2026年最新版|カナダ安楽死(MAID)の実態【第6回年次報告書】2024年データを徹底検証

最終更新日:2026年9月13日|随時更新
👉 安楽死の基本的な仕組みや全体像を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください↓
👉 安楽死の定義と分類(積極的・消極的・間接的)の違いは、こちらで整理しています↓
👉 混同されやすい、安楽死と尊厳死の違いをを知りたい方は、こちら(延命治療との関係も整理)↓
カナダ安楽死(MAID)の第6回年次報告書とは?
カナダの安楽死制度「MAID(Medical Assistance in Dying)」については、日本でもさまざまな情報が紹介されています。
「利用者が急増している」
「貧困層が安楽死に追い込まれている」
「障害者が支援を受けられないためMAIDを選んでいる」
「緩和ケアを受ける前に安楽死を選択している」
…こうした議論を、一度は目にしたことがある方もいるかもしれません。
しかし、こうした問題を考えるとき、
本当に重要なのは、印象的な一つの事例ではありません。
カナダ全体では、実際にどのような人がMAIDを受けているのか。
どの程度の人が緩和ケアや障害者支援を受けていたのか。
所得の低い地域に利用者が集中しているのか。
そして、
利用者が訴えていた「苦痛」とは、
具体的に何だったのか。
こうした疑問に答えるための重要な資料が、カナダ保健省(Health Canada)が毎年公表している「Annual Report on Medical Assistance in Dying」です。


今回取り上げるのは、2024年のデータをまとめた「第6回年次報告書」です。
本記事では、制度の申請方法や法的要件について詳しく解説するのではなく、あくまでこの報告書が示した「数字」と「利用者の実像」に焦点を当てます。
👉 カナダ安楽死(MAID)の詳細と「第5回年次報告書」は、こちらで紹介しています↓
👉 カナダ安楽死(MAID)の申請から実施までの全プロセスはこちら↓
🎧音声による動画解説
要約図(自由使用可)

👉カナダの安楽死制度「成立の歴史」については、こちらをご覧ください↓
👉 世界各国の申請プロセスをまとめて確認する場合はこちら(ハイライト)↓
2024年、カナダでMAIDを受けた人は16,499人
まず、最も基本となる数字から見てみましょう。
2024年、Health Canadaが受け取ったMAID申請の報告は、
22,535件
でした。そのうち、
16,499人が実際にMAIDを受けています。
2024年の申請結果
結果 | 人数 |
MAIDを受けた | 16,499人 |
別の原因で死亡 | 4,017人 |
不適格と判断 | 1,327人 |
申請を撤回 | 692人 |
合計 | 22,535件 |
一方、申請がMAIDの実施につながらなかったケースもあります。
つまり、
「MAIDを申請した人=MAIDを受けた人」ではありません。
申請後に別の原因で亡くなった人、適格ではないと判断された人、そして本人が申請を取り下げた人もいます。
特に注目したいのが、申請を撤回した人です。
2024年には692人が申請を撤回しており、その理由として最も多かったのは、
「苦痛を軽減する別の手段を受け入れた」45.7%
でした。そのほか、
「MAIDについて追加の情報を知り、
利用したいと思わなくなった」28.4%
という回答もありました。
これは非常に重要なデータです。
MAIDを希望した人の中にも、別の治療や支援を選択する人がいる。
つまり、制度利用者の動きを見るだけでも、
「申請したら、そのままMAIDへ進む」
という単純な構図ではないことが分かります。

出典:Health Canada「Sixth Annual Report on Medical Assistance in Dying in Canada」Section 2
カナダのMAID利用件数は増えている?2024年は16,499人
カナダのMAIDは、制度開始以降、利用件数そのものは増え続けています。
2024年の16,499件は、2023年の15,427件から
6.9%増
となりました。

ただし、ここで重要なのは、
増加率そのものは大きく低下している
ということです。
年 | MAID実施件数 |
2019年 | 5,461 |
2020年 | 7,469 |
2021年 | 10,066 |
2022年 | 13,199 |
2023年 | 15,427 |
2024年 | 16,499 |
2019~2020年の増加率は36.8%でした。
それが、
2023~2024年には6.9%まで低下しています。
Health Canadaは、
この傾向から年間のMAID実施件数は安定化し始めている可能性があるとしています。
ただし、長期的な傾向を確定するには、さらに数年のデータが必要とも注意しています。
ここは、カナダMAIDを考える上で非常に重要なポイントです。
「利用者が増えている」という事実だけを見るのではなく、
「どの程度のスピードで増えているのか」
まで見る必要があります。
出典:Health Canada「Sixth Annual Report」Section 2.2
MAIDを受ける人の約96%はTrack 1
2024年のMAID利用者16,499人を分類すると、
Track 1:15,767人(95.6%)
Track 2:732人(4.4%)
でした。
Track 1は、自然死が「合理的に予見可能」とされる人。
一方、Track 2は、自然死が「合理的に予見可能ではない」人です。
※👉 トラック1、トラック2については、こちの記事で分かりやすく説明しています↓
ここで重要なのは、
カナダのMAID利用者の圧倒的多数は、
現在でもTrack 1である
ということです。
つまり、
「カナダでは非末期患者のMAIDが中心になっている」
というイメージは、2024年の公式統計とは一致しません。
一方で、Track 2がわずか4.4%だから重要ではない、という意味でもありません。
Track 2では不適格と判断された申請の割合が高く、
MAID実施全体では4.4%に過ぎない一方、不適格とされたケースでは24.2%を占めています。
つまり、
利用者としては少数だが、
制度上の議論が集中する領域
であることが分かります。

出典:Health Canada「Sixth Annual Report」Sections 2.1–2.2
利用者の中心は高齢者、Track 1では「がん」が最多
2024年のMAID利用者全体の年齢中央値は、
77.9歳
でした。
Track 1は78.0歳、
Track 2は75.9歳です。
Track 1では75歳以上が60.9%。
そして、最も多い基礎疾患は
がん:63.6%
でした。
一方、Track 2では、
神経疾患や、
糖尿病
虚弱
自己免疫疾患
慢性疼痛
などを含む「その他」の疾患が多くなっています。
またTrack 2では、
34.1%が10年以上にわたって
重篤な疾患・障害を抱えていた
と報告されています。
Track 1ではこの割合は7.4%でした。
この違いからも、
Track 1とTrack 2では、
「死が近い終末期の苦痛」と、
「長期間にわたる重い疾患・障害による苦痛」
という、異なる側面があることが分かります。

👉 出典:Health Canada「Sixth Annual Report」Sections 2.2・3.1・3.2
カナダMAIDを受ける人は何に苦しんでいたのか?
~最も多かったのは身体の痛みだけではない~
ここからが、この第6回年次報告書で特に興味深い部分です。
MAIDを受けた人が訴えていた苦痛は、
単純に
「痛かったから」
だけではありません。
Health Canadaが医療従事者から集めたデータでは、
Track 1・Track 2の双方で最も多かった苦痛が、
「意味のある活動を行う能力の喪失」
でした。
その次に多かったのが、
「日常生活を行う能力の喪失」
です。例えば、
食事をする
着替える
移動する
入浴する
身の回りを自分で整える…
そうした日常生活そのものができなくなっていくことです。
さらに、
Track 2では特に、
孤独・孤立
や
尊厳の喪失
がTrack 1より多く報告されています。
そして、ほとんどのケースで苦痛は一つではありませんでした。
2024年には、Track 1の19.9%、Track 2の21.8%で、
6種類の苦痛
が報告されています。
つまり、
MAIDをめぐる「苦痛」とは、
単なる肉体的な痛みだけではなく、
身体機能・生活・自立・尊厳・心理・社会的関係
などが複雑に重なったもの
として捉える必要があります。

出典:Health Canada「Sixth Annual Report」Section 3.4
「孤独だからMAID」は本当?カナダ公式統計を検証
MAIDをめぐっては、
「孤独な人が安楽死を選んでいる」
という議論もあります。
孤独や社会的孤立が、人間の健康や生活の質に大きな影響を与えること自体は、
決して軽視できません。
しかし、第6回年次報告書のデータは、もう少し複雑です。
2024年、
孤独・孤立だけを苦痛の原因として
MAIDが実施されたケースはありませんでした。
また、それに加えてもう一種類だけの苦痛が報告されたケースも5件未満でした。
むしろ、孤独・孤立を苦痛の一つとして挙げた人は、
それ以外にも多くの苦痛を抱えていました。
つまり、
「孤独だからMAIDを受けた」
という単純な説明では、2024年の全国データを説明できません。
これは、孤独の問題を否定するデータではありません。
むしろ、
孤独は重い疾患や身体機能の低下など、
複数の苦痛の一部として現れている
と見る方が、報告書のデータには近いと言えるでしょう。
出典:Health Canada「Sixth Annual Report」Section 3.4
「家族に迷惑をかけたくない」はMAIDの理由なのか?
もう一つ注目されるのが、
「家族・友人・介護者への負担感」
です。
重い病気を抱え、他人の介助なしには生活できなくなったとき、
「自分が家族の負担になっている」
と感じることがあります。
第6回年次報告書では、
この「自己認識された負担感(self-perceived burden)」も分析されています。
興味深いのは、
この負担感を苦痛の一つとして挙げた人は、
そうでない人よりも、
抱えている苦痛の種類が
平均的に多かった
ということです。
Track 1では平均6.8種類、
Track 2では平均7.1種類。
一方、負担感を挙げなかった人では、
Track 1が5.1種類、
Track 2が5.6種類でした。
つまり、
「家族に迷惑をかけたくない」という感情だけを取り出して、
MAIDの理由と考えることはできません。
むしろ、
多くの苦痛を抱える中で、
その一つとして家族への負担感が存在している
という姿が見えてきます。

カナダMAIDは貧困層に集中している?所得データを検証
ここは、カナダMAIDをめぐる議論の中でも特に重要な部分です。
第6回年次報告書では、MAIDを受けた人の居住地域について、
カナダ統計局の地域所得データとリンクさせた分析を行っています。
所得を5つのグループに分け、
MAIDを受けた人と、2024年に自然死した人全体を比較しました。
結果を見ると、
最低所得20%の地域に住んでいた割合は、
全死亡者:27.1%
Track 1:23.7%
Track 2:28.3%
でした。
一方、最高所得20%では、
全死亡者:15.1%
Track 1:17.5%
Track 2:15.9%
でした。
つまり、
MAID利用者が低所得地域に集中している
という結果ではありません。
むしろ、
Track 1では高所得地域の割合が
全死亡者よりやや高くなっています。
Health Canada自身も、
所得五分位ごとの分布は、MAID利用者と自然死した人全体で概ね同様であり、
「MAIDを受けた人が低所得地域に偏って分布しているわけではなく、
高所得地域にやや多く分布している可能性が高い」
としています。
ただし、ここで注意しなければならないことがあります。
これはあくまで地域レベルの所得データです。
個々のMAID利用者が裕福だったのか、貧しかったのかを直接示すデータではありません。
Health Canadaも、この分析は地域社会の特徴を比較するものであり、個人の経済状況そのものを示すものではないと注意しています。
それでも、
「カナダでは貧困層にMAIDが集中している」
という単純なイメージを支持する結果ではないことは、重要なポイントです。

出典:Health Canada「Sixth Annual Report」Section 4.5、pp.42–43、Figure 4.5a
👉安楽死は貧困層に集中しているのか?カナダ・海外データと研究で検証↓
カナダの地方・遠隔地ではMAIDが多い?
医療アクセスとの関係
地域性について、もう一つ興味深い分析があります。
第6回年次報告書では、
「遠隔地(remote area)」に住む人の割合
も調べています。その結果、
MAID利用者は、全死亡者と比較して
遠隔地に住んでいる割合が低い傾向
が確認されました。
Health Canadaは、
「医療サービスへのアクセスが悪いためMAIDを選んでいる」
という説明を、このデータから支持することはできない
としています。ただし同時に、
「遠隔地ではMAIDそのものへの
アクセスが難しい可能性」
もあるため、結果の解釈には注意が必要だとしています。
ここでも、
一つの数字から簡単に因果関係を決めつけない姿勢が重要です。

カナダMAID利用者の74.1%は緩和ケアを受けていた
そして、もう一つ非常に重要なデータがあります。
2024年のMAID利用者のうち、
74.1%が緩和ケアを受けていました。
Track 1では、76.4%です。
一方、Track 2では、23.2%でした。
緩和ケアを必要としていたものの受けなかった人は、
2.5%(410人)
でした。
そのうち、サービスが利用可能だったと確認された人は374人。
「利用できなかった」とされた人は14人でした。
この数字から分かるのは、
MAID利用者の大多数が、
緩和ケアという医療的支援を経験していた
ということです。
もちろん、
「緩和ケアを受けた=十分な苦痛緩和ができた」
という意味ではありません。
緩和ケアを受けても、苦痛や身体機能の喪失が残る人はいます。
だからこそ、
「緩和ケアがあるからMAIDは不要」
「MAIDがあるから緩和ケアは不要」
という二者択一ではなく、
両者の役割をどのように考えるのか
という議論が必要になります。

出典:Health Canada「Sixth Annual Report」Section 5.1、pp.50–51
カナダMAID利用者の32.5%は
障害者支援サービスを受けていた
障害者支援についても、同じことが言えます。
2024年のMAID利用者のうち、
32.5%(5,359人)が障害者支援サービスを必要とし、
実際に受けていました。
Track 1では32.0%、
Track 2では45.5%です。
特に、長期的な疾患や身体機能の低下を抱えるTrack 2では、
障害者支援サービスの利用割合が高くなっています。
一方、
「必要だったが受けられなかった」
と報告された人は、
0.1%|5件未満
でした。
このうち、サービスが利用可能だったとされた人は149人でした。
※必要だったが受けなかった人はごく少数で、
Health Canadaは個人特定防止のため具体的な人数を公表していません。
ただし、
ここから
「カナダの障害者支援制度には問題がない」
と結論づけることはできません。
支援を受けていることと、その支援によって本人の苦痛が十分に解消されていることは、
同じではないからです。
むしろ、このデータが示しているのは、
支援制度が存在し、実際に利用されている人の中にも、
なお深刻な苦痛を抱える人がいる
という現実です。

👉 安楽死と関係が深い「緩和ケアと安楽死の違い」は、こちらで整理しています↓
第6回年次報告書から見るカナダ安楽死(MAID)の実態
ここまでの数字を並べてみると、カナダMAIDをめぐる議論は、
単純な賛成・反対だけでは捉えきれないことが分かります。
2024年には、16,499人がMAIDを受けました。
その約96%はTrack 1で、利用者の中心は高齢者、特にがん患者です。
一方で、Track 2では、長期間にわたって重い疾患や障害を抱えてきた人が多く、
より複雑な苦痛が見られます。
そして、
「苦痛」の中心にあるのは、単純な身体的疼痛だけではありません。
意味のある活動ができなくなること。
日常生活を自分で行えなくなること。
尊厳を失っていくこと。
孤独や孤立。
家族や介護者への負担感。
こうした複数の要素が重なっています。
さらに、
74.1%が緩和ケアを受け、
32.5%が障害者支援サービスを受けていました。
そして所得分布を見る限り、
MAID利用者が低所得地域に集中している
という結果は出ていません。
👉 カナダ安楽死|MAIDをめぐる2022年の証言騒動からの誤った情報拡散を検証|政府調査・制度・公的統計から見る実態↓
カナダMAIDの公式データだけで「制度に問題がない」と言えるのか
ここは非常に大切なところです。
第6回年次報告書のデータを見れば、
「貧困層が一方的にMAIDへ追い込まれている」
「孤独な人だけがMAIDを受けている」
「緩和ケアや障害者支援を受けられない人がMAIDを選択している」
という単純な説明には、少なくとも全国統計上の裏付けがありません。
しかし、
だからといって、
「カナダのMAID制度には何の問題もない」
と結論づけることもできません。
この統計から分からないこと
第6回年次報告書は、カナダ全国のMAIDについて非常に詳細な情報を提供しています。
一方、すべての社会的・経済的要因を個人単位で把握しているわけではありません。
特に所得分析は居住地域の所得五分位を利用したものであり、個々のMAID利用者本人の所得を直接示すものではありません。
また、「苦痛」のデータはMAID実施に至った人について医療従事者が報告した苦痛の種類を示すものであり、それぞれの要因がMAID申請の直接的な原因だったことを証明するものではありません。
Health Canada自身が、
・地域レベルの所得データであること、
・自己申告データには限界があること、
・地域によってデータ収集方法が異なること、
・そして長期的な傾向を判断するにはさらなるデータが必要であること
を明記しています。つまり、この報告書が私たちに教えてくれるのは、
「すべて解決した」という答えではありません。
むしろ、
制度について議論するための、
より具体的な材料
です。
👉 安楽死をめぐる賛否の論点を体系的に整理したい方は、こちらをご覧ください↓
👉 日本における安楽死の法律的な扱いについては、こちらで詳しく解説しています↓
カナダMAIDのデータから日本の終末期医療を考える
日本でも、
・高齢化
・難病
・重度障害
・終末期医療
・家族介護
・孤独・孤立
・緩和ケア
・そして本人の自己決定権について
これからさらに議論が必要になるでしょう。
そのとき、
「安楽死は危険だ」
「安楽死は自由を保障する」
という理念だけで議論していては、なかなか前に進みません。
必要なのは、
実際にどのような人が利用したのか。
どのような苦痛があったのか。
どのような支援を受けていたのか。
所得や地域による偏りはあったのか。
そして、
制度を利用しなかった人には何が起きていたのか。
そうしたデータを継続的に公開し、社会全体で検証できる仕組みです。
カナダの第6回年次報告書が重要なのは、まさにその点にあります。


フジテレビ ザ・ノンフィクション
【私のママが決めたこと~命と向き合った家族の記録~】
(女性のXアカウントはこちら ⇒ @mahomelc)
『マユミ』さんのXアカウント名は『めいしー』です。
👉スイスに旅立たれた「めいしー」さんの詳細は、こちをご覧ください↓
👉 日本の安楽死の歴史・事件を知りたい方は、こちらをご覧ください↓
RiP:Dとして考えること
私たちRiP:Dは、終末期における自己決定の選択肢について、日本でも冷静な議論が必要だと考えています。
ただし、その議論は、
誰かを「安楽死へ追い込む」制度をつくることでも、
反対意見を無視することでもありません。
むしろ、
「なぜ、その人は死を選びたいと思うほど
苦しんでいるのか」
を丁寧に調べることから始まるべきです。
身体的な痛みなのか。
身体機能の喪失なのか。
自立性なのか。
尊厳なのか。
孤独なのか。
家族への負担感なのか。
あるいは、それらすべてなのか。
そして、それを支える緩和ケアや障害者支援は十分なのか。
その上で、それでもなお本人が望む最終的な選択を、社会はどこまで尊重するのか。
カナダの第6回年次報告書が示しているのは、単純な「安楽死の成功例」でも、単純な「制度の失敗例」でもありません。
そこにあるのは、
深刻な病気や障害とともに生きる人々が、
どのような苦痛を抱え、どのような支援を受け、
それでもなおMAIDを選択したのか
という、非常に重い現実です。
だからこそ、日本でも感情的な賛否だけではなく、
データを見ながら議論すること
が必要なのではないでしょうか。

👉 安楽死反対運動とは?|宗教・緩和ケア・情報発信から見る背景と構造
👉『安楽死が合法の国で起こっていること』を読む前に|児玉真美と“命の選別”思想の背景
まとめ|カナダMAID第6回年次報告書の重要データ
最後に、今回の報告書から特に重要な数字を整理します。
2024年のMAID
22,535件MAID申請として報告された件数
16,499人実際にMAIDを受けた人
5.1%カナダの死亡者に占めるMAID実施者の割合
95.6%Track 1
4.4%Track 2
77.9歳MAID利用者全体の年齢中央値
63.6%Track 1で最も多かった基礎疾患「がん」
苦痛
「意味のある活動を行う能力の喪失」Track 1・Track 2ともに最も多かった苦痛
「日常生活を行う能力の喪失」次に多かった主要な苦痛
孤独・孤立だけを唯一の苦痛としてMAIDが実施されたケース:0
社会・経済
低所得地域への明確な集中は確認されず
むしろ、
高所得地域にやや多く分布している可能性
が示唆されました。
ただし、これは地域レベルの所得データであり、個人の所得を直接示すものではありません。
支援
74.1%緩和ケアを受けていた
32.5%障害者支援サービスを受けていた
そして、
MAID利用者の多くは、何らかの医療・福祉支援を受けた上で、それでもなお複数の苦痛を抱えていた
…これが、第6回年次報告書から見えてくる大きな特徴です。
カナダのMAIDをどう評価するか。
その答えは、読者一人ひとりによって違うかもしれません。
しかし、
少なくとも、
数字を知らずに議論することはできません。
第6回年次報告書は、
カナダがどのような最期の選択をめぐる社会になっているのかを考えるための、
貴重な一次資料です。
私たちもまた、このデータを冷静に読み、日本の終末期医療について考えていく必要があります。
👉 安楽死とは何かを整理したい方は、こちらで全体像を確認できます↓
👉 地図で確認する安楽死が合法の国 一覧と各国の制度↓
👉 世界各国の安楽死制度を知りたい方は、こちらで解説しています↓
👉 世界の安楽死制度の成立経緯を年代順で知りたい方は、こちら↓
2024年MAID申請結果
結果 | 件数 |
MAID実施 | 16,499 |
別の原因で死亡 | 4,017 |
不適格 | 1,327 |
申請撤回 | 692 |
合計 | 22,535 |
Track 1 / Track 2
項目 | Track 1 | Track 2 |
MAID実施 | 15,767 | 732 |
割合 | 95.6% | 4.4% |
年齢中央値 | 78.0歳 | 75.9歳 |
緩和ケア利用 | 76.4% | 23.2% |
障害者支援利用 | 32.0% | 45.5% |
孤独・孤立 | 21.9% | 44.7% |
苦痛の理由
苦痛 | Track 1 | Track 2 |
意味のある活動の喪失 | 95.1% | 97.5% |
ADL能力の喪失 | 85.4% | 85.1% |
自立性の喪失 | 75.4% | 78.7% |
尊厳の喪失 | 63.5% | 73.9% |
感情的苦痛等 | 57.9% | 63.3% |
疼痛コントロール不足 | 55.9% | 59.8% |
家族等への負担感 | 48.4% | 50.3% |
孤独・孤立 | 21.9% | 44.7% |
反対論比較表
論点 | 慎重・反対側の懸念 | 第6回報告書から分かること | 残る課題 |
貧困 | 経済的弱者がMAIDへ誘導される | 低所得地域への過度な集中は確認されず | 個人所得は不明 |
障害 | 障害者支援不足 | 32.5%が支援を利用 | 支援の質までは不明 |
緩和ケア | 緩和ケア不足がMAIDにつながる | 74.1%が利用 | 十分な苦痛緩和とは限らない |
孤独 | 孤立がMAIDの原因 | Track 2で44.7%が報告 | 因果関係は不明 |
強制 | 外部圧力 | 法律上voluntaryが必要 | 統計だけでは全ての圧力を評価できない |
Track 2 | 非末期患者への拡大 | 4.4% | 制度上重要な領域 |
👉 安楽死と自殺の違い・関係を整理したい方は、こちらをご覧ください↓
FAQ(よくある質問)|カナダMAID第6回年次報告書
Q1.カナダのMAIDとは何ですか?
A.MAIDはMedical Assistance in Dyingの略で、カナダの法律の下で一定の要件を満たした人に認められている医療上の死の援助です。日本語では「安楽死」などと説明されることがありますが、カナダ政府の正式な制度名称はMedical Assistance in Dying(MAID)です。
Q2.2024年にカナダでMAIDを受けた人は何人ですか?
A.Health Canadaの第6回年次報告書によると、2024年にMAIDを受けた人は16,499人でした。2023年の15,427人から6.9%増加しています。
Q3.MAIDを申請した人は全員MAIDを受けるのですか?
A.いいえ。2024年には22,535件のMAID申請に関する報告がありましたが、MAID実施は16,499件でした。その他には、別の原因で死亡した4,017件、不適格と判断された1,327件、申請を撤回した692件が含まれます。
Q4.Track 1とTrack 2とは何ですか?
A.カナダのMAID制度では、自然死が「合理的に予見可能(reasonably foreseeable)」な人をTrack 1、合理的に予見可能ではない人をTrack 2として区別しています。Track 2には、より追加的な安全措置が設けられています。
Q5.カナダのMAIDは非末期患者が中心なのですか?
A.2024年のMAID実施者の95.6%はTrack 1、4.4%はTrack 2でした。そのため、2024年の実施件数全体を見る限り、Track 2が中心とはいえません。ただし、Track 2は制度上の安全性や対象範囲を考えるうえで重要な論点です。
Q6.MAIDを受けた人はどのような苦痛を抱えていたのですか?
A.Health Canadaによると、最も多く報告されたのは「意味のある活動を行う能力の喪失」で、Track 1では95.1%、Track 2では97.5%でした。次いで「日常生活を行う能力の喪失」「自立性の喪失」「尊厳の喪失」などが報告されています。
Q7.「孤独だからMAIDを受けている」というのは本当ですか?
A.2024年の公式統計では、孤独・孤立はTrack 1の21.9%、Track 2の44.7%で苦痛の一つとして報告されています。一方、孤独・孤立だけを唯一の苦痛として報告されたMAIDケースはありませんでした。ただし、これは孤独がMAID申請に影響しないことを意味するものではなく、複数の苦痛の一部として評価する必要があります。
Q8.カナダでは貧困層がMAIDに集中しているのですか?
A.Health Canadaの2024年データでは、MAID利用者が低所得地域に過度に集中していることは確認されていません。最低所得五分位の地域に住んでいた割合は、Track 1が23.7%、Track 2が28.3%、全死亡者が27.1%でした。ただし、これは居住地域レベルの所得データであり、個々のMAID利用者本人の所得を示すものではありません。
Q9.MAIDを受けた人の多くは緩和ケアを受けていましたか?
A.はい。2024年のMAID利用者の74.1%が緩和ケアを受けていました。Track 1では76.4%、Track 2では23.2%でした。ただし、緩和ケアを受けたことは、苦痛が完全に解消されたことを意味するものではありません。
Q10.MAID利用者は障害者支援を受けていましたか?
A.2024年には、MAID利用者の32.5%が障害者支援サービスを必要とし、実際に受けていました。Track 1では32.0%、Track 2では45.5%でした。一方、必要だったが受けなかったケースは非常に少なく、Health Canadaは個人特定防止のため具体的な少数値を公表していません。
Q11.緩和ケアがあるならMAIDは必要ないのではありませんか?
A.この問題は単純な二者択一ではありません。緩和ケアは終末期医療において極めて重要ですが、MAID利用者の多くが緩和ケアを受けていたことも事実です。したがって、「緩和ケアがあるからMAIDは不要」とも、「MAIDがあるから緩和ケアは不要」とも単純には結論づけられません。
Q12.このページはMAID制度に問題がないと主張しているのですか?
A.いいえ。本記事はHealth Canadaの公式統計から確認できる事実を整理することを目的としています。公式統計が特定の主張を支持しないことと、制度に問題が存在しないことは同じではありません。制度上のリスク、社会的支援の不足、安全性、医療者の倫理的問題などについては、慎重論・批判的研究も含めて検討する必要があります。
Q13.安楽死と尊厳死は同じものですか?
A.一般には同じものではありません。安楽死は、本人の意思に基づき生命を終結させる行為を指して議論されることが多いのに対し、尊厳死は生命維持治療の差し控え・中止など、異なる文脈で用いられます。国や制度によって用語の定義も異なるため、具体的な制度を比較する際には用語を区別する必要があります。
Q14.このページは安楽死に賛成する立場ですか?
A.RiP:Dは日本における安楽死制度の法制化を検討する立場です。ただし、本記事ではその立場を前提に数字を選別するのではなく、Health Canadaなどの一次資料と査読付き研究を確認し、制度に対する慎重論・批判的研究も含めて紹介しています。
Q15.第6回年次報告書は何年のデータですか?
A.第6回年次報告書は、2024年1月1日から12月31日までのMAIDに関するデータをまとめたものです。報告書自体は2025年にHealth Canadaから公表されました。そのため、本記事の「2026年最新版」という表記は、2026年時点で利用できる最新の全国年次統計を扱うという意味で使用しています。
嘆願書送付アクション
本サイトでは、各国制度、安全性・濫用防止、緩和ケア、身体疾患による苦痛と自殺などについて、国会提出用の補足資料も公開しています。
※世界の制度を比較したうえで、日本で制度設計を考える際には、適格要件、第三者審査、記録・報告、医療従事者の良心的拒否、障害者・高齢者等への配慮、緩和ケアとの関係などを個別に検討する必要があります。
書類 一覧
・嘆願書 本文『人道的終末選択の法制化に関する提言書』
・補足資料① 日本における安楽死制度の法的現状と制度的空白
・補足資料② 各国制度比較と日本への制度モデル
・補足資料③ 制度設計・安全性確保・濫用防止策
・補足資料④ 緩和ケアの限界と終末期医療の課題
・補足資料⑤ 身体疾患・身体障害による苦痛と自殺の実態
・カバーレター:ご挨拶(1ページ)
・要約文(2ページ)
参考文献・主要資料
1.カナダ政府・公的資料
・Health Canada. Sixth Annual Report on Medical Assistance in Dying in Canada. Government of Canada, 2025.
2024年のMAIDについて、申請22,535件、実施16,499件、Track 1・Track 2、苦痛、所得地域、緩和ケア、障害者支援等をまとめた本記事の主要一次資料です。
・Department of Justice Canada. Canada’s medical assistance in dying (MAID) law.
カナダのMAIDに関する現行法制度、適格性、安全措置、データ収集・監視制度を確認するための政府資料です。
・Supreme Court of Canada. Carter v. Canada (Attorney General), 2015 SCC 5, [2015] 1 S.C.R. 331.
カナダにおけるMAID法制化への重要な転換点となった最高裁判決です。
2.MAIDの利用実態・社会経済
・Downar J, Fowler RA, Halko R, Huyer LD, Hill AD, Gibson JL.“Early experience with medical assistance in dying in Ontario, Canada: a cohort study.”CMAJ. 2020;192(8)–E181.DOI: 10.1503/cmaj.200016.PMID: 32051130.
オンタリオ州のMAID利用者を対象とした初期の大規模コホート研究。一般死亡者との比較を通じ、MAID利用者の臨床的・社会的特徴を検討しています。
・Redelmeier DA, Ng K, Thiruchelvam D, Shafir E.“Association of socioeconomic status with medical assistance in dying: a case-control analysis.”BMJ Open. 2021;11(5).DOI: 10.1136/bmjopen-2020-043547.PMID: 34035092.
所得・社会経済的状況とMAIDの関係を検討した研究。低SES患者でMAID実施が少なかったことを報告しています。
・Tran M, Honarmand K, Sibbald R, Priestap F, Oczkowski S, Ball IM.“Socioeconomic Status and Medical Assistance in Dying: A Regional Descriptive Study.”Journal of Palliative Care. 2022;37(3):359–365.DOI: 10.1177/08258597211053088.PMID: 34747239.
MAID申請者の地域における社会経済的状況を分析した研究。低SES地域からの申請が相対的に多かった一方、各SES群で実施に至る割合は同程度だったと報告しています。
3.緩和ケアとの関係
Cheng EYQ, Mah K, Al-Awamer A, et al.“Public interest in medical assistance in dying and palliative care.”BMJ Supportive & Palliative Care. 2022;12(4):448–456.DOI: 10.1136/spcare-2022-003910.PMID: 36171108.
MAIDと緩和ケアを二者択一ではなく、双方の紹介を希望する人も多いことを示したカナダの調査研究です。
4.未充足ニーズ・社会的脆弱性
Wiebe E, Kelly M, Spiegel L, Menard JF, Hawse E, Dickinson R.“Are unmet needs driving requests for Medical Assistance in Dying (MAiD)? A qualitative study of Canadian MAiD providers.”Death Studies. 2023;47(2):204–210.DOI: 10.1080/07481187.2022.2042754.PMID: 35244527.
MAID提供者への質的研究。未充足ニーズが存在するケースでは、孤独や貧困などが倫理的課題となったことを報告しています。
5.制度の安全性・慎重論
・Coelho R, Maher J, Gaind KS, Lemmens T.“The realities of Medical Assistance in Dying in Canada.”Palliative and Supportive Care. 2023;21(5):871–878.DOI: 10.1017/S1478951523001025.PMID: 37462416.
カナダMAID制度について、安全策、監視、データ収集、医療・障害者・社会的支援へのアクセスなどの問題を批判的に検討したレビューです。
・Thomas R, Pesut B, Puurveen G, Thorne S, Tishelman C, Leimbigler B. “Medical Assistance in Dying: A Review of Canadian Health Authority Policy Documents.”Global Qualitative Nursing Research. 2023;10.DOI: 10.1177/23333936231167309.PMID: 37168395.PMCID: PMC10164855.
カナダ9州・3準州の医療当局による17のMAID関連政策文書を分析し、安全策、本人の意思、脆弱性、医療者の倫理的問題等を整理しています。
本記事の調査方法・情報源について
本記事では、カナダのMedical Assistance in Dying(MAID)制度について、主として2024年の実施状況をまとめたHealth Canada「Sixth Annual Report on Medical Assistance in Dying in Canada」を一次資料として使用しています。
統計値については、可能な限りHealth Canadaの本文・表・図の原資料と照合し、2024年のMAID実施件数、申請結果、Track 1・Track 2、苦痛の内容、所得地域、緩和ケア、障害者支援等について確認しました。
また、制度・法律に関する記述については、Government of Canada、Justice Canada、カナダ最高裁判所、カナダ議会等の公的資料を優先しています。
医学・生命倫理・社会経済的影響については、PubMedに収載された査読付き学術論文を中心に確認しています。制度を支持・評価する研究だけでなく、社会的脆弱性、未充足ニーズ、制度上の安全性、医療者の倫理的負担等を論じる慎重論・批判的研究も参照しています。
なお、本記事にはRiPとしての政策的見解・解釈を含む部分があります。その場合には、可能な限り「公的統計から確認できる事実」と「RiPによる分析・考察」を区別しています。
法律、制度、統計等は更新される可能性があるため、重要な制度情報については原資料の更新状況を確認してください。






















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