段階で審議が終了しています。

今回の結果を整理すると、次のようになります。



・2025年6月20日、前回法案は下院で賛成314票、反対291票で可決


・2026年4月24日、貴族院での審議が会期内に終わらず、前回法案は失効


・2026年6月17日、ローレン・エドワーズ議員が新法案を提出


・2026年9月11日、新法案は下院第二読会で賛成270票、反対286票となり否決


・2026年8月のIpsos調査では、

一定の条件下での終末期患者への幇助死の合法化に68%が賛成



この一連の経緯から見えてくるのは、安楽死制度をめぐる議論が、

単純な賛成・反対だけでは整理できないということです。


終末期に耐え難い苦痛を抱える人に、どのような選択肢を認めるべきなのか。

本人の意思を尊重しながら、

周囲からの圧力や社会的な不利益から、どのように本人を守るのか。

緩和ケアや介護、福祉などの支援を十分に整えたうえで、

自己決定をどこまで認めるべきなのか。


これらは、イギリスだけの問題ではありません。

日本でも、終末期医療の選択肢、緩和ケアの限界、本人の意思決定、家族の負担、そして安楽死制度の法的な位置づけについて、社会全体で考えていく必要があります。


私たちRiP:Dは、人生の最終段階における本人の意思と選択が、

社会のなかで正面から議論されるべきだと考えています。

もちろん、制度を設けるのであれば、

濫用を防ぐための厳格な審査と保護措置、医療・福祉の支援体制が欠かせません。


しかし、安全性への懸念があるからといって、

終末期に苦しむ人々が抱える現実や、

選択肢を求める声まで議論の外に置いてよいのでしょうか。


イギリスの今回の否決は、制度化への道が決して簡単ではないことを示しました。

同時に、終末期における自己決定という問いが、いまだ社会のなかで解決されていないことも示しています。


人は人生の最終段階を、どのように迎えることができるのか。

そして、その選択を社会はどこまで尊重し、支えるべきなのでしょうか。

この問いは、私たち日本社会にも向けられているのではないでしょうか。




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イギリス安楽死法案:下院での採決比較

英国安楽死法案の賛成・反対を示す棒グラフ。2025年6月20日と2026年9月11日の2本の積み上げ棒で、青が賛成、緑が反対。

・2025年:23票差で可決

・2026年:16票差で否決



英国安楽死法案の経緯

1.2025年6月20日

旧法案が下院で314対291で可決


2.2025年6月23日

貴族院へ送付


3.2026年4月24日

貴族院の委員会段階の審議終了


4.2026年4月29日

会期終了。旧法案が未成立のまま失効


5.2026年6月17日

ローレン・エドワーズ議員が新法案を正式提出


6.2026年9月11日

下院第二読会で270対286となり否決

否決



賛成派と反対・慎重派の論点比較

論点

制度支持側の主張

反対・慎重側の主張

自己決定

本人の選択を尊重すべき

社会的圧力の影響を排除できるか

苦痛

耐えがたい苦痛への選択肢

緩和ケアの充実を優先すべき

障害者

障害者にも選択権がある

障害を理由とした差別や圧力への懸念

審査制度

複数段階の審査で安全性を確保

審査が形式化する危険性

医療体制

医療の選択肢を拡大

医療従事者の倫理的負担

社会保障

制度と福祉の両立が可能

福祉不足が死の選択に影響する懸念

👉 安楽死の強制リスクとは?社会的圧力・同調圧力は本当に現実的なのか


👉 安楽死の「滑り坂論」とは?反対論・実証研究・海外制度から検証


👉 安楽死制度は不要なのか?社会支援だけでは解決できない苦痛を検証



世論調査と法案採決の違い

世論調査

  • 1,133人

  • 68%が原則として合法化を支持

  • Ipsos調査

  • 2026年8月28~31日


議会採決

  • 下院議員による採決

  • 賛成270票

  • 反対286票

  • 2026年9月11日



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👉 世界の安楽死法│法律の紹介↓




FAQ(よくある質問)


Q1.イギリスでは現在、安楽死は合法ですか?

A.2026年11月5日時点では、今回の法案は下院第二読会で否決されており、新しい制度は成立していません。

2026年9月11日の採決では、賛成270票、反対286票となり、法案は次の審議段階へ進むことができませんでした。

したがって、今回の法案によってイギリスの法律が変更されたわけではありません。


Q2.安楽死と医師幇助自殺は同じものですか?

A.厳密には異なります。

一般的な区別では、積極的安楽死は医療従事者などが薬剤を直接投与する行為を指します。

一方、医師幇助自殺は、医師が薬剤を処方・提供し、本人が最終的な行為を行う仕組みです。

今回の英国法案は、本人が薬剤を自己投与することを前提とした医師幇助死の制度案でした。

ただし、国によって法律上の用語や定義は異なるため、各国の制度を比較する際には注意が必要です。


Q3.なぜ2025年には可決された法案が、2026年には否決されたのですか?

A.2025年の旧法案は、下院で賛成314票、反対291票となり可決されました。

しかし、貴族院での審議が会期内に完了せず、2026年4月29日の会期終了に伴って失効しました。

その後、2026年6月17日にローレン・エドワーズ議員が新しい法案を提出しましたが、9月11日の下院第二読会では賛成270票、反対286票となり否決されました。

2回の採決では議員の判断や投票行動に変化がありましたが、その理由を採決数字だけで断定することはできません。個々の議員の発言や投票記録を確認する必要があります。


Q4.反対派が懸念した社会的圧力とは何ですか?

A.本人が家族や社会に負担をかけたくないと考えたり、経済的な困窮、介護不足、孤立、障害に対する偏見などの影響を受けたりして、自由な意思決定が難しくなる可能性を指します。

こうした懸念は、単に他人から直接強制される場合だけではありません。

本人が自分自身を家族や社会の負担だと感じることや、必要な医療・福祉サービスを利用できないことも問題として議論されています。

一方、制度を支持する側は、複数の医師による評価、本人の意思確認、独立した審査、監督制度などによってリスクを低減できると主張しています。


Q5.安楽死制度の合法化を求めることは、緩和ケアを否定することですか?

A.必ずしもそうではありません。

緩和ケアは、痛みや呼吸困難、不安などを軽減し、患者と家族の生活の質を支える重要な医療です。

一方で、緩和ケアによってすべての苦痛が必ず解消されるとは限りません。

今回の英国の議論でも、幇助死の合法化と緩和ケアへの追加投資をどのように両立させるかが論点となりました。

安楽死制度を支持する立場でも、緩和ケアの充実を必要と考える意見があります。

RiP:Dも、緩和ケアを否定することではなく、緩和ケアを充実させたうえでも残る苦痛や本人の意思をどのように考えるかという問題を提起しています。


Q6.Ipsosの世論調査で68%が賛成していたのに、なぜ議会では否決されたのですか?

A.世論調査と議会採決では、対象と判断の内容が異なるためです。

Ipsosの68%という数字は、一定の条件を満たす終末期患者への幇助死を合法化することについての支持率です。

法案のすべての条文や安全措置をそのまま承認するかどうかを尋ねた数字ではありません。

また、イギリスでは生命倫理に関わる問題で自由投票が行われることがあり、議員がそれぞれの判断に基づいて投票します。

したがって、世論調査で賛成が多数だったとしても、議会で法案が可決されるとは限りません。


Q7.2026年の否決によって、イギリスでの安楽死制度の議論は終わったのですか?

A.今回の法案は下院第二読会で否決されましたが、これによって今後の議論がすべて禁止されたわけではありません。

別の議員による新たな法案提出や、内容を修正した制度案の検討は、今後も政治的な選択肢として残されています。

ただし、2026年11月5日時点で、今回否決された法案の審議が継続しているわけではありません。


Q8.今回のイギリスの議論は、日本にとってどのような意味がありますか?

A.日本でも、終末期医療、本人の意思決定、緩和ケア、介護や福祉の支援、安楽死制度の法的な位置づけなどについて議論する際の参考になります。

特に、制度の理念だけでなく、本人の自由な意思をどのように確認するのか、社会的に不利な立場にある人々をどう保護するのか、医療・福祉体制をどう整備するのかという点は、日本でも検討する必要がある課題です。

RiPは、海外の制度や議会での議論を参考にしながら、日本でも終末期における本人の意思と選択について、具体的な法制度のあり方を検討する必要があると考えています。




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👉 身体疾患と自殺の関係|警察庁・厚労省統計から見る年間約4,000人規模の実態




嘆願書送付アクション


本サイトでは、各国制度、安全性・濫用防止、緩和ケア、身体疾患による苦痛と自殺などについて、国会提出用の補足資料も公開しています。



書類 一覧


・嘆願書 本文『人道的終末選択の法制化に関する提言書』

・補足資料① 日本における安楽死制度の法的現状と制度的空白

・補足資料② 各国制度比較と日本への制度モデル

・補足資料③ 制度設計・安全性確保・濫用防止策

・補足資料④ 緩和ケアの限界と終末期医療の課題

・補足資料⑤ 身体疾患・身体障害による苦痛と自殺の実態

・カバーレター:ご挨拶(1ページ)

・要約文(2ページ)



👉 日本に安楽死制度を導入するための5つのポイント|制度化への課題・世界の動向・実現への道筋↓








学術論文・医学研究


本記事では、安楽死・医師幇助死をめぐる社会的圧力、障害者の自己決定権、緩和ケアとの関係、制度の安全性に関する研究を参照しています。


以下は、今回の記事の論点に関連する査読付き学術論文です。なお、各論文は研究目的・方法・立場が異なるため、実証研究と倫理的・規範的な論考を区別して参照してください。


1.障害者と社会的不公正・自由意思をめぐる議論

Braun E. Assisted dying, disability and voluntariness under social injustice. Journal of Medical Ethics. 2026 Aug 13.

DOI: 10.1136/jme-2026-111860PubMed: PMID 42595457

貧困、住居、介護・福祉サービスの不足など、社会的不公正によって生じた苦痛を背景とする幇助死の希望について、本人の意思が十分に自由なものといえるかを検討した論考です。



2.障害者の自己決定権と幇助死

Riddle CA. Assisted Dying & Disability. Bioethics. 2017;31(6):484–489.

DOI: 10.1111/bioe.12353PubMed: PMID 28419505

障害者の権利と幇助死をめぐる議論を、本人の自律性と意思決定能力の尊重という観点から検討しています。障害者保護を理由とする制度制限に対する異なる立場を理解するための資料です。



3.緩和ケアと幇助死の関係

Gerson SM, Koksvik GH, Richards N, Materstvedt LJ, Clark D. The Relationship of Palliative Care With Assisted Dying Where Assisted Dying is Lawful: A Systematic Scoping Review of the Literature. Journal of Pain and Symptom Management. 2020;59(6):1287–1303.e1.

DOI: 10.1016/j.jpainsymman.2019.12.361PubMed: PMID 31881289

幇助死が合法化されている地域における緩和ケアとの関係を整理した文献レビューです。両者の関係は一律に対立するものではなく、地域や医療制度によって異なることを示しています。



4.幇助死をめぐる世界的な意識・態度の系統的レビュー

Grove GL, Lovell MR, Hughes I, Maehler E, Best M. Voluntary-assisted dying, euthanasia and physician-assisted suicide: global perspectives-systematic review. BMJ Supportive & Palliative Care. 2025;15(4):423–435.

DOI: 10.1136/spcare-2024-005116PubMed: PMID 40175060

世界各国の研究をもとに、一般市民、医師、患者などの幇助死に対する意識を分析しています。対象となる患者の状態や調査対象者の属性によって支持の程度が異なることを示しています。



5.MAiDに関する50年間の実証研究のレビュー

Riley S, Strand GR, Parra Jounou I, Perin M, Crico C, Bosma F, Delgado J. Fifty years of empirical research on medical assistance in dying: A mapping review. Health Policy. 2026;173:105745.

DOI: 10.1016/j.healthpol.2026.105745PubMed: PMID 42659870

1975年から2025年までに公表された医療的幇助死に関する実証研究を整理したレビューです。制度の利用者、利用を認められなかった人、社会的に不利な立場にある人々に関する研究の不足など、エビデンス基盤の課題を指摘しています。



※学術論文は、法案の採決結果や英国議会の手続きそのものを証明する資料ではありません。議会の事実関係については、英国議会の公式記録および英国政府の公表資料を優先しています。




調査・編集について

本記事は、RiP:D(Rest in Peace with Dignity)が、英国議会の公式議事録、法案資料、英国下院図書館の調査資料、英国政府の公表資料、世論調査などを確認し、2026年11月時点で把握できる情報をもとに作成したものです。

議会の採決結果や法案の提出・審議状況については、可能な限り一次資料を優先しています。

また、議員の発言、世論調査の結果、制度の安全性をめぐる評価は、それぞれ性質の異なる情報として区別しています。

本記事は、特定の国や制度についての単一の評価を示すものではなく、公開資料に基づいて議論の経緯と争点を整理することを目的としています。


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