top of page

安楽死と自殺の関連性とは?身体疾患・精神疾患の統計から検証【日本・海外】

執筆者の写真: リップディー(RiP:D)
リップディー(RiP:D)
3月31日
読了時間: 19分

更新日:24 時間前

最終更新日:2026年8月25日(随時更新)

※更新履歴:注意点の追加|論文の収載|図表の追加


👉 安楽死の基本的な仕組みや全体像を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください↓


👉 安楽死の定義と分類(積極的・消極的・間接的)の違いは、こちらで整理しています↓


※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、特定の行為を推奨するものではありません。

※本記事の立場について

RiP:Dは日本における安楽死制度の法制化を求める立場から情報発信しています。

そのため、本記事は完全な中立的立場を装うものではありません。


一方で、統計・法律・学術研究については、当会の主張に都合のよい資料だけを採用するのではなく、安楽死と自殺の関連性に否定的・慎重な研究も併記し、読者が原資料を確認できるよう努めています。


本記事における「統計上確認できる事実」「研究者による解釈」「当会の見解」は可能な限り区別して記載します。



安楽死と自殺は同じなのか?


安楽死と自殺は「死を選ぶ」という点で似ているように見えますが、

法律や倫理の観点では明確に区別されています。


安楽死は医療行為として議論されるのに対し、自殺は個人の行為として扱われます。


「この2つは同じなのか?」と疑問に感じる方も多いでしょう。

本記事では、安楽死と自殺の違いを法律と倫理の観点からわかりやすく解説します。




※👉 安楽死をめぐる賛否の論点を体系的に整理したい方は、こちらをご覧ください↓




📝 基本情報


👉 18年間の「健康問題」による自殺者数の推移は、こちらをご覧ください↓



※本記事では、厚生労働省・警察庁等の公的統計、PubMed収載論文、各国政府・公的機関資料を調査し、安楽死・医師幇助自殺と自殺の関連性について整理しています。



✅健康問題による自殺者数の詳細推移(平成19年~令和6年:過去18年分)

平成19~令和6年の自殺者詳細統計の表。身体疾患や精神疾患などの内訳を色枠で示し、平均数値と割合も載る。


健康問題による自殺者数の推移を示す青基調の日本語インフォグラフィック。折れ線グラフと令和6年の内訳、解説文が並ぶ。



青い背景の日本語インフォグラフィック。日本の自殺の半数以上は健康問題が原因と示し、令和1〜5年の円グラフと件数を掲載。



統計を読む際の注意

厚生労働省・警察庁の自殺統計における「原因・動機」は、自殺に至った背景を把握するための統計であり、一人の自殺者について複数の原因・動機が計上される場合があります。


そのため、「健康問題12,029件」という数字を、そのまま「健康問題だけを原因として自殺した12,029人」と解釈することはできません。


また、「健康問題」が記録されていることと、医学的に特定の疾患が自殺の直接的原因であったことは同義ではありません。


本記事では、この点を踏まえ、「自殺者数」ではなく

原則として「原因・動機として記録された件数」という表現を用います。




安楽死と自殺の関連性


・ 身体疾患による苦痛と自殺統計


健康問題による自殺を伝える日本語インフォグラフィック。円グラフや棒グラフで51.2%や毎年1万人超、身体疾患の苦痛を示す】【。
「がん・難病・重度の慢性疾患」など身体的な苦痛で、毎年4000~5000が自ら命を絶つ状況の日本

身体疾患による苦痛と自殺の統計分析を示す日本語インフォグラフィック。2007〜2024年の推移グラフと2024年の内訳、青・赤・緑の折れ線、注意喚起の解説欄。


自殺は単なる個人の意思による選択ではなく、多くの場合、精神的・社会的に追い込まれた結果として生じるとされています。


しかし、自殺の議論では精神疾患が中心に語られがちですが、実際には身体的苦痛を背景とするケースも一定数存在します。

安楽死は医療と制度の問題として議論されるのに対し、自殺は社会的・精神的問題として扱われる点で、両者は本質的に異なります。



※動画では英国の国会議員が、

「イギリスでは毎年650人の末期患者が苦しみから命を絶っている」と報告しています。




👉 世界各国の安楽死制度を知りたい方は、こちらで解説しています↓



・精神疾患による苦痛と自殺統計


日本の自殺原因を解説する青基調のインフォグラフィック。脳や円グラフ、棒グラフで精神疾患、うつ病、健康問題の割合を示す。
毎年、平均7,400が自らの命を絶つ状況の日本

精神疾患による自殺者数の18年推移を示す統計図。青・赤・緑の折れ線と2024年の内訳、支援の重要性を強調している。



👉 安楽死と関係が深い「緩和ケアと安楽死の違い」は、こちらで整理しています↓


👉 安楽死とは何かを整理したい方は、こちらで全体像を確認できます↓




まとめ


安楽死と自殺は混同されがちですが、本質的には全く異なるものです。


  • 自殺:精神的・社会的要因が中心

  • 安楽死:回復不能な身体的苦痛に対する医療・制度の問題



※👉混同されやすい、安楽死と尊厳死の違いをを知りたい方は、こちら(延命治療との関係も整理)↓



特に自殺は多くの場合、精神疾患や孤立と深く関係しており、適切な支援によって防ぐべき課題とされています。


一方で安楽死は、医療・倫理・法制度の中で慎重に議論されるべきテーマです。



「死を選ぶ」という共通点だけで

両者を同一視することはできません。



正しい理解のためには、原因・プロセス・社会的扱いの違いを明確に区別することが重要です。


結論:

安楽死と自殺は別の問題であり、

分けて考えることが議論の前提となります。



👉 世界各国の申請プロセスをまとめて確認する場合はこちら(ハイライト)↓




この統計から政策的に何が言えるのか


① 統計から言えること

健康問題は日本の自殺統計において重要な位置を占めています。


② 統計だけでは言えないこと

健康問題が記録された自殺を、

安楽死制度の対象となり得る患者と同一視することはできません。


③ 政策的論点

したがって、終末期・重篤疾患患者の苦痛と死への意思を、

自殺予防とは異なる制度的枠組みでどのように扱うかが議論になります。


④ RiP:Dの提言

当会は、そのための選択肢として、厳格な適格性審査、複数医師による確認、意思能力評価、第三者審査、記録・監査、統計公開等を備えた法制度の検討を求めています。

👉 補足資料③ 制度設計・安全性確保・濫用防止策




👉 日本における安楽死の法律的な扱いについては、こちらで詳しく解説しています↓


👉 世界の安楽死制度の成立経緯を年代順で知りたい方は、こちら↓


👉 地図で確認する安楽死が合法の国 一覧と各国制度は、こちらで詳しく解説しています↓




図①「自殺と安楽死は同じではない」


通常の自殺

医師幇助自殺

医師による安楽死

主体

本人

本人

医師

最終行為

本人

本人

医師

医療制度内か

原則として違う

制度化された場合あり

制度化された場合あり

法的評価

原則違法

国により異なる

国により異なる

終末期疾患要件

なし

国により異なる

国により異なる

精神疾患

自殺の原因になり得る

国により異なる

国により異なる


図②「日本の健康問題と自殺」


日本の健康問題と自殺の図表。2024年20,320人、原因・動機の健康問題12,029件。内訳にうつ病などの件数が並ぶ。
※「原因・動機」は複数計上される場合があるため、各項目の合計を単純に自殺者数として扱うことはできません。

図③「研究結果は一方向ではない」


図3の日本語インフォグラフィック。安楽死・医師幇助自殺と自殺予防の研究結果が一方向でないと示し、A〜Dの青緑橙紫の枠と矢印、結論は単純でない。



FAQ(よくある質問)


Q1. 安楽死と自殺は同じものですか?

A. 同じものではありません。

通常の自殺は、本人が自らの生命を絶つ行為を指します。一方、安楽死や医師幇助自殺は、医療者の関与、患者の意思確認、疾患・苦痛などの法的要件を伴う制度として議論されています。

ただし、医師幇助自殺を「自殺」と呼ぶべきかについては学術的にも議論があり、用語の定義自体が争点となっています。


Q2. 日本の自殺統計で「健康問題」が多いのは本当ですか?

A. はい。2024年の警察庁・厚生労働省の統計では、原因・動機の大分類として「健康問題」が12,029件で最多でした。001581168.pdf

ただし、原因・動機は複数計上される場合があるため、「12,029人が健康問題だけを理由に自殺した」という意味ではありません。


Q3. 身体疾患による自殺はどのくらいありますか?

A. 2024年の統計では、「悪性新生物」「てんかん」「その他の身体疾患」「身体障害の悩み」を合わせると4,058件の原因・動機が記録されています。

ただし、これも「身体疾患だけが原因だった4,058人」という意味ではありません。


Q4. 精神疾患と身体疾患ではどちらが自殺と強く関連していますか?

A. 単純に比較することはできません。

自殺には身体疾患、精神疾患、身体機能の低下、社会的孤立、経済的問題、家族関係など複数の要因が関係するためです。

日本のがん患者を対象とした研究でも、身体機能低下と大うつ病が自殺関連性と関連していました。


Q5. 安楽死制度があれば自殺は減りますか?

A. 現時点で、そう断定できるだけの研究上の合意はありません。

2022年の系統的レビューでは、安楽死・医師幇助自殺の導入が通常の自殺を減少させるという仮説は支持されませんでした。

したがって、本記事でも「安楽死制度が自殺を減らす」と断定することは避けています。


Q6. 安楽死と緩和ケアは対立するものですか?

A. 必ずしもそうではありません。

緩和ケアは苦痛を軽減し、患者本人の生活の質を支えるための医療です。一方、安楽死制度の是非は、緩和ケアを受けてもなお残る苦痛や自己決定をどのように扱うかという別の制度的・倫理的問題を含みます。

RiP:Dは緩和ケアそのものを否定する立場ではなく、緩和ケアと終末期の自己決定をどのように両立させるかを議論しています。


Q7. 安楽死制度にはリスクはありませんか?

A. あります。

判断能力の評価、本人の意思の自発性、家族や社会からの圧力、精神疾患との区別、対象範囲の拡大、自殺予防との整合性などが重要な論点です。

そのため、安楽死制度を検討する場合には、制度導入そのものだけでなく、審査、第三者確認、記録、監査、統計公開などの安全策を同時に検討する必要があります。


Q8. 安楽死に反対する研究もありますか?

A. あります。

例えば、自殺予防と医師幇助死の関係を問題にする研究や、精神疾患を理由とする医師幇助死について判断能力・回復可能性・脆弱性などを問題視する研究があります。

本記事では、制度推進側の資料だけでなく、慎重論・反対論も紹介します。




嘆願書送付アクション

本サイトでは、各国制度、安全性・濫用防止、緩和ケア、身体疾患による苦痛と自殺などについて、国会提出用の補足資料も公開しています。



書類 一覧


嘆願書 本文『人道的終末選択の法制化に関する提言書』

補足資料① 日本における安楽死制度の法的現状と制度的空白

補足資料② 各国制度比較と日本への制度モデル

補足資料③ 制度設計・安全性確保・濫用防止策

補足資料④ 緩和ケアの限界と終末期医療の課題

補足資料⑤ 身体疾患・身体障害による苦痛と自殺の実態

カバーレター:ご挨拶(1ページ)

要約文(2ページ)







参考文献・主要資料


本ページでは、安楽死・医師幇助自殺と通常の自殺の関連性、身体疾患・精神疾患と自殺との関係について、公的統計、政府資料、査読付き学術論文を中心に参照しています。


学術論文については、可能な限りPubMedに登録されている論文を優先し、著者名、論文タイトル、掲載誌、発行年、巻号、ページ、DOI、PubMed IDを明記しています。


また、安楽死・医師幇助自殺を支持する研究だけではなく、自殺予防との関係や制度上のリスクを指摘する研究、慎重論・反対論、さらに「安楽死・医師幇助自殺を自殺と呼ぶべきか」という概念上の議論を扱った研究も含めています。



1.日本の公的統計・政府資料


1-1.厚生労働省「令和6年の自殺の状況」


厚生労働省.「令和6年の自殺の状況(全国)」

2024年(令和6年)の自殺者数、男女別・年齢別・職業別の状況、原因・動機別の統計などを掲載しています。

2024年の自殺者数は20,320人で、原因・動機別では「健康問題」が12,029件と最も多く記録されています。

なお、原因・動機は複数計上される場合があるため、これらの件数をそのまま「健康問題だけを原因として自殺した人数」と解釈することはできません。


1-2.厚生労働省「令和7年版自殺対策白書」


厚生労働省.『令和7年版自殺対策白書』2025年

自殺の年次推移、令和6年の自殺の状況、海外の自殺の状況、自殺対策の実施状況などをまとめた政府の法定白書です。

自殺が単一の原因によって発生するものではなく、様々な背景・要因が複合して生じる問題であることを理解するための政府資料として重要です。



2.安楽死・医師幇助自殺と通常の自殺の関連性


2-1.Doherty, Axe & Jones(2022)

Doherty AM, Axe CJ, Jones DA. Investigating the relationship between euthanasia and/or assisted suicide and rates of non-assisted suicide: systematic review. BJPsych Open. 2022;8(4):e108.doi: 10.1192/bjo.2022.71PMID: 35656575PMCID: PMC9230443

安楽死・医師幇助自殺(EAS)の導入と、通常の非幇助自殺および自己による死との関連を検討した系統的レビューです。

6研究を対象とし、EASの導入によって通常の自殺が減少するという仮説を検討しています。著者らは、EASの導入が非幇助自殺を減少させるという仮説を支持する結果は得られなかったと結論しています。

本ページにおいて、「安楽死制度を導入すれば通常の自殺が減少する」と単純に結論付けることができないことを示す重要な研究です。

DOI:DOI 10.1192/bjo.2022.71


2-2.Gerson et al.(2019)【重要】

Gerson SM, Bingley A, Preston N, Grinyer A. When is hastened death considered suicide? A systematically conducted literature review about palliative care professionals' experiences where assisted dying is legal. BMC Palliative Care. 2019;18(1):75.doi: 10.1186/s12904-019-0451-4PMID: 31472690PMCID: PMC6717643

安楽死・医師幇助自殺が合法化されている地域において、緩和ケア専門職が、患者の「死を早める行為」「医師幇助自殺」「自殺」をどのように認識・経験しているのかを検討した系統的レビューです。

1,518件の文献をスクリーニングし、30研究をレビューしています。レビューでは、合法的なassisted dyingが行われる地域においても、どのような死を自殺とみなすのか、

またassisted dyingが緩和ケア患者の自殺にどのような影響を与えるのかについて、十分な研究が存在していないことが示されています。

この論文は、本ページのテーマである「安楽死・医師幇助自殺と通常の自殺との関係」を考えるうえで非常に重要です。

特に、「両者の関係はすでに科学的に完全に解明されているわけではない」という点を示す根拠になります。


2-3.Reed(2019)

Reed P.Is "aid in dying" suicide?Theoretical Medicine and Bioethics. 2019;40(2):123–139.doi: 10.1007/s11017-019-09485-wPMID: 30955151

「aid in dying(死への援助)」を「suicide(自殺)」と呼ぶべきかという、概念・倫理上の問題を検討した論文です。

著者は、医師が処方した生命を終わらせる薬を患者本人が服用する場合、患者が死を意図していることから、それを「自殺」と呼ぶことを避ける十分な概念的・哲学的理由はないと論じています。

つまり、安楽死・医師幇助自殺と通常の自殺を区別する場合には、

制度上・法律上の区別だけでなく、「自殺」という言葉をどう定義するかという学術的議論も存在することに注意する必要があります。

DOI:DOI 10.1007/s11017-019-09485-w



3.自殺予防との関係・慎重論


3-1.Kious & Battin(2019)

Kious BM, Battin MP. Physician Aid-in-Dying and Suicide Prevention in Psychiatry: A Moral Crisis? The American Journal of Bioethics. 2019;19(10):29–39.doi: 10.1080/15265161.2019.1653397PMID: 31557090

医師幇助死と自殺予防、とりわけ精神医学における自殺予防との間に生じる倫理的緊張を検討した論文です。

精神疾患による深刻な苦痛と、精神疾患を背景とする自殺をどのように区別するのか、また医師幇助死を認める場合にどのような基準が必要になるのかという問題を提示しています。

DOI:DOI 10.1080/15265161.2019.1653397


3-2.Grassi et al.(2022)

Grassi L, Folesani F, Marella M, Tiberto E, Riba MB, Bortolotti L, Toffanin T, Palagini L, Belvederi Murri M, Biancosino B, Ferrara M, Caruso R.Debating Euthanasia and Physician-Assisted Death in People with Psychiatric Disorders. Current Psychiatry Reports. 2022;24(6):325–335.doi: 10.1007/s11920-022-01339-yPMID: 35678920PMCID: PMC9203391

精神疾患を持つ人に対する安楽死・医師幇助死について、医学・精神医学・倫理上の論点を検討したレビューです。

特に、精神疾患の不可逆性をどのように判断するか、自殺予防と医師幇助死をどのように両立させるか、脆弱な集団への適用範囲をどこまで認めるかなど、制度設計上の難しい問題を論じています。



4.身体疾患・がんと自殺


4-1.Akechi et al.(2002)

Akechi T, Nakano T, Akizuki N, Nakanishi T, Yoshikawa E, Okamura H, Uchitomi Y.Clinical factors associated with suicidality in cancer patients.Japanese Journal of Clinical Oncology. 2002;32(12):506–511.doi: 10.1093/jjco/hyf106PMID: 12578898

日本のがん患者における自殺関連性(suicidality)と臨床的要因を検討した研究です。

1,713件の精神科紹介例のうち62例が自殺関連性を理由とする紹介で、その中には自殺念慮、自殺企図、安楽死・持続的鎮静を求めたケースが含まれていました。多変量解析では、

身体機能の低下と大うつ病が自殺関連性と有意に関連する要因として示されています。

身体疾患だけを単純な原因として扱うのではなく、身体機能や精神状態など複数の要因を考える必要性を示す、日本の研究として重要です。

DOI:DOI 10.1093/jjco/hyf106


4-2.Fang et al.(2008)

Fang F, Valdimarsdóttir U, Fürst CJ, Hultman C, Fall K, Sparén P, Ye W. Suicide among patients with amyotrophic lateral sclerosis. Brain. 2008;131(Pt 10):2729–2733.doi: 10.1093/brain/awn161PMID: 18669498

スウェーデンのALS患者6,642人を対象とした人口ベースのコホート研究です。

追跡期間中に21人が自殺し、一般人口から予測される3.6人と比較して、ALS患者では自殺リスクが高く、標準化死亡比(SMR)は5.8(95% CI 3.6–8.8)でした。特に診断・入院初期のリスクが高いことが示されています。

身体疾患、とりわけ進行性神経疾患と自殺リスクの関係を考える際の重要な疫学研究です。

DOI:DOI 10.1093/brain/awn161



5.ALSと安楽死・医師幇助自殺


5-1.Veldink et al.(2002)

Veldink JH, Wokke JHJ, van der Wal G, Vianney de Jong JMB, van den Berg LH.Euthanasia and physician-assisted suicide among patients with amyotrophic lateral sclerosis in the Netherlands.New England Journal of Medicine. 2002;346(21):1638–1644.doi: 10.1056/NEJMsa012739PMID: 12023997

オランダのALS患者について、安楽死・医師幇助自殺がどの程度選択されたのかを調査した研究です。

死亡したALS患者279人について医師を対象に調査し、回答が得られた203例のうち35人(17%)が安楽死、6人(3%)が医師幇助自殺によって死亡していました。また、48人(24%)には生命を短縮した可能性のある緩和的治療が行われていました。

ALSという重篤な身体疾患において、安楽死・医師幇助自殺・緩和的治療など、終末期における様々な選択が存在することを示す重要な研究です。

DOI:DOI 10.1056/NEJMsa012739



6.安楽死・医師幇助自殺に関する国際的研究


6-1.Grove et al.(2025)

Grove GL, Lovell MR, Hughes I, Maehler E, Best M.Voluntary-assisted dying, euthanasia and physician-assisted suicide: global perspectives—systematic review.BMJ Supportive & Palliative Care. 2025;15(4):423–435.doi: 10.1136/spcare-2024-005116PMID: 40175060

2025年に発表された国際的な系統的レビューです。

2023年7月までに公表された研究を対象に、患者、医療従事者、一般市民など様々な集団における安楽死・医師幇助自殺への態度を検討しています。安楽死等への支持は、対象となる疾患や状況、回答者の属性などによって変化することを示しています。

安楽死制度をめぐる社会的議論が単純な「賛成/反対」ではなく、対象となる疾患、苦痛、制度条件などによって評価が変化する問題であることを示す資料として有用です。

DOI:DOI 10.1136/spcare-2024-005116



7.本文の主張と参考文献の対応


本文で扱う主張

推奨する主要出典

2024年の自殺者数は20,320人

厚生労働省「令和6年の自殺の状況」

「健康問題」は12,029件

厚生労働省「令和6年の自殺の状況」

自殺には複数の背景・要因が存在する

令和7年版自殺対策白書

身体機能と自殺関連性

Akechi et al. 2002

がん患者の自殺関連性

Akechi et al. 2002

ALS患者の自殺リスク

Fang et al. 2008

ALS患者における安楽死・医師幇助自殺

Veldink et al. 2002

安楽死・医師幇助自殺と通常の自殺の関連

Doherty et al. 2022

合法化地域における「自殺」と死を早める行為の境界

Gerson et al. 2019

医師幇助死を「自殺」と呼ぶべきか

Reed 2019

自殺予防と医師幇助死の倫理的緊張

Kious & Battin 2019

精神疾患と医師幇助死

Grassi et al. 2022

国際的な安楽死・医師幇助自殺への態度

Grove et al. 2025



8.研究結果を解釈する際の注意点


これらの研究は、それぞれ対象者、対象国、法律制度、研究方法、調査期間が異なります。

そのため、個々の研究結果だけから、

「安楽死制度の導入によって自殺が増える」

あるいは、

「安楽死制度によって自殺が減る」

といった因果関係を断定することはできません。


特にDohertyらの系統的レビューでは、6研究を対象として検討した結果、EAS導入が非幇助自殺を減少させるという仮説は支持されませんでしたが、一部の研究では社会人口学的要因を調整すると非幇助自殺の増加は統計的に有意ではなくなっています。


したがって、

「安楽死制度が自殺を増加させることが証明された」と読むことも適切ではありません。 


またGersonらの系統的レビューでは、合法的なassisted dyingが行われる地域についても、患者の自殺、合法的な医師幇助死、その他の「死を早める行為」の境界や相互関係について、なお十分な研究が存在しないことが指摘されています。


したがって、本ページでは、


①公的統計が示す事実

②個別の学術研究が示す知見

③研究間で一致していない点

④現在も研究上の空白が残っている点

⑤RiP:Dとしての政策的見解


を可能な限り区別して掲載しています。


安楽死制度については、制度導入の是非だけではなく、自殺予防、精神疾患、身体疾患、意思決定能力、緩和ケア、社会的孤立、本人の自己決定など、複数の観点から検討する必要があります。



9.本ページで特に重要な探求ポイント


本ページのテーマを理解するうえで、特に重要なのは次の3つです。


① 「安楽死と自殺は同じなのか」という問題

Reed(2019)は、医師幇助自殺を「自殺」と呼ぶことを避けることに概念的な問題があると論じています。


一方で、実際の制度では「通常の自殺」と「合法的な医師幇助死」を法律上・制度上区別して扱う国もあります。


したがって、「統計上どう分類されるのか」と「倫理・概念上どう定義するのか」は別問題として考える必要があります。



② 「安楽死を合法化すると通常の自殺は減るのか」という問題

Dohertyら(2022)は、この問題を直接扱った系統的レビューです。

その結果、安楽死制度の導入によって非幇助自殺が減少するという仮説は支持されませんでした。

ただし、これは「安楽死制度が自殺を増加させることが証明された」という意味でもありません。



③ そもそも「合法的な死」と「自殺」の境界について研究が十分なのか

ここでGersonら(2019)が非常に重要になります。

合法的なassisted dyingが存在する地域を対象にした30研究のレビューでも、

どのような死を自殺とみなすのか、assisted dyingが自殺にどのような影響を与えるのかについて、なお明確な研究結果が不足しているとされています。


したがって、本ページでは「安楽死と自殺の関係について結論が出ている」とするのではなく、厳密な意味において、両者の関係について複数の研究が存在する一方、


因果関係や概念上の境界については、

なお議論と研究上の課題が残っている


と表現するのが学術的には妥当といえます。




本記事では、厚生労働省・警察庁等の公的統計、PubMed収載論文、各国政府・公的機関資料を調査し、安楽死・医師幇助自殺と自殺の関連性について整理しています。


調査方法

本記事では、①日本の公的統計、②PubMed収載の査読付き学術論文、③海外政府・公的機関資料、④安楽死・医師幇助自殺に反対または慎重な立場からの研究、の4種類の資料を確認しています。


統計については、原則として一次資料を優先し、学術研究については論文タイトル、著者、雑誌名、発行年、巻号、ページ、DOI、PubMed IDを可能な限り明示しています。


また、安楽死制度に対する当会の立場と、研究によって確認できる事実・研究者による解釈は区別して記載しています。



編集・調査方針


  • 匿名運営であること

  • 特定の個人の医療行為を代替しないこと

  • 公的資料優先

  • 査読論文優先

  • 更新日

  • 訂正履歴

  • 利益相反

  • 推進派・反対派双方を確認すること

  • 数値の出典

  • 原資料へのリンク



このページで確認した研究

🟢 制度導入による自殺減少を検討

🔴 減少を支持しない研究

🟠 自殺予防との倫理的緊張

🔵 精神疾患における問題

⚪ 概念・用語の議論

コメント

5つ星のうち0と評価されています。
まだ評価がありません

評価を追加

Rest in Peace with Dignity
 (RiP:D リップディー)
~安楽死の合法化をめざす会~

連絡先

・X公式アカウント
 

鶴 折り紙アイコン

YouTube 公式チャンネル

リップディーのYouTubeチャンネルの紹介画像

国内外の安楽死制度・法律・社会的議論について
最新情報を毎日発信しています。

安楽死制度・法制度の理解に役立つ、

国内外の解説動画や関連コンテンツを
YouTubeで紹介しています。

リップディー(RiP:D)~安楽死の合法化をめざす会~| 安楽死制度の成立

bottom of page