身体疾患と自殺の関係|警察庁・厚労省統計から見る年間約4,000人規模の実態

更新日:9月22日
最終更新日:2026年9月16日(随時更新)
※更新履歴:補足説明文|図表の追加|論文の収載
👉 安楽死の基本構造については「安楽死とは?」で全体像を整理しています。
👉 安楽死の定義と分類(積極的・消極的・間接的)の違いは、こちらで整理しています↓
👉 18年間の「健康問題」による自殺者数の推移は、こちらをご覧ください↓
※本記事は2026年9月に全面改訂し、
「日本の安楽死制度導入に関する提言書【補足資料⑤】」として再整理しています↓
日本における自殺の議論は、これまで主に精神的要因や社会的問題に焦点が当てられてきました。
しかし、公的統計を詳しく分析すると、
「健康問題」、特に
身体疾患による苦痛
が重要な要因の一つとして位置づけられていることが分かります。
厚生労働省および警察庁の自殺統計では、自殺の原因・動機として
「健康問題(身体疾患・精神疾患を含む)」が主要な要因の一つとして分類されており、
身体的苦痛と自殺の関連性
は公的データ上も確認されています。
本記事では、公的データをもとに身体疾患と自殺の関係を整理し、これまで見過ごされがちだった問題の実態を明らかにするとともに、今後の制度議論における重要な視点を提示します。
🎧音声による動画解説
要約図(自由使用可)


身体疾患による苦痛と自殺――公的統計から見えてくる「見過ごされてきた規模」
日本の自殺議論で見落とされてきた視点
日本の自殺に関する議論では、しばしば「心の問題」や「精神疾患」が前面に置かれます。しかし、厚生労働省の自殺対策白書および警察庁の自殺統計を丁寧に読み解くと、そこには、これまで十分に焦点が当てられてこなかった、しかし看過できない現実が浮かび上がってきます。
それは、
✅がんや難病、重度の慢性疾患など、身体疾患による
耐え難い苦痛を背景として、自ら命を絶つ人々が、
✅毎年、数千人規模で存在している可能性が極めて高い
という事実です。
👉 安楽死をめぐる賛否の論点を体系的に整理したい方は、こちらをご覧ください↓
健康問題は、依然として自殺の最大要因である
警察庁統計に基づく「自殺の原因・動機の年次推移」によれば、
令和1年以降においても一貫して、
「健康問題」は自殺の原因・動機として最も多く計上されています。
具体的には、
令和1年:9,861件
令和2年:10,195件
令和3年:9,860件
令和4年:12,403件
令和5年:12,403件
と推移しており、多少の増減はあるものの、
常に年間1万人前後、あるいはそれ以上の高水準を維持しています。
これらの数値は、各年の総自殺者数(令和1年:20,169人、令和2年:21,081人、令和3年:約21,000人、令和4年:21,881人、令和5年:約21,000人)と比較すると、
およそ半数前後に相当します。
すなわち、日本では現在に至るまで、
自殺者の少なくとも二人に一人が、
何らかの深刻な「健康問題」を抱えていた
と推定される状況が、複数年にわたり継続していることが示されています。

2019年(令和元年)の自殺動機別グラフ(警察庁公表資料より)
👉※出典はこちらから↓
・自殺統計に基づく自殺者数|自殺対策|厚生労働省
※注意点
警察庁・厚生労働省の自殺統計では、「健康問題」は長年にわたり主要な原因・動機の一つとして計上されています。
ただし、この統計は一人の自殺者について複数の原因・動機を計上できる仕組みであるため(最大4つまで)、厳密にいうと「健康問題を原因とする自殺者が総自殺者の半数を占める」という意味ではありません。
より正確には、各年の自殺について把握された原因・動機のうち、「健康問題」に分類された件数が、総自殺者数に対して大きな割合を占めていることを示しています。
健康問題に含まれる精神疾患と身体疾患の内訳
ただし、この「健康問題」という区分は、非常に幅広い内容を内包しています。
厚生労働省および警察庁が詳細分類を公表していた、
過去の統計(平成19年~平成27年)では、「健康問題」は以下のように内訳化されていました。
うつ病などの精神疾患
統合失調症、依存症、その他の精神障害
身体の病気(がん、難病、慢性疾患など)
身体障害の悩み
これらの詳細データを通年で見ると、健康問題全体のうち、
おおむね30~40%前後が
「身体疾患・身体障害」に直接関連している
ことが一貫して確認できます。
この比率は、年ごとの多少の変動はあるものの、長期的に見て大きく崩れてはいません。

2007年~2015年の赤い部分に注目してください。
身体疾患に関連した自殺が多いことは一目瞭然です。
👉※出典→ 令和6年版自殺対策白書|自殺対策|厚生労働省

※黄色の部分が健康問題が由来の自殺者数となります。
👉 安楽死と自殺の関係について全体的に整理した記事は、こちら↓
手段別統計が示す自殺構造の長期的安定性
この推定の妥当性を裏づける補助的エビデンスとして、手段別自殺統計の推移も重要です。
平成30年から令和5年までの公的統計を通じて、自殺手段の構成比には顕著な共通点があります。
👉出典:各年に発表された自殺対策白書|自殺対策|厚生労働省






(出典↓)
・令和元年年版 自殺対策白書~令和6年版自殺対策白書|自殺対策|厚生労働省
・「首つり」は、毎年約66~68%で一貫して最多
・次いで「飛降り」(約9~15%)、
・「練炭等」(約7~9%)が続く
・上位3手段で、常に全体の約85%以上を占めている
この構成比は、総自殺者数が増減する年をまたいでも、ほとんど変化していないません。
これは、日本の自殺の多くが、
衝動的・偶発的な行動ではなく、
強い致死性を伴う手段を選択せざるを得ないほどの、
持続的かつ深刻な苦痛の末に行われている可能性
を強く示唆しています。
特に、長期にわたる身体的苦痛や生活機能の喪失と親和性の高い手段構成である点は、軽視できません。
最新統計による推定――身体疾患が背景の自殺者数
以上を踏まえ、平成19年~27年の詳細統計において確認されてきた
「健康問題のうち30~40%が身体疾患・身体障害に由来する」
という内訳比率を、直近の各年の「健康問題」件数に当てはめると、次の推計が導かれます。
令和1年: 9,861人 × 30~40% ≒ 約3,000~3,900人
令和2年: 10,195人 × 30~40% ≒ 約3,100~4,100人
令和3年: 9,860人 × 30~40% ≒ 約3,000~3,900人
令和4年: 12,774人 × 30~40% ≒ 約3,800~5,100人
令和5年: 12,403人 × 30~40% ≒ 約3,700~5,000人
これらを総合すると、日本では現在に至るまで、
毎年およそ
4,000~5,000人前後が、
がんや難病などの身体疾患による
耐え難い苦痛を背景として、自殺に至っている可能性が高い
と推定されます。
重要なのは、この数値が特定の年にのみ現れた例外的なものではなく、
複数年にわたる統計の積み重ねと、
健康問題内における内訳構成の長期的な安定性
の双方から導かれる、
構造的かつ持続的な規模
であるという点です。
すなわちこれは、一時的な社会不安や突発的事象による「異常値」ではなく、
日本社会において長年にわたり静かに存在し続けてきた、
見過ごされてきた現実の一断面を示しています。
👉 日本における安楽死の法律的な扱いについては、こちらで詳しく解説しています↓
年間4,000~5,000人という数字が示す社会的意味
年間4,000~5,000人という規模は、決して「例外的」「特殊なケース」として片付けられるものではありません。
それは、
医学的に十分な苦痛緩和が得られなかった人々
社会的・制度的支援にたどり着けなかった人々
法的に「選択肢」が存在しなかった人々
が、長期の苦悩と孤立の末に選ばざるを得なかった最終的な帰結です。
より具体的に言うと、
✅がんや末期疾患に伴う身体的な痛み・苦痛
✅手足の機能喪失や重度の障害による日常生活の制限
✅慢性疾患による長期的な倦怠感や身体機能の衰え
✅治療反応が乏しく、苦痛が続く状況
これらのケースは、痛みや日常生活の質の低下を伴うものが多く、
その苦痛の深さは、外側からは見えにくいものです。
そのため、この現実は、「健康問題」という大括りの中に埋もれ、
身体疾患による自殺として正面から議論されることはほとんどありませんでした。
👉 安楽死と関係が深い「緩和ケアと安楽死の違い」は、こちらで整理しています↓
緩和ケアの役割と、その限界|公的統計が示す現実
身体疾患や身体障害に伴う苦痛に対して、日本では緩和ケアの重要性が広く認識されてきました。痛みの緩和、精神的支援、生活の質(QOL)の維持を目的とする緩和ケアは、多くの患者にとって不可欠な支えとなっています。
しかし、この18年分の統計が示しているのは、
・緩和ケアや医療的支援が存在するにもかかわらず、
・なお身体疾患または身体障害を理由として
・命を絶つ人々が一定数存在し続けている
という現実です。
これは、緩和ケアそのものを否定するものではありません。
一方で、
すべての苦痛が医療によって
完全に取り除けるわけではない
という限界が、
如実に数字として浮かび上がっているとも言えます。
👉※苦痛が緩和できない事実については、こちらを参照してください↓
静かに示されてきたが極めて重い公的数値
これらの数字は、センセーショナルに強調されてきたものではありません。
むしろ、公的統計の中に静かに、しかし一貫して記載され続けてきた数値です。
その意味で、本稿で示した推定は「新しい発見」というよりも、
これまで十分に直視されてこなかった現実を、
統計的に再可視化したもの
に近いです。
日本の終末期医療、緩和ケア、そして人の尊厳をめぐる制度設計を考える上で、
この数値が示す重みは、もはや無視できない段階に来ていると言えます。
結語|尊厳と自己決定を回復する制度的選択肢
以上の検討から明らかなように、日本では長年にわたり、
がんや難病などの身体疾患による耐え難い苦痛を背景として命を落とす人々が、
毎年、数千人規模で存在し続けてきました。
この現実は、個々人の「弱さ」や「心の問題」に還元できるものではありません。
むしろ、医学的・制度的・社会的支援が尽きた地点においてもなお、
生き方や最期の迎え方を
自ら選ぶ権利が認められてこなかった構造
を反映しています。
終末期医療や緩和ケアは極めて重要であり、今後も充実が求められる分野です。
しかし同時に、緩和が奏功しない苦痛が一定数、現実に存在するという事実を直視するならば、それを補完する制度的選択肢について議論を避け続けることは、もはや中立ではあり得ません。
データを踏まえるならば、
・ 緩和ケアを最大限に尽くしたうえでもなお残る苦痛に対して、
・社会がどのような選択肢を用意すべきなのか
という問いを、避けて通ることはできないでしょう。
※👉 緩和ケアの限界、その証言集は、こちらをご覧ください↓
他国では、厳格な要件と多層的な審査の下で、
本人の自由意思と尊厳を最大限尊重する形での安楽死(人道的終末選択)制度が整備されつつあります。
それは「死を勧める制度」ではなく、
耐え難い苦痛の中にある人が、
最後まで自己決定を奪われないための安全装置
として位置づけられています。
統計が静かに示してきた数千人という数字は、
この議論を「価値観の対立」や「感情的問題」に矮小化することを許しません。
尊厳をもって生き、
尊厳をもって最期を選ぶ可能性を
社会がどこまで保障するのか
それは、個人の生死観の問題である以前に、
成熟した社会が向き合うべき、避けて通れない制度設計の課題であると言えるでしょう。
👉 世界各国の安楽死制度を知りたい方は、はこちらで解説しています↓
👉 安楽死の歴史的背景はこちら
参考:イギリス下院議会での安楽死審議の様子
追記:年間自殺者数全体のうち、健康問題を動機とする自殺が占める割合

過去18年間の平均自殺者数は約24,198人で、依然として大きな社会問題です。
健康問題が原因の自殺は平均12,380人で、全体の約51.2%を占めています。
健康問題は自殺原因の中で最も大きな割合を占める主要因です。
精神疾患による自殺は平均7,419人で、健康問題の中でも最多です。
うつ病だけで平均5,187人と、特に強い関連が見られます。
身体疾患による自殺は平均4,349人と、無視できない規模です。
身体疾患の多くは「その他」に分類され、慢性的苦痛などが含まれる可能性があります。
総自殺者数は減少傾向(約3万人→約2万人)にあります。
一方で健康問題の割合は増加しており、近年は約59%に達しています。
これらのデータから、自殺は「健康・苦痛」と強く結びついた問題であることが分かります。
【結論】
日本の自殺の半数以上は健康問題が原因であり、その中には精神疾患だけでなく、
身体的苦痛に起因するケースも数千人規模で存在しています。
これは、自殺問題が単なる心理問題ではなく、
“医療と苦痛の問題”
であることを示しています。
👉精神疾患の統計データは、こちらから御覧ください↓
👉 地図で確認する安楽死が合法の国 一覧と各国制度は、こちらで詳しく解説しています↓
👉 世界の安楽死制度の成立経緯を年代順で知りたい方は、こちら↓
「健康問題」の構造
健康問題
├─ 精神疾患
│ ├─ うつ病
│ ├─ 統合失調症
│ └─ その他
│
├─ 身体疾患
│ ├─ 悪性新生物
│ ├─ てんかん
│ └─ その他の身体疾患
│
├─ 身体障害
└─ その他
「2024年・健康問題の内訳」
区分 | 件数 |
健康問題 | 12,029 |
悪性新生物 | 588 |
てんかん | 57 |
その他の身体疾患 | 2,796 |
身体疾患合計 | 3,441 |
身体障害 | 618 |
うつ病 | 4,245 |
統合失調症 | 924 |
その他の精神疾患 | 1,816 |
統計から分かることと、統計だけでは分からないこと
公的統計から確認できる事実と、
そこから導かれる政策的な解釈を区別することは重要です。
警察庁・厚生労働省の統計からは、身体疾患や身体障害に関する悩み・影響が、自殺の原因・動機として一定数計上されていることを確認できます。
一方、この統計だけから、
・身体疾患による苦痛が自殺の唯一の原因だったのか
・本人がどの程度の身体的苦痛を経験していたのか
・緩和ケアを受けていたのか
・安楽死制度が存在すれば自殺を回避できたのか
までを厳密に判断することはできません。
したがって、本資料では、自殺統計を「安楽死制度の必要性を直接証明するデータ」としてではなく、身体疾患・身体障害による苦痛と終末期の選択肢について、さらに検討する必要性を示す基礎資料として位置づけています。
そのうえで、緩和ケア、終末期医療、自己決定、安全性、濫用防止、脆弱な立場にある人への影響などを含め、制度の是非を総合的に検討する必要があります。
FAQ
Q1.身体疾患は自殺の原因・動機になるのですか?
A.警察庁・厚生労働省の自殺統計では、「病気の悩み(身体の病気)」や「身体障害の悩み」などが、自殺の原因・動機として計上されています。
ただし、自殺の原因・動機は複数計上されるため、身体疾患が「唯一の原因」であった人数を示す統計ではありません。
Q2.「健康問題による自殺」と「身体疾患による自殺」は同じですか?
A.同じではありません。
「健康問題」には、身体疾患だけでなく、うつ病、統合失調症、その他の精神疾患、身体障害、認知機能低下など、複数の項目が含まれます。
したがって、「健康問題」の統計をそのまま「身体疾患による自殺」と解釈することはできません。
Q3.年間約4,000人という数字は、身体疾患だけが原因で自殺した人数ですか?
A.いいえ。
本ページで示す数値は、警察庁の自殺統計において、身体疾患等に関する悩み・影響が原因・動機として計上された件数を基礎としています。
一人について複数の原因・動機が計上されるため、「身体疾患だけが原因で自殺した人数」と解釈することはできません。
Q4.身体疾患があれば自殺リスクが高くなるのですか?
A.疾患の種類や重症度、疼痛、精神状態、社会的孤立、生活環境などによって異なります。
医学研究では、慢性疼痛やがんと自殺関連アウトカムとの関連が報告されていますが、身体疾患だけで自殺を説明することはできません。
Q5.この統計から、安楽死制度が必要だと証明できますか?
A.いいえ。
自殺統計だけから、安楽死制度の必要性や、安楽死制度が存在すれば自殺を回避できた人数を直接算出することはできません。
本ページでは、自殺統計を、身体疾患・身体障害による苦痛と終末期の選択肢について検討するための基礎資料として位置づけています。
Q6.安楽死と自殺は同じですか?
A.同じではありません。
自殺統計が扱う「自殺」と、法律に基づいて医療者が関与する安楽死・医師幇助死制度は、行為の主体、医療者の関与、適格性審査、意思確認、報告・審査制度などが異なります。
一方で、死を望む理由や苦痛の評価という点で関連する論点もあるため、両者を完全に無関係とすることも適切ではありません。
Q7.安楽死と尊厳死は同じですか?
A.一般には同じ意味では使われません。
安楽死は、本人の希望等を前提として医療者が生命を終結させる制度・行為を指す場合があります。
一方、日本で「尊厳死」と呼ばれるものは、一般に、生命維持治療の差し控え・中止などによって自然な死の過程を尊重する考え方として用いられています。
両者は法的・医学的意味が異なるため、区別して考える必要があります。
Q8.この議論は緩和ケアを否定しているのですか?
A.いいえ。
緩和ケアは終末期医療において重要な役割を持ちます。本ページも、緩和ケアの重要性を否定するものではありません。
一方で、医学研究では、治療してもなお難治性の疼痛や呼吸困難、せん妄などの症状が残る患者が存在することも報告されています。
そのため、「緩和ケアを充実させること」と「それでも残る苦痛について制度的選択肢を検討すること」は、必ずしも二者択一ではないとRiPは考えています。
Q9.緩和ケアがあれば、すべての苦痛を取り除けますか?
A.すべての苦痛を完全に取り除けるとは限りません。
WHOは緩和ケアを、疼痛や呼吸困難などの身体症状だけでなく、心理的・社会的・精神的側面も含めて支援するものと位置づけています。
一方、医学研究では、難治性の症状が残る患者が存在することも報告されています。
Q10.安楽死制度にはリスクはありませんか?
A.あります。
制度化した場合でも、本人の意思確認、強制や誘導の防止、判断能力の評価、脆弱な立場にある人への配慮、医療者の倫理的葛藤、審査制度、報告・監査など、多くの課題があります。
そのため、RiPは単に「合法化すればよい」とするのではなく、安全性確保と濫用防止を含む制度設計が必要だと考えています。
Q11.安楽死制度に反対・慎重な研究者の意見も検討していますか?
A.はい。
本サイトでは、制度化に肯定的な研究だけでなく、滑り坂論、脆弱な立場にある人への影響、精神疾患の場合の判断能力、医療者の倫理的負担、制度運用上のばらつきなどを扱う慎重論も参照しています。
本ページでも、賛成・反対双方の研究を参考文献として掲載しています。
Q12.公的統計だけで、身体疾患と自殺の関係を完全に説明できますか?
A.できません。
公的統計は社会全体の傾向を把握するうえで重要ですが、個々の人の苦痛の程度、治療歴、緩和ケアの利用状況、家族関係、経済状況などを完全に把握するものではありません。
したがって、本ページでは公的統計を重要な基礎資料として扱いつつ、医学研究や緩和ケア研究などと組み合わせて検討しています。
「安楽死と自殺の全体像」については、こちらをご覧ください↓
嘆願書送付アクション
本サイトでは、各国制度、安全性・濫用防止、緩和ケア、身体疾患による苦痛と自殺などについて、国会提出用の補足資料も公開しています。
書類 一覧
・嘆願書 本文『人道的終末選択の法制化に関する提言書』
・補足資料① 日本における安楽死制度の法的現状と制度的空白
・補足資料② 各国制度比較と日本への制度モデル
・補足資料③ 制度設計・安全性確保・濫用防止策
・補足資料④ 緩和ケアの限界と終末期医療の課題
・補足資料⑤ 身体疾患・身体障害による苦痛と自殺の実態
・カバーレター:ご挨拶(1ページ)
・要約文(2ページ)
参考文献・公的資料
本ページでは、警察庁・厚生労働省等の公的統計を基礎資料とし、身体疾患・慢性疼痛・がん・緩和ケア・自殺との関連について、PubMedで確認可能な査読付き学術文献を参照しています。
また、安楽死・医師幇助死については、制度化を支持・肯定する立場の研究だけでなく、制度運用上のばらつき、滑り坂論、脆弱な立場にある人への影響、医療者の倫理的課題などを扱う研究も参照しています。
なお、以下の文献は、それぞれ異なる研究デザイン・対象集団・国・制度を扱っているため、個々の研究結果を日本の制度や日本の自殺統計へそのまま当てはめることはできません。本ページでは、各資料が示している範囲を超えた断定を避けるよう留意しています。
1.日本の自殺統計
警察庁・厚生労働省「令和6年中における自殺の状況」
2024年(令和6年)の自殺者数、原因・動機、健康問題、身体疾患、身体障害等について確認するための政府公表資料です。
原因・動機については、1人の自殺者について複数の原因・動機が計上される場合があるため、各項目の人数を単純に合計して自殺者数とすることはできません。
2.厚生労働省「令和7年版 自殺対策白書」
厚生労働省「令和7年版自殺対策白書」
自殺者数の長期的な推移、年齢・性別等の状況、令和6年(2024年)の自殺の状況、海外の自殺の状況、自殺対策の実施状況などを政府が体系的に整理した資料です。
日本の自殺統計を長期的な視点から検討する際の基礎資料として参照しています。
3.慢性疼痛と自殺行動
Kwon CY, Lee B.
Prevalence of suicidal behavior in patients with chronic pain: a systematic review and meta-analysis of observational studies.
Frontiers in Psychology. 2023;14:1217299.
DOI: 10.3389/fpsyg.2023.1217299PMID: 37842717PMCID: PMC10576560
慢性疼痛患者における自殺念慮・自殺企図等について、19研究、計3,312,343人を対象として検討した系統的レビュー・メタ分析です。
本研究では、慢性疼痛を有する集団において自殺行動の有病率が高いことが示されています。一方で、研究間の異質性や、使用された自殺行動評価尺度の問題など、研究上の限界も指摘されています。
したがって、本ページでは「身体疾患や慢性疼痛がある人は自殺する」という単純な因果関係を示す根拠としてではなく、慢性疼痛と自殺行動との関連を示す医学的研究として参照しています。
4.慢性疼痛と自殺リスク
Racine M.
Chronic pain and suicide risk: A comprehensive review.
Progress in Neuro-Psychopharmacology & Biological Psychiatry. 2018;87(Pt B):269-280.
DOI: 10.1016/j.pnpbp.2017.08.020PMID: 28847525
慢性疼痛と自殺リスクについて包括的に検討したレビューです。
慢性疼痛そのものに加えて、抑うつ症状、睡眠問題、社会的要因、心理的要因など、複数の要素が自殺リスクに関連することを整理しています。本ページにおいて、身体的苦痛と自殺との関連を単純化せず、複合的な要因として説明するために参照しています。
5.がんと自殺
Calati R, Filipponi C, Mansi W, Casu D, Peviani G, Gentile G, Tambuzzi S, Fornaro M, Lopez-Castroman J, Madeddu F.
Cancer diagnosis and suicide outcomes: Umbrella review and methodological considerations.
Journal of Affective Disorders. 2021;295:1201-1214.
DOI: 10.1016/j.jad.2021.08.131PMID: 34706434
がん患者における自殺との関連について、複数のメタ分析・系統的レビューを再評価したアンブレラレビューです。
がん患者では一般人口と比較して自殺リスクが高いことを示す一方、研究間には大きな異質性があり、既存のメタ分析・系統的レビューの方法論的な質にも限界があるとしています。
本ページでは、がんという身体疾患と自殺との関連を示す医学的根拠として参照するとともに、「がん患者の自殺リスクが高い」という結果だけを取り出して因果関係を断定しないための資料としても位置付けています。
6.安楽死・医師幇助死と「自殺」の区別
Gerson SM, Bingley A, Preston N, Grinyer A.
When is hastened death considered suicide? A systematically conducted literature review about palliative care professionals' experiences where assisted dying is legal.
BMC Palliative Care. 2019;18(1):75.
DOI: 10.1186/s12904-019-0451-4PMID: 31472690PMCID: PMC6717643
安楽死・医師幇助死が合法化されている地域において、緩和ケア専門職が経験する「制度化された死の選択」と「自殺」の関係を検討した系統的レビューです。
30研究を対象とし、安楽死・医師幇助死、自殺、その他の死期を早める行為について、医療者がどのように捉えているかを検討しています。一方で、合法化された地域において自殺と制度化された死の選択をどのように区別するかについては、なお研究上の不明確さが残るとしています。
本ページでは、自殺統計と安楽死制度を単純に同一視しないための重要な資料として参照しています。
7.オランダの安楽死法制化前後の終末期医療
Onwuteaka-Philipsen BD, Brinkman-Stoppelenburg A, Penning C, de Jong-Krul GJF, van Delden JJM, van der Heide A.
Trends in end-of-life practices before and after the enactment of the euthanasia law in the Netherlands from 1990 to 2010: a repeated cross-sectional survey.
The Lancet. 2012;380(9845):908-915.
DOI: 10.1016/S0140-6736(12)61034-4PMID: 22789501
オランダにおいて、1990年、1995年、2001年、2005年、2010年の全国調査を用い、安楽死法の施行前後における終末期医療行為の変化を検討した研究です。
2010年には、全死亡の2.8%が安楽死によるものと推計され、安楽死または医師幇助自殺の事例の77%が審査委員会へ報告されていました。また、患者から明示的な要請がないまま生命を終結させる行為は、以前の調査と比較して減少していました。
研究者らは、オランダにおける法制度化が終末期医療の実態を比較的透明なものにしたと評価する一方、その結果を他国へそのまま適用することには注意が必要だとしています。
8.「滑り坂論」に関する実証研究
Lewis P.
The empirical slippery slope from voluntary to non-voluntary euthanasia.
Journal of Law, Medicine & Ethics. 2007;35(1):197-210.
DOI: 10.1111/j.1748-720X.2007.00124.xPMID: 17341228
自発的安楽死の合法化によって、非自発的安楽死へと拡大するという「滑り坂論」について、主としてオランダのデータを中心に実証的根拠を検討したレビューです。
著者は、滑り坂論を合法化に反対する実証的根拠として成立させるためには、単に非自発的な事例が存在することだけでなく、「合法化そのものがその増加を引き起こしたのか」という因果関係を検討する必要があると論じています。
本ページでは、安楽死制度に関する慎重論・反対論を検討する際の主要な学術文献の一つとして参照しています。
9.オランダにおける安楽死実施率の地域差
Groenewoud AS, Boer TA, Atsma F, Westert GP, Arvin M.
Euthanasia in the Netherlands: a claims data cross-sectional study of geographical variation.
BMJ Supportive & Palliative Care. 2021;14(1).
DOI: 10.1136/bmjspcare-2020-002573PMID: 33446488
オランダの2013~2017年の医療保険請求データを用いて、安楽死実施率の地域差を分析した横断研究です。
研究では、地域によって安楽死実施率に大きな差が存在し、年齢、所得、宗教、政治的志向、主観的健康状態などを調整した後にも相当程度の地域差が残ることが示されています。
この研究は、安楽死制度が法制化されている場合でも、制度の実施状況が全国一律になるとは限らないことを検討する資料として重要です。ただし、地域差の存在だけから「制度が不適切に運用されている」と結論づけることはできず、その原因については追加研究が必要です。
10.医師の安楽死・医師幇助死に対する態度
Song Y-X, Tsai D-FC.
Worldwide physicians' attitudes toward euthanasia and physician-assisted death: A systematic literature review.
Journal of the Formosan Medical Association. 2026. Online ahead of print.
DOI: 10.1016/j.jfma.2026.04.053PMID: 42049566
2026年に公表された系統的レビューで、PubMed、Cochrane、EBSCO、EMBASE、Airiti Libraryの5つのデータベースを検索し、世界各地の医師の安楽死・医師幇助死に対する態度を検討しています。
40研究を対象とし、終末期患者に対する医師の支持率には研究間・地域間で大きな幅があることを示しています。また、合法化されている国では、そうでない国と比較して医師の受容度が高い傾向が報告されていますが、合法化された国同士の比較についてはデータが限られているとしています。
本ページでは、医療者の間にも多様な見解が存在することを示す最新の系統的レビューとして参照しています。
参考資料の位置づけ
本ページの統計分析は、警察庁・厚生労働省等の公的資料、およびPubMed等で確認可能な査読付き学術研究を基礎として整理しています。
特に、自殺統計については、「身体疾患を原因・動機として計上された自殺が存在する」という公的統計上の事実と、そこから導かれる政策的考察を区別する必要があります。
また、自殺統計は、安楽死制度の必要性を直接証明するものではありません。
身体疾患・慢性疼痛・がんと自殺との関連についても、疼痛、抑うつ、睡眠、社会的孤立、経済的状況、家族関係、疾患の種類・進行度など、複数の医学的・心理社会的要因が関係することが報告されています。
さらに、安楽死・医師幇助死についても、制度化を支持する研究だけでなく、滑り坂論、制度運用の地域差、医療者の倫理的課題、自殺との境界などを扱う研究があります。
したがって、本ページでは、
① 公的統計から確認できる事実
② 学術研究から得られる知見
③ 研究上の限界・反対論・慎重論
④ RiP:Dによる政策的考察
を可能な限り区別して記載しています。
本ページで示している学術研究は、いずれも日本における安楽死制度の必要性を直接証明するものではありません。むしろ、身体疾患と自殺との関連、終末期医療、安楽死制度の運用上の課題について、現在確認できる研究知見を幅広く提示し、日本における制度設計を考えるための基礎資料として位置付けています。
調査方法・更新履歴
本記事では、警察庁「自殺の状況」、厚生労働省「自殺対策白書」等の公的資料を基礎資料として使用しています。
統計数値は原資料を確認し、年度ごとの分類変更にも注意して集計しています。
学術研究についてはPubMed等で論文の書誌情報を確認しています。
重要な制度情報については、可能な限り各国政府・公的機関の原資料を優先しています。
また、本サイトの政策的主張と、公的機関・研究者による事実認定・研究結果を区別して記載しています。
本資料の作成について
RiP:Dでは、日本の終末期医療・安楽死制度に関する法制度、公的統計、医学研究、海外制度資料を継続的に調査・整理しています。
本資料では、特に2007年以降の警察庁・厚生労働省の自殺統計を確認し、年度ごとの分類や統計上の制約に注意しながら整理しています。
「調査・資料・出典ポリシー」
公的統計を優先
原資料を優先
PubMed確認
DOI確認
法律・判例
海外政府資料
反対論も掲載
訂正方針
更新日
統計分類変更への対応
RiP:Dの政策的立場と事実記述の区別


















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