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安楽死制度は不要なのか?社会支援が行き届けば解決するという主張の限界を検証する

  • 執筆者の写真: リップディー(RiP:D)
    リップディー(RiP:D)
  • 1 日前
  • 読了時間: 6分

🎧音声による動画解説



要約図(自由使用可)


"安楽死制度と社会支援の関係を示す要約図"
"安楽死制度 支援不足論の構造図"

安楽死制度をめぐる「支援不足論」とは何か


安楽死制度をめぐる議論のなかで、繰り返し語られる主張があります。


社会支援が十分にあれば、安楽死は必要ない」「いま議論すべきは制度ではなく、福祉やケアの充実だ」

この言葉は、一見すると非常に正しく、思いやりに満ちたものに聞こえます。誰もが安心して生きられる社会をつくる――それに異論はありません。


実際、緩和ケアや福祉政策に関わる多くの人々は、「安楽死の議論は、支援の不足という本質的問題を覆い隠してしまう」と警鐘を鳴らしています。

それらは人権や福祉を重視する姿勢から発せられたものであり、決して軽視されるべきものではありません。


しかし、その論理には、看過できない構造的問題が含まれています。

本稿では、「支援が行き届けば安楽死は不要である」という主張を丁寧に整理し、その限界を検証します。



① 「支援・福祉・ケアの不足である」という主張


反対派の主張は、おおよそ次のように整理できます。


・安楽死を望む背景には、経済的不安や孤立、介護負担がある

・社会保障が十分であれば、死を望む状況は減る

・制度化は、社会の責任を個人の「選択」に転嫁する危険がある


つまり、

「死を選ばざるを得ない社会のほうを変えるべきだ」

という立場です。


この視点は重要です。実際、貧困や孤立のなかで追い込まれた選択があってはならない。

それは当然の倫理的前提です。


しかし、ここで一つの問いが残ります。

本当に、支援が整えば

“すべて”解決するのでしょうか。



② 「支援があれば救える」という前提は現実と整合しているか


反対派が強調する「問題は制度ではなく支援不足である」という議論には、重大な前提があります。

それは、


「十分な支援があれば、死を望む状況は基本的に消える」

という前提です。

しかし、これは現実と整合しているでしょうか


現代医療と福祉は確かに進歩しました。

緩和医療も発展し、多くの苦痛は軽減可能になっています。

それでもなお、次のような現実があります。


・緩和医療を尽くしても制御不能な疼痛

・呼吸困難や窒息感の持続

・ALSや神経変性疾患に伴う進行性の身体機能喪失

・自己決定能力を失っていく過程そのものへの深い恐怖


これらは「支援が足りないから」生じているのでしょうか。

実際、オランダやベルギーなど、世界でも最も充実した医療・福祉制度を持つ国々でも、安楽死制度は存在し、一定数の利用があります。


これは、「支援不足」だけでは説明できない現実です。


緩和ケアの限界:世界のデータが示す現実

)  緩和ケアの限界:痛み以外の「緩和困難な3つの苦痛」

(参照)



③ 実存的苦痛と緩和ケアの限界――安楽死制度議論の核心


医学的苦痛と並んで、しばしば語られるのが「実存的苦痛」です。


・自分らしさを失っていく感覚

・他者との関係性が崩れていく恐怖

・意識はあるのに身体が動かないという閉塞感

・延命の先に見える、避けがたい衰弱のプロセス


これらは、生活支援や経済支援の充実だけでは解消できません。

「支援があれば救える」という主張は、こうした苦痛を


“理論上の例外”


として扱いがちです。


とりわけ医療や福祉の現場では、こうした問題が「緩和技術のさらなる向上」や「コミュニケーションの工夫」によって対応可能であるかのように語られることがあります。

もちろん、専門職の努力や誠実な実践を否定するものではありません。


しかし、その枠組みの外にある苦痛――すなわち、技術や対話では根本的に解消しきれない実存的な苦悩――が存在することもまた事実です。

それを「改善可能な課題」としてのみ整理してしまうと、当事者が訴えている切実な現実が見えにくくなります。


しかし当事者にとって、それは例外ではありません。

それは、今まさに経験している現実です。



④ 「制度議論は早すぎる」という主張の構造


もう一つの典型的な主張は、

「支援が完全に整ってからでなければ、制度議論はすべきではない」

というものです。


しかし、社会保障が“完全に整う日”は来るのでしょうか。

福祉政策は常に改善の途上にあります。医療もまた、完全ではありません。


「まず支援を」という言葉が、結果として


制度議論そのものを

永久に先送りする装置


になっていないか。

そこは冷静に検証する必要があります。



⑤ 安楽死制度と社会支援は両立し得るのか


ここで重要なのは、対立構造の整理です。


・支援を充実させること

・安楽死制度を慎重に設計すること


この二つは、本当に両立しないのでしょうか。


海外の事例を見ると、緩和医療と安楽死制度が並行して発展していくのが、現代の潮流となっています。



安楽死 合法 国一覧|世界地図で見る各国の制度状況
www.rest-in-peace-with-dignity-ripd.com
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制度を議論することは、支援を軽視することと同義ではありません。

むしろ、制度を設計する過程で、


・どのような社会的圧力を排除すべきか

・どのような確認手続きが必要か

・どの段階で医療介入が妥当か


といった具体的な議論が進みます。

議論を封じることは、当事者の苦痛を見えない場所に置き続けることでもあります。



⑥ 当事者の声と制度設計の課題


「支援があれば救える」という言葉は、善意から出発しています。

しかしその言葉が、


・苦痛を訴える当事者に

・すでに十分な支援を受けている人に

・それでもなお死を望むほどの苦悩を抱えている人に


向けられたとき、

その現実を「理論的には解決可能」と処理してしまっていないでしょうか。

現実が理論に合わないとき、修正されるべきは理論のほうです。



まとめ|安楽死制度と社会支援を対立させないために

――「支援か制度か」という誤った対立を超えて


私たちは、支援の充実を否定しているわけではありません。

むしろ、支援は不可欠です。社会的孤立や経済的困窮のなかでの選択は、決して自由とは言えません。

しかし同時に、


・支援では解消できない苦痛があること

・福祉国家であっても制度は存在していること

・当事者の声を一律の理論で封じるべきではないこと


この現実もまた、直視する必要があります。

「社会支援が行き届けば安楽死は要らない」という言葉は、希望としては理解できます。

けれども、それを前提に制度議論そのものを否定することは、問題を単純化しすぎているのではないでしょうか。


私たちは、


・支援を最大限に整備しながら

・それでも残る苦痛について正面から向き合う


その両立を模索する議論こそが必要だと考えます。

感情的な対立ではなく、当事者の現実に根ざした冷静な議論を。

それが、市民社会に求められている姿勢ではないでしょうか。


参考・出典


  • Rest in Peace with Dignity 公式サイトhttps://www.rest-in-peace-with-dignity-ripd.com/

  • 同サイト掲載記事「安楽死反対は誰を守っているのか――障害者団体・福祉系NPOの論理構造を検証する」

  • オランダ地域安楽死審査委員会 年次報告書

  • ベルギー連邦安楽死評価委員会 公開資料

Rest in Peace with Dignity

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