安楽死の方法とは?医師投与・自己投与・両方型|世界の制度を比較

更新日:9月9日
最終更新日:2026年9月5日(随時更新)
※更新履歴:各国制度の実施方式を公的資料に基づき再確認|PubMed収載論文を追加|
ベルギー・カナダ・スペイン・オーストラリアの制度記述を更新|反対・慎重論に関する研究を追加
👉 安楽死の基本的な仕組みや全体像を知りたい方は、こちらの記事をご覧ください↓
👉 安楽死の定義と分類(積極的・消極的・間接的)の違いは、こちらで整理しています↓
安楽死の議論は、「認めるかどうか」だけではありません。
実際には、「どの方法で実施するのか」によって、その意味と倫理は大きく変わります。
医師が直接行うのか、それとも本人が行うのか——この違いこそが、世界の制度を分ける最大の分岐点です。
安楽死制度を比較するとき、重要な分岐点の一つが「誰が最終的な行為を行うのか」という点です。
医療者が実施する制度、本人が自己投与する制度、双方を認める制度があり、その違いによって医師の責任、本人の自己決定、審査・監査の仕組みも変わります。
🎧音声による動画解説
要約図(自由使用可)

安楽死の方法|安楽死には3つのタイプがある
積極的安楽死には、その方法として大きく分けて3つのタイプがあります。
※👉「積極的安楽死とは」については、こちらを参照してください↓
・医師投与型(医療者が薬剤を投与する方式)
・自己投与型(患者自身が薬を服用・注入)
・両方とも可能型(状況に応じて選択が可)
世界ではすでに複数の国・地域が制度化を進めていますが、その“形”は驚くほど違います。
なぜ、同じ「安楽死」というテーマでありながら、これほど制度の設計が異なるのでしょうか。
本稿では、各国の状況を整理しながら、その背後にある倫理観・法思想・政治的背景を、市民の視点で考えてみたいと思います。

※留意点
安楽死・assisted dyingの実施方法は国によって異なる
世界の制度を実施方法から見ると、大きく次の3つのパターンに整理できます。
① 医療者による投与
医療者が、法定された手続きと条件のもとで薬剤を投与する方式です。
② 本人による自己投与
医療者が適格性の確認や薬剤の提供などを行ったうえで、最終的な投与・服用を本人自身が行う方式です。
③ 医療者による投与と自己投与の双方を認める方式
患者の状態や制度上の条件に応じて、医療者による実施と本人による自己投与の双方を選択できる制度です。
ただし、これは世界各国の法律を
完全に3分類できるという意味ではありません。
例えばカナダ、スペイン、オーストラリアの一部の制度では、医療者による実施と自己投与の双方が制度上認められています。一方、スイスや米国の多くの州では、本人による自己投与を前提とする医師幇助自殺型の制度が中心です。
また、同じ「両方型」に分類される国でも、実際の利用割合や適格要件、医師の関与、第三者審査、事後報告などは大きく異なります。
したがって、「医師投与か自己投与か」だけを見るのではなく、誰が最終的な行為を行うのか、誰が適格性を判断するのか、どのような監査・報告制度が存在するのかまで、最終的に各国ごとに確認することが重要です。
👉 安楽死が合法な国の一覧はこちらで確認できます
医師投与型の安楽死|南米で採用される制度と背景
主な国
(※ザックリ言うと南米の国々)
ウルグアイ エクアドル キューバ
コロンビア ペルー
南米では、積極的安楽死が合法化された国の多くが、
医師による投与を基本形としています。
なぜ医師投与型なのか
南米の特徴は、制度化の出発点が
議会での立法ではなく、
憲法裁判所の判断である場合が多い
ことです。
たとえばコロンビアでは、1997年の憲法裁判所判決が契機となり、
「一定条件下で医師が安楽死を実施しても処罰されない」という形で制度が形成されました。
つまり、
医師が責任主体として苦痛を除去する
という構造で非犯罪化が進んだのです。
カトリック文化圏という背景も無関係ではないでしょう。
「自殺幇助」という言葉への心理的抵抗が強い社会では、医療行為としての厳格な枠組みの中でのみ受け入れられやすい、という事情があります。
※例 👉 コロンビアの安楽死について↓
自己投与型の安楽死|スイス・アメリカ・オーストラリアの制度
主な国・地域
・スイス(※医師投与は例外なく犯罪)
・アメリカ
・オーストラリア
・ニュージーランド
など
これらの地域では、
原則として患者本人が最終的に実行する制度
が採られています。
医師は診断や適格性の確認、薬剤の処方までは行いますが、実際の致死行為は患者自身が行います。
なぜ自己投与型なのか
このモデルは、「自己決定権」を最も強く打ち出す形です。
医師が“命を奪う”のではなく本人が“選択する”
という構図を明確にすることで、社会的合意を形成しやすくしています。
特にアメリカでは、国家よりも個人の自由を重視する法思想が強く、「医師による直接投与」への抵抗が根強い歴史があります。
オーストラリアも州法ベースで制度化されましたが、原則は自己投与、例外的に医師投与を認めるという慎重な設計になっています。
※例 👉 オーストラリアの安楽死について↓
医師投与と自己投与の両方を認める国|欧州型モデル
主な国
・オランダ
・ベルギー(※初期は医師投与、現在は両方)
・ルクセンブルク
・スペイン
・カナダ
など
これらの国では、
医師投与と自己投与の両方を制度として認めています。
特にオランダ・ベルギーは1970年代から医師主導の安楽死が実践され、判例の積み重ねを経て法制化されました。
なぜ両方を認めたのか
このモデルは、次のような現実的課題に向き合った結果です。
・身体的理由で自己投与できない患者を排除しない
・確実性と苦痛の最小化を重視する
・医師が倫理的責任を引き受ける文化がある
カナダでは制度開始当初、自己投与も想定されていましたが、実際の運用では医師投与が大半を占めるようになりました。
理念よりも、実務上の確実性と安全性が重視された結果といえます。
※例 👉 オランダの安楽死について↓
なぜ安楽死の方法は国ごとに違うのか
制度の違い、その背後には、より根源的な問いがあります。
誰が“死の主体”なのか。
・患者本人なのか
・医師なのか
・国家なのか
各国は、それぞれの
・歴史 ・宗教
・医療倫理の伝統
・政治的妥協の中で答え
・濫用防止の設計
・実務的問題
の中で答えを出してきました。
制度の違いは、「命をどう守るか」ではなく、
「苦しみとどう向き合うか」
という問いへの社会の答えなのです。
👉 日本ではこれらの方法がどのように扱われているかは、こちらで詳しく解説しています
👉 安楽死と自殺の違い・関係を整理したい方は、こちらをご覧ください↓
👉 制度の考え方(厳格型・寛容型)の違いについては、こちらで詳しく解説しています
日本の安楽死議論と今後の課題
日本では、積極的安楽死は依然として合法化されていません。
しかし、
・終末期医療、緩和ケアの限界
・鎮静と安楽死の境界
・自己決定権の拡大
これらの議論は確実に広がっています。
※参考:【9割が知らない】緩和ケアの限界とは?│日本の終末期医療で“痛みが残る理由”|約20%に苦痛が残る現実↓
私たちは、海外の制度を「是か非か」で見るのではなく、
どのような思想の上に成り立っているのか / どのような社会的覚悟を前提としているのか
を冷静に見つめる必要があります。
👉 安楽死と関係が深い「緩和ケアと安楽死の違い」は、こちらで整理しています↓
👉 安楽死をめぐる倫理的な賛否については、こちらで体系的に整理しています
👉 日本の安楽死の歴史・事件を知りたい方は、こちらをご覧ください↓
まとめ|安楽死制度の違いは「誰が死の主体か」という問い
積極的安楽死には3つの方法があります。
医師投与型
自己投与型
両方を認める型
そしてその違いは、単なる技術的差ではありません。
それは、
「命の終わりを、誰がどう支えるのか」
という社会の哲学の違いです。
私たちは、恐れや感情だけでなく、事実と制度設計の現実を知った上で、自分たちの国の在り方を考えていくべきだと考えます。
静かな議論こそが、本当に人間らしい最期を守る道につながるのではないでしょうか。
👉 安楽死と尊厳死の違いについては、こちらもあわせて理解しておくと重要です
👉 世界各国の安楽死制度を知りたい方は、はこちらで解説しています↓
👉 地図で確認する安楽死が合法の国 一覧と各国制度は、こちらで詳しく解説しています↓
「実施方法だけでなく制度全体を比較する表」
国・地域 | 医療者による実施 | 自己投与 | 主な制度 | 終末期要件 | 第三者・事後審査 |
オランダ | ○ | ○ | Euthanasia / assisted suicide | 必須ではない | 事後審査 |
ベルギー | ○ | 制度上の位置付けに注意 | Euthanasia | 必須ではない | 事後審査 |
カナダ | ○ | ○ | MAID | 制度上の区分あり | 複数の確認・報告 |
スペイン | ○ | ○ | Euthanasia / assisted dying | 法定条件 | 審査委員会 |
豪州 | ○ | ○ | VAD | 州法による | 州ごとの監督 |
NZ | ○ | ○ | Assisted dying | 法定条件 | Review Committee |
スイス | × | ○ | Assisted suicide | 制度上別 | 刑法等 |
米国 | 原則× | ○ | Medical aid in dying | 州法による | 州法による |
日本 | × | × | 制度なし | — | — |
FAQ(よくある質問)|安楽死の方法と世界の制度
Q1.安楽死にはどのような方法がありますか?
A.大きく見ると、医療者が薬剤を投与する方式、本人が自己投与する方式、両方を制度上認める方式があります。ただし、これは各国の法律を完全に3分類するための法律用語ではありません。対象となる疾患、判断能力、終末期要件、審査方法なども国によって異なります。
Q2.医師投与とは何ですか?
A.医療者が、法律で定められた条件と手続きを満たした患者に対して薬剤を投与する方式です。法律上の名称や要件は国によって異なります。
Q3.自己投与とは何ですか?
A.医療者による適格性の確認や薬剤の提供などを経たうえで、最終的な投与・服用を本人自身が行う方式です。英語ではphysician-assisted suicideやself-administrationなどの用語が使われますが、法律上の意味は国によって異なります。
Q4.「安楽死」と「医師幇助自殺」は同じですか?
A.一般的には区別されます。安楽死では医療者が最終的な投与を行うのに対し、医師幇助自殺では本人が最終的な行為を行います。ただし、各国の法律では用語の定義や制度上の位置付けが異なるため、国ごとの法令を確認する必要があります。
Q5.「安楽死」と「尊厳死」は同じですか?
A.同じではありません。一般に安楽死は、本人の希望に基づき医療者が意図的に死を早める行為を指します。一方、尊厳死という言葉は、延命治療の差し控え・中止など、自然な死の過程を尊重する選択を指して使われることが多い言葉です。ただし、「尊厳死」という言葉自体も国や団体によって意味が異なるため、具体的な行為を確認することが重要です。
Q6.安楽死と緩和ケアは対立するものですか?
A.必ずしも対立するものではありません。緩和ケアは、痛みや身体的・心理社会的・スピリチュアルな苦痛を軽減し、生活の質を高めることを目的とします。一方、安楽死制度は、一定の条件を満たした本人について死を選択する制度です。両者は目的が異なるため、制度を議論する際には別々に検討する必要があります。
Q7.安楽死を議論することは、緩和ケアを否定することですか?
A.いいえ。本記事では緩和ケアの重要性を否定していません。むしろ、安楽死制度を検討する場合にも、十分な緩和ケアへのアクセスを確保することは重要な条件の一つだと考えます。そのうえで、緩和ケアによっても解消できない苦痛や自己決定の問題をどのように扱うかが、別の論点になります。
Q8.安楽死制度にはどのようなリスクがありますか?
A.代表的な論点として、本人の意思が本当に自由なものかどうか、判断能力をどのように確認するか、家族や社会からの圧力をどう防ぐか、対象範囲の拡大をどう監視するか、医療者の判断を誰が監査するか、といった問題があります。これらは安楽死制度をめぐる反対・慎重論の重要な論点です。
Q9.弱い立場の人が安楽死を選ばされる危険はありませんか?
A.その可能性を懸念する議論があります。一方、制度を支持する立場からは、本人の意思確認、複数の医師による評価、第三者審査、記録・報告制度などによってリスクを抑えるべきだという議論があります。この問題については、理念だけではなく、実際の制度運用と研究データを比較する必要があります。
Q10.カナダでは医師投与と自己投与の両方が認められていますか?
A.はい。カナダのMAID制度では、医療者が実施する方式と本人が自己投与する方式の双方が制度上認められています。ただし、実際の利用割合には大きな差があり、Health Canadaの年次報告書で具体的な統計が公表されています。
Q11.オランダではどのような方式が認められていますか?
A.オランダでは、医師による安楽死と医師幇助自殺の双方が法律上区別されています。医師は、本人の自発的で熟慮された要請、耐え難く改善の見込みのない苦痛、十分な説明、合理的な代替手段がないこと、独立した医師への相談など、法定の注意義務を満たす必要があります。
Q12.日本では安楽死は合法ですか?
A.日本には、オランダやカナダのような包括的な安楽死制度はありません。積極的安楽死については、刑法上の殺人罪や同意殺人等との関係が問題となり得ます。また、治療の差し控え・中止などの終末期医療の問題とは区別して考える必要があります。
Q13.日本の裁判所は安楽死を認めたことがありますか?
A.積極的安楽死について無条件に合法とした判例が存在するわけではありません。1995年の東海大学安楽死事件に関する横浜地方裁判所判決では、積極的安楽死について一定の要件が示されましたが、事件の医師については殺人罪が成立し、有罪判決となりました。
Q14.安楽死が合法化されると、利用件数は必ず増えるのでしょうか?
A.複数の制度導入国で利用件数の増加が確認されています。ただし、人口構成、制度の対象範囲、報告制度、制度導入からの経過年数などが異なるため、単純に「件数が増えた=制度が危険」と判断することはできません。ベルギーの長期研究でも、人口構成の変化など複数の要因が検討されています。
Q15.安楽死制度を検討する場合、何を比較すべきですか?
A.医師投与か自己投与かだけでは十分ではありません。対象となる疾患、終末期要件、判断能力、本人の意思確認、複数医師による評価、第三者審査、事後監査、記録・報告、医療者の良心的拒否、緩和ケアへのアクセスなどを総合的に比較する必要があります。
嘆願書送付アクション
本サイトでは、各国制度、安全性・濫用防止、緩和ケア、身体疾患による苦痛と自殺などについて、国会提出用の補足資料も公開しています。
※世界の制度を比較したうえで、日本で制度設計を考える際には、適格要件、第三者審査、記録・報告、医療従事者の良心的拒否、障害者・高齢者等への配慮、緩和ケアとの関係などを個別に検討する必要があります。
書類 一覧
・嘆願書 本文『人道的終末選択の法制化に関する提言書』
・補足資料① 日本における安楽死制度の法的現状と制度的空白
・補足資料② 各国制度比較と日本への制度モデル
・補足資料③ 制度設計・安全性確保・濫用防止策
・補足資料④ 緩和ケアの限界と終末期医療の課題
・補足資料⑤ 身体疾患・身体障害による苦痛と自殺の実態
・カバーレター:ご挨拶(1ページ)
・要約文(2ページ)
参考文献・公的資料
本記事では、各国政府・公的機関の資料、査読付き学術論文、PubMed収載論文、国内の判例・法令等を中心に参照しています。
制度や法律は改正される可能性があるため、各国の制度については、可能な限り政府・公的機関による最新情報も併記しています。
1.学術論文
1.国際的な制度・実施状況の総説
Emanuel EJ, Onwuteaka-Philipsen BD, Urwin JW, Cohen J.“Attitudes and Practices of Euthanasia and Physician-Assisted Suicide in the United States, Canada, and Europe.”JAMA. 2016;316(1):79–90.DOI: 10.1001/jama.2016.8499PMID: 27380345
米国、カナダ、欧州における安楽死・医師幇助自殺について、法制度、世論、医師の態度、実施状況などを幅広くレビューした代表的な総説です。合法化された地域における実施件数や患者背景などを比較する際の基礎資料として利用できます。
2.ベルギーにおける安楽死の実施状況
Dierickx S, Deliens L, Cohen J, Chambaere K.“Euthanasia in Belgium: trends in reported cases between 2003 and 2013.”CMAJ. 2016;188(16)–E414.DOI: 10.1503/cmaj.160202PMID: 27620630
ベルギーで2003~2013年に報告された8,752件の安楽死事例を分析した研究です。報告件数の増加、患者の年齢・疾患、終末期との関係、緩和ケアチームの関与などについて検討しています。
3.ベルギーの2002~2023年の長期的推移
Wels J, Hamarat N.“Incidence and Prevalence of Reported Euthanasia Cases in Belgium, 2002 to 2023.”JAMA Network Open. 2025;8(4).DOI: 10.1001/jamanetworkopen.2025.6841PMID: 40266615PMCID: PMC12019508
ベルギーで2002~2023年に報告された安楽死事例を分析した比較的新しい研究です。報告件数の増加について、制度導入だけでなく、人口構成や年齢・地域などの人口動態の変化も考慮して分析しています。
4.ベルギー制度の安全保障措置・監視体制に対する批判的検討
Raus K, Vanderhaegen B, Sterckx S.“Euthanasia in Belgium: Shortcomings of the Law and Its Application and of the Monitoring of Practice.”Journal of Medicine and Philosophy. 2021;46(1):80–107.DOI: 10.1093/jmp/jhaa031PMID: 33491735
ベルギーの安楽死制度について、適格性要件、第二・第三の医師による確認、事後報告制度などの安全装置が、法律上だけでなく実務上どのように機能しているかを批判的に検討した論文です。制度の「安全性」だけでなく、その限界を検討する資料として重要です。
5.カナダMAIDと未充足ニーズ
Wiebe ER, Kelly M, Spiegel L, Menard JF, Hawse E, Dickinson R.“Are unmet needs driving requests for Medical Assistance in Dying (MAiD)? A qualitative study of Canadian MAiD providers.”Death Studies. 2023;47(2):204–210.DOI: 10.1080/07481187.2022.2042754PMID: 35244527
カナダのMAID提供者20人へのインタビューを行い、医療的・経済的・社会的な未充足ニーズとMAID申請との関係を検討した質的研究です。対象となった提供者は、3,700件以上のMAID評価を経験しており、未充足ニーズが確認された事例では孤独や貧困などが倫理的問題となっていました。
6.医師の態度・合法化への慎重論
Seale C.“Legalisation of euthanasia or physician-assisted suicide: survey of doctors' attitudes.”Palliative Medicine. 2009;23(3):205–212.DOI: 10.1177/0269216308102041PMID: 19318460
英国の医師3,733人を対象とした調査です。一般市民と医師の間で合法化に対する態度に違いがみられ、特に緩和医療専門医では反対が多かったことを報告しています。一方で、合法化を支持する医師の中にも安全策を求める意見が存在することを示しています。
7.医師幇助死と緩和ケア
Sheahan L.“Exploring the interface between 'physician-assisted death' and palliative care: cross-sectional data from Australasian palliative care specialists.”Internal Medicine Journal. 2016;46(4):443–451.DOI: 10.1111/imj.13009PMID: 26762669
オーストラリア・ニュージーランド地域の緩和ケア専門医を対象に、医師幇助死・自発的安楽死と緩和ケアの関係を調査した研究です。対象となった緩和ケア専門医では合法化に反対する傾向が強く、緩和ケアと医師幇助死をめぐる専門家側の慎重論を理解するうえで参考になります。
8.ベルギーの安楽死法をめぐる司法・制度的検討
The Belgian euthanasia law under scrutiny of the highest courts. The Lancet Regional Health – Europe. 2022.DOI: 10.1016/j.lanepe.2022.100549PMID: 36643662PMCID: PMC9832267
ベルギーの安楽死制度について、司法判断や制度上の統制をめぐる問題を扱っています。制度の実施件数だけでなく、法的監視・司法審査という観点から検討する際に有用です。
2.各国政府・公的機関
オランダ政府
Government of the Netherlands — Euthanasia
オランダでは、生命を意図的に終了させる行為は原則として刑事犯罪とされ、法律で定められた一定の注意義務を医師が満たした場合に限って刑事責任を免れる制度となっています。安楽死と自殺幇助の法的位置付けや、6つの注意義務について確認できます。
カナダ政府・Health Canada
Medical Assistance in Dying (MAID)
カナダのMAIDについて、適格要件、同意、安全措置、制度の法的枠組みなどを確認できる政府資料です。
Fifth Annual Report on Medical Assistance in Dying in Canada, 2023
2023年のMAIDについて、申請、適格性、実施件数、患者背景などをまとめたカナダ政府の年次報告書です。2023年には19,660件のMAID申請が報告され、15,343人がMAIDを受けています。
スペイン
Ley Orgánica 3/2021, de 24 de marzo, de regulación de la eutanasia
スペインの安楽死制度を定める法律です。医療者による実施と、本人による自己投与を含む制度上の枠組みを確認できます。
ベルギー
Belgian Federal Public Service Health, Food Chain Safety and Environment — Euthanasia
ベルギーの安楽死制度、法的枠組み、関連する公的情報を確認する際の一次資料として利用できます。
The Belgian Act on Euthanasia of 28 May 2002
ニュージーランド
New Zealand Ministry of Health — Assisted Dying
ニュージーランドでは、End of Life Choice Act 2019 によりassisted dyingが制度化されています。同法は2021年11月7日に施行され、2024年には最初の制度レビューも実施されています。
Assisted dying regulation and reporting
制度の監督、統計、年次報告、制度レビューなどを確認できます。
オーストラリア・クイーンズランド州
Queensland Government — Voluntary Assisted Dying
クイーンズランド州におけるVoluntary Assisted Dying制度について、本人による自己投与(self-administration)と医療者による投与(practitioner administration)などの制度上の違いを確認できます。
3.日本の法制度・判例
日本の安楽死・尊厳死をめぐる法的位置付け
日本では、積極的安楽死を包括的に合法化する法律は現在存在しません。
また、終末期における治療の差し控え・中止と、医師が薬物等によって患者の死を直接引き起こす積極的安楽死は、法的・医学的に区別して検討する必要があります。
👉 日本における安楽死の法律的な扱いについては、こちらで詳しく解説しています↓
東海大学安楽死事件・横浜地方裁判所判決
横浜地方裁判所・1995年3月28日判決
東海大学安楽死事件に関する判決は、日本における積極的安楽死の刑事法上の問題を考えるうえで重要な判例の一つです。
この判決では、積極的安楽死について一定の要件が示されましたが、事件で実際に行われた行為については殺人罪が成立するとされ、有罪判決が言い渡されました。
したがって、この判例を「日本で安楽死が合法化されている根拠」と位置付けることは適切ではありません。
👉 日本の安楽死の歴史・事件を知りたい方は、こちらをご覧ください↓
4.参考資料を読む際の注意
安楽死・医師幇助死をめぐる研究には、合法化を支持する立場、反対・慎重な立場、制度を中立的に記述・分析する立場があります。
本記事では、制度導入国の政府統計だけでなく、制度の実施状況を分析した研究、医師・緩和ケア専門家の意見を扱った研究、制度上の安全装置や社会的・経済的要因を批判的に検討した研究も参照しています。
特に、ベルギーについては制度の実施状況を肯定的・中立的に分析する研究だけでなく、安全装置や監視体制の問題を指摘する研究も存在します。カナダについても、MAIDの制度そのものだけでなく、貧困・孤独などの未充足ニーズとの関係を検討した研究があります。
そのため、本記事の各国制度に関する記述は、特定の研究者・団体の主張だけに依拠するものではなく、可能な限り一次資料と査読付き研究を組み合わせて整理しています。
調査方法・情報源
本記事では、安楽死・医師幇助自殺・assisted dyingに関する各国の制度を比較するため、各国政府、議会、裁判所、法令、制度運営機関などの公的資料を優先して確認しています。
また、制度の実態や長期的な傾向については、PubMedに収載された査読付き学術論文、系統的レビュー、医学・生命倫理・法学分野の研究論文を参照しています。
「安楽死(euthanasia)」「医師幇助自殺(physician-assisted suicide)」「medical assistance in dying(MAID)」「assisted dying」などの用語は、国によって法律上の定義が異なります。そのため、本記事では日本語の一般的な呼称だけで各国制度を分類せず、可能な限り各国の法制度上の定義と実施方法を確認したうえで比較しています。
なお、本記事の「医師投与型」「自己投与型」「両方型」という分類は、世界各国の法律を完全に3分類するための法律用語ではなく、制度上の実施方法を理解するための便宜的な整理です。実際には、対象となる疾患、終末期要件、判断能力、医師の関与、第三者審査、事後審査、報告義務などにも大きな違いがあります。
制度の内容は法改正等によって変化するため、各国については可能な限り最新の公的資料を確認しています。記事内の制度比較は、原則として2026年9月時点で確認できる情報に基づいています。
本サイトは安楽死制度の法制化を目指す立場から情報発信しています。一方、制度の検討にあたっては、反対・慎重論を含む研究や公的資料も確認し、賛成側に都合のよい情報だけを掲載することを避けています。















コメント