廣橋猛医師はなぜ安楽死に反対するのか|発言・緩和ケア・安楽死を医学的に検証

更新日:9月20日
最終更新日:2026年9月19日(随時更新)
※更新履歴:参考文献・一次資料を追加・整理|緩和ケア、緩和的鎮静、安楽死・尊厳死をめぐる国内外の研究・公的資料を追記|内容を一部見直し、出典の明確化と記述の精度向上
👉 安楽死の基本的な仕組みや全体像を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください↓
👉 安楽死の定義と分類(積極的・消極的・間接的)の違いは、こちらで整理しています↓
👉 混同されやすい、安楽死と尊厳死の違いをを知りたい方は、こちら(延命治療との関係も整理)↓
【安楽死 反対 医師】
日本の緩和ケア医療の第一線に立つ医師の中には、安楽死に明確に反対する立場を取る人がいます。
本記事では、その代表的な一人である『廣橋猛』医師の発言をもとに、安楽死反対論の核心を読み解きます。
終末期医療において、患者の苦痛を和らげるための中心的な役割を担うのが緩和ケアです。特に専門医の間では、
「適切な緩和ケアが提供されれば、
患者は安楽死を選ぶ必要はない」
という考え方が一定の支持を得ています。
この立場は、医療倫理や医師の役割に関する重要な議論とも深く結びついています。
一方で、現実の医療現場では、
すべての苦痛を完全に取り除くことができない
ケースが存在することも指摘
されています。
身体的苦痛だけでなく、精神的・存在的苦悩など、
緩和ケアでは十分に対応しきれない問題に直面する患者もいます。
本記事では、廣橋猛医師の具体的な発言や主張を整理し、その背景にある価値観や論理を明らかにします。
そのうえで、緩和ケアを重視する立場からの安楽死反対論がどのように構築されているのか、そしてそれが現実の医療とどのように関係しているのかを、多角的に検討していきます。
👉 安楽死と関係が深い「緩和ケアと安楽死の違い」は、こちらで整理しています↓
🎧音声による動画解説
要約図(自由使用可)


基本プロフィール|廣橋猛(日本緩和医療学会 理事)
名前:廣橋 猛(ひろはし たけし)
現職:永寿総合病院 がん診療支援・緩和ケアセンター長
出身・学歴
1977年生まれ
東海大学医学部 卒業(2005年)
専門分野
緩和ケア
終末期医療
在宅医療、また呼吸器内科・アンチエイジングなどの領域も含む経歴あり
※👉プロフィールの出典↓
坂本龍一さん死去と「もう、逝かせてくれ」という言葉

2023年4月、坂本龍一さん死去
「つらい。もう、逝かせてくれ」
家族、医師に漏らす…凄絶がん闘病
廣橋猛氏のX投稿全文|安楽死必要論への反応

坂本龍一さん死去「つらい。もう、逝かせてくれ」
「安楽死が必要」
この記事のコメント欄は安楽死必要論で溢れかえっている。
しかし実際は適切な緩和ケア、特に鎮静という手段を知ることで、人生最期の苦しみについては解決されることが多い。
もちろん早期から緩和ケアを受けることの大切さは言うまでもなく、それはがん治療中から並行して受けるべき。
ただ、そのような理想論はさておき、コメントなどのリアクションから推察するに、国民の多くは人生の最期に苦しまずに死ねるかどうかに関心を持っている。
周囲でいくら理想論を訴えても、人生の最期は患者、家族、そして医療者だけのブラックボックス。こんなはずではなかったことのオンパレード。
より一般市民の希望に沿うためには、苦しくない最期を迎えるための手法に特化した緩和ケアの追求が必要という考えもありだと思う。
⇩
「苦しみを減らす医療の専門家であって、
苦しみを終わらせる選択には背を向ける医師」
緩和ケアで“解決されることが多い”という言葉の、
あまりにも重い無責任さについて
この緩和ケア医の投稿は、坂本龍一氏の
「つらい。もう、逝かせてくれ」
という切実な言葉を起点にしながらも、結論としては
「安楽死が必要論で溢れかえっている」
「適切な緩和ケア、特に鎮静を知ることで、
人生最期の苦しみは解決されることが多い」
という方向へと読者を誘導しています。
しかし、この文章の最大の問題は、
「解決されることが多い」という曖昧な表現の背後に、
解決されない現実を
意図的に押し込めている点
にあります。
👉 世界各国の安楽死制度を知りたい方は、こちらで解説しています↓
👉 世界の安楽死制度の成立経緯を年代順で知りたい方は、こちら↓
「解決されることが多い」
では、解決されなかった人はどうなるのか?
緩和ケアが万能ではないことは、
緩和医療の専門家であれば誰よりも熟知しているはずです。
実際、以下の事実は広く知られています。
✅どんな緩和ケアの薬剤を使っても、
苦痛が十分に緩和されない症例が一定割合存在する(約20~30%)
✅持続的深い鎮静は
→意識の消失
→コミュニケーションの断絶
→事実上の「緩慢な死」を伴う
しかも日本では、その適用基準・説明・同意プロセスは施設ごとに大きく異なり、
患者が主体的に選べる制度にはなっていません。
それにもかかわらず、「多くは解決される」と言い切る姿勢は、
解決されなかった人々の苦しみを、
統計の外に追いやる言説にほかならなりません。
👉 緩和ケアの限界とは?│難治性疼痛・緩和的鎮静と安楽死を考える↓
👉 実際の患者の声はこちらで紹介しています↓
「安楽死必要論で溢れかえっている」
という表現が示す立場
コメント欄に溢れているのは、軽薄な安楽死賛美ではありません。
それは、
・「あれほど苦しむなら、最期くらい自分で選ばせてほしい」
・「鎮静されて意識を失うのではなく、
納得して終わりたかったのではないか」
という、市民の極めて素朴で切実な問いであり願いです。
それを「安楽死必要論で溢れかえっている」と一括りにすることは、
当事者でもなければ、家族でもなかった立場からの
上から目線の短絡的なラベリング(パターナリズム)に見えてしまいます。
👉 鎮静の限界とは│持続的な深い鎮静は穏やかな死を保証するものではない│【証言とデータで解説】↓
「理想論はさておき」と言いながら
最後まで理想論の中に留まる矛盾
この医師はこう述べています。
「ただ、そのような理想論はさておき」
しかし、実際にはその後も、
・緩和ケアを早期から受ければよい
・鎮静という手段がある
・苦しくない最期を迎えるための“緩和ケアの追求”が必要
と、制度として患者が選べない現実を直視しないままの理想論を繰り返しています。
日本では、
・緩和ケア病棟に入れない患者が多数存在し
・在宅でも高度な鎮静が受けられるとは限らず
・苦痛が残っても「それ以上の選択肢」が制度上存在しない
この現実を知りながら、「緩和ケアを追求すべき」という言葉で締めくくるのは、
問題の先送りであり、
責任の転嫁
に近いです。
👉 なぜ安楽死という選択肢も必要とされているのかは、こちらをご覧ください↓
「ブラックボックス」と言いながら開けられない理由
この投稿の中で、最も皮肉なのは次の一節でしょう。
「人生の最期は患者、家族、
そして医療者だけのブラックボックス」
そのブラックボックスを開けるための制度的議論こそが、
安楽死・尊厳死をめぐる議論であるはずです。
しかしこの医師は、
・ブラックボックスであることを認めながら
・そこに新たな選択肢を加える議論を拒み
・既存の枠組み(緩和ケア・鎮静)だけで完結させようとする
これは、箱の中にいる専門職が、
外からの問いを遮断している構図に他なりません。
👉 日本における安楽死の法律的な扱いについては、こちらで詳しく解説しています↓
結語:
坂本龍一さんの言葉は「知識不足」では片付けられない
緩和ケアで「解決されることが多い」という言葉の問題点
坂本龍一さんの
「もう、逝かせてくれ」
という言葉は、「緩和ケアを知らなかったから」出てきた言葉ではありません。
それは、緩和ケアを受けてもなお残った苦しみの末の言葉であったことを誰も否定できません。
それを前にして、
「鎮静を知れば解決されることが多い」
と語ることは、あまりにも安全圏からの発言だと言えるでしょう。
緩和ケアを否定する必要はありません。しかし一方で、緩和ケアだけで全てが解決するかのような語りは、安楽死を求める声と同じくらい、
現実を単純化し、
当事者の苦しみを
切り捨て
ています。
👉 日本の安楽死の歴史・事件を知りたい方は、こちらをご覧ください↓
一言で言えば
安楽死に反対する日本の緩和ケア医の典型像
・「“解決されることが多い”と言いながら、
解決されなかった苦しみには沈黙する緩和ケア医」
・「ブラックボックスを認めながら、
その中に選択肢を増やす議論だけは拒む人」
・「患者の『もう逝かせてくれ』を、
専門知識で無効化しようとする緩和ケア医」
・「緩和ケアの限界を知っているはずなのに、
“多くは解決する”という言葉で覆い隠す立場」
・「苦しみを減らす医療の専門家であって、
苦しみを終わらせる選択には背を向ける人」
そう言えると考えます。
これは個人の問題ではない
日本の緩和ケア業界の総体的姿勢
上記した5つは典型的な日本の緩和ケアの発言であり、
また業界の、安楽死に対する総体的な姿勢となっています。
苦痛から苦悩へ追い込まれる20~30%の患者の訴え

緩和ケア医は絶対に否定するだろうけど
「鎮静は負け」
「鎮静なしでコントロールできた俺すごい」
的な潜在意識が少なからずあるんじゃないの?
もうこんな段階まできたら患者本人としては1秒でも長く生きたいとか意識を保ちたいとか思わないよ。
ただ楽になりたい。それだけ

結局どんな分野であれその問題に直面し今まさに困難にぶち当たっている人じゃないとまともに考えようとしないよな
考えないだけならまだしも善人面して近寄ってきて変な正義感を振りかざし
偽善にまみれたお気持ちソリューションを展開するのほんま悪質
一定数のお花畑の支持を得るのもまたタチ悪い
参照↑:
フジテレビ ザ・ノンフィクション
【私のママが決めたこと~命と向き合った家族の記録~】
(女性のXアカウントはこちら ⇒ @mahomelc)
『マユミ』さんのXアカウント名は『めいしー』です。
マユミさんが、日本で亡くなることを拒否して、わざわざスイスへ向かった理由を示した動画です。近年白日の下に晒されつつある緩和ケアの実態は、本来なら、日本の多くの国民が知っておかなければいけない事実だと考えます。
事実を隠蔽して誤魔化しに心を委ね続ける日本の緩和ケア業界は、残念ながら脆弱惨憺たるものであり、マユミさんが幻滅して呆れ果てスイスへ向かったのは
最良の選択
だった言わざるを得ない状況です。
👉 安楽死反対の医師一覧|日本の緩和ケア医・専門家の公開発言を整理↓
👉 安楽死をめぐる賛否の論点を体系的に整理したい方は、こちらをご覧ください↓
👉 地図で確認する安楽死が合法の国 一覧と各国の制度↓
緩和ケアと安楽死はどこが違う?
緩和ケア | 緩和的鎮静 | 積極的安楽死 | |
主目的 | 苦痛軽減 | 難治性苦痛の軽減 | 生命の意図的終結 |
意識 | 原則維持 | 低下する場合あり | 通常、死に至る |
死亡 | 目的ではない | 目的ではない | 意図される |
法的扱い | 医療 | 医療 | 日本では制度化されていない |
本人意思 | 重要 | 重要 | 制度設計上極めて重要 |
廣橋医師の主張 vs 医学文献
論点 | 廣橋医師の発言 | 文献から確認できること |
緩和ケア | 重要 | WHOも重要性を明記 |
鎮静 | 苦痛軽減の手段 | 専門ガイドラインあり |
苦痛 | 多くは軽減可能 | 一方、治療抵抗性症状も報告 |
安楽死 | 不要という立場 | 学術的には賛否あり |
ブラックボックス | 終末期の現実 | 意思決定プロセスが重要 |
制度 | 緩和ケア重視 | 法制度との関係は国により異なる |
終末期の選択肢
生命を脅かす病気
↓
治療
↓
緩和ケア
↓
症状評価
↓
┌────────────┐
│ 苦痛がコントロール可能 │
└────────────┘
↓
緩和ケア継続
または
┌────────────────┐
│ 治療抵抗性の苦痛が残る │
└────────────────┘
↓
専門的緩和ケア
↓
緩和的鎮静等
↓
それでも残る問題
↓
本人の意思・倫理・制度をめぐる議論
↓
安楽死制度をどう考えるか
👉 安楽死と自殺の違い・関係を整理したい方は、こちらをご覧ください↓
FAQ|廣橋猛医師・安楽死・緩和ケアについて
Q1.安楽死と尊厳死は同じものですか?
A.一般には同じ意味ではありません。
安楽死は、医療者などが本人の生命を意図的に終結させる行為を指して議論されることがあります。一方、日本で「尊厳死」という言葉は、生命維持治療の差し控え・中止など、自然な死の経過を尊重する終末期医療の選択と関連して使われることがあります。
ただし、両者の用語法には文献や国による違いがあるため、本稿では必要に応じて具体的な行為を明示して区別しています。
Q2.このページは緩和ケアを否定しているのですか?
A.いいえ。
緩和ケアは、生命を脅かす病気に伴う身体的・心理的・社会的・スピリチュアルな苦痛を軽減する重要な医療です。
本稿が問題としているのは、緩和ケアの価値ではありません。緩和ケアを最大限に行った場合でも、治療抵抗性の症状や複合的な苦痛が残る患者が存在することを踏まえ、その場合に社会や制度がどのような選択肢を考えるべきかという点です。
Q3.緩和的鎮静と安楽死は同じですか?
A.医学的・倫理的には一般に区別されています。
緩和的鎮静は、治療抵抗性の苦痛を軽減するために意識レベルを低下させる医療行為です。一方、積極的安楽死は、本人の生命を意図的に終結させることを目的とする行為として議論されます。
両者は目的や意図、手続きが異なります。そのため、本稿でも両者を同一視していません。
Q4.緩和ケアで、すべての苦痛を取り除くことはできますか?
A.すべての苦痛を必ず完全に取り除けるとは限りません。
医学文献では、疼痛、呼吸困難、せん妄、心理的・実存的苦痛などについて、適切な治療を行っても十分に改善しない「治療抵抗性」の症状が検討されています。
ただし、その割合は疾患や症状、研究方法、治療抵抗性の定義によって大きく異なります。そのため、本稿では特定の割合をすべての終末期患者に当てはめることは避けています。
Q5.廣橋猛医師の発言は、日本緩和医療学会全体の公式見解なのですか?
A.そのように扱うことはできません。
廣橋猛医師は日本緩和医療学会の理事等を務めていますが、本稿で取り上げている発言は、まず廣橋医師個人の発言として扱っています。
学会としての公式見解と個人の発言は区別する必要があります。
Q6.坂本龍一氏の「もう、逝かせてくれ」という発言から、緩和ケアの限界を証明できるのですか?
A.この一つの事例だけで、緩和ケア全体の限界を証明することはできません。
報道によれば、坂本龍一氏は亡くなる直前に「つらい。もう、逝かせてくれ」と家族や医師に訴えたとされています。
しかし、この発言だけから、坂本氏が受けていた緩和ケアの内容や苦痛の医学的程度を判断することはできません。
本稿では、この発言を一つの問題提起として扱い、緩和ケアの限界については医学文献を別途検討しています。
Q7.安楽死制度にはどのようなリスクがありますか?
A.複数の論点があります。
本人の意思が本当に自由なものなのか、家族からの圧力がないか、経済的事情や介護負担が選択に影響しないか、障害者や高齢者が社会的に「死を選ぶべき存在」と受け取られないか、対象範囲が将来的に拡大しないか、といった問題が議論されています。
本稿ではこれらを制度上の重要な検討課題として扱っており、リスクが存在することと、制度化によって必ず発生することは区別しています。
Q8.障害者や高齢者への圧力は、安楽死制度の問題にならないのですか?
A.重要な制度設計上の論点です。
安楽死やassisted dyingをめぐる議論では、自律的な意思決定を尊重することと、社会的・経済的な圧力から脆弱な立場の人を守ることとの緊張関係が指摘されています。
そのため、制度を検討する場合には、本人の意思確認だけでなく、社会的支援、介護・医療へのアクセス、経済的支援なども含めて検討する必要があります。
Q9.滑り坂論には、実証的な根拠がありますか?
A.単純に「ある」「ない」と結論づけられる問題ではありません。
安楽死の合法化によって、当初想定された対象から非自発的・非任意の安楽死へ拡大するのではないかという「滑り坂論」については、オランダなどの実証データを検討した研究があります。
一方で、合法化そのものが拡大を引き起こしたと因果的に証明することには難しさがあります。
そのため本稿では、滑り坂論を確定した事実ではなく、制度設計上検討すべきリスク仮説の一つとして扱います。
Q10.RiP:Dは緩和ケアと安楽死の二者択一を主張しているのですか?
A.いいえ。
RiP:Dは、緩和ケアの充実を前提としたうえで、十分な医療・ケアを受けてもなお本人が耐え難い苦痛を抱え、明確かつ持続的な意思として最終的な選択を求める場合に、制度上どのように扱うべきかを議論しています。
したがって、「緩和ケアか安楽死か」という二者択一ではなく、「緩和ケアを最大限に保障したうえで、それでも残る問題を制度としてどう扱うか」という問いを提起しています。
ここまで読んで、さらに制度の問題を考えたい方へ
本稿では、緩和ケアを重視する立場から安楽死に慎重な考え方と、その背景にある医学的・倫理的論点を検討しました。
では、緩和ケアを最大限に保障したうえで、それでもなお本人が耐え難い苦痛を抱える場合、現在の日本の制度にはどのような選択肢があるのでしょうか。
RiP:Dでは、この問題を個別の医師や医療者の問題に限定せず、日本の終末期医療と法制度の問題として検討しています。
▶ 日本の安楽死制度の法的現状
▶ 緩和ケアの限界と医学的エビデンス
▶ 各国の安楽死・医師幇助死制度
▶ 制度設計・安全性・濫用防止策
▶ 日本の安楽死法制化に関する提言書
個別の発言をめぐる議論から、日本の終末期医療と人道的終末選択の制度設計へ、さらに考えていくための資料を公開しています。
嘆願書送付アクション
本サイトでは、各国制度、安全性・濫用防止、緩和ケア、身体疾患による苦痛と自殺などについて、国会提出用の補足資料も公開しています。
書類 一覧
・嘆願書 本文『人道的終末選択の法制化に関する提言書』
・補足資料① 日本における安楽死制度の法的現状と制度的空白
・補足資料② 各国制度比較と日本への制度モデル
・補足資料③ 制度設計・安全性確保・濫用防止策
・補足資料④ 緩和ケアの限界と終末期医療の課題
・補足資料⑤ 身体疾患・身体障害による苦痛と自殺の実態
・カバーレター:ご挨拶(1ページ)
・要約文(2ページ)
参考文献・一次資料
本稿では、特定の立場を支持する資料だけではなく、緩和ケア、治療抵抗性の苦痛、緩和的鎮静、安楽死・医師幇助死、障害者の自己決定、制度上のリスクなどを扱った公的資料および査読付き学術文献を参照しています。
医学的な事項については、PubMedで確認できる査読付き論文・系統的レビュー、日本緩和医療学会のガイドライン、世界保健機関(WHO)などの専門機関・公的機関の資料を優先しています。
また、安楽死制度については、賛成・推進側の研究だけでなく、緩和ケア、本人の意思決定、障害者の権利、制度上のリスク、滑り坂論などを扱った慎重論・反対論も参照しています。
1.緩和ケア・治療抵抗性症状
・Lucena A, Yuguero O.“Systematic Review of Common Refractory Symptoms in the End-Of-Life Situation and Its Relation With Euthanasia.”OMEGA - Journal of Death and Dying. 2024;89(3):1113-1127.DOI: 10.1177/00302228221089123PMID: 35441562
終末期における治療抵抗性症状について22研究をレビューした系統的レビューです。呼吸困難、せん妄、実存的苦痛などを取り上げ、緩和ケアによって多くの症状が軽減される一方、治療が難しい症状が残る可能性について検討しています。
・Arantzamendi M, Belar A, Payne S, Rijpstra M, Preston N, Menten J, Van der Elst M, Radbruch L, Hasselaar J, Centeno C.“Clinical Aspects of Palliative Sedation in Prospective Studies. A Systematic Review.”Journal of Pain and Symptom Management. 2021;61(4):831-844.e10.DOI: 10.1016/j.jpainsymman.2020.09.022PMID: 32961218
前向き研究を対象として、緩和的鎮静の臨床的側面を検討した系統的レビューです。治療抵抗性症状として、せん妄、疼痛、呼吸困難などが報告されており、研究によってその割合には大きな幅があることが示されています。
2.緩和的鎮静と生存期間
Maltoni M, Scarpi E, Rosati M, Derni S, Fabbri L, Martini F, Amadori D, Nanni O.“Palliative sedation in end-of-life care and survival: a systematic review.”Journal of Clinical Oncology. 2012;30(12):1378-1383.DOI: 10.1200/JCO.2011.37.3795PMID: 22412129
緩和的鎮静が終末期患者の生存期間に影響するかを検討した系統的レビューです。対象研究では、適切に行われた緩和的鎮静が生存期間を悪化させることを示す結果は得られていません。ただし、無作為化比較試験ではなく、研究上の限界があることにも留意する必要があります。
3.緩和的鎮静と安楽死の倫理的区別
ten Have H, Welie JVM.“Palliative sedation versus euthanasia: an ethical assessment.”Journal of Pain and Symptom Management. 2014;47(1):123-136.DOI: 10.1016/j.jpainsymman.2013.03.008PMID: 23742736
緩和的鎮静と安楽死の倫理的な関係を検討した論文です。両者は一般に異なる行為として区別されますが、実際の臨床では「意図」「終末期性」「治療抵抗性の症状」「比例性」などをめぐる倫理的問題が生じ得ることを論じています。
4.安楽死・医師幇助死と緩和ケアの関係
Gerson SM, Koksvik GH, Richards N, Materstvedt LJ, Clark D.“The Relationship of Palliative Care With Assisted Dying Where Assisted Dying is Lawful: A Systematic Scoping Review of the Literature.”Journal of Pain and Symptom Management. 2020;59(6):1287-1303.e1.DOI: 10.1016/j.jpainsymman.2019.12.361PMID: 31881289
安楽死・医師幇助死等が合法である地域において、緩和ケアとassisted dyingがどのような関係にあるのかを検討した系統的スコーピングレビューです。
ベルギー、カナダ、スイス、米国などを対象とした研究を調査し、両者の関係には、共存、協働、統合、対立、葛藤など複数の形態が存在すると報告しています。また、既存研究だけでは明らかにできない課題が残されていることも指摘しています。
5.安楽死制度に対する慎重論・滑り坂論
Lewis P.“The empirical slippery slope from voluntary to non-voluntary euthanasia.”The Journal of Law, Medicine & Ethics. 2007;35(1):197-210.DOI: 10.1111/j.1748-720X.2007.00124.xPMID: 17341228
自発的安楽死の合法化から非自発的安楽死へと対象が拡大するという、いわゆる「滑り坂論」について、主としてオランダの経験的資料を検討したレビューです。
本稿では、滑り坂論を確定した事実として扱うのではなく、制度の対象範囲や安全策を検討する際に考慮すべき論点の一つとして参照しています。
6.障害者と安楽死・自己決定
Clifton S.“Disability and the Complexity of Choice in the Ethics of Abortion and Voluntary Euthanasia.”The Journal of Medicine and Philosophy. 2021;46(4):431-450.DOI: 10.1093/jmp/jhab008PMID: 34219161
障害と自己決定をめぐる倫理的問題を、安楽死を含む生命倫理の文脈から検討した論文です。
自律的な意思決定を尊重することと、障害者など社会的に脆弱な立場にある人々が社会的・制度的な圧力を受ける可能性を考慮することとの間にある緊張関係を論じています。
7.緩和ケアを根拠とする安楽死反対論
Colburn B.“Palliative care-based arguments against assisted dying.”Bioethics. 2025;39(2):187-194.DOI: 10.1111/bioe.13352PMID: 39360468
緩和ケアを根拠としてassisted dyingに反対する議論を検討した論文です。
安楽死・assisted dyingが合法化された地域では緩和ケアへのアクセスや質が悪化するという主張について、複数の論拠と利用可能な証拠を検討しています。著者は、検討した主張について、それを支持する十分な論拠・証拠は確認できないと結論づけています。
8.日本緩和医療学会「治療抵抗性の苦痛と鎮静」ガイドライン
日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会『がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き 2023年版』2023年6月20日発行。
がん患者における治療抵抗性の苦痛と、その苦痛を緩和するための鎮静について、日本緩和医療学会が示している専門的な手引きです。
本稿では、緩和ケアによって多くの苦痛が軽減されることと、なお治療抵抗性の苦痛が問題となり得ることを区別して検討する際の主要な国内資料として参照しています。
9.日本緩和医療学会「治療抵抗性の苦痛と鎮静」2018年版
日本緩和医療学会 ガイドライン統括委員会『がん患者の治療抵抗性の苦痛と鎮静に関する基本的な考え方の手引き 2018年版』2018年9月25日発行。
2010年版を改訂・改題した手引きです。治療抵抗性の苦痛に対して持続的な鎮静薬投与を行う際に検討すべき事項などを整理しています。
現在は2023年版が公開されているため、本稿では原則として2023年版を優先し、2018年版は過去の基準・改訂経緯を確認する資料として参照しています。
10.厚生労働省「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
厚生労働省『人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン』平成30年3月改訂。
人生の最終段階における医療・ケアについて、本人による意思決定を基本とし、医療・ケアチームとの十分な話し合いを通じて方針を決定することを示しています。
また、厚生労働省は同ガイドラインについて、「生命を短縮させる意図をもつ積極的安楽死は、本ガイドラインでは対象としない」と明示しています。
したがって、日本の終末期医療に関する公的な意思決定プロセスと、積極的安楽死制度の問題を区別して考えるうえで重要な一次資料です。
11.世界保健機関(WHO)「Palliative care」
World Health Organization.“Palliative care.”5 August 2020.
WHOは緩和ケアについて、生命を脅かす病気に直面する患者と家族の生活の質を改善するアプローチであり、身体的、心理的、社会的、スピリチュアルな問題に伴う苦痛の予防・軽減を目的とするものと説明しています。
本稿では、緩和ケアそのものの意義を確認する国際的な公的資料として参照しています。
12.廣橋猛医師の所属・役職・専門資格
廣橋猛医師の現在の所属、役職、専門資格等については、本人の所属医療機関および日本緩和医療学会の公式情報を参照しています。
人物の所属・役職については時期によって変更される可能性があるため、本稿では記事更新時点で確認できる公式情報を優先しています。
13.坂本龍一氏に関する報道
坂本龍一氏が亡くなる直前に「つらい。もう、逝かせてくれ」と家族や医師に訴えたという記述については、2023年4月の報道を参照しています。
ただし、この報道のみから、坂本氏が受けていた緩和ケアの内容、使用された治療・薬剤、苦痛がどの程度医学的にコントロールされていたかを判断することはできません。
終末期における苦痛と本人の意思を考える一つの報道事例です。
14.本稿における資料の扱いについて
本稿では、資料の性質を区別しています。
公的資料・法令・政府資料:制度や行政上の位置づけを確認するために使用
専門学会のガイドライン:医学的な定義・臨床上の考え方を確認するために使用
査読付き学術論文・系統的レビュー:医学的・倫理的な論点の検討に使用
報道資料:個人の発言や出来事を確認するために使用
本サイトによる分析:上記資料を踏まえた論点整理・制度的考察として区別
学術論文については、可能な限りPubMedに登録された文献を確認し、論文タイトル、著者、掲載誌、発行年、巻号、ページ、DOI、PMIDを明記しています。
なお、個々の研究には対象者、研究方法、地域、時期などの違いがあるため、一つの研究結果をすべての終末期患者やすべての国・制度にそのまま適用することは避けています。
本稿は医療上の診断・治療を行うものではなく、公開資料および学術研究に基づいて、安楽死、緩和ケア、治療抵抗性の苦痛、終末期の意思決定をめぐる議論を整理・検討することを目的としています。
最終更新日:2026年9月19日
廣橋医師の発言から見える一つの論点
ここまで見てきた発言は、廣橋医師個人の見解としても考慮する必要があります。
その背景には、緩和ケアを終末期医療の中心に位置づけ、苦痛の緩和を可能な限り追求すべきだとする、緩和医療における重要な考え方があります。
一方で、緩和ケアを最大限に行ったとしても、治療抵抗性の症状や複合的な苦痛が残る患者が存在することも、医学文献で検討されています。
したがって本稿では、廣橋医師個人の発言を「日本の緩和ケア医全体の総意」とみなすだけでなく、緩和ケアを重視する立場から安楽死に慎重な考え方がどのように示されているのかを、一つの具体例として検討しています。
本稿の調査方法
本稿では、廣橋猛医師が公開した発言・プロフィール情報を一次資料として確認したうえで、その主張に関連する医学的・倫理的論点を検討しています。
医学的事項については、日本緩和医療学会のガイドライン、厚生労働省、WHO等の公的資料に加え、PubMedで確認できる査読付き学術論文および系統的レビューを参照しています。
また、安楽死制度については、賛成・推進側の研究だけでなく、緩和ケア、障害者の権利、本人の自由意思、医療者の倫理、制度拡大の可能性などを扱った慎重論・反対論も確認しています。
本稿は医療上の診断や治療を行うものではなく、公開資料および研究文献に基づいて、安楽死と緩和ケアをめぐる議論を整理・検証することを目的としています。



















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