イギリス安楽死法案はなぜ進まない?上院(貴族院)の遅延戦術を解説
- リップディー(RiP:D)

- 2025年11月25日
- 読了時間: 7分
更新日:4月9日
👉安楽死の基本的な定義や全体像については、こちらで体系的に整理しています。
👉 安楽死制度の全体像については「世界の安楽死制度」を先にご覧ください。
イギリスでは現在、安楽死を合法化する法案が国会で審議されています。
この法案は下院で可決されましたが、しかし上院(貴族院)での審議が停滞しています。
背景には、少数の貴族院議員による大量の修正案提出など、
いわゆる「遅延戦術」があると指摘されています。
この記事では、イギリス安楽死法案の上院審議の現状と、審議が進まない理由を解説します。
🎧音声による動画解説
要約図(自由使用可)

1.イギリス安楽死法案が上院議会で停滞
イギリス上院議会(House of Lords)で審議されている安楽死法案(Terminally Ill Adults (End of Life) Bill:末期疾患成人のための人生終了法案) が、現在、深刻な停滞に陥っています。
背景には、反対派の少数上院(貴族)議員(Peers)による大量の修正案提出など、実質的な「遅延戦術」ともいえる行為があり、このままのペースでは審議に 20年以上を要する可能性が指摘されています。
この法案は、「余命6か月以内」「判断能力のある成人」が医師の支援のもとで人生の最終選択をすることを認めようとするものです。
・世論調査では 約80%が賛成
・Dignity in Dying などの安楽死支持団体が長年キャンペーン
・2025年夏、下院では大きな反対なく通過
これまで経緯を振り返ると極めて順調に進んでいました。
2.安楽死法案の審議が停滞する理由|少数派による遅延戦術
ところが、上院は非選挙の貴族院という構造上、
伝統的価値観・宗教的信条を持つ少数派の影響力が強く働きます。
「慎重審議」を名目にしていますが、実質的には“引き延ばし”と受け止められています。
BBC(2025年11月14日)によれば、上院には 過去最多900~1000件超の修正案が提出されました。内容は、
・「過去に英国を離れた者は対象外」
・「家族構成を再確認する追加要件」
といった、法案の核心から外れた論点も多く、議論を分散させています。
直近の金曜日審議では 7件 しか扱われず、単純計算で 20年以上の審議期間 が必要になります。
現地のニュースメディアは、「非選挙の貴族議員による民主主義への侮辱」と強く批判。
(日本とは違って)マトモなイギリスの人権団体も、「talked out(話し尽くしによる葬送)」の危険を指摘しています。
下院議員からは懸念が相次いでいます。
・キット・マルスハウス議員 →「決定権は選挙された政治家にあるべき」
・アンドリュー・ロンズリー氏 →「下院で可決した法案を“議論の名の下で潰す”のは恥ずべき行為」
反対派は「強制や圧力のリスク」を理由とする修正案を正当化していますが、支持派からは、その多くは“名目に過ぎない”との見方が強い印象です。
「宗教的・伝統的価値観」vs「国民の多数意見」
が衝突している構図です。
ちなみに日本も同様の構造が起きています。
日本で安楽死議論が進みにくい理由は、
特に宗教団体の影響力が実態以上に可視化されていない点があり、イギリスとは遠く離れた国ながら、実は根っこ部分では共通していることを強調しておきます。
👉 そもそも安楽死をめぐる賛否の構造は、こちらで詳しく整理しています
👉 安楽死おろか尊厳死にも反対する宗教団体とは↓
3.なぜ制度は前に進まないのか|民主主義と立法過程の歪み
またイギリス上院での安楽死法案停滞は、単なる一法案の問題ではなく、
・二院制の構造的限界
・非選挙の貴族(上院議員)が持つ拒否権的影響力
・国民多数の声との齟齬
これらを浮き彫りにしています。
安楽死支持団体 My Death, My Decision は、審議の迅速化と、市民の声に基づく判断を求めています。
将来的にこの法案が成立すれば、欧州での安楽死合法化の流れに大きな影響を与えるでしょう。引いてはアジア圏にも大きな影響をもたらします。
日本からも注視すべき動向です。
下院議会で熱弁していたキット・マルスハウス議員の名スピーチ
※むふむふチャンネル様の提供動画
👉安楽死と“自殺”の違いについては、誤解が多いため別記事で整理しています
👉終末期医療における選択肢は、安楽死だけではありません
👉尊厳死や緩和ケアとの違いも含めて理解することが重要です
4.イギリス上院議会 貴族院(House of Lords)の
役割と立法権限
イギリス安楽死
日本と同じようにイギリスも二院制で、上院(貴族院)は、いわば“参議院”に相当する…かのように映ります。
しかしイギリスの場合は他国と違い、上院議員は、日本の参議院選挙のように、選挙によって選ばれてはいません。 画像のように「はぁ?」みたいな仕組みをもっています。
極め付けは、聖職者26人は『特権的に』議席を持つことができる事実。こんな“ヘンテ古風”な仕組みが残るのはイランだけです。
日本もアレですが、英国議会も「こんなもん」です。 驚きませんか?

イギリスの上院(しいて言えば)日本の参議院にあたる国会議員は、選挙で選ばれた人物ではなく、
世襲貴族、首相が推薦する終身貴族、
イギリス国教会から自動的に選出される聖職者26人で成り立っています。
なんというか…
非常に前時代的と感じますし、実際に一院制に変更しようという動きはあるのですが、
今のところ古めかしい政治システムとなっています。
当初の予定では、2025年以内に成立するはずでしたが、この姑息な遅延戦術(フィリバスター)のために来年に持ち込まれそうです。
👉なお、日本でも法整備が進まない背景には類似した構造があります
👉 安楽死の全体像を知りたい方はこちら
👉 各国の安楽死制度や最新動向については、世界の安楽死動向をまとめたこちらの記事もご覧ください
FAQ
Q. なぜイギリスの安楽死法案は上院で止まっているのですか?
A. 上院(貴族院)は法案を慎重に審査する役割を持ち、倫理的・制度的な問題に対して厳しい検討が行われます。特に安楽死法案は対立が激しく、修正案の多さや審議の長期化によって停滞しています。
Q. 少数派でも法案を止められるのはなぜですか?
A. 上院では審議時間の延長や修正案の提出を通じて、少数派でも進行を遅らせることが可能です。このような議会運用により、合意が形成されるまで法案は成立しません。
Q. イギリスの上院とはどのような役割ですか?
A. 上院(貴族院)は、下院で可決された法案を精査・修正する役割を持つ機関です。政治的多数派に左右されにくく、特に倫理問題では慎重な審議が行われます。
Q. 安楽死法案は今後成立する可能性はありますか?
A. 可能性はありますが、現時点では不透明です。強い反対と多数の修正案により、成立までに時間がかかる、または成立しない可能性もあります。
Q. なぜ安楽死はこれほど議論が長引くのですか?
A. 安楽死は「生命の価値」「自己決定」「社会的弱者の保護」といった根本的な価値観が衝突するテーマであり、単純な多数決では解決できない問題だからです。
「世界の安楽死制度の全体像」については、こちらをご覧ください↓








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