【アイスランド安楽死 #1】アイスランド 安楽死 現在の状況|法案の提出・中断と最新動向
- リップディー(RiP:D)

- 2025年12月14日
- 読了時間: 4分
更新日:1月3日
🎧音声による動画解説
アイスランド 安楽死 現在の状況 ― 法制化の試みとその先
1.アイスランドという国の基礎的背景

アイスランドは、ヨーロッパ北西部、北大西洋に位置する島国です。国土の多くは氷河や火山地帯で構成されており、居住可能な地域は沿岸部を中心とした限られた範囲に集中しています。

人口は約38万人と非常に小規模ですが、教育・医療・社会保障の水準は高く、北欧型福祉国家の特徴を色濃く備えています。

宗教的には、プロテスタント系キリスト教(ルター派)が歴史的に多数派を占めています。ただし、現代の欧州社会では世俗化が大きく進んでおり、宗教的教義が政策判断を直接左右する場面は限定されつつあります。

同性婚はすでに法的に認められており、個人の自由や自己決定を尊重する価値観が社会全体に共有されています。
このような土壌は、「どのように生きるか」だけでなく、「どのように生を終えるか」という問いに対しても、個人の尊厳を重視する思考を育んでいると言えるでしょう。
2.2024年3月:安楽死法案の提出

2024年3月11日、アイスランド国会において、同国で初めて安楽死に関する法案が正式に提出されました。
提出者は、当時の与党であった進歩党(Progressive Party)所属の国会議員、カトリン・シグリズル・J・ステインスドッティル議員です。

この出来事は、ヨーロッパ全体で広がる「死ぬ権利」や「自己決定としての最期」を尊重する潮流が、北欧の一角であるアイスランドにも到達したことを象徴する出来事でした。
3.参照モデルとしての「オランダ型安楽死制度」
本法案の特徴として注目されたのは、その参照モデルです。
しかしこの方式では、
・余命6か月以内に限定されること
・非末期疾患が対象外となること
・精神疾患が適応外とされること
・多重審査により手続きが長期化すること
といった厳格な条件が課されています。
特にイギリスでは、医師の判断に加えて高等裁判所による確認が想定されており、その厳格さゆえに、申請中に患者が死亡してしまう可能性が現実的に指摘されています。スペインやオーストラリアでも、制度は存在するものの、対応が間に合わない事例が報告されています。
オーストラリアではこうした問題を受け、対象期間を「余命6か月」から「余命12か月」に延長する議論が行われているほどです。
これに対し、オランダ型モデルは、末期・非末期という形式的区分を設けず、「耐え難い苦痛」を中心概念とし、医学的・倫理的審査を制度内部で完結させる構造を持っています。
実質的な患者保護と自己決定を重視する点において、より柔軟かつ現実的な制度と評価されています。
アイスランドの法案がこのオランダ型制度を参照しようとした点は、国際的潮流を的確に捉えた判断であったと言えるでしょう。
4.国際社会からの反応と評価

この法案は、「世界死ぬ権利団体連盟(World Federation of Right to Die Societies)」によっても取り上げられ、国際的な注目を集めました。

同連盟は、世界各国の安楽死・尊厳死団体、法学者、倫理学者、緩和ケア医を含む医療従事者などで構成される、国際的に信頼性の高い組織です。

なお、2026年の世界大会は日本で開催される予定であり、安楽死をめぐる議論が世界的規模で深化していることを示しています。
5.政権交代による法案中断(2024年10月)
しかしながら、2024年10月の総選挙により、アイスランドでは政権が交代しました。その結果、安楽死法案は審議途中で中断され、最終的な採決には至りませんでした。
この点は、制度内容そのものが否定されたというよりも、政治的事情による立法プロセスの停止であると理解するのが妥当です。フランスをはじめ、他の欧州諸国でも同様の事例が見られます。
6.今後の展望と総合的評価
ヨーロッパ全体において、「自己決定としての死」を肯定的に捉える潮流は、もはや一時的な現象ではありません。
アイスランド社会においても、この価値観は着実に浸透していると考えられます。
残念ながら、2025年以降は、アイスランドで安楽死制度が成立したという事実はありません。2024年に提出された法案の審議が中断したままであり、再び公式な議論が開始されたという情報も確認できていません。
現行法では安楽死・自殺幇助は依然として禁止されています。
しかしながら、再度の法案提出や、別の形での立法的試みが行われる可能性は十分に残されています。北欧の小国で起きたこの立法の試みは、決して局所的な出来事ではなく、欧州全体、さらには日本社会にとっても重要な示唆を与える事例であると言えるでしょう。




