身体疾患による苦痛と自殺の統計分析│公的データから見える見過ごされてきた規模
- リップディー(RiP:D)

- 1月16日
- 読了時間: 11分
更新日:4月24日
※最終更新日:2026年4月24日(随時更新)
👉 18年間の「健康問題」による自殺者数の推移は、こちらをご覧ください↓
日本における自殺の議論は、これまで主に精神的要因や社会的問題に焦点が当てられてきました。
しかし、公的統計を詳しく分析すると、
「健康問題」、特に
身体疾患による苦痛
が重要な要因の一つとして位置づけられていることが分かります。
厚生労働省および警察庁の自殺統計では、自殺の原因・動機として
「健康問題(身体疾患・精神疾患を含む)」が主要な要因の一つとして分類されており、
身体的苦痛と自殺の関連性
は公的データ上も確認されています。
本記事では、公的データをもとに身体疾患と自殺の関係を整理し、これまで見過ごされがちだった問題の実態を明らかにするとともに、今後の制度議論における重要な視点を提示します。
👉 安楽死の基本構造については「安楽死とは?」で全体像を整理しています。
👉 安楽死の定義と分類(積極的・消極的・間接的)の違いは、こちらで整理しています↓
🎧音声による動画解説
要約図(自由使用可)


身体疾患による苦痛と自殺――公的統計から見えてくる「見過ごされてきた規模」
日本の自殺議論で見落とされてきた視点
日本の自殺に関する議論では、しばしば「心の問題」や「精神疾患」が前面に置かれます。しかし、厚生労働省の自殺対策白書および警察庁の自殺統計を丁寧に読み解くと、そこには、これまで十分に焦点が当てられてこなかった、しかし看過できない現実が浮かび上がってきます。
それは、
✅がんや難病、重度の慢性疾患など、身体疾患による
耐え難い苦痛を背景として、自ら命を絶つ人々が、
✅毎年、数千人規模で存在している可能性が極めて高い
という事実です。
👉 安楽死をめぐる賛否の議論はこちらで整理しています
健康問題は、依然として自殺の最大要因である
警察庁統計に基づく「自殺の原因・動機の年次推移」によれば、
令和1年以降においても一貫して、
「健康問題」は自殺の原因・動機として最も多く計上されています。
具体的には、
令和1年:9,861件
令和2年:10,195件
令和3年:9,860件
令和4年:12,403件
令和5年:12,403件
と推移しており、多少の増減はあるものの、常に年間1万人前後、あるいはそれ以上の高水準を維持しています。
これらの数値は、各年の総自殺者数(令和1年:20,169人、令和2年:21,081人、令和3年:約21,000人、令和4年:21,881人、令和5年:約21,000人)と比較すると、
およそ半数前後に相当します。
すなわち、日本では現在に至るまで、
自殺者の少なくとも二人に一人が、
何らかの深刻な「健康問題」を抱えていた
と推定される状況が、複数年にわたり継続していることが示されています。

2019年(令和元年)の自殺動機別グラフ(警察庁公表資料より)
👉※出典はこちらから↓
・自殺統計に基づく自殺者数|自殺対策|厚生労働省
健康問題に含まれる精神疾患と身体疾患の内訳
ただし、この「健康問題」という区分は、非常に幅広い内容を内包しています。
厚生労働省および警察庁が詳細分類を公表していた、
過去の統計(平成19年~平成27年)では、「健康問題」は以下のように内訳化されていました。
うつ病などの精神疾患
統合失調症、依存症、その他の精神障害
身体の病気(がん、難病、慢性疾患など)
身体障害の悩み
これらの詳細データを通年で見ると、健康問題全体のうち、
おおむね30~40%前後が
「身体疾患・身体障害」に直接関連している
ことが一貫して確認できます。
この比率は、年ごとの多少の変動はあるものの、長期的に見て大きく崩れてはいません。

2007年~2015年の赤い部分に注目してください。
身体疾患に関連した自殺が多いことは一目瞭然です。
👉※出典→ 令和6年版自殺対策白書|自殺対策|厚生労働省

※黄色の部分が健康問題が由来の自殺者数となります。
👉 安楽死と自殺の関係についての全体整理はこちら
手段別統計が示す自殺構造の長期的安定性
この推定の妥当性を裏づける補助的エビデンスとして、手段別自殺統計の推移も重要です。
平成30年から令和5年までの公的統計を通じて、自殺手段の構成比には顕著な共通点があります。
👉出典:各年に発表された自殺対策白書|自殺対策|厚生労働省






(出典↓)
・令和元年年版 自殺対策白書~令和6年版自殺対策白書|自殺対策|厚生労働省
「首つり」は、毎年約66~68%で一貫して最多
次いで「飛降り」(約9~15%)、
「練炭等」(約7~9%)が続く
上位3手段で、常に全体の約85%以上を占めている
この構成比は、総自殺者数が増減する年をまたいでも、ほとんど変化していないません。
これは、日本の自殺の多くが、
衝動的・偶発的な行動ではなく、
強い致死性を伴う手段を選択せざるを得ないほどの、
持続的かつ深刻な苦痛の末に行われている可能性
を強く示唆しています。
特に、長期にわたる身体的苦痛や生活機能の喪失と親和性の高い手段構成である点は、軽視できません。
最新統計による推定――身体疾患が背景の自殺者数
以上を踏まえ、平成19年~27年の詳細統計において確認されてきた
「健康問題のうち30~40%が身体疾患・身体障害に由来する」
という内訳比率を、直近の各年の「健康問題」件数に当てはめると、次の推計が導かれます。
令和1年: 9,861人 × 30~40% ≒ 約3,000~3,900人
令和2年: 10,195人 × 30~40% ≒ 約3,100~4,100人
令和3年: 9,860人 × 30~40% ≒ 約3,000~3,900人
令和4年: 12,774人 × 30~40% ≒ 約3,800~5,100人
令和5年: 12,403人 × 30~40% ≒ 約3,700~5,000人
これらを総合すると、日本では現在に至るまで、
毎年およそ
4,000~5,000人前後が、
がんや難病などの身体疾患による
耐え難い苦痛を背景として、自殺に至っている可能性が高い
と推定されます。
重要なのは、この数値が特定の年にのみ現れた例外的なものではなく、
複数年にわたる統計の積み重ねと、
健康問題内における内訳構成の長期的な安定性
の双方から導かれる、
構造的かつ持続的な規模
であるという点です。
すなわちこれは、一時的な社会不安や突発的事象による「異常値」ではなく、
日本社会において長年にわたり静かに存在し続けてきた、
見過ごされてきた現実の一断面を示しています。
👉 日本における安楽死制度の現状はこちら
年間4,000~5,000人という数字が示す社会的意味
年間4,000~5,000人という規模は、決して「例外的」「特殊なケース」として片付けられるものではありません。
それは、
医学的に十分な苦痛緩和が得られなかった人々
社会的・制度的支援にたどり着けなかった人々
法的に「選択肢」が存在しなかった人々
が、長期の苦悩と孤立の末に選ばざるを得なかった最終的な帰結です。
より具体的に言うと、
✅がんや末期疾患に伴う身体的な痛み・苦痛
✅手足の機能喪失や重度の障害による日常生活の制限
✅慢性疾患による長期的な倦怠感や身体機能の衰え
✅治療反応が乏しく、苦痛が続く状況
これらのケースは、痛みや日常生活の質の低下を伴うものが多く、
その苦痛の深さは、外側からは見えにくいものです。
そのため、この現実は、「健康問題」という大括りの中に埋もれ、
身体疾患による自殺として正面から議論されることはほとんどありませんでした。
👉 安楽死と関係が深い「緩和ケアと安楽死の違い」は、こちらで整理しています↓
緩和ケアの役割と、その限界|公的統計が示す現実
身体疾患や身体障害に伴う苦痛に対して、日本では緩和ケアの重要性が広く認識されてきました。痛みの緩和、精神的支援、生活の質(QOL)の維持を目的とする緩和ケアは、多くの患者にとって不可欠な支えとなっています。
しかし、この18年分の統計が示しているのは、
・緩和ケアや医療的支援が存在するにもかかわらず、
・なお身体疾患または身体障害を理由として
・命を絶つ人々が一定数存在し続けている
という現実です。
これは、緩和ケアそのものを否定するものではありません。
一方で、
すべての苦痛が医療によって
完全に取り除けるわけではない
という限界が、
如実に数字として浮かび上がっているとも言えます。
👉※苦痛が緩和できない事実については、こちらを参照してください↓
静かに示されてきたが極めて重い公的数値
これらの数字は、センセーショナルに強調されてきたものではありません。
むしろ、公的統計の中に静かに、しかし一貫して記載され続けてきた数値です。
その意味で、本稿で示した推定は「新しい発見」というよりも、
これまで十分に直視されてこなかった現実を、
統計的に再可視化したもの
に近いです。
日本の終末期医療、緩和ケア、そして人の尊厳をめぐる制度設計を考える上で、
この数値が示す重みは、もはや無視できない段階に来ていると言えます。
結語――尊厳と自己決定を回復する制度的選択肢
以上の検討から明らかなように、日本では長年にわたり、
がんや難病などの身体疾患による耐え難い苦痛を背景として命を落とす人々が、
毎年、数千人規模で存在し続けてきました。
この現実は、個々人の「弱さ」や「心の問題」に還元できるものではありません。
むしろ、医学的・制度的・社会的支援が尽きた地点においてもなお、
生き方や最期の迎え方を
自ら選ぶ権利が認められてこなかった構造
を反映しています。
終末期医療や緩和ケアは極めて重要であり、今後も充実が求められる分野です。
しかし同時に、緩和が奏功しない苦痛が一定数、現実に存在するという事実を直視するならば、それを補完する制度的選択肢について議論を避け続けることは、もはや中立ではあり得ません。
データを踏まえるならば、
・ 緩和ケアを最大限に尽くしたうえでもなお残る苦痛に対して、
・社会がどのような選択肢を用意すべきなのか
という問いを、避けて通ることはできないでしょう。
※👉 緩和ケアの限界、その証言集は、こちらをご覧ください↓
他国では、厳格な要件と多層的な審査の下で、
本人の自由意思と尊厳を最大限尊重する形での安楽死(人道的終末選択)制度が整備されつつあります。
それは「死を勧める制度」ではなく、
耐え難い苦痛の中にある人が、
最後まで自己決定を奪われないための安全装置
として位置づけられています。
統計が静かに示してきた数千人という数字は、
この議論を「価値観の対立」や「感情的問題」に矮小化することを許しません。
尊厳をもって生き、
尊厳をもって最期を選ぶ可能性を
社会がどこまで保障するのか
それは、個人の生死観の問題である以前に、
成熟した社会が向き合うべき、避けて通れない制度設計の課題であると言えるでしょう。
👉 世界各国の安楽死制度を知りたい方は、はこちらで解説しています↓
👉 安楽死の歴史的背景はこちら
参考:イギリス下院議会での安楽死審議の様子
追記:年間自殺者数全体のうち、健康問題を動機とする自殺が占める割合

過去18年間の平均自殺者数は約24,198人で、依然として大きな社会問題です。
健康問題が原因の自殺は平均12,380人で、全体の約51.2%を占めています。
健康問題は自殺原因の中で最も大きな割合を占める主要因です。
精神疾患による自殺は平均7,419人で、健康問題の中でも最多です。
うつ病だけで平均5,187人と、特に強い関連が見られます。
身体疾患による自殺は平均4,349人と、無視できない規模です。
身体疾患の多くは「その他」に分類され、慢性的苦痛などが含まれる可能性があります。
総自殺者数は減少傾向(約3万人→約2万人)にあります。
一方で健康問題の割合は増加しており、近年は約59%に達しています。
これらのデータから、自殺は「健康・苦痛」と強く結びついた問題であることが分かります。
【結論】
日本の自殺の半数以上は健康問題が原因であり、その中には精神疾患だけでなく、
身体的苦痛に起因するケースも数千人規模で存在しています。
これは、自殺問題が単なる心理問題ではなく、
“医療と苦痛の問題”
であることを示しています。
👉精神疾患の統計データは、こちらから御覧ください↓
👉 地図で確認する安楽死が合法の国 一覧と各国制度は、こちらで詳しく解説しています↓
FAQ
Q. 身体疾患は自殺の原因になるのですか?
A. はい。厚生労働省や警察庁の統計では、「健康問題」が自殺の主要な原因の一つとして分類されており、身体疾患による苦痛も含まれています。
Q. 自殺の原因はどのように分類されていますか?
A. 日本の公的統計では、家庭問題、健康問題、経済・生活問題、勤務問題などに分類されており、複数要因が重なるケースも多いとされています。
Q. なぜ身体的苦痛と自殺の関係が見過ごされてきたのですか?
A. 精神的要因に焦点が当たりやすく、身体疾患による慢性的苦痛や生活の質の低下が十分に可視化されてこなかったためです。
Q. 公的データだけで実態は把握できますか?
A. 一定の傾向は把握できますが、個別事情や複合要因までは完全に反映されないため、慎重な解釈が必要です。
Q. 身体疾患による苦痛と安楽死は関係がありますか?
A. はい。海外では、回復の見込みがなく耐えがたい苦痛を伴う場合に限り、制度として認められているケースもあり、議論の重要な論点となっています。
「安楽死と自殺の全体像」については、こちらをご覧ください↓








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