アメリカ|オレゴン州の安楽死制度とは?「Death with Dignity Act」の要件・手続き・安全策を解説

更新日:5 日前
最終更新日:2026年9月11日(随時更新)
※更新履歴:法改訂の追加|図表の追加|論文の追加|嘆願書の紹介
👉 安楽死の基本的な仕組みや全体像を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください↓
👉 安楽死の定義と分類(積極的・消極的・間接的)の違いは、こちらで整理しています↓
この記事の要点
① オレゴン州の制度は厳密には「積極的安楽死」ではなく、本人による自己投与型の医師幇助自殺制度
② 主治医・相談医による確認、複数回の意思表示、待機期間、撤回権などの手続きがある
③ 制度の安全性については支持・批判双方の学術的議論が存在する
現代の安楽死制度を理解するうえで、最も重要なモデルが存在します。
それが、アメリカ・オレゴン州の制度です。
オレゴン州のDeath with Dignity Actは、1997年に施行された米国初期の医師幇助自殺制度の一つであり、
その後のアメリア各州における制度設計を考えるうえで重要な先行例となっています。
申請、複数医師による確認、待機期間、そして自己投与——これらの厳格なプロセスと保護措置は、「自己決定」と「濫用防止」を両立させるために構築されました。
オレゴン州の安楽死制度は、「自己決定を尊重しながらも、制度的に強く制御する」という現代モデルの原型です。
👉 世界各国の安楽死制度を知りたい方は、こちらで解説しています↓
🎧音声による動画解説
要約図(自由使用可)

※2026年9月更新:2023年に居住要件が撤廃されています
オレゴン州のDeath with Dignity Actとは?
「オレゴン州では安楽死が合法」と説明されることがあります。
ただし、正確には、オレゴン州のDeath with Dignity Actは、医師が患者に致死薬を直接投与する「積極的安楽死」ではありません。
一定の条件を満たした末期疾患の患者に対して医師が薬剤を処方し、患者本人が自ら使用する、いわゆる医師幇助自殺(physician-assisted dying / medical aid in dying)型の制度です。
本制度では、18歳以上であること、意思決定能力があること、余命6か月以内と予測される末期疾患があることなどの要件が設けられています。また、主治医と相談医による確認、複数回の意思表示、書面による要請、撤回権、待機期間、記録・報告など、複数の手続き上のセーフガードが設けられています。
一方で、これらの安全策が十分であるかについては、医学・生命倫理・法律・障害者権利などの観点から現在も議論があります。
本稿では、オレゴン州政府・州議会・法令・年次統計・査読付き学術研究をもとに、「誰が利用できるのか」「どのような手続きを経るのか」「どのような安全策があるのか」「実際にどのように運用されているのか」を整理します。
オレゴン州 安楽死 法|申請から手続き・保護措置まで全プロセス解説
本稿では、アメリカ オレゴン州における安楽死法を対象として、
・「安楽死の申請から終了に至るまでの具体的プロセス」
・「患者に不利益をもたらさないために設けられた保護措置(セーフティガード)」
――以上の二点に注目しながら解説いたします。
オレゴン州安楽死法とは|外部リンク情報

※👉 上記は一般市民に向けた『非常に分かりやすいサイト』となっているので参考にしてみてください↑
アメリカでは安楽死(※厳密には自殺ほう助)のことを
『Death with Dignity』
と、一昔は呼称されていました
(日本語に訳すと“尊厳死”と変換されますが、日本語表現の尊厳死ではないので注意です。日本で“尊厳死”と言ったら消極的安楽死を指します)。
ここ数年は、
MAID
(Medical aid in dying)
と表現されることが多いです。
(ここでも言葉の厄介さが付きまといますが、)カナダでの安楽死もMAIDと呼ばれますが、
こちらの場合の“略”は、MAID(Medical Assistance in dying)となっています。

実際の『法律』PDFはこちらから取得できます↓


👉いずれ別記事で紹介しますが、オレゴン州安楽死のデータ&サマリーはこちらから参照できます↓
オレゴン州安楽死法の正式名称
『Oregon Death with Dignity Act』
オレゴン州尊厳死法
※再度注意:
紛らわしいのですが、アメリカの安楽死は以前は『Death with Dignity』(尊厳のある死)と呼ばれていました(今でも時々使用されます)。
直訳や機械翻訳だと、“尊厳死”と訳せますが、日本語の『尊厳死』とは
意味が異なるので注意してください。
日本語で『尊厳死』と表現した場合は、
・平穏死、消極的安楽死、残酷な延命治療はしない
・寿命がゆえの治療の中止・差し控え
・The withholding or withdrawing of treatment from the terminally ill
機械翻訳やマスコミの誤用のため、
アメリカと日本の“尊厳死”を混同させて“ゴチャゴチャ”となり、誤解を生む元となっています。
以前の記事で紹介しましたが、
海外では消極的安楽死は、とっくに法制化されて当たり前なので、
もはや死語となっています。
【適用の条件】
オレゴン州安楽死法の適用対象と要件|
誰が申請できるのか
・成人である:
18歳以上であること。
・判断能力がある:
健康に関する決定を下す能力があること。
・末期疾患に罹患していること:
医学的に確認された、治療不能で不可逆的な疾患であり、合理的な医学的判断により
6か月以内に死に至ると予想されること。
・自発的な意思表示:
自らの意思で死を望む旨を表明していること。
外部からの圧力によるものであってはならないこと。
・年齢や障害のみを理由としないこと:
年齢や障害のみを理由として資格を得ることはできない。
※なお、2023年の法改正により、オレゴン州の居住要件は撤廃されています。
また、オレゴン州の制度は、医師が薬剤を直接投与する「積極的安楽死」ではなく、
医師が処方した薬剤を患者本人が自ら使用する医師幇助自殺(physician-assisted dying / medical aid in dying)型の制度である点にも注意が必要です。
👉 安楽死と自殺の違い・関係を整理したい方は、こちらをご覧ください↓
【安楽死 審査プロセス】
【申請段階】
主治医による医学的評価|耐え難い苦痛と代替手段の検討
(患者の意思を初めて明確にする段階)
・初期の口頭での要請:
患者は医師(主治医)に口頭で要請を行う。
・書面による要請:
患者は書面による要請書を作成し、署名・日付を記入。
この要請書は、患者のいる前で、少なくとも2名の証人が署名し、日付を記入する必要がある。証人は、患者が意思決定能力があり、自発的に行動しており、強制されていないことを立証する必要がある。
証人のうち1人は、患者の血縁者、婚姻または養子縁組による親族であってはならず、患者の死後に遺産を相続する権利があってはならず、患者が滞在している医療施設の所有者、運営者、または従業員であってはならない。
患者が長期介護施設にいる場合、1人の証人は施設指定の有資格者でなければならない。
要請書には、患者の診断、予後、処方される薬の潜在的リスク、服用した場合の予測される結果、および緩和ケア、ホスピスケア、痛みの管理を含む代替手段について完全に情報提供を受けている旨の記載が必要。
👉 安楽死と関係が深い「緩和ケアと安楽死の違い」については、こちらで整理しています↓
👉 各国共通の申請から実施までの流れについては、こちらで整理しています
【評価段階】
独立医師によるセカンドオピニオン制度|
二重確認の仕組み
• 主治医(Attending Physician)の責任:
患者が末期疾患であるか、意思決定能力があるか、自発的に要請したかについて最初の判断を行う。
患者の診断、予後、処方される薬の潜在的リスク、予測される結果、および代替手段(緩和ケア、ホスピスケア、痛みの管理など)について患者に完全に情報提供。
患者の医療記録の文書化要件を満たす。
処方箋を出す直前に、患者が十分な情報に基づいて決定を下していることを確認。
• 相談医(Consulting Physician)の責任:
主治医の診断が正しいことを医学的に確認。
患者を診察し、関連する医療記録を確認。
患者が意思決定能力があり、自発的に行動しており、十分な情報に基づいて決定を下していることを確認。
診断と予後について報告書を作成。
• 精神科医によるカウンセリング:
主治医または相談医が、患者の判断能力に疑問を抱いている場合、患者を精神科医または心理カウンセラーに紹介して評価を受ける必要がある。
カウンセリングの結果と判断が医療記録に記載される。
【待機期間(Waiting Periods)】
• 最初の口頭での要請から処方箋発行まで、少なくとも15日間経過する必要がある。
ただし、患者の自然死が15日以内に合理的に予見されると医学的に確認された場合は、この期間は短縮されることがある。
• 書面による要請から処方箋発行まで、少なくとも48時間経過する必要があり。
• 2回目の口頭での要請:
最初の口頭での要請から15日以上経過した後に、主治医に口頭で要請を繰り返す必要がある。この際、主治医は患者に要請を取り消す機会を提供しなければならない。
※👉 制度の厳しさ(厳格型・寛容型)の違いについては、こちらで整理しています
【要請の撤回(Right to Rescind Request)】
患者はいつでも、いかなる方法でも、精神状態にかかわらず、要請を取り消すことができる。処方箋が発行される前に、主治医は患者に要請を取り消す機会を提供しなければならない。
現行ORS 127.840 / 127.850では、
初回口頭要請
書面要請
2回目口頭要請
原則15日
書面要請から48時間
という仕組みがあります。
また、死期が迫っている場合には待機期間の例外があります。
👉 誰が最終判断を行うのか(医師判断型・第三者審査型)については、こちらで詳しく解説しています
【実施・報告段階】
オレゴン州における安楽死の実施方法|
手続きと医療管理体制
・主治医は、すべての要件が満たされたことを確認した後、薬を処方。
・主治医は、薬局が薬を調剤する前に、その薬が医療的援助による安楽死の目的であることを薬剤師に通知しなければならない。
・薬は直接主治医が調剤することも可能だが、その場合は特定の登録と規制遵守が必要。
【薬の自己投与と介助者の立ち会い(Self-Administration and Presence of Others)】
・患者自身が薬を服用。
オレゴン州の法律は、医師や他の人物が致死的な注射や安楽死を行うことを許可していない。
・主治医は、患者が薬を服用する際に立ち会うことができるが、立ち会う義務はない。
・患者が薬を服用する際に、他の人が立ち会うことは、善意の遵守であれば民事・刑事上の責任を問われない。
【死亡の記録と報告(Documentation and Reporting of Death)】
・医療記録の要件:
診断、予後、精神科カウンセリングの結果(行われた場合)、諮問医の診断と予後、患者が要請を取り消す機会を提供されたことなどが医療記録に記載される。
・報告要件:
オレゴン州保健局は、法律の遵守に関する情報を収集し、年次統計報告書を一般に公開。この報告書には、年齢、性別、人種、学歴、疾患、死亡場所などが含まれる。収集された情報は、法律で義務付けられている場合を除き、公開記録にはならず、一般の閲覧はできない。
【免責と責任(Immunities and Liabilities)】
・善意で本法を遵守して医療的援助による安楽死に参加する者(処方された薬を患者が服用する際に立ち会う者を含む)は、民事または刑事上の責任を負わない。
・要請を意図的に改ざんしたり、患者に薬の要請を強制したり、取り消しを破棄したりする者は、A級重罪となる。
・この法律は、医師や他の人が致死的な注射、慈悲殺、積極的安楽死を行うことを許可するものではない。(※許されているのは、厳密な表現では安楽死でなく『自殺ほう助』のみ。スイスと同じ)
法律に従って行われた行為は、いかなる目的であれ、自殺、自殺幇助、慈悲殺、殺人とはみなされない。
👉 実際の方法(自己投与・医師投与)の違いについては、こちらで詳しく解説しています
※補足:オレゴンは基本:自己投与型(医師幇助自殺)モデル
オレゴン州安楽死|申請手続きの全体フロー
①患者が主治医に申請(第1チェック)
⇩
②患者が別の医師と面談(第2チェック)
⇩
③主治医が最終確認
⇩
④実施
まとめ|オレゴン州安楽死 法のポイントと注意事項
ベルギー・オランダは安楽死の適格条件が比較的『緩い』と言われていますが、審査過程は意外にも厳重です。
オランダの安楽死法案にて、一般的な安楽死制度の『申請から終了までのプロセス』は大体3+1のチェックポイントがあると説明しましたが…

※👉オランダの安楽死法の詳細については、こちらをご覧ください↓
アメリカやカナダ、法案審議中のフランスは、意外にも
・第3チェック ポイントは設けていない
・医師2名の評価後の『協議段階』つまり
審査委員会など外部の総合チェックがない
というのは一つの特徴として留意しておいた方が良いでしょう。
日本で安楽死制度を創設するなら、第3チェック点を挿入するか、
あるいはアメリカのように『医師二名で完結』するか…
制度設計上の議論で『分かれ目』になる点だと考えます。
論点 | オレゴン | 日本で検討すべき課題 |
適格性 | 医師が確認 | 誰が判断するか |
医師確認 | 主治医+相談医 | 独立性をどう確保するか |
第三者審査 | オレゴン型では限定的 | 独立審査機関を置くか |
待機期間 | 15日・48時間等 | 日本ではどの期間が適切か |
撤回権 | あり | 法律上明文化するか |
精神評価 | 疑義がある場合 | 評価基準をどうするか |
監督 | OHAによる報告 | 日本ではどの行政機関か |
透明性 | 年次報告 | 日本でも年次公開するか |
緩和ケア | 情報提供 | 必須説明事項にするか |
障害者保護 | 法制度上の要件 | 社会的圧力をどう排除するか |
※👉 安楽死をめぐる倫理的な議論については、こちらで整理しています
※👉 日本の法制度や現状については、こちらで詳しく解説しています
なお2026年7月現在、アメリカでは14州がすでに合法化していることは覚えておいてください。そして州によって多少違いはありますが、大枠はオレゴン州と同じ形式となっています。

👉 安楽死とは何かを整理したい方は、こちらで全体像を確認できます↓
👉 混同されやすい、安楽死と尊厳死の違いをを知りたい方は、こちら(延命治療との関係も整理)↓
👉 各国の安楽死制度や最新動向については、世界の安楽死動向をまとめたこちらの記事もご覧ください↓
2025年OHA年次報告書
2025年Oregon DWDA | 数値 |
処方を受けた人 | 637人 |
2025年に服用して死亡 | 400人 |
服用せず自然死 | 100人 |
服用状況不明 | 179人 |
65歳以上 | 88% |
癌 | 61% |
神経疾患 | 14% |
心疾患 | 11% |
ホスピス登録 | 92% |
自律性の喪失を懸念 | 89% |
尊厳の喪失を懸念 | 65% |
現在のOHA最新報告はYear 28(2025年)で、2026年6月17日に改訂されています。
2025年には、
処方を受けた人:637人
そのうち2025年に服用によって死亡:400人
2024年:処方609人、死亡421人
2025年のDWDA死亡はオレゴン州全死亡の推定1.0%
2025年の死亡者の92%がホスピスに登録
主要疾患は癌61%、神経疾患14%、心疾患11%
88%が65歳以上
94%が白人
89%が「自律性の喪失」を懸念
89%が「楽しめる活動への参加能力低下」
65%が「尊厳の喪失」
などが報告されています。
オレゴン州Death with Dignity Act 申請~実施~監督
本人による要請
↓
主治医による確認
↓
書面による要請
↓
相談医による独立確認
↓
必要に応じ精神医学的評価
↓
待機期間
↓
撤回機会
↓
処方
↓
本人による自己投与
↓
記録・報告
↓
OHA年次統計
オレゴン vs オランダ
項目 | オレゴン | オランダ |
主な制度類型 | 医師幇助自殺 | 安楽死・医師幇助自殺 |
最終行為 | 本人 | 医師または本人 |
医師確認 | 主治医+相談医 | 医師によるdue care |
第三者審査 | オランダ型とは異なる | 地域審査委員会 |
年次報告 | OHA | 政府・審査制度 |
居住要件 | 2023年撤廃 | 別制度 |
主な対象 | 余命6か月以内の末期疾患 | オランダ法上のdue care基準 |
日本への示唆 | 手続き型安全策 | 第三者審査型安全策 |
FAQ(よくある質問)
Q1.オレゴン州の「安楽死制度」とは何ですか?
A. オレゴン州のDeath with Dignity Actは、一定の条件を満たした末期疾患の患者が、医師の処方を受けた薬剤を本人自身で使用することを認める制度です。厳密には、医師が直接薬剤を投与する「積極的安楽死」ではなく、医師幇助自殺(physician-assisted dying / medical aid in dying)型の制度です。
Q2.「Death with Dignity」と日本語の「尊厳死」は同じ意味ですか?
A. 同じではありません。オレゴン州の「Death with Dignity Act」は、医師が処方した薬剤を患者本人が自己投与する制度を指します。一方、日本語の「尊厳死」は、一般に延命治療の差し控え・中止などを含む意味で使われることがあります。両者は用語が似ているため、区別して理解する必要があります。
Q3.誰でも利用できますか?
A. いいえ。18歳以上であること、医療上の意思決定能力があること、余命6か月以内と予測される末期疾患があることなど、法律で定められた条件を満たす必要があります。また、複数回の意思表示や医師による適格性の確認など、所定の手続きが必要です。
Q4.オレゴン州の住民でなければ利用できませんか?
A. 現在は必ずしもそうではありません。2023年の法改正により、Death with Dignity Actの居住要件は撤廃されました。したがって、現在の制度を説明する際に「オレゴン州民であること」を必須条件とするのは正確ではありません。
Q5.申請にはどのような手続きがありますか?
A. 口頭による要請、書面による要請、複数回の意思表示、主治医および相談医による適格性の確認などが必要です。また、原則として初回の口頭要請から処方まで15日、書面による要請から処方まで48時間の待機期間が設けられています。ただし、死期が迫っている場合には法律上の例外があります。
Q6.精神科医による評価は必ず必要ですか?
A. 必ずしも全員に必要というわけではありません。患者の判断能力について疑義がある場合など、法律で定められた条件に該当する場合に精神科医または心理職による評価が行われます。
Q7.障害がある人は対象になりますか?
A. 障害があることだけを理由として対象になるわけではありません。制度では、年齢、疾患、意思決定能力、自発性などの法定要件が問題になります。一方、障害者団体や研究者からは、医療的支援死の制度が障害者に与える社会的圧力や差別の可能性について慎重な検討を求める意見も出されています。
Q8.緩和ケアを否定する制度なのですか?
A. いいえ。両者は同じものではありません。オレゴン州の制度では、患者に対して緩和ケア、ホスピスケア、疼痛管理などの選択肢について情報提供することが求められています。また、OHAの2025年報告では、Death with Dignity Actによって死亡した患者の約92%がホスピスに登録されていました。
Q9.オレゴン州の制度には安全策がありますか?
A. あります。複数回の意思表示、書面による要請、主治医と相談医による確認、判断能力に疑義がある場合の評価、撤回権、待機期間、記録・報告義務などが設けられています。ただし、これらの安全策が十分であるかについては、医学、生命倫理、法律、障害者権利などの分野で議論があります。
Q10.オレゴン州の制度に反対する研究もありますか?
A. あります。制度の安全性、精神医学的評価、予後予測、障害者への影響、社会的圧力などについて慎重な立場から検討した研究があります。本稿では、制度を支持する研究だけでなく、批判的・慎重な研究も参考文献として掲載しています。
Q11.オレゴン州には第三者の審査委員会がありますか?
A. オランダの制度のような、実施後に個別案件を審査する独立の地域審査委員会とは制度構造が異なります。オレゴン州では、主治医と相談医による適格性確認を中心とし、Oregon Health Authorityが報告データを収集して年次報告書を公表しています。
Q12.オレゴン州の制度は日本にもそのまま導入できますか?
A. そのまま導入できるとは限りません。日本とオレゴン州では、刑法、医療制度、終末期医療、医師の職業倫理、第三者審査、行政監督などの制度環境が異なります。日本で制度化を検討する場合には、オレゴン州だけでなく、オランダ、カナダ、その他の制度との比較を行い、日本の法制度に適合した安全策を検討する必要があります。
嘆願書送付アクション
本サイトでは、各国制度、安全性・濫用防止、緩和ケア、身体疾患による苦痛と自殺などについて、国会提出用の補足資料も公開しています。
※世界の制度を比較したうえで、日本で制度設計を考える際には、適格要件、第三者審査、記録・報告、医療従事者の良心的拒否、障害者・高齢者等への配慮、緩和ケアとの関係などを個別に検討する必要があります。
書類 一覧
・嘆願書 本文『人道的終末選択の法制化に関する提言書』
・補足資料① 日本における安楽死制度の法的現状と制度的空白
・補足資料② 各国制度比較と日本への制度モデル
・補足資料③ 制度設計・安全性確保・濫用防止策
・補足資料④ 緩和ケアの限界と終末期医療の課題
・補足資料⑤ 身体疾患・身体障害による苦痛と自殺の実態
・カバーレター:ご挨拶(1ページ)
・要約文(2ページ)
参考文献・一次資料
本稿では、オレゴン州のDeath with Dignity Act(死の尊厳法)について、制度・法律に関する事項はオレゴン州政府および州議会の一次資料を優先し、制度の運用実態についてはOregon Health Authority(OHA)の年次報告書を参照しています。
また、制度の医学的・倫理的評価については、PubMedで確認できる査読付き論文を中心に参照しています。
なお、本稿では日本語として便宜上「安楽死」という表現を用いる場合がありますが、オレゴン州の制度は、厳密には医師が薬物を直接投与する「積極的安楽死」ではなく、患者自身による薬物の自己投与を前提とする physician-assisted suicide(医師幇助自殺)型の制度です。
1.オレゴン州政府・現行法令
・Oregon Health Authority
Oregon Health Authority.Oregon's Death with Dignity Act.
オレゴン州保健局による公式ページです。Death with Dignity Actの制度概要、関連法令、行政資料、年次報告書などを確認できます。
・Oregon Health Authority — Annual Reports
Oregon Health Authority. Death with Dignity Act Annual Reports.
1998年以降のDeath with Dignity Actに関する年次報告書を掲載しています。制度の利用者数、処方数、服用による死亡、疾患、年齢、ホスピス利用、患者が挙げた懸念事項など、制度の実際の運用状況を確認するための主要な一次資料です。
・Oregon Revised Statutes
State of Oregon. Oregon Revised Statutes, Chapter 127 — Oregon Death with Dignity Act, ORS 127.800–127.897.
Death with Dignity Actの現行法令です。
適格要件、患者による要請、医師による確認、相談医による確認、書面による要請、待機期間、撤回、記録・報告、免責、違反行為など、制度の法的根拠を確認できます。
・2023年の居住要件撤廃
Oregon Legislative Information System. HB 2279 (2023).
2023年に成立した法改正で、Death with Dignity Actにおける患者のオレゴン州居住要件が撤廃されました。
現在の制度を説明する場合、従来の「オレゴン州住民であること」という説明をそのまま使用しないことが重要です。
2.最新の制度運用データ
Oregon Health Authority — 2025年報告書
Oregon Health Authority.2025 Oregon Death with Dignity Act Data Summary.
2025年のオレゴン州Death with Dignity Actの利用状況をまとめた最新の公式データです。
2025年には637人が制度に基づく処方を受け、OHAが2026年1月23日までに受け取った報告では、400人が処方薬の服用によって死亡しました。
また、637人のうち358人は2025年中に服用して死亡し、100人は薬を服用せず、その後別の原因で死亡したと報告されています。さらに、2023年の法改正による居住要件撤廃後の状況として、2025年には37人(6%)がオレゴン州外居住者でした。
制度の「現在」を説明する際には、過去の研究だけでなく、この最新の州政府統計を基本資料として位置づけるべきです。
3.制度導入初期の実証研究
Chin et al. — 制度導入初年度
Chin AE, Hedberg K, Higginson GK, Fleming DW. Legalized Physician-Assisted Suicide in Oregon — The First Year's Experience. New England Journal of Medicine. 1999;340(7):577–583.DOI: 10.1056/NEJM199902183400724PMID: 10021482
オレゴン州で制度が施行された初年度の状況を分析した代表的研究です。制度利用者の特徴や処方・服用等について、初期の実証データを提供しています。
4.オレゴン州20年間の制度運用
Hedberg & New — 20年間の経験
Hedberg K, New C. Oregon's Death With Dignity Act: 20 Years of Experience to Inform the Debate. Annals of Internal Medicine. 2017;167(8):579–583.DOI: 10.7326/M17-2300PMID: 28975232
オレゴン州保健当局の研究者による20年間の制度運用の総括です。
制度利用者や医療提供者に関する長期的なデータを整理しており、オレゴン州の制度を短期間の事例ではなく、長期的な制度運用として考える際の重要な資料です。
Hedberg et al. — 最初の10年間
Hedberg K, Hopkins D, Leman R, Kohn M. The 10-year experience of Oregon's Death with Dignity Act: 1998–2007.The Journal of Clinical Ethics. 2009;20(2):124–132.PMID: 19554816
制度導入から最初の10年間について、オレゴン州の経験をまとめた研究です。
20年間の研究と併せて読むことで、制度が導入された直後から長期運用に至るまでの変化を追うことができます。
5.医師から見た制度運用
Dobscha et al.
Dobscha SK, Heintz RT, Press N, Ganzini L. Oregon physicians' responses to requests for assisted suicide: a qualitative study. Journal of Palliative Medicine. 2004;7(3):451–461.DOI: 10.1089/1096621041349374PMID: 15265355
オレゴン州の医師35人を対象とした質的研究です。
患者から医師幇助自殺を求められた際に、医師がどのように対応し、どのような臨床的・倫理的問題を経験したのかを検討しています。
6.「脆弱な人々」への影響を検討した研究
Battin et al.
Battin MP, van der Heide A, Ganzini L, van der Wal G, Onwuteaka-Philipsen BD. Legal physician-assisted dying in Oregon and the Netherlands: evidence concerning the impact on patients in "vulnerable" groups. Journal of Medical Ethics. 2007;33(10):591–597.DOI: 10.1136/jme.2007.022335PMID: 17906058PMCID: PMC2652799
オレゴン州とオランダのデータを用いて、高齢者、障害者、低所得者、精神疾患を持つ人など、制度上「脆弱な立場にある」と懸念される集団への影響を検討した研究です。
著者らは、調査対象となった制度下で、こうした集団に対する不均衡な影響を示す証拠は確認されなかったと結論づけています。
一方で、この研究が扱った期間・データには限界があるため、「濫用の可能性が完全に否定された」と解釈するのではなく、あくまで特定のデータに基づく実証研究として読む必要があります。
PubMed Central(全文): https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC2652799/
7.オレゴン州制度を批判的に検討した研究
・Hendin & Foley
Hendin H, Foley K.Physician-assisted suicide in Oregon: a medical perspective. Issues in Law & Medicine. 2008;24(2):121–145.PMID: 19177943
オレゴン州制度の安全策や臨床現場での運用について、批判的な観点から検討した論文です。
制度を支持する研究だけでなく、制度上の問題や安全性に対する懸念を提示した研究も併記することで、議論の一方的な紹介を避けることができます。
・Drum et al.
Drum CE, White G, Taitano G, Horner-Johnson W. The Oregon Death with Dignity Act: results of a literature review and naturalistic inquiry. Disability and Health Journal. 2010;3(1):3–15.DOI: 10.1016/j.dhjo.2009.10.001PMID: 21122764
オレゴン州Death with Dignity Actについて、それまでの研究・年次報告などをレビューし、特に障害者の立場から制度の影響や懸念を検討した研究です。
8.緩和ケアの立場からの検討
Radbruch et al.
Radbruch L, Leget C, Bahr P, et al. Euthanasia and physician-assisted suicide: A white paper from the European Association for Palliative Care. Palliative Medicine. 2016;30(2):104–116.DOI: 10.1177/0269216315616524PMID: 26586603
European Association for Palliative Care(EAPC)による白書です。
緩和ケアと安楽死・医師幇助自殺の関係について、医学的・倫理的観点から検討しています。
「緩和ケアが存在するから制度的な選択肢は不要なのか」という問題を考える際にも重要な資料です。
9.スリッパリー・スロープ論に関する研究
Lewis
Lewis P. The empirical slippery slope from voluntary to non-voluntary euthanasia. Journal of Law, Medicine & Ethics. 2007;35(1):197–210.DOI: 10.1111/j.1748-720X.2007.00124.xPMID: 17341228
安楽死・医師幇助自殺の合法化によって、本人の自発的な意思に基づく制度から、非自発的な死へと対象が拡大するのではないかという「スリッパリー・スロープ論」を、経験的データから検討した研究です。
制度拡大の可能性をめぐる反対・慎重論を理解するための重要な文献です。
10.障害者権利の観点からの批判
Coleman
Coleman D. Assisted suicide laws create discriminatory double standard for who gets suicide prevention and who gets suicide assistance: Not Dead Yet responds to Autonomy, Inc. Disability and Health Journal. 2010;3(1):39–50.DOI: 10.1016/j.dhjo.2009.09.004PMID: 21122767
障害者権利運動団体Not Dead Yetの立場から、終末期の医師幇助自殺と自殺予防の扱いが、健康状態によって異なる「二重基準」になる可能性を批判的に論じています。
障害者への社会的圧力、医師による判断、制度上のゲートキーパー機能などを考えるうえで重要な反対側の論点です。
なお、本論文は障害者権利運動側の論考であるため、制度を中立的に評価した研究と位置づけるのではなく、「反対・慎重論を代表する資料」の一つとして読む必要があります。
11.賛成・反対双方の主要論点
Dugdale et al.
Dugdale LS, Lerner BH, Callahan D. Pros and Cons of Physician Aid in Dying. Yale Journal of Biology and Medicine. 2019;92(4):747–750.PMID: 31866790PMCID: PMC6913818
医師による死の支援をめぐる主要な賛成・反対論を整理した論文です。
自己決定、苦痛、医師の役割、社会的弱者への影響など、議論の主要な争点を比較的コンパクトに確認することができます。
PubMed Central(全文):https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6913818/
12.本稿における資料の読み方
本稿で紹介している資料には、オレゴン州政府による一次資料、制度運用に関する研究、緩和ケアの立場からの論考、障害者権利の立場からの批判的論考など、異なる立場の資料が含まれています。
したがって、個々の研究を「安楽死制度の安全性」あるいは「危険性」を決定的に証明するものとして扱うのではなく、
① 現行法が何を定めているのか
② 実際にどのように制度が利用されているのか
③ 制度を支持する研究では何が示されているのか
④ 制度に反対・慎重な研究では何が問題視されているのか
⑤ それらを踏まえて、どのような制度設計が考えられるのか
という順序で確認することが重要です。
特に、オレゴン州の制度を日本の制度設計にそのまま移植できるという意味ではありません。医療制度、社会保障制度、終末期医療、障害者政策、医療費負担、法制度などが異なるため、オレゴン州の経験は、日本で制度を検討する際の一つの比較材料として位置づける必要があります。
本稿では、こうした賛成・反対双方の資料を踏まえたうえで、終末期における自己決定と制度的な安全性をどのように両立させることができるのかを考えます。
主要一次資料・論文一覧
オレゴン州政府・一次資料
Oregon Health Authority — Oregon's Death with Dignity Act
Oregon Health Authority — Death with Dignity Act Annual Reports
Oregon Revised Statutes — Chapter 127
https://www.oregonlegislature.gov/bills_laws/ors/ors127.html
Oregon Legislative Information System — HB 2279 (2023)
https://olis.oregonlegislature.gov/liz/2023R1/Measures/Overview/HB2279
2025 Oregon Death with Dignity Act Data Summary
学術論文
Chin et al. (1999) — NEJM
Dobscha et al. (2004) — Journal of Palliative Medicine
Battin et al. (2007) — Journal of Medical Ethics
Lewis (2007) — Journal of Law, Medicine & Ethics
Hendin & Foley (2008) — Issues in Law & Medicine
Hedberg et al. (2009) — The Journal of Clinical Ethics
Drum et al. (2010) — Disability and Health Journal
Coleman (2010) — Disability and Health Journal
Radbruch et al. (2016) — Palliative Medicine
Hedberg & New (2017) — Annals of Internal Medicine
Dugdale et al. (2019) — Yale Journal of Biology and Medicine
留意事項
・オレゴン州で認められているのは「医師による自殺幇助(Physician-Assisted Death)」であり、医師が患者に致死薬を処方する制度であること。医師が薬剤を投与する積極的安楽死(Euthanasia)は認められていません。
・対象は、18歳以上のオレゴン州居住者で、判断能力があり、2名の医師によって余命6か月以内と診断された患者です。
・申請には、複数回の意思表示や医師による適格性確認などの手続きが設けられており、制度の運用状況は毎年、オレゴン州保健局(OHA)が年次報告書として公表しています。
オレゴン州のDeath with Dignity Actをめぐる批判・慎重論
Death with Dignity Actには、複数の手続き上の安全策が設けられています。一方で、これらの安全策が十分であるかについては、医学・生命倫理・法律・障害者権利などの分野で議論があります。
批判的な研究では、患者の精神状態の評価、6か月という予後予測の正確性、医師と患者の関係性、代替的な治療・ケアの検討、障害者など脆弱な立場にある人々への影響などが論点として指摘されています。
一方、オレゴン州とオランダのデータを分析した研究では、高齢者、女性、低所得者、障害者、慢性疾患患者などの脆弱な集団に対して、制度が不均衡な影響を与えていることを示す証拠は確認されなかったと報告されています。
したがって、オレゴン州の制度については、「安全で問題がない」と一面的に評価することも、「必ず濫用につながる」と断定することも適切ではありません。
重要なのは、実際の制度、運用データ、査読研究、反対・慎重論をそれぞれ確認したうえで、どのような安全策が必要なのかを検討することです。
本ページの調査方法・情報源について
本ページでは、オレゴン州のDeath with Dignity Actについて、制度の法的要件と実際の運用状況を区別して整理しています。
制度・法律については、Oregon Health Authority、Oregon Revised Statutes、Oregon Legislative Information Systemなどの公的資料を優先しています。
統計については、Oregon Health Authorityが公表するDeath with Dignity Act Annual Reportsを基本資料としています。
医学的・倫理的な評価については、PubMedで確認できる査読付き学術論文、医学・生命倫理分野の専門誌等を参照しています。
また、本ページは安楽死制度の法制化を支持するRiPの立場から作成されていますが、制度の安全性や濫用防止についての批判、障害者権利の観点からの慎重論、緩和ケア側からの議論なども確認し、事実情報とRiPの評価・提言を可能な限り区別して記載しています。
法律・制度・統計・学術研究には更新や新たな知見が生じる可能性があるため、重要な変更が確認された場合には本ページを更新します。
















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