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オランダ安楽死2025年|年次報告書10,341件・6.0%・審査制度を徹底解説

執筆者の写真: リップディー(RiP:D)
リップディー(RiP:D)
7月28日
読了時間: 21分

更新日:10月8日

最終更新日:2026年10月8日(随時更新)

※更新履歴:制度の運用状況・実施件数・対象疾患・審査体制などの情報を更新


👉 安楽死の基本的な仕組みや全体像を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください↓


👉 安楽死の定義と分類(積極的・消極的・間接的)の違いは、こちらで整理しています↓


👉 混同されやすい、安楽死と尊厳死の違いをを知りたい方は、こちら(延命治療との関係も整理)↓






はじめに

2025年オランダ安楽死制度を公式資料から読み解く



「安楽死制度」と聞くと、皆さんはどのような印象を持つでしょうか。


「本当に厳しく管理されているのだろうか。」

「年々増え続けているのではないか。」

「認知症や精神疾患でも認められていると聞くが、実際はどうなのだろう。」


日本では、オランダの安楽死制度について断片的な情報が紹介されることはあっても、毎年公表される公式年次報告書の内容まで詳しく紹介される機会は多くありません。


そこで今回は、


オランダ地域安楽死審査委員会(RTE)が公表した2025年年次報告書

と、

オランダ王立医師会(KNMG)の統計資料


をもとに、最新の制度運用や統計データを分かりやすく整理します。


件数だけではなく、患者の年齢や疾患、制度運用の実態なども見ながら、

現在のオランダの安楽死制度を客観的に見ていきましょう。



※👉オランダ地域安楽死審査委員会(RTE)の年次報告書は、こちらからダウンロード↓


※👉オランダ王立医師会(KNMG)の統計資料は、こちらからダウンロード↓




👉 世界各国の安楽死制度を知りたい方は、こちらで解説しています↓


👉 世界の安楽死制度の成立経緯を年代順で知りたい方は、こちら↓



🎧音声による動画解説



要約図(自由使用可)


オランダの安楽死統計インフォグラフィック。風車とチューリップ背景に、2025年の届出10,341件、死亡173,314人、65歳以上多数などを棒グラフや円グラフで表示。


オランダ安楽死制度とは


オランダは、2002年に世界で初めて安楽死を法律で認めた国です。


正式には「要請による生命終結および自殺幇助審査法」に基づき、一定の条件を満たした場合に限って、医師が患者の生命を終わらせる医療行為(安楽死)や、患者自身が薬剤を服用する医師幇助自殺が認められています。


制度の最大の特徴は、「安楽死を認める法律」であると同時に、「医師の行為を厳格に審査する法律」である点です。

実施されたすべての症例は、地域安楽死審査委員会(RTE)へ報告され、法律で定められた要件を満たしていたかが第三者によって審査されます。


つまり、制度は「実施して終わり」ではなく、

事後審査まで含めて運用されていることが大きな特徴です。



オランダ安楽死の申請から終了までの10ステップを示す日本語インフォグラフィック。手続き、保護措置、2025年統計、年齢別・男女別の棒グラフが並ぶ。

👉オランダ安楽死の基本や全体像を知りたい方は、こちらをご覧ください↓


👉 オランダの安楽死の申請から実施までの全プロセスはこちら↓




2025年RTE年次報告書の概要


オランダ地域安楽死審査委員会(RTE)は、

2026年3月26日に2025年の年次報告書を公表しました。


この年次報告書には、2025年にRTEへ届け出られた安楽死・医師幇助自殺について、件数、疾患、年齢、審査結果、制度運用上の論点などがまとめられています。


2025年の安楽死実施件数は10,341件で、前年から3.8%増加しました。

また、安楽死による死亡は、オランダ国内の全死亡者数の約6.0%を占めています。


件数は制度開始以来で最多となりましたが、前年比の増加率は前年(約10%増)よりも緩やかになっており、

制度が急激に拡大しているというよりは、一定の水準で定着している様子がうかがえます。


※👉出典『RTE Annual Report 2025』




2025年オランダ安楽死の主要統計

2025年の主な統計は以下のとおりです。


項目

2025年

安楽死実施件数

10,341件

前年比

+3.8%

全死亡者に占める割合

約6.0%

平均審査期間

37日

不適切と判断

7件


これらの数字からは、オランダでは毎年詳細な統計を公表しながら制度運用を続けていることが分かります。




安楽死件数の推移(2002〜2025)


制度開始当初、安楽死件数は年間2,000件前後でした。

その後、高齢化や制度の定着などを背景に件数は徐々に増加し、2025年には初めて1万件を超えました。


一方で、

近年は毎年の増減率に変化があり、2025年は前年ほど急激な伸びではありませんでした。


単純に件数だけを見るのではなく、

人口構成や高齢化、医療制度全体との関係も踏まえて理解することが重要です。



オランダの「安楽死」による死亡者数を示す棒グラフ。2002年から2025年まで増加し、2025年は10,341人で約6.0%。



全死亡者に占める割合


2025年、オランダでは安楽死による死亡が全死亡者数の約6.0%を占めました。

これは、およそ100人が亡くなるうち6人が安楽死を選択した計算になります。


世界的に見ても高い割合ではありますが、

この数字だけで制度の良し悪しを判断することはできません。


制度の背景には、高齢化や医療制度、緩和ケアの充実、患者の自己決定権など、さまざまな要素が関係しています。


オランダの統計グラフ。2020〜2025年の安楽死による死亡者数が青紫の棒で増加し、2025年は10,341人、全死亡の約6.0%と示す。

※👉出典『KNMG:Euthanasie in cijfers 2025』から当会が作成




👉 安楽死と関係が深い「緩和ケアと安楽死の違い」は、こちらで整理しています↓




疾患別内訳


2025年も、安楽死を選択した人の多くは重い身体疾患を抱えていました。

最も多かったのは



がんで、

5,355件(約52%)



を占めています。

続いて、

神経系疾患、循環器疾患、肺疾患などが多く、身体的な疾患が全体の大半を占めています。


一方で、認知症や精神疾患を理由とする症例も報告されていますが、

その割合は身体疾患と比べると限定的です。


2025年オランダ安楽死の主な疾患別内訳を示す円グラフ。がん51.8%が最多、認知症や心疾患なども表示された日本語インフォグラフィック。

※👉出典

『RTE Annual Report 2025』より当会が作成


『Kerncijfers 2025 | Regionale Toetsingscommissie Euthanasie』




年齢別・男女比


年齢別に見ると、安楽死を選択した人の多くは高齢者でした。

特に70~79歳と80~89歳が最も多く、全体の約4分の3を70歳以上が占めています。

また、60歳以上では全体の約9割を占めています。


一方で、18歳未満は1件のみでした。


また、男女比は男性5,292人、女性5,049人で、ほぼ半数ずつとなっています。

これらの統計からは、オランダの安楽死制度は主として

高齢者の終末期医療に関連して利用されている実態が読み取れます。



2025年 オランダ安楽死 年齢別内訳

年齢

件数

構成比

12~17歳

1件

0.01%

18~29歳

33件

0.32%

30~39歳

71件

0.69%

40~49歳

160件

1.55%

50~59歳

618件

5.98%

60~69歳

1,730件

16.73%

70~79歳

3,346件

32.36%

80~89歳

3,258件

31.51%

90歳以上

1,124件

10.87%

合計

10,341件

100%

※2025年は18歳未満(12~17歳)の症例は1件で、身体疾患によるものでした。



年齢別の特徴

  • 70~79歳:3,346件(最多)

  • 80~89歳:3,258件

  • 60~69歳:1,730件


つまり、


  • 70歳以上:約74.7%

  • 60歳以上:約91.5%


となり、安楽死の大半は高齢者に対して実施されています。



男女比(2025年)

性別

人数

構成比

男性

5,292人

約51.2%

女性

5,049人

約48.8%

合計

10,341人

100%

男女比はほぼ半々であり、特定の性別に偏った制度ではないことが分かります。



オランダの安楽死の年齢別・男女比を示す青基調の図。70~79歳が最多、60歳以上が9割超、男女はほぼ半々。

※👉出典『RTE Annual Report 2025』より当会が作成




日本の識者によるオランダ安楽死制度への懸念


日本では、オランダの安楽死制度に対して

慎重または批判的な立場をとる識者もいます。


その代表的な一人として、

障害者・介護者の立場から発言を続けている『児玉真美』氏が挙げられます。


『安楽死が合法の国で起こっていること』

読む前の注意点|児玉真美の主張・思想背景・障害者運動



児玉氏は、オランダでは安楽死が



・「日常化」し、医療現場でルーティン化していること、


・対象が認知症や精神疾患へと拡大していること、


・緩和ケアより安楽死が選ばれやすくなる危険性



があることを理由にオランダの安楽死制度に批判的です。

著書『安楽死が合法の国で起こっていること』では、

「医療現場でルーティンと化す安楽死」という章を設け、制度運用への懸念を示しているほどです。





児玉真美氏の主張

児玉氏の著書では、主に次のような点が繰り返し論じられています。


・安楽死件数は毎年増加している

・対象者が終末期から認知症・精神疾患へと広がっている

・医療現場で安楽死が「日常化」「ルーティン化」している

・手続き要件が徐々に緩和されている

・緩和ケアより安楽死が選択されやすくなる危険性がある



※👉対象者の拡大という懸念(滑り坂論)については、こちらで詳しく解説しています↓

『安楽死における滑り坂論とは何か|反対論とその反論を制度と事実から整理』





「医師が慣れてしまう」という懸念


日本の反対派の論考では、



「安楽死が例外ではなく日常診療の一部になる」


「医師が死を提供することに慣れてしまう」


「治療可能性を十分に探らなくなる危険がある」



といった趣旨の懸念が示されることがあります。

児玉氏はこれを「医療現場でルーティンと化す安楽死」という表現で論じています。



※👉反対派の全容については、こちらで詳しく解説しています↓

『安楽死反対は誰を守っているのか──障害者団体・福祉系NPOの論理構造を検証する』





オランダ側の説明と制度上の安全策

一方で、オランダの公的機関であるRTE(地域安楽死審査委員会)やKNMG(オランダ王立医師会)は、制度には複数の安全策が組み込まれていると説明しています。



・すべての症例が事後審査を受ける


・SCEN医師による独立した第三者評価が行われる


・ガイドライン(EuthanasieCode)が毎年更新される


・不適切と判断された事例は公表される



2025年報告書でも、10,341件すべてが審査対象となり、法律上の要件を満たさなかったと判断された7件については、その理由が匿名化されたうえで公表されています。



オランダの死亡統計インフォグラフィック。安楽死は約6%、その他94%。円グラフと2025年死亡者数173,314人、説明文付き。

オランダの安楽死制度を説明する日本語インフォグラフィック。高齢者や病院、心臓、車の事故、人型アイコンで死亡理由と約94%が安楽死以外を示す。
「医療現場でルーティンと化す安楽死」という説明は当てはまらないように思えます…数字の大きさだけで強調しているように推測します。

👉オランダの安楽死制度のより詳しい解説は、こちらをご覧ください↓



机上のPC画面に安楽死と「試験のある生命の終結」についての大きな日本語テロップ、書籍画像、紫のガラス球が映る。
オランダの安楽死について知りたい方は「生きるための安楽死(シャボット・アカネ)」と「安楽死のできる国(三井美奈)」がお勧めです。二人は正真正銘のジャーナリストで、オランダ安楽死が【試験のある】生命の終結であることを熟知されています。

👉 世界各国の申請プロセスをまとめて確認する場合はこちら(ハイライト)↓





制度評価をめぐる論点

この問題は、単純な「事実認定」というよりも、制度をどのように評価するかという点に関わっています。

オランダの公的機関は、SCEN医師による独立確認やRTEによる全件審査などを通じて、監督体制は機能していると説明しています。


一方、日本の反対派の一部は、

それでもなお「安楽死の社会的な日常化」が進んでいると評価しています。

つまり、同じ統計や制度を見ても、「監督体制が整っている」と見る立場と、「日常化が進んでいる」と見る立場の違いが存在しているのです。



「日常化」という評価をどう考えるか

安楽死件数が増加していることと、「安楽死が医療現場で日常化・ルーティン化している」と評価することは、同じ意味ではありません。


2025年のRTE統計では10,341件の届出がありましたが、件数の増加だけから、医師の倫理的判断が形骸化したことや、患者が安楽死を当然の選択肢として受け入れていることまで直接証明することはできません。


一方で、審査基準の適用や精神疾患・認知症などの事例については、学術研究から制度上の課題や判断の難しさを指摘する研究も存在します。

したがって、「制度は完全に安全である」と結論づけることも、「制度が制御不能に拡大している」と結論づけることも、統計だけからは困難です。


本記事では、こうした異なる評価を区別しながら、

公式統計と学術研究の双方を確認します。


👉「安楽死に反対する障害者団体の全体像(日本)|DPI・JCIL・当事者運動の構造」


👉 障害者運動の歴史|2000年代以降のALS・尊厳生・生命倫理を解説






RiP:Dとして考えるべきこと

制度について賛成・反対の立場はさまざまですが、まず重要なのは、



公式な年次報告書や制度資料に基づいて

事実を確認すること



です。そのうえで、件数の増加、認知症症例、精神疾患症例、審査体制、安全策などを総合的に見ながら、社会としてどのような制度設計が望ましいのかを冷静に考えていく必要があるのではないでしょうか。




👉 安楽死をめぐる賛否の論点を体系的に整理したい方は、こちらをご覧ください↓




まとめ|オランダ安楽死制度を理解するために重要なこと


2025年のオランダ地域安楽死審査委員会(RTE)年次報告書からは、制度開始から20年以上が経過した現在の運用実態が、さまざまな統計とともに示されています。

2025年の安楽死実施件数は10,341件となり、初めて年間1万件を超えました。また、安楽死による死亡はオランダ国内の全死亡者数の約6.0%を占めています。


一方で、その内訳を見ると、多くは

がんや神経系疾患、循環器疾患、肺疾患などの重い身体疾患を抱えた患者であり、

年齢別では約4人に3人が70歳以上、約9割が60歳以上でした。


また、すべての症例はRTEによる事後審査の対象となり、SCEN医師による独立した確認、不適切事例の公表、ガイドラインの継続的な見直しなど、多層的な監督体制のもとで制度が運用されていることも確認できます。


一方で、日本では制度に対して慎重な立場をとる識者もおり、

「安楽死の日常化」や「対象拡大」への懸念が示されています。

こうした議論は、単純に「賛成」「反対」と結論づけられるものではありません。

同じ統計や制度を見ても、



・「監督体制が機能している制度」と評価する立場

・「社会的な日常化が進んでいる」と評価する立場



が存在しており、制度に対する評価は必ずしも一致していません。

だからこそ重要なのは、

断片的な情報や印象だけで判断するのではなく、



公式年次報告書や

法制度、運用実態といった

一次資料に基づいて事実を確認すること



ではないでしょうか。


制度を導入するかどうかは、それぞれの国の文化や医療制度、価値観、社会保障制度なども含めた幅広い議論が必要です。

しかし、その議論の出発点となるのは、正確な情報を共有することです。


RiP:Dでは今後も、オランダをはじめ、ベルギー、カナダ、スペイン、フランスなど各国の制度や運用実態について、できる限り一次資料に基づいた情報を分かりやすく紹介し、

日本における終末期医療と人道的終末選択のあり方について考える材料を提供していきたいと考えています。




👉 地図で確認する安楽死が合法の国 一覧と各国制度は、こちらで詳しく解説しています↓


👉 日本の安楽死の歴史・事件を知りたい方は、こちらをご覧ください↓




オランダ安楽死制度の全体像

患者からの要請

↓

担当医による評価

↓

6つの注意義務基準

↓

独立医師(SCEN等)への相談

↓

実施

↓

自治体病理医への届出

↓

RTE審査

↓

「注意義務を満たす」

または

「満たさない」

↓

必要に応じてOM・IGJ



安全策 vs 制度上の論点

安全策

論点

6つの注意義務

「耐え難い苦痛」の判断

独立医師

独立性・判断差

RTE事後審査

事後審査であること

年次報告

統計で把握できない部分

不適切事例公表

実効性の評価

Euthanasia Code

解釈の変化


安楽死 vs 緩和ケア vs 緩和的鎮静


安楽死

緩和ケア

緩和的鎮静

主目的

生命を終結

苦痛緩和

苦痛緩和

死亡を意図

○

×

×

意識低下

通常目的ではない

必須ではない

○

制度

法定要件

医療

医療

RTE審査

○

×

×

👉 緩和ケアの限界とは?│難治性疼痛・緩和的鎮静と安楽死を考える↓


👉 持続的深い鎮静の限界とは?│緩和ケアにおける目的・適応・安楽死との違いと限界


👉 緩和ケアの限界とは?終末期の苦痛と安楽死制度を考える|国立がん研究センター・京都大学のデータ



オランダと日本は何が違うのか

項目

オランダ

日本

積極的安楽死

法定要件下で可能

制度化されていない

医師幇助自殺

法定要件下で可能

制度化されていない

第三者審査

RTE

オランダ型制度なし

独立医師

要件

オランダ型制度なし

終末期医療ガイドライン

Euthanasia Code等

厚労省ガイドライン

積極的安楽死

制度対象

厚労省ガイドライン対象外

👉 日本における安楽死の法律的な扱いについては、こちらで詳しく解説しています↓



主張・証拠・反証

論点

肯定的評価

慎重論

現時点で言えること

審査体制

全件審査

実効性への批判

両方の研究あり

精神疾患

制度上可能

判断困難

議論継続

認知症

法的枠組みあり

意思能力の問題

個別審査

件数増加

制度利用の透明化

拡大懸念

増加自体は事実

滑り坂

実証的根拠に乏しいとの研究

一定の拡大を指摘する研究

評価が分かれる

👉 安楽死の「滑り坂論」とは?反対論・実証研究・海外制度から検証


👉 安楽死制度は不要なのか?社会支援だけでは解決できない苦痛を検証


👉 安楽死は「命の序列化」「命の選別」なのか?|制度要件・自己決定・反対論を検証




FAQ(よくある質問)|オランダ安楽死制度について


Q1.オランダでは安楽死は合法ですか?

A.はい。ただし、無条件に認められているわけではありません。オランダでは、安楽死・医師幇助自殺は原則として刑法上の犯罪とされ、医師が法律で定められた6つの注意義務基準を満たした場合に限って刑事責任が免除される仕組みです。


Q2.2025年のオランダの安楽死は何件でしたか?

A.2025年にオランダ地域安楽死審査委員会(RTE)へ届け出られた安楽死・医師幇助自殺は10,341件でした。2024年の9,958件から3.8%増加し、全死亡に占める割合は6.0%でした。


Q3.10,341件はすべて「積極的安楽死」ですか?

A.RTEの年次報告書では、安楽死と医師幇助自殺を包括して「euthanasia」と表現する場合があります。そのため、10,341件という数字をそのまま「医師が薬剤を投与した積極的安楽死だけの件数」と理解するのは適切ではありません。


Q4.どのような病気で安楽死が行われていますか?

A.2025年は、がんが5,355件で最も多く、神経系疾患、心・血管疾患、肺疾患、複数の身体疾患などが続いています。認知症499件、精神疾患174件も報告されています。


Q5.認知症でも安楽死は認められますか?

A.一定の条件を満たせば可能です。ただし、認知症であることだけを理由に自動的に認められるわけではありません。本人の意思、意思能力、苦痛、事前指示書などを含め、個別の状況が検討されます。


Q6.精神疾患だけでも安楽死は可能ですか?

A.オランダでは精神疾患による耐え難い苦痛を理由とする安楽死も制度上対象となり得ます。ただし、精神疾患に関する判断には特有の困難があり、学術研究でも医師間の意見の相違や意思決定上の課題が報告されています。


Q7.安楽死と尊厳死は同じですか?

A.一般には同じものではありません。安楽死は、医療者が患者の生命を意図的に終結させる行為を指します。一方、「尊厳死」は一般に、生命維持治療の差し控え・中止など、自然な死の経過を尊重する考え方と関連して使われます。ただし、「尊厳死」という言葉には複数の用法があるため、制度を比較するときには具体的な行為を区別する必要があります。


Q8.緩和ケアを否定しているのですか?

A.いいえ。本記事は緩和ケアの重要性を否定するものではありません。緩和ケアは人生の最終段階における苦痛を軽減する重要な医療です。一方で、緩和ケアの重要性を認めることと、緩和ケアを最大限に行えば安楽死が制度上不要になると結論づけることは別の問題です。


Q9.オランダの安楽死制度には安全策がありますか?

A.あります。法律上の6つの注意義務基準、独立した医師への相談、RTEによる事後審査などが制度上の安全策として設けられています。一方で、2025年にはRTEが7件について注意義務基準を満たしていないと判断しており、安全策が存在することと、すべての問題を完全に防げることは同じではありません。


Q10.オランダの制度には反対・慎重論もありますか?

A.あります。安楽死制度については、対象範囲の拡大、意思の自発性の確認、精神疾患・認知症への適用、審査制度の実効性などについて、学術研究からも慎重な議論があります。本記事では制度を肯定的に評価する研究だけでなく、こうした批判的・慎重な研究も紹介しています。


Q11.日本でもオランダと同じ制度がありますか?

A.いいえ。日本には、オランダのように医師による積極的安楽死を制度として認める法律はありません。厚生労働省の「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」も、生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死を対象としていません。


Q12.2025年のRTE年次報告書はどこで確認できますか?

A.オランダ地域安楽死審査委員会(RTE)が公式に公開しています。本記事では、RTE公式年次報告書を主要な一次資料として使用しています。








参考文献・学術研究


本記事では、オランダ地域安楽死審査委員会(RTE)などの一次資料に加え、PubMedに収載された査読付き学術研究を参照しています。


1.オランダ地域安楽死審査委員会(RTE)

Regionale Toetsingscommissie Euthanasie (RTE). Jaarverslag 2025. 2026.

2025年にRTEへ届け出られた安楽死・医師幇助自殺の件数、疾患、年齢、審査結果などをまとめた公式年次報告書です。



2.オランダ政府

Government of the Netherlands. Is euthanasia legal in the Netherlands?

オランダの安楽死・医師幇助自殺について、刑法上の位置づけ、6つの注意義務基準、独立医師による相談、RTEによる事後審査などを政府が公式に説明しています。



3.Buiting et al. 2008

Buiting HM, Gevers JKM, Rietjens JAC, Onwuteaka-Philipsen BD, van der Maas PJ, van der Heide A, van Delden JJM.

Dutch criteria of due care for physician-assisted dying in medical practice: a physician perspective.

Journal of Medical Ethics. 2008;34(9).

DOI: 10.1136/jme.2008.024976PMID: 18757612

オランダの法定注意義務基準について、医師が実際の臨床判断でどのような困難を経験しているかを調査した研究です。



4.Brinkman-Stoppelenburg et al. 2014

Brinkman-Stoppelenburg A, Vergouwe Y, van der Heide A, Onwuteaka-Philipsen BD.

Obligatory consultation of an independent physician on euthanasia requests in the Netherlands: What influences the SCEN physicians judgment of the legal requirements of due care?

Health Policy. 2014;115(1):75-81.

DOI: 10.1016/j.healthpol.2013.12.002PMID: 24388049

安楽死申請におけるSCEN医師の独立した相談・評価が、どのように行われているかを分析した研究です。



5.Buiting et al. 2009

Buiting H, van Delden J, Onwuteaka-Philipsen B, et al.

Reporting of euthanasia and physician-assisted suicide in the Netherlands: descriptive study.

BMC Medical Ethics. 2009;10:18.

DOI: 10.1186/1472-6939-10-18PMID: 19860873

オランダにおける安楽死・医師幇助自殺の届出と審査に関する実証研究です。



6.Onwuteaka-Philipsen et al. 2012

Onwuteaka-Philipsen BD, Brinkman-Stoppelenburg A, Penning C, de Jong-Krul GJF, van Delden JJM, van der Heide A.

Trends in end-of-life practices before and after the enactment of the euthanasia law in the Netherlands from 1990 to 2010: a repeated cross-sectional survey.

The Lancet. 2012;380(9845):908-915.

DOI: 10.1016/S0140-6736(12)61034-4PMID: 22789501

1990年から2010年までの終末期医療を比較し、安楽死法施行前後の変化を検討した大規模な研究です。



7.Kim et al. 2016

Kim SYH, De Vries R, Peteet JR.

Euthanasia and Assisted Suicide of Patients With Psychiatric Disorders in the Netherlands 2011 to 2014.

JAMA Psychiatry. 2016;73(4):362-368.

DOI: 10.1001/jamapsychiatry.2015.2887PMID: 26864709

オランダで精神疾患を理由として安楽死・医師幇助自殺が行われた症例を分析し、患者背景や医師間の判断の違い、審査上の問題を検討した研究です。



8.Miller & Kim 2017【慎重論】

Miller DG, Kim SYH.

Euthanasia and physician-assisted suicide not meeting due care criteria in the Netherlands: a qualitative review of review committee judgements.

BMJ Open. 2017;7(10).

DOI: 10.1136/bmjopen-2017-017628PMID: 29074515

オランダのRTEが注意義務基準を満たさないと判断した事例を分析し、審査制度が実際にどのように機能しているのかについて批判的に検討した研究です。



9.Kono et al. 2023【制度上の慎重論】

Kono M, Arai N, Takimoto Y.

Identifying practical clinical problems in active euthanasia: A systematic literature review of the findings in countries where euthanasia is legal.

Palliative & Supportive Care. 2023;21(4):705-713.

DOI: 10.1017/S1478951522001699PMID: 36622088

安楽死を合法化した国の研究を体系的にレビューし、自発性の確認、曖昧な適格基準、精神的苦痛、医師の良心的拒否、制度理解不足など、実務上の課題を整理した研究です。



10.Boer 2003【滑り坂論・慎重論】

Boer TA.

After the slippery slope: Dutch experiences on regulating active euthanasia.

Journal of the Society of Christian Ethics. 2003;23(2):225-242.

PMID: 16175719

オランダの法制化経験をもとに、安楽死制度の拡大をめぐる「滑り坂論」を検討し、一定の慎重さが必要であると論じた研究です。



11.Raus et al. 2021【制度監視への批判】

Raus K, Vanderhaegen B, Sterckx S.

Euthanasia in Belgium: Shortcomings of the Law and Its Application and of the Monitoring of Practice.

Journal of Medicine and Philosophy. 2021;46(1):80-107.

DOI: 10.1093/jmp/jhaa031PMID: 33491735

ベルギーの研究ですが、安楽死制度における適格基準、第二医師による相談、届出・監視制度が安全策としてどの程度機能するかという、オランダ制度を考える際にも重要な比較材料を提供します。



12.参考:初期の慎重論

Jochemsen H.

Euthanasia in Holland: an ethical critique of the new law.

Journal of Medical Ethics. 1994;20(4):212-217.

DOI: 10.1136/jme.20.4.212PMID: 7861425

オランダの法制化初期に、届出・監視制度や患者保護について倫理的・法的懸念を示した研究です。現在の制度を直接説明する資料ではなく、法制化過程における慎重論として参照します。



参考資料

  • Regionale Toetsingscommissie Euthanasie(RTE)

  • Government of the Netherlands

  • Royal Dutch Medical Association(KNMG)

  • Support and Consultation on Euthanasia in the Netherlands(SCEN)

  • World Health Organization(WHO)

  • European Association for Palliative Care(EAPC)

  • 厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」



書籍・現地取材

・シャボット・あかね

『生きるための安楽死』

日本評論社


・三井美奈

『安楽死のできる国』

新潮新書


・児玉真美

『安楽死が合法の国で起こっていること』

晶文社

(制度に批判的立場からの分析)



関連記事(RiP:D)

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・安楽死における滑り坂論とは何か|反対論とその反論を制度と事実から整理

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・安楽死に反対する障害者団体の全体像(日本)|DPI・JCIL・当事者運動の構造

・安楽死と緩和ケアの違い

・安楽死と尊厳死の違い

・世界各国の安楽死制度一覧




本記事の調査方法・情報源について

本記事では、オランダの安楽死制度について、可能な限り一次資料および査読付き学術研究を優先して確認しています。

主な情報源は、以下のとおりです。


  • オランダ地域安楽死審査委員会(RTE)の年次報告書・統計・Euthanasia Code

  • オランダ政府(Government.nl)の安楽死制度に関する公式説明

  • オランダの法令資料

  • オランダ王立医師会(KNMG)等の公式資料

  • PubMedに収載された査読付き医学・生命倫理学研究

  • NEJM、The Lancet、BMJ、Journal of Medical Ethics、JAMA Psychiatryなどの査読付き医学・生命倫理学誌

  • 日本の厚生労働省等が公表する終末期医療・人生の最終段階に関する公的資料


統計については、原則として各年度の公式資料に記載された数値を使用し、本記事で計算した割合については、その計算方法が分かるようにしています。


また、安楽死制度をめぐる評価には賛成・反対双方の立場が存在するため、制度を肯定的に評価する研究だけでなく、制度上のリスク、審査の限界、対象範囲の拡大、意思確認の困難さなどを指摘する研究も確認しています。


なお、本記事は特定の医学的・法律的判断を読者に求めるものではなく、公開された公的資料・研究結果を整理し、制度について考えるための情報を提供することを目的としています。


情報の更新について

オランダの安楽死制度やRTEの年次統計、ガイドライン等は更新されるため、本記事では更新時点を明記し、重要な統計・制度情報については可能な限り最新の一次資料を確認します。

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