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嘆願書 安楽死 制度 リスク|制度設計の課題と予防策(補足資料③)

更新日:2025年12月26日

本ページでは、安楽死制度のリスクとそれを低減するための制度設計上の課題と予防策を整理した補足資料③を公開します。主要なリスク分類と国際的な予防策を示し、日本の制度検討に資する実務的な参考情報を提供します。



【嘆願書 安楽死合法化の要望書 第一稿 安楽死 制度 リスク|制度設計の課題と予防策(補足資料③)】



Ⅰ. 概要(要旨) 

(嘆願書 安楽死合法化の要望書 第一稿 安楽死 制度 リスク|制度設計の課題と予防策(補足資料③)


安楽死や自殺幇助の制度化は、患者の尊厳と自己決定を保障する一方で、濫用・圧力・適用基準の拡大(いわゆる“滑り坂”)・脆弱者への影響などのリスクが社会で懸念されている。

しかし、これらのリスクは、制度設計上の厳格な要件、独立した審査・報告体制、透明性の確保、医療者・社会への教育により相当程度低減可能である。

下記に主要リスクと、国際的に実施されている有効策を整理する。重要点には、該当する国際資料を参照の上示す。




Ⅱ. 想定される主要リスク(分類・説明)


リスクA — 濫用・逸脱(基準の緩和・適用範囲の拡大)

安楽死に懸念を抱く人々の中には「当初の限定的基準(例:末期疾患)から対象が拡大する」という懸念(「滑り坂」)を指摘する声が聞かれるが、当会の案では拡大という概念はない(最終ページに後述)。

合法国でも実施件数や対象の変化は各国で逐次監視されている。



リスクB — 患者への直接的/間接的圧力(家族・経済・医療資源の制約)

高齢者・障がい者・経済的に脆弱な者が、周囲(家族・医療機関・制度的期待)から無言の圧力を受け、「選択の自由」が損なわれる恐れがある。学界・障害者団体もこれを主要な懸念点として挙げている。



リスクC — 精神疾患・判断能力の評価に関する困難

精神疾患を主要病因とする要請(「精神のみ」ケース)の審査は特に難しい。判断能力・可逆性の評価、代替的治療可能性の確認が困難な場合がある。各国は慎重な取扱いを採用している。



リスクD — 報告・監査の不徹底(透明性欠如)

届出・報告の不徹底は、事後検証を不能にして濫用発見を遅らせる。オランダ等は報告義務と地域審査委員会を法的に定め、年次報告で監視している。



リスクE — 医療現場の職業倫理・教育不足

医療従事者が適切な判断を行うための研修や倫理教育が不足していると、判断のばらつきや誤判断につながり得る。




Ⅲ. 国際的に有効とされる予防策(原則と具体例)

下記は、オランダ、ベルギー、カナダ、スイス等の制度運用から得られた共通的ベストプラクティスである。各項には代表的出典を付す。


予防策1:厳格で明文化された適用要件

・例:回復見込みのない状態、耐え難い苦痛、自発的かつ熟慮された要請などを法定要件とする。

・理由:恣意的運用を防ぎ、統一的判断基準を提供する。


予防策2:複数医師による独立評価(独立医師の面談・書面意見)

・例:主治医以外に少なくとも1名(または2名)の独立した医師が患者と面会して書面で意見を出す仕組み。オランダの制度と地域審査委員会の基準が典型。


予防策3:第三者(独立)審査機関への届出・事後検査

  • 例:実施前/実施後に独立審査委員会(または地域レビュー機関)への届出を義務化し、事後に法定基準が満たされていたか検証する。オランダの年次報告制度が透明性確保の好例である。


予防策4:文書化・待機期間・反復確認

  • 例:書面での意思表示、一定の待機期間(再確認の機会)、複数回にわたる意思確認の義務化により、衝動的決定を防ぐ。


予防策5:精神科評価と代替治療の確認

  • 例:精神障害が関与する場合は精神科専門家による評価を義務化し、代替的介入(治療・支援)が尽くされたかを確認する。カナダでも精神疾患のみの要請の取り扱いは慎重を要する旨の専門家報告がある。


予防策6:報告義務と年次公表(統計の整備)

  • 例:実施件数、疾患内訳、年齢層、審査経過、判定理由などを含む年次報告と公表を義務化。これにより政策的な監視・見直しが可能となる。


予防策7:脆弱者保護ルール(高齢者・障がい者の保護)

  • 例:同意能力の判断基準の明確化、代理人や関係者による強制禁止、社会的・経済的圧力の有無を審査要件に組み込む。障害者団体等の意見を積極的に制度設計に反映させる。


予防策8:医療従事者の教育・倫理研修と拒否権の明確化

  • 例:参加を望まない医療者の尊重(良心的拒否)を保障しつつ、参加する者には標準化された教育・研修を義務付ける。医療現場での実務指針を公的に作成することが重要。


予防策9:段階的導入(試行制度)と定期的レビュー

  • 例:まずは限定的な適用(末期疾患に限定)で試行を行い、運用で生じた問題を年次報告に基づき法改正やガイドライン改訂で逐次対応する。国際経験は「導入後の継続的評価」が鍵である。




Ⅳ. 国内導入時における推奨設計


下は日本で立法・制度設計を行う際に最低限検討すべき項目のチェックリスト案である。これらを法案や付帯決議、施行規則に落とし込むことを推奨する。


  1. 法定要件の明文化(対象条件・意思の要件・同意様式)

  2. 独立医師の面談義務(書面評価・別医の面接)

  3. 第三者審査機関の設置(届出・事後検査・年次報告)

  4. 精神科評価のプロトコル(精神疾患関連要請の特別手続)

  5. 書面化・待機期間・再確認手続の明確化

  6. 脆弱者防護条項(経済的圧力の存在確認、代替支援の提示)

  7. 医療従事者の研修要件と良心的診断拒否の保障

  8. 公的データの収集・公表(透明性確保)

  9. 試行導入と法的・行政的レビューの仕組み(3年ごとの見直し等)

  10. 関係省庁(厚労省・法務省など)と市民団体・障害者団体を含む公開審議の実施




Ⅴ. 監視・検証・透明性確保のルール(運用後のガバナンス)


・年次報告の義務化

実施数と審査経緯を含む詳細な統計を公表。これはカナダやオランダの年次レポートと同様の仕組みが参考になる。


・外部レビューと市民参画

第三者(学識経験者・市民代表)による定期的レビュー会議を設け、制度改善を図る。


・監査と違反時の罰則規定

基準違反や報告義務違反に対する法的措置と罰則を明確にする。


・公開相談窓口と苦情処理

当事者や家族が匿名で相談、苦情を申し立てられる機構を整備する。




Ⅵ. 補足(国際事例からの学びと留意点)


・オランダ等では報告義務と地域の審査委員会が運用の核となり、事後検証によって不適切事例の発見・是正が行われている。

これがあるため制度全体の信頼性が支えられている点は日本にとって重要な教訓である。


・一方で、実施件数の増加や精神疾患を巡る事例の増加は注意を促す兆候であり、運用中も慎重な監視が必要である。

国際的見解は、制度設計と運用の両方を継続的に評価・改善することの重要性を示している。




Ⅶ. 当会が考える安楽死フロー


① 申請段階:

 主治医が患者の意思を初めて明確化する段階(第1チェック)

  ⇩

② 評価段階:

 法的基準への適合性を、別の医師が判断する段階(第2チェック)

  ⇩

③ 協議段階:

 外部の機関(安楽死の専門医師や委員会)による再評価段階(第3チェック)

  ⇩

④ 実施・報告段階:

 安楽死の実施と、地域審査委員会(仮)への詳細な報告提出(※第4チェック)




Ⅷ. 結語(提言)


安楽死制度の導入に際しては、法的明確化多層的な安全策(複数医師評価、独立審査、報告義務、精神科評価、脆弱者保護、研修など)を法令に組み込むことが必須である。

制度は導入して終わりではなく、透明な年次報告と定期的な外部レビューにより継続的に改善する仕組みが不可欠である。


国会においては、本補足資料に掲げたチェックリストを基に、詳細な立法構成を進めることを強く推奨する。




※「滑り坂」についての付記 


安楽死制度を懸念する人々の間では「滑り坂論法」を用いて安楽死そのものを否定する言及が見られる。

しかし“滑り坂”(Slippery Slope)…それ自体そのものが、そもそも詭弁の一手法であり、議論を遅延させる手段として利用されている。


※滑り坂論法は“根拠を提示せずに最悪の事態へ飛躍する”典型的な論法であり、政策議論においては最も信頼性が低い反論形式の一つとされる。



安楽死における滑り坂論法:安楽死『適格の基準』の拡大

(イメージ図)

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最初は余命6か月以内の患者のみ(主にがん末期が対象)

余命6か月以内の条件が、疾患によって12カ月以内に変更

余命制限を撤廃-『非末期疾患(耐え難い苦痛があるが寿命は予見できない患者)』

頚髄損傷(首から下が動かない)など実存的な苦痛も対象

脳卒中などで著しく身体能力が低下している患者も対象

身体障害を抱える患者全般が対象

認知症の安楽死も対象

精神疾患も安楽死も対象

小児疾患(例:1から11歳)も対象

Duo 安楽死も可能(例:高齢夫妻の同時安楽死)


※ここからが滑り坂論法の真髄を発揮

いわば被害妄想的な詭弁である。

この先の段階では、実際の制度運用や統計的根拠は完全に無視され、架空の“暴走シナリオ”が語られるだけである。


(※ますます適用範囲が拡大してしまう)

身体疾患を持つ人々は“迷惑 ” → 安楽死の対象

劣等遺伝子 を持つ人々も安楽死の対象

国家は“邪魔者を排除”するのも可能

ナチス時代の優生思想の実践が復活

(→「安楽死は、その概念自体が危険だ」

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こうした主張は…

感情に訴えるレトリック(誤魔化し表現)に過ぎない。

実際の合法国の制度運用とは一致しない。むしろ合法国のデータは“拡大暴走が起きていないこと”を一貫して示している。


たとえば、当会が模範としている、オランダのケースでは『個人の苦悩』を基準としているため、対象範囲は“緩い”(最初から対象範囲は広い)。

しかし2001年の法制化以前からケーススタディを積み上げてきた過去と実績から、少しずつアップデートしてきた訳で、一気に現在の形になってはない。

この“段階的・漸進的な制度設計”こそが、暴走を防ぐ最大の要因である。


またドイツの安楽死協会(DGHS)は1980年に設立され、非営利団体(市民団体)として安楽死を提供してきた事実があるが問題は起きておらず、現在まで活動している。

これは前記の「ナチス時代の優生思想の実践へと逆戻り」と大きく矛盾する。

40年以上にわたる運用実績の中で、“制度が弱者を排除に導いた”という証拠は一つも報告されていない。


安楽死制度は一気に拡大されるのではなく、国民的議論と倫理的な審査を経ながら、時間をかけて慎重に調整されていく。

適用範囲の拡大は無秩序なものではなく苦しみに応えるための人道的な判断として行われていると考えるのが合理的である。現実の制度運用を直視する限り、“滑り坂の暴走”は仮想上の脅威でしかなく、実証的根拠を欠く主張である。


制度の危険性は、推測や不安ではなく、実証とデータに基づいて議論されるべきである。

滑り坂論法はその逆であり、事実より恐怖を優先させる“議論の停止装置”である。


参考:


安楽死が合法の国で起こっていること、著者、児玉真美
一般社団法人日本ケアラー連盟代表理事『児玉 真美』氏

一般社団法人日本ケアラー連盟代表理事『児玉 真美』氏の書いた記事

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