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緩和ケアの限界とは?終末期の苦痛と安楽死制度を考える|国立がん研究センター・京都大学のデータ

執筆者の写真: リップディー(RiP:D)
リップディー(RiP:D)
2月5日
読了時間: 21分

更新日:1 日前

最終更新日:2026年9月27日(随時更新)

※更新履歴:FAQ修正|本文を微修正|論文の収載|図表の追加


👉安楽死の基本的な定義や全体像については、こちらで体系的に整理しています。


👉 安楽死の定義と分類(積極的・消極的・間接的)の違いは、こちらで整理しています↓

安楽死とは何か│定義・3分類(積極的・消極的・間接的)の違い│世界の制度をわかりやすくチェック


👉 混同されやすい、安楽死と尊厳死の違いをを知りたい方は、こちら(延命治療との関係も整理)↓



緩和ケアは多くの人を救います。

しかし、現代の技術でも



“すべての苦しみ”を

終わらせることはできません。



現代の医療は、痛みを和らげ、患者の尊厳を守るために大きく進歩してきました。

特に終末期医療においては、緩和ケアが重要な役割を果たし、多くの人が穏やかな最期を迎えられるようになっています。


しかし一方で、

どれほど医療が発展しても、なお取り除くことのできない苦しみが存在するのも事実です。


強い身体的苦痛、息苦しさ、耐え難い不安や恐怖、そして「この状態で生き続けること」そのものへの苦悩…こうした問題に直面する人々が、一定数存在しています。



こうした現実の中で問われているのが、「緩和ケアだけで本当に十分なのか」という問題です。すべての苦しみを軽減できないのであれば、その先にどのような選択肢があり得るのか。患者の意思や尊厳をどのように尊重すべきなのか。


本記事では、緩和ケアの重要性を前提としながらも、その限界と現実を見つめ直し、なぜ安楽死制度の必要性が議論されているのかを、データとともに整理していきます。




👉 緩和ケアの基本的な仕組みはこちらを参照してください↓


👉 安楽死と関係が深い「緩和ケアと安楽死の違い」は、こちらで整理しています↓



🎧音声による動画解説



要約図(自由使用可)


終末期医療と緩和ケアを説明する日本語インフォグラフィック。医師と患者の図、統計数値、見出しと箇条書きが並ぶ。



緩和ケアは安らかな死を保証しない


私たちは、誰しも人生の最終章を迎える日を想像せずにはいられません。病気と闘い、家族と過ごし、思い出を重ねていくその時間のなかで、


「痛みがどれだけ和らげられるのか」

「どのように最期を迎えられるのか」


そんな問いは、ご本人だけでなく、その家族や関わる医療者にとっても、重く、深いものです。

しかし現実には、期待したほど苦痛が減らないケースも決して少なくありません。




緩和ケアはどこまで届いているのか


国立がん研究センターが2025年7月に公表した「人生の最終段階の医療・療養生活の質に関する調査(令和5年度調査)」では、

2021年に亡くなった患者の遺族を対象に、人生の最終段階における医療や療養生活の実態が調査されました。


がんをはじめとする主要10疾患の患者遺族へのアンケートでは、

医療者が「患者のつらい症状にすみやかに対応した」と回答した割合は65~81%と比較的高いものの、



「身体の苦痛が少なかった」とされた割合は

37~53%であることが示されました。



緩和ケアに関する円グラフ。左は痛みが少ない47.2%、右は痛みを感じた52.8%。背景に手のイラスト。



また、がん患者に限ってみると、死亡前1カ月間で


・痛みや苦痛をほとんど感じなかった割合は

・4割台にとどまり、

・緩和ケアだけでは症状が十分に和らげられない


ケースが一定数存在する可能性が指摘されています。


この調査は、緩和ケアそのものの有効性を直接比較・検証した研究ではありません。

また、患者本人ではなく遺族から見た評価である点にも注意が必要です。


それでも、死亡前1か月に「からだの苦痛が少なく過ごせた」とされた割合が、がんでは37.3%にとどまったという結果は、人生の最終段階における苦痛緩和が依然として重要な課題であることを示しています。


緩和ケアの限界と課題を示す青基調のインフォグラフィック。痛みの有無の円グラフ、医療者・患者のイラスト、40.4%などの数値が並ぶ。

「何をしても痛みが消えない」そのような声はかつてないほど、

私たちの社会で真剣に受け止められるべき問題として浮かび上がっています。





緩和ケアを受けても残る「終末期の苦痛」


京都大学などによる科研費研究「高齢者の終末期の緩和できない苦痛と尊厳死・安楽死の希望に関する国際共同研究」では、日本の緩和ケア病棟20施設・971人の終末期がん患者が調査されました。


その結果、18%(174人)が「死を早めたい」という希死念慮を示し、

そのうち46%(79人)が積極的安楽死を希望していました。

注目すべきなのは、その理由です。


  • 自分で自分のことができない 45%

  • 他人に負担をかける 28%

  • 楽しみがない 28%

  • 人生の意味を失った 24%

  • 強い倦怠感 23%

  • 呼吸困難 21%

  • 自律性の喪失 18%

  • 痛み 12%


京都大学の終末期がん調査のインフォグラフィック。死を早めたい希望18%と46%、主因は依存や負担で、痛みは12%と示す。


つまり、「死を早めたい」という思いは、



身体的な痛みだけから

生じているわけではありません。



自立できなくなること、家族への負担、楽しみや人生の意味の喪失、自律性の喪失など、心理的・社会的・実存的な苦痛が大きく関係していました。


末期がん患者の中には、その痛みや不安、身体的苦痛だけでなく、



「自分のことが自分でできなくなることへの恐怖」

「家族への負担を考えた絶望感」など、



身体以外の苦痛が大きな割合を占めることも指摘されています。



また研究では、



971人中174人(18%)が「死を早めたい」



という希望(desire for hastened death)を示しました。

つまりそのうち79人(46%)は積極的安楽死を希望していました。




半数近くが積極的な手段(安楽死など)

を求めているという報告



がありました。

このように、痛みそのものだけではなく「生きる意味の喪失」や「尊厳の喪失」を感じる末期患者が存在していることは、単なる医療技術の問題ではありません。


もちろん、この研究は「緩和ケアが無効である」「安楽死が必要である」と直接証明するものではありません。

しかし、少なくとも、


「緩和ケアがあれば、終末期の苦痛はすべて解決できる」

という単純な前提だけでは、

終末期患者の現実を説明できないことを示す重要なデータです。



終末期の苦痛とは、

単なる「痛み」だけではない。



この点を踏まえることが、緩和ケアと安楽死をめぐる議論には必要です。


終末期患者調査の日本語インフォグラフィック。約5人に1人が「死を早めたい」と考えた理由と、痛み12%や各種苦痛を図示し、下部に京都大学・KAKEN出典を表示

👉出典: 

・京都大学 科研費「高齢者の終末期の緩和できない苦痛と尊厳死・安楽死の希望に関する国際共同研究」(課題番号16KT0007)


・末期がん患者における早死願望の複雑性:クラスタ分析 - PubMed




 👉 実際の患者の声はこちらに記録しています↓




日本で議論が進みにくい理由


一方で日本では、安楽死や尊厳死についての法整備が遅れており、

明確な制度として存在していません。


過去には超党派議員による「尊厳死法案」などの提案がなされましたが、

定義の曖昧さや強硬な反対もあり、法制化には至っていません。


👉「尊厳死の法制化を拒む反対運動の正体」は、こちらを参照してください↓



また、「安楽死は倫理的に問題がある」といった意見や、

「本人の真意をどう判断するのか」など慎重論も根強くあります。




👉 安楽死をめぐる賛否の論点を体系的に整理したい方は、こちらをご覧ください↓


👉 日本の安楽死の歴史・事件を知りたい方は、こちらをご覧ください↓




私たちの問い ― 緩和ケアだけで十分なのか


私たちは、「緩和ケアがあれば十分か?」という問いを静かに、しかし真剣に投げかけなければなりません。

緩和ケアが苦痛を軽減する力を持つことは間違いありません。医療従事者の努力によって、多くの患者さんが穏やかな時間を過ごせている現実もあります。


しかし、それでもなお

痛みに耐えなければならない人がいるのも事実です。


緩和ケアには限界があり、



・痛みが完全に取れないケース

・精神的苦痛が続くケース

・尊厳を損なう恐怖が拭えないケース



→これらは緩和ケアだけでは解決できない現実です。


そしてその現実は、


「安らかに死を迎えられるか」か、

「苦痛の中で死を迎えるか」かという、



丁か半かの『博打』状態に等しいことを示唆しています。




👉 日本での安楽死制度への支持率はこちら↓




まとめ|緩和ケアの限界と安楽死制度を考える


私たちは問い続けます。


・緩和ケアだけで「人としての尊厳ある最期」を保証できるのか。

・痛みに耐えて生きることは、必ずしも「生きる価値」を保証するものではないのではないか。

・患者本人の深い意思や尊厳を尊重するためには、社会としてどのような選択肢が必要なのか。



緩和ケアは不可欠であり続けます。しかしその限界もまた、無視できない現実です。

だからこそ私たちは言います



尊厳ある最期の選択肢として、

制度としての安楽死(安らかな死)を真正面から議論し、

構築することが必要なのではないか。



👉 安楽死の基本的な仕組みや全体像を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください↓


※👉 世界各国の安楽死制度を知りたい方は、はこちらで解説しています↓


👉 地図で確認する安楽死が合法の国 一覧と各国制度は、こちらで詳しく解説しています↓




海外での「緩和ケアの限界」を示すデータ


青基調のインフォグラフィックで、各国の緩和ケアの限界と安楽死・尊厳死の実態を比較。英・加・豪・ベルギー/オランダ、WHOやEAPCの統計が並ぶ。

鎮静ケアの限界を示す日本語インフォグラフィック。呼吸困難・倦怠感・存在的苦痛の図解と、80%/20%などの割合、患者や医療者のイラスト、見出しと説明文が並ぶ。


※海外のデータについては、こちらの記事で参照できます


👉 緩和ケアの限界とは?│難治性疼痛・緩和的鎮静と安楽死を考える↓


👉 緩和ケアの限界とは何か|痛みが消えない終末期医療の実態と国内外の証言↓


👉 海外の、安楽死制度への支持率はこちら↓




終末期の苦痛をどう考えるか

データ

対象

結果

何を示すか

注意点

NCC 2025

2021年死亡者の遺族

がんで「身体的苦痛が少ない」37.3%

終末期の身体的苦痛が課題

遺族評価

Hatano 2021

終末期がん患者971人

DHD 18%

死を早めたい希望は一定数存在

緩和ケア病棟患者

Hatano 2021

DHD患者

依存45%

身体的痛みだけでは説明できない

複数回答

Hatano 2021

DHD患者

疼痛12%

痛みも一要因

「全患者の12%」ではない

WHO

世界の終末期医療

身体・心理・社会・精神的苦痛を対象

緩和ケアは包括的支援

世界全体の資料


概念比較表


緩和ケア

緩和的鎮静

安楽死

主目的

苦痛・QOLの改善

治療抵抗性苦痛の緩和

死をもたらすこと

意図

死を目的としない

死を目的としない

死を目的とする

意識

原則維持

低下させる場合がある

行為による

日本

医療として実施

医療として実施

法制度化されていない

制度的論点

アクセス・質

適応・意思決定

要件・審査・監視


👉 世界の安楽死制度の成立経緯を年代順で知りたい方は、こちら↓


👉 世界各国の申請プロセスをまとめて確認する場合はこちら(ハイライト)↓




FAQ


Q1.緩和ケアだけで終末期の苦痛はすべて解消できますか?

A. いいえ。緩和ケアは多くの患者の身体的・心理的・社会的・スピリチュアルな苦痛を軽減する重要な医療ですが、すべての苦痛を完全に解消できるとは限りません。国立がん研究センターの令和5年度調査では、死亡前1か月に「からだの苦痛が少なく過ごせた」とされた割合は全体で37~53%、がんでは37.3%でした。ただし、この調査は緩和ケアそのものの有効性を直接比較した研究ではなく、患者の遺族による評価である点には注意が必要です。


Q2.終末期の「苦痛」は痛みだけですか?

A. いいえ。終末期の苦痛には、疼痛や呼吸困難などの身体的苦痛だけでなく、不安、抑うつ、他者への負担感、人生の意味の喪失、自律性の喪失など、心理的・社会的・実存的な苦痛も含まれます。WHOも緩和ケアを身体・心理・社会・スピリチュアルな問題を対象とする包括的な支援として位置づけています。


Q3.緩和ケアを受けていても「死を早めたい」と思う患者はいますか?

A. はい。日本の終末期がん患者971人を対象とした研究では、174人(18%)が「死を早めたい」という希望を示しました。理由には依存、他者への負担、意味の喪失、楽しみの喪失、倦怠感、呼吸困難、疼痛などが含まれていました。


Q4.この18%は「自殺を希望した18%」という意味ですか?

A. 必ずしもそうではありません。研究で用いられたのは「desire for hastened death(死を早めたいという希望)」という概念です。死について考えること、死を早めたいという希望、具体的な行動への意向などは区別して考える必要があります。近年の総説でも、この希望は連続的な現象として捉える必要があるとされています。


Q5.安楽死と尊厳死は同じですか?

A. 同じではありません。一般に安楽死は、医療者が患者の死を意図して生命を終わらせる行為を指す一方、日本で「尊厳死」という言葉は、延命治療の差し控え・中止など、自然な死を迎えることを意味して使われる場合があります。ただし、用語の定義は国や文脈によって異なるため、議論では具体的な行為と意図を確認する必要があります。


Q6.このページは緩和ケアを否定しているのですか?

A. いいえ。本ページでは緩和ケアを終末期医療の重要な基盤と位置づけています。そのうえで、緩和ケアを十分に提供してもなお残る可能性のある苦痛や、本人の自己決定をめぐる問題について、安楽死制度を含めて検討する必要があるという立場を示しています。


Q7.安楽死制度に反対・慎重な意見もありますか?

A. はい。緩和ケアへのアクセスを優先すべきだという意見、障害者や高齢者など社会的に脆弱な立場にある人への圧力を懸念する意見、意思決定能力の評価や制度の適用範囲の拡大を懸念する研究などがあります。本ページでは、制度化を支持する資料だけでなく、反対・慎重な立場からの研究も紹介しています。


Q8.緩和的鎮静は安楽死と同じですか?

A. 同じではありません。緩和的鎮静は、治療抵抗性の苦痛を軽減するために意識を低下させる医療行為であり、死をもたらすこと自体を目的とする安楽死とは、目的と意図が異なります。EAPCも両者を区別し、治療抵抗性の苦痛に対する緩和的鎮静の適応や比例性などを整理しています。


Q9.安楽死制度を検討する場合、緩和ケアはどう扱うべきですか?

A. 少なくとも制度設計上は、緩和ケアへのアクセス、症状緩和、心理・社会的支援、意思決定能力の確認、本人の継続的な意思確認などをどのように保障するかが重要な論点になります。安楽死制度に慎重な立場からは、まず緩和ケアへの普遍的アクセスを保障すべきだという主張もあります。




嘆願書送付アクション


本サイトでは、各国制度、安全性・濫用防止、緩和ケア、身体疾患による苦痛と自殺などについて、国会提出用の補足資料も公開しています。



書類 一覧


・嘆願書 本文『人道的終末選択の法制化に関する提言書』

・補足資料① 日本における安楽死制度の法的現状と制度的空白

・補足資料② 各国制度比較と日本への制度モデル

・補足資料③ 制度設計・安全性確保・濫用防止策

・補足資料④ 緩和ケアの限界と終末期医療の課題

・補足資料⑤ 身体疾患・身体障害による苦痛と自殺の実態

・カバーレター:ご挨拶(1ページ)

・要約文(2ページ)


※ここまで読んで「日本で制度化するとしたら、どのような安全策が必要なのか」を知りたい方へ → 補足資料③ 制度設計リスクと予防策


「緩和ケアだけでは対応できない苦痛」を制度論として詳しく検討した資料 → 補足資料④




👉 日本に安楽死制度を導入するための5つのポイント|制度化への課題・世界の動向・実現への道筋↓






参考文献・主要資料


本ページでは、終末期の苦痛、緩和ケア、「死を早めたい」という希望、安楽死・医師による自殺幇助(PAS)をめぐる議論について、国立研究開発法人などの公的資料および査読付き学術論文を中心に参照しています。


なお、以下の研究はそれぞれ研究対象・方法・定義が異なるため、個々の研究結果をそのまま「安楽死制度の必要性」の証明とみなすものではありません。反対・慎重な立場からの研究も含め、複数の研究結果を比較しながら検討する必要があります。



1.日本における終末期の苦痛・「死を早めたい」という希望

① Hatano Y, Morita T, Mori M, et al.

Complexity of desire for hastened death in terminally ill cancer patients: A cluster analysis.Palliative & Supportive Care. 2021;19(6):646-655.DOI: 10.1017/S1478951521000080PMID: 33641697

日本の緩和ケア病棟・ホスピス23施設で、終末期がん患者971人を対象とした多施設観察研究です。174人(18%)が「死を早めたい」という希望を表明し、その理由として依存、他者への負担感、無意味感、楽しみを持てないことなどが挙げられました。身体的苦痛だけでは説明できない、多面的な終末期の苦痛を示す研究です。


② Morita T, Sakaguchi Y, Hirai K, Tsuneto S, Shima Y.

Desire for death and requests to hasten death of Japanese terminally ill cancer patients receiving specialized inpatient palliative care.Journal of Pain and Symptom Management. 2004;27(1):44-52.DOI: 10.1016/j.jpainsymman.2003.05.001PMID: 14711468

日本の終末期がん患者について、死を望むことや死を早めることを求める背景を調査した研究です。身体症状だけでなく、「他人への負担」「依存」「無意味感」「将来の苦痛への不安」などが関係していることが報告されています。


③ Rodríguez-Prat A, Pergolizzi D, Crespo I, et al.

The Wish to Hasten Death in Patients With Life-Limiting Conditions. A Systematic Overview.Journal of Pain and Symptom Management. 2024;68(2):e91-e115.DOI: 10.1016/j.jpainsymman.2024.04.023PMID: 38703862

生命を脅かす疾患を持つ患者の「死を早めたいという希望(wish to hasten death)」について、既存の系統的レビューと研究を包括的に検討した研究です。うつ状態、疼痛、身体機能低下、人生の意味の喪失、他者への負担感、QOL低下など、複数の要因が関連することを示しています。


④ Hudson PL, Kristjanson LJ, Ashby M, et al.

Desire for hastened death in patients with advanced disease and the evidence base of clinical guidelines: a systematic review. Palliative Medicine. 2006;20(7):693-701.DOI: 10.1177/0269216306071799PMID: 17060268

終末期患者の「死を早めたい」という希望について35の研究を検討した系統的レビューです。身体症状だけでなく、心理的・実存的・社会的要因が重要であることを指摘しています。


⑤ Rodríguez-Prat A, Balaguer A, Crespo I, Monforte-Royo C.

Feeling like a burden to others and the wish to hasten death in patients with advanced illness: A systematic review.Bioethics. 2019;33(4):411-420.DOI: 10.1111/bioe.12562PMID: 30957897

「自分が家族や他者の負担になっている」という感覚と、死を早めたいという希望との関係を検討した系統的レビューです。身体的・心理的・社会的・実存的苦痛が相互に関連することを示しています。



2.緩和ケアの効果と限界

⑥ Temel JS, Greer JA, Muzikansky A, et al.

Early palliative care for patients with metastatic non-small-cell lung cancer. New England Journal of Medicine. 2010;363(8):733-742.DOI: 10.1056/NEJMoa1000678PMID: 20818875

進行非小細胞肺がん患者を対象とした無作為化比較試験です。早期から緩和ケアを導入することで、QOLや気分、終末期医療のあり方などに改善がみられたことを報告しています。緩和ケアの有効性を示す重要な研究です。


⑦ Zimmermann C, Swami N, Krzyzanowska M, et al.

Early palliative care for patients with advanced cancer: a cluster-randomised controlled trial. The Lancet. 2014;383(9930):1721-1730.DOI: 10.1016/S0140-6736(13)62416-2PMID: 24559581

進行がん患者に対する早期緩和ケアの効果を検討したクラスター無作為化比較試験です。緩和ケアがQOLや症状、患者・家族のケア経験に及ぼす影響を検討する重要な研究です。


⑧ Maltoni M, Scarpi E, Rosati M, et al.

Palliative sedation in end-of-life care and survival: a systematic review.Journal of Clinical Oncology. 2012;30(12):1378-1383.DOI: 10.1200/JCO.2011.37.3795PMID: 22412129

終末期の難治性症状に対して行われる緩和的鎮静について、生命予後への影響を検討した系統的レビューです。緩和ケアにおいて、通常の治療では十分に対処できない症状が存在することを考える際の重要な資料です。


⑨ Astudillo W, et al.

Systematic Review of Common Refractory Symptoms in the End-Of-Life Situation and Its Relation With Euthanasia.2022.

終末期にみられる治療抵抗性の症状について系統的に検討したレビューです。呼吸困難、せん妄、実存的苦痛などを扱い、緩和ケアによって多くの症状が管理可能である一方、なお治療困難な苦痛が存在するという論点を検討しています。

※この論文については、ページ内では「治療抵抗性の苦痛が存在することを示す研究」として使用し、「したがって安楽死が必要である」と直接結論づける根拠としては使用しないことを推奨します。



3.「痛み」だけでは説明できない終末期の苦痛

⑩ Mystakidou K, Parpa E, Katsouda E, Galanos A, Vlahos L.

Pain and desire for hastened death in terminally ill cancer patients.Cancer Nursing. 2005;28(4):318-324.DOI: 10.1097/00002820-200507000-00014PMID: 16046896

終末期がん患者120人を対象に、疼痛と「死を早めたい」という希望との関係を調査した研究です。疼痛と希望との間には統計的関連が認められましたが、疼痛だけで患者の死への希望を説明できるわけではありません。



4.安楽死・医師による自殺幇助をめぐる実証研究

⑪ van der Heide A, Onwuteaka-Philipsen BD, Rurup ML, et al.

End-of-life practices in the Netherlands under the Euthanasia Act.New England Journal of Medicine. 2007;356(19):1957-1965.DOI: 10.1056/NEJMsa071143PMID: 17494928

オランダの安楽死法施行後の終末期医療について、全国調査を行った研究です。安楽死・医師による自殺幇助だけでなく、緩和的鎮静などを含めた終末期医療全体の変化を検討しています。


⑫ Onwuteaka-Philipsen BD, Brinkman-Stoppelenburg A, Penning C, et al.

Trends in end-of-life practices before and after the enactment of the euthanasia law in the Netherlands from 1990 to 2010: a repeated cross-sectional survey.The Lancet. 2012;380(9845):908-915.DOI: 10.1016/S0140-6736(12)61034-4PMID: 22789501

オランダの安楽死法施行前後を含む1990~2010年の終末期医療を比較した全国調査です。安楽死だけでなく、医師による自殺幇助、持続的深い鎮静、患者の明示的な要請のない生命短縮などを含め、制度化後の終末期医療を包括的に分析しています。


⑬ Smets T, Bilsen J, Cohen J, et al.

The medical practice of euthanasia in Belgium and The Netherlands: legal notification, control and evaluation procedures. Health Policy. 2009;90(2-3):181-187.DOI: 10.1016/j.healthpol.2008.10.003PMID: 19019485

ベルギーとオランダにおける安楽死の届出、監督、評価制度を比較した研究です。安楽死制度を考える際に、単に「合法か違法か」だけでなく、どのような監督・審査制度を設けるかが重要であることを検討する資料になります。



5.反対・慎重論および制度上のリスクを検討する研究

⑭ Battin MP, van der Heide A, Ganzini L, van der Wal G, Onwuteaka-Philipsen BD.

Legal physician-assisted dying in Oregon and the Netherlands: evidence concerning the impact on patients in “vulnerable” groups.Journal of Medical Ethics. 2007;33(10):591-597.DOI: 10.1136/jme.2007.022335PMID: 17906058

オレゴン州とオランダのデータを用い、障害者、高齢者、女性、低所得者など「脆弱な立場にある人々」への影響を検討した研究です。安楽死・医師による自殺幇助に対する「弱者への影響」という懸念について、実証データから検討しています。


⑮ Miller DG, Kim SYH.

Euthanasia and physician-assisted suicide not meeting due care criteria in the Netherlands: a qualitative review of review committee judgements.BMJ Open. 2017;7(10):e017628.DOI: 10.1136/bmjopen-2017-017628PMID: 29074515

オランダの地域安楽死審査委員会が公表した「適正な注意義務を満たさなかった」と判断された事例を分析した研究です。制度に審査機構が存在していても、基準の解釈や実際の運用には難しさがあることを検討しています。


⑯ Sjöstrand M, Helgesson G, Eriksson S, Juth N.

Autonomy-based arguments against physician-assisted suicide and euthanasia: a critique.Medicine, Health Care and Philosophy. 2013;16(2):225-236.DOI: 10.1007/s11019-011-9365-5PMID: 22161026

患者の自己決定(autonomy)を安楽死・医師による自殺幇助の根拠とする議論について、批判的に検討した倫理学研究です。自己決定権を重視する立場だけでなく、その概念自体をめぐる反論を確認するための資料として重要です。


⑰ Barutta J, Vollmann J.

Physician-assisted death with limited access to palliative care. Journal of Medical Ethics. 2015;41(3):175-180.DOI: 10.1136/medethics-2013-101953PMID: 25614156

緩和ケアへのアクセスが十分でない状況で、医師による自殺幇助を合法化することの倫理的問題を検討しています。自己決定、代替手段の存在、不平等、緩和ケアとの関係という4つの論点から、慎重な制度設計の必要性を論じています。



6.公的機関による資料

⑱ 国立研究開発法人 国立がん研究センター

人生の最終段階の医療・療養生活の質に関する調査結果報告(令和5年度調査)2025年7月3日

2021年に死亡した患者の遺族を対象とした全国調査で、10,890件の有効回答を分析しています。「医療者がつらい症状にすみやかに対応していた割合」「死亡前1カ月間にからだの苦痛が少なかった割合」「最期の療養場所について医師と話し合った割合」などを示しています。なお、患者本人への直接調査ではなく遺族調査であり、2021年は新型コロナウイルス感染症流行期であったことに注意が必要です。


⑲ 厚生労働省

人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン

人生の最終段階における医療・ケアについて、患者本人による意思決定を基本とし、医療・ケアチームとの十分な話し合いを重視する厚生労働省のガイドラインです。日本の終末期医療における現在の公的な意思決定プロセスを確認する基礎資料となります。


⑳ World Health Organization (WHO)

Palliative care.

WHOは緩和ケアを、生命を脅かす疾患に直面する患者と家族のQOLを改善し、身体的・心理社会的・スピリチュアルな苦痛を予防・軽減するアプローチと位置づけています。緩和ケアを「痛みだけを取る医療」と捉えず、多面的な苦痛への対応として理解するための国際的な基礎資料です。



参考文献の読み方について

本ページで紹介している研究には、無作為化比較試験、前向き観察研究、全国調査、系統的レビュー、倫理学研究など、異なる研究デザインが含まれています。

したがって、「緩和ケアには効果がある」ことと「緩和ケアだけではすべての終末期の苦痛を解消できない」ことは、必ずしも矛盾しません。


また、終末期患者の「死を早めたい」という希望についても、身体的疼痛だけでなく、依存、負担感、無意味感、希望の喪失、実存的苦痛など複数の要因が関係することが複数の研究で報告されています。


一方で、これらの研究結果から直ちに特定の制度の導入が導かれるわけではなく、

緩和ケアの充実、患者の自己決定、社会的支援、制度上の安全確保、第三者による審査などを含めて総合的に検討する必要があります。 



調査・編集方針

本記事は、終末期医療、緩和ケア、難治性苦痛、安楽死制度に関する公的資料および学術文献を調査・整理したものです。


情報源は、原則として以下の優先順位で確認しています。


国立研究開発法人・政府機関等の公的資料

法令・裁判例・国会資料

WHO等の国際機関

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数値を紹介する際には、可能な限り原資料に遡り、調査対象、調査時期、対象人数、評価方法を確認しています。


また、本サイトは安楽死制度の法制化を求める立場で運営されています。そのため、本記事では、制度化を支持する研究だけでなく、緩和ケアを優先すべきとの意見、脆弱な立場にある人への影響、意思決定能力、制度拡大への懸念など、反対・慎重な立場からの研究も併記します。


本記事における外部資料の事実記述と、RiP:Dとしての評価・問題提起は、可能な限り区別して記載しています。


※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の医療・法律上の助言を行うものではありません。


RiP:Dの立場

ここまで見てきた研究・公的調査は、それだけで「安楽死制度が必要である」と結論づけるものではありません。

一方で、終末期の苦痛が身体的疼痛だけではなく、心理的・社会的・実存的な要因を含むこと、また緩和ケアを受けている患者の中にも「死を早めたい」という希望を示す人が存在することは、複数の研究から確認されています。


RiP:Dは、緩和ケアの充実を否定するのではなく、むしろ緩和ケアを終末期医療の基盤として維持・強化したうえで、それでもなお本人が耐え難い苦痛を抱え、継続的かつ明確な意思によって死を選択する場合について、法制度としてどのように扱うべきかを議論する必要があると考えています。


その際には、意思決定能力の確認、本人への圧力の排除、第三者による審査、緩和ケアへのアクセス保障、家族・医療者への支援、制度運用の継続的な検証など、安全性を確保する仕組みを同時に検討する必要があります。

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