【イギリス 安楽死 #4】英国 安楽死法案の審議が停滞する理由|貴族院で続く遅延戦術(フィリバスター)の実態
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【英国 安楽死法案の審議が停滞する理由|貴族院で続く遅延戦術(フィリバスター)の実態】
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審議が停滞している英国の安楽死法案とは(英国 安楽死法案 遅延戦術)
英国では現在、「Terminally Ill Adults (End of Life) Bill(終末期成人者法案、以下「安楽死法案」)」が議会で大きな注目を集めています。
この法案は、末期の病気に苦しむ成人が条件を満たせば、自らの意思で死を選択する支援を合法化するものです。
すでに下院(庶民院)では可決されましたが、上院(貴族院)での審議が大幅に遅れ、成立の見通しが不透明になっています。
なぜ貴族院で審議が遅れているのか
安楽死法案は2025年6月に庶民院(下院)で可決され、貴族院(上院)で審議中です。通常、上院での議論は慎重に行われますが、今回の法案では特に
異常に多くの修正案が提出され、
議論が極めて遅いペース
になっています。
人権団体「Humanists UK」や「My Death, My Decision」は、審議を遅らせるために
7名の貴族院議員が多数の修正案を提出している
と分析しています。
現時点で修正案は総数1,227件に達し、過去最多の記録となっているとの指摘です。多くは重複したり、実務的に不可能な内容であると批判されています。
異常な修正案提出とフィリバスターの実態
この動きは、
時間切れで法案を失効させることを意図した戦術(フィリバスター)
であるという非難が出ています。
Humanists UKなど人権団体の分析と警告
イギリスの著名な人権団体Humanists UKによる分析では、現在の進行ペースでは
2030年代以降まで審議が続く可能性すらあると試算されています。
支持者の主張|苦しむ当事者の時間が失われている
支援者側の危機感:「人間の苦しみを置き去りにしないで」
支援者でこの法案の原案者の一人であるキム・リードビター下院議員は、
「不要で冷酷な修正案が多数提出され、法案の本来の目的を見失わせている」と述べています。
特定の修正案には、申請者が前年に海外渡航歴がある場合に適用を制限するものや、家族の財産調査を義務づけるものなど、当事者や家族にとって過度に厳しい内容も含まれていると批判しています。
人権団体Humanists UKの支持者は、
「手続きを延ばすごとに、苦しんでいる人たちの選択肢が奪われ、尊厳ある最終章を迎える権利が後回しにされる」
と述べています。審議の遅れは、個々人の痛みと向き合う時間を失わせるという強い危機感が背景にあります。
反対派の主張|慎重審議と保護策の必要性
反対派の立場:「慎重な審議は必要」
一方で法案反対派や修正案提出者は、
「上院は十分な審査と懸念点の対処が義務づけられている」
と主張しています。
医療団体や障害者支援団体の一部は、この法案が不十分な保護策しか盛り込んでおらず、弱い立場の人々を危険にさらす可能性があると警鐘を鳴らしています。欧州の医療機関の見解を反映し、法案の構造的な問題点を指摘する声もあります。
また、上院の役割は単に庶民院の判断を追認することではなく、慎重な審査を行うことであるという立場も示されています。
成立期限とParliament Act 1911という選択肢
安楽死法案が成立するためには、現在の議会セッション(2026年5月終了予定)中にすべての審議を完了し、両院で可決されることが必要です。
現状のままでは審議時間が足りず、法案は自動的に失効してしまう懸念が高まっています。
審議の遅れを受け、支援者側は以下の代替案を模索しています。
⇒「パーラメント法1911(Parliament Act)」の活用
この古い制度は、上院が審議を継続し議決しない場合でも、一定の条件で下院主導で法案を成立させられる可能性を持つものです(別称“核オプション“)。
これまでに7回使われた歴史がありますが、私的議員立法(Private Members’ Bill)に使われるのは前例がなく、政治的にも論争を呼んでいます。
支援者側はこの手段が適用可能であれば、法案成立への道を開けると見ていますが、反対派からは「上院の審査権を奪うものだ」と批判されており、憲政上の論争を呼んでいます。
⇒次の議会セッションに持ち越す
現行セッションで成立が困難なら、法案を次の議会に持ち越す、あるいは再提出するという選択肢もありますが、これには時間と政治的合意の再構築が必要です。
議会制度の問題として浮かび上がる本質
安楽死の法制化は、単なる制度議論ではありません。それは、人生の最終章における痛みや尊厳、自己決定権をどう守るかという根源的な問いです。
一方で議会制度の役割や手続きの透明性も重要です。どちらか一方だけを重視するのではなく、両者のバランスを取る議論が求められています。
もっとも、本件については、もはや「慎重審議」の範囲を超えた明白な遅延戦術であることは否定しがたい状況にあります。
提出されている修正案の多くは、法案の安全性や実務的改善に直接資するものではなく、審議時間を引き延ばす効果しか持たない内容が目立ちます。
事実、安楽死法案に反対の立場を取る貴族院議員の中からも、こうした手法に対する公然たる批判が出ています。
反対派であっても、「議会の役割は熟議であり、制度を空洞化させるための時間稼ぎではない」とし、少数の議員による大量修正案提出を姑息で、議会の品位を損なう行為と断じる声が上がっているのです。
市民に問われている「議会は誰のためにあるのか」
この点は重要です。問題となっているのは、賛否の立場そのものではありません。
正面から反対論を戦わせるのではなく、制度上の隙間を利用して議論そのものを成立させない手法が用いられていること、そしてそれが民主的な意思形成の過程を歪めているという点にあります。
もはやこれは、安楽死というテーマ固有の対立を超え、
議会は誰のために、どのように機能すべきなのか
という、制度そのものへの問いを突きつけています。
この法案をめぐる遅延戦術や制度的な課題は、私たち自身の日常と関係しています。
「誰のための制度なのか」「どのような社会を目指すのか」という視点を、市民として改めて考える機会として捉えたいものです。
まとめ|英国安楽死法案をめぐる停滞の要点
・安楽死法案は庶民院では可決されたが、貴族院での審議が大幅に遅れている。
・7名の貴族院議員による多数の修正案提出が、時間切れを狙う遅延戦術(フィリバスター)と批判されている。
・賛成者は「Parliament Act」を含む制度的突破を検討する一方、反対派は慎重な審査の重要性を主張している。
・法案成立期限は2026年5月頃とされ、成立・持ち越しの双方に課題がある。
補足|フィリバスターを主導する貴族院議員

フィリバスターの中心人物(2名)

・Baroness Finlay of Llandaff(フィンレイ女男爵)
多くの修正案(約191件)を提出しており、最大の提出者です。提出数が突出しており、遅延戦術の中心にいると評価されることが多いです。
医学博士であり、終末期ケア・緩和医療の専門家として長年活動。
ウェールズで緩和ケアの第一人者であり、上院でも医療倫理や終末期医療について発言が多い議員です。

・Baroness Grey-Thompson(グレイ=トンプソン女男爵)
修正案約130件と、非常に多くの提案をしており、フィンレイ女男爵に次ぐ提出数です。
こちらも審議の遅延に影響を与えている主要な議員です。
英国を代表するパラリンピック金メダリストであり、後に上院議員となった人物です。
スポーツ界での活躍だけでなく、障害者政策や公共政策に関する議論にも積極的に関わっています。安楽死法案では、専門的審議や追加的検証を求める立場から多数の修正案を提出しています。











