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チェコの安楽死制度と憲法裁判所の判断|一市民バルテルディ氏が残した問い

  • 執筆者の写真: リップディー(RiP:D)
    リップディー(RiP:D)
  • 20 時間前
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🎧音声による動画解説



要約図(自由使用可)


チェコにおける「尊厳ある死」: 安楽死制度の現状と一市民が投じた一石


チェコ共和国の位置


チェコ共和国の位置


はじめに|チェコで問い続けられる尊厳ある最期


痛みや絶望、そして終わりある人生への不安──誰もが胸の奥に抱える「最後の選択」。現代社会において「どう死ぬべきか」という問いは、医学や倫理、法制度を交えてますます重いテーマとなっています。


チェコ共和国でも、こうした問いを巡る議論が静かに、しかし確実に大きなうねりになっています。

本稿では、チェコの法制度・社会の現状を整理しながら、一人の市民が「尊厳ある死」を求めて裁判所に訴えた物語にも触れ、私たち一人ひとりが考えるべきことを問いかけます。



チェコにおける安楽死制度の現状|現行法の位置づけ


チェコでは、積極的な安楽死(医療者が患者の死を直接的に手助けする行為)は法律上認められていません

現行の刑法は、患者本人の意思があった場合でも、他者が介助する自殺や安楽死を刑事罰として扱います。法律上は「殺人」または「自殺ほう助」として扱われるため、実行そのものが違法です。


ただし、延命治療の拒否や治療の停止、緩和ケア(痛み緩和のための鎮静)は合法であり、患者の意思を尊重する形で実施されています。

これらは自己決定権の一環として認められていると解釈されています。



チェコ国民の世論と政治の温度差|支持と慎重姿勢


興味深いことに、多くのチェコ国民は安楽死または自殺ほう助に肯定的な意見を持っています。

世論調査では、国民の多数が法制化に賛成するとの結果が報じられており、約73%の人々が「終末期の選択権」を支持するとされています。



また最新の世論調査(2025年8月25日)では、81%のチェコ国民が安楽死の合法化に「賛成」し、 特に30〜39歳で91%の支持が出ています。



ペトル・パヴェル大統領が呼びかけた幇助死の議論(2024年)


昨年、2024年8月30日付の記事には、次のように記されています。

「ペトル・パヴェル大統領は、幇助死についての議論を呼びかけており、私たちは彼の声に耳を傾けなければなりません」

とあります。

つまりチェコの現大統領が安楽死を支持して議論を呼びかけているニュースです。


昨年2024年8月30日付けの記事  「ペトル・パヴェル大統領は、幇助死についての議論を呼びかけており、私たちは彼の声に耳を傾けなければなりません」

しかし現状の政治は異なります。過去十数年にわたり、立法化を試みる複数の法案が国会で審議されましたが、十分な賛成多数を得られず、法制化は進んでいません


主な理由としては、制度悪用への懸念や倫理的・医療的議論の不十分さが挙げられています。医療界(チェコ医師会)も「医療は助けるものであり、痛みを終わらせるものではない」という立場を示しています。



一市民バルテルディ氏の闘い|安楽死を求めた裁判の経緯


チェコ在住のPetr Bartheldi(ペトル・バルテルディ)氏

ここで、一人のチェコ市民の物語を紹介します。

チェコ在住のPetr Bartheldi(ペトル・バルテルディ)氏は、交通事故による重い障害や慢性的な苦痛を抱えながら、安楽死の権利を求めて法的闘いを続けてきました。


元ショベルカーのドライバーだったバルテルディ氏は、1996年に自転車に乗っているときに交通事故に遭い、脊椎を骨折し、膝を骨折しました。


30年近くにわたり、彼は毎朝、痛み、制御不能な手の震え、心的外傷後ストレス障害(PTSD)で目が覚めました。

65歳になった今、病状は悪化の一途をたどり、いつかは麻痺したり、車椅子生活を余儀なくされたり、寝たきりになったりする可能性があります。


彼は「尊厳ある人生の権利が認められるなら、尊厳ある最後の選択の権利も同じく認められるべきだ」と主張しました。

彼の訴えは、いわゆる「自己決定権」や「身体・精神の不可侵」といった基本的人権に根ざしたもので、チェコ憲法の基本を根拠として立法を促すものでした。


チェコ共和国。2024年5月の安楽死を求める請願運動には6,000人が署名
2024年5月の安楽死を求める請願運動には、これまでに6,000人が署名しています。

彼は2018年から裁判所を訴えており、安楽死の権利を求めています。しかし、地方裁判所と最高裁判所の両方が彼の訴訟を却下しました。

結局、彼は憲法裁判所に安楽死に対する憲法上の控訴を求める請願書を提出しました。


憲法裁判所が彼の要求を認めない場合、彼は、スイスに行って安楽死させることができるように、州が彼の旅費を支援することを望んでいると述べていました。


チェコ憲法裁判所の判断|安楽死合法化をめぐる立法府への要請


しかし、2025年7月の憲法裁判所の判断では、彼の要請は退けられました

裁判所は、現行法上は安楽死・自殺ほう助が刑罰対象であることを確認し、法的には立法府の判断に委ねられるべきだとの立場を示しました。


その上で、裁判所は「個人の自由意志と生命の保護のバランスを取るには、立法府に適切な議論を求める」と付言しました。


つまり、憲法裁判所は、安楽死の合法化が


・プライバシー

・尊厳

・生命の保護


これらの価値の適切なバランスを取る方法となりうるのかどうかについて、

立法府が真剣に検討すべきであると促したということです。


この判断自体が安楽死を許可したわけではありません。しかし同時に、


立法上の議論の余地を明確に開いた決定


でもありました。


安楽死制度はどう作られるのか|ドイツとの比較


これは、世界各国における安楽死制度成立のプロセスを見ても、決して珍しい現象ではありません。多くの場合、憲法裁判所は次のような役割を果たします。


「これは司法が白黒をつける問題ではない。

政府、内閣、議会、行政が、できるだけ早く政策として向き合い、制度設計を行え」


という、強いメッセージを政治部門に投げかけるのです。


たとえばドイツでは、憲法裁判所が自殺幇助行為の「非・刑罰化」を宣言し、行為そのものを刑法の枠外に置く判断を示しました。



一方、チェコ共和国の司法は、より慎重な形で、

政府は、安楽死制度の是非について入念に検討し、吟味せよ

と、立法府に課題を突きつける判決を下したと位置づけることができます。


この裁判では、確かに請求そのものは却下されました。しかし、重度の障害を抱える一市民であるバルテルディさんの切実な意思は、無視されることなく、国家に強く刻み込まれました。


結果として彼は、


安楽死合法化に向けた「契機」と「機運」


を社会にもたらした存在となったのです。

形式的には敗訴であったとしても、実質的には『彼は勝利した』

…そう評価することも、決して誇張ではないでしょう。


バルテルディさんの闘いは法的勝利をもたらすには至りませんでしたが、個人の切実な願いを社会全体に投げかけたという意味で深い示唆を与えました


彼の声は、チェコの社会に“自己決定”と“生命尊重”という二つの価値をどう両立させるかを問いかけています。


チェコ共和国での報道記事「国内の政党はすでに独自の立法案を作成し始めています」
「国内の政党はすでに独自の立法案を作成し始めています」


法律と倫理のせめぎ合い|自己決定と生命保護


「尊厳ある死」とは何か。それは単なる法的な言葉ではなく、苦しみを抱える人の心の叫びでもあります。同時に、社会的な安全網として弱い立場の人々を守る責任もまた、私たちの社会に課せられた問いです。


チェコ憲法裁判所は「尊厳ある死」を巡る議論が立法府に委ねられるべきであると述べましたが、その中では


・個人の自己決定と

・国家による生命保護


という二つの価値の重さが重層的に論じられました

どちらも軽視できない価値であり、安易にどちらかを優先すべきではないとの慎重な姿勢が見えます。



海外の安楽死制度|チェコだけの問題ではない


欧州の一部の国々、オランダやベルギー、スペインなどでは安楽死や自殺ほう助が法制化されており、厳格な条件や手続きが設けられています。一方でチェコのように未だ法制化されていない国も多く、国ごとに価値観や歴史、社会制度の違いが反映されています。この国際的な比較は、議論を進める上でも重要な視点となっています。


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私たちはどう向き合うべきか|尊厳ある死をめぐる問い


痛みや苦しみを抱える人々の思いは、他人事ではありません。法制度や医療体制がどのようであれ、私たちは一つの問いを共有しています。


  • 苦しむ人がどのように自分の人生の終わりを選ぶべきか

  • 医療と倫理はどのように両立できるのか

  • 社会として弱い立場の人々の安全をどう守るのか


これらは答えのない問いではなく社会全体で丁寧に向き合っていくべきテーマです。

現行法がどうであれ、私たち一人ひとりが「尊厳とは何か」を問い続けることが、未来をつくる一歩になるはずです。



まとめ|チェコ安楽死議論が社会に残したもの


・チェコでは現行法で積極的な安楽死・医療者による自殺ほう助は認められていないが、延命の治療拒否や緩和ケアは合法である。

・国民の多くは法制化に賛成する意見を持つ一方、政治・医療界は慎重姿勢を維持している。

・バルテルディさんは「尊厳ある死の権利」を求めて裁判所に訴えたが、現行の枠組みでは法制化に結びつかなかった。

・法的・倫理的な対話は続いており、社会全体で問い続けることが今後も不可欠である。


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