【ドイツ安楽死 #1】現状と構造
- リップディー(RiP:D)

- 10月25日
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更新日:7 時間前
【ドイツ安楽死 】~「個人の自由」と「国家の関与」をめぐる特異なバランス~
1.制度の概要と法的な状況 (ドイツ安楽死)
2020年、ドイツ連邦憲法裁判所は画期的な判決を下しました。
「自殺幇助を厳格に禁止することは、憲法に違反する」
という判断です。
この判決により、ドイツでは安楽死(正確には「自殺幇助」=Sterbehilfe)が事実上、合法的に認められるようになりました。
しかし、オランダやカナダのように国家が制度を整備しているわけではありません。
現状では、民間の非営利団体が中心となって安楽死サービスを提供するという、いわば「スイス方式」に近い形態を取っています。
代表的な三つの団体は次の通りです。
ドイツ人道死協会(DGHS)
自殺ほう助協会(Verein Sterbehilfe)
ドイツ・ディグニタス(Dignitas Germany)
これらの団体は、医師や弁護士、警察などと連携しつつ、安楽死希望者に対しカウンセリング・審査・実施支援を行っています。
ただし、法的には依然として「制度」として整備されていないため、国家システムや医療保険の枠組み内での実施ではありません。つまり、司法判断による「非刑罰化」に基づく、極めて独立的な運用が続いています。
※正確に言うと、ドイツでは1980年代から既に民間での安楽死は行われていました。
それが2015年に一度、一括して安楽死サービスが禁止されます(※厳密に言うと、自殺幇助を「事業として提供すること」が禁止であり、個人的な自殺幇助は当時も完全禁止ではありませんでした)。
それを不服にして2020年に上記3団体が訴訟を起こし“非刑罰化”を勝ち取った経緯があります。
2.制度導入の経緯と時系列
ドイツでは古くから「自己決定による死」の問題が議論されてきました。以下に、安楽死をめぐる主要な流れを簡潔に示します。
2015年:自殺ほう助を原則禁止する法律が制定。
2020年:連邦憲法裁判所が上記法律を「違憲」と判断。 → 安楽死が事実上、合法化。
2021年以降:民間団体が活動を再開し、安楽死支援が再び本格化。
2023年:国会にて規制法案が提出されるも、廃案。 → 「新たな法制化は不要」という立場が多数派。

2023年に「民間が行っている安楽死サービスを法制化しよう」という政治的な動きもありましたが、議会に否決されています。
この背景には、ドイツの歴史的記憶――ナチス期の「T4作戦(障害者抹殺計画)」――が強く影を落としています。国家が「生と死の選択」に関与することへの極端な警戒心が、いまも社会に深く根づいていると言われています。
※T4作戦は、ナチス·ドイツで精神障害者や身体障害者に対して行われた「強制的な安楽死」政策。
1939年10月から開始され、1941年8月に中止されたが、安楽死政策自体は継続。
「T4」は安楽死管理局の所在地、ベルリンの「ティーアガルテン通り4番地」を略して第二次世界大戦後に付けられた組織の名称である。
発生日:1939年9月1日 終了年:1945年
3.最新の動向と総括報告
2024年は、前述の3団体が提供した安楽死は合計977件に達しました。
年々利用者数は増加傾向にあり、特に老舗団体であるDGHS(ドイツ人道死協会)の活動が顕著です。

(各団体別の利用者数推移グラフ)

(各団体の内訳)
もっとも、ドイツ全体の年間死亡者数は約100万人です。そのうち安楽死による死はわずか0.097%であり、オランダ(約5.4%)やカナダ(約4.7%)に比べると極めて低い水準にとどまっています。
4.主な適格基準(Eligibility Criteria)
ドイツでは、国家法が存在しないため「統一的な基準」はありません。しかし、主要3団体はいずれも厳格な審査手続きを設けています。医師による診察・複数回の面談・書類審査などを経て、慎重に判断が下されます。
DGHSが公開したデータによれば、申請理由の上位は以下の通りです。

(DGHS公表:安楽死申請の動機グラフ)

(※機械翻訳)
1位 多疾患・複合疾患(27.8%)
2位 生活疲労・生きる気力の喪失(22.2%)
3位 がん(21.8%)
4位 ALSや神経難病(14.6%)

(DGHSでの年齢&性別での内訳)
また、DGHS利用者の平均年齢は79歳、女性比率が62%とやや高めです。
60歳未満の利用者は全体の5%弱に過ぎず、高齢者層が中心となっています。
5.実施状況の具体的な事例
民間団体による「安楽死代理システム」は、スイスと似ています。
医師・法務・警察・自治体が緩やかに連携し、本人の意思を確認した上で支援を行います。
オランダのように「医療制度内での安楽死」ではなく、「市民団体による自己決定支援」という構造が特徴です。
安楽死された方の中には「人生に満足した」「カップルで同時に安楽死を選択した」といったケースも報告されています。(オランダ元首相夫妻の同時安楽死〔2022年〕が象徴的な事例として言及されます。)
一方で、審査が複雑で手続きも煩雑なため、「ドイツでの安楽死が認められていても、スイスへ移動して手続きを受ける人々」も少なくありません。今後、透明性を保ちながらも、より円滑な制度整備が望まれています。
6.制度に対する評価と歴史的背景
ドイツ社会における安楽死の議論は、常に「国家による生命統制」への反省と表裏一体です。
「国家が安楽死を法制化すれば、再び“生殺与奪の権力”が国家に集中してしまう」
こうした強い歴史的記憶が、法制化への慎重姿勢を支えています。
実際、国会では「法制化反対」が多数派であり、特に「緑の党」および「自由民主党(FDP)」は明確に反対の立場を取っています。

そして、DGHSなどの団体は次のように主張しています。

「わざわざ新しい法制度を作る必要はない。
現状で十分に“法制化された”状態にある。」
つまり、法による統制ではなく、市民の自己決定による自由な選択を尊重する社会モデルを志向しているのです。
この哲学は、戦後ドイツが築いてきた「個人の尊厳」と「国家権力の制限」という理念に深く根ざしています。現代ドイツでは、安楽死は冷静に運用され、“尊厳ある最期”を求める人々に対し、穏やかな社会的受容が広がっています。
ドイツの安楽死制度は、国家による管理型ではなく、市民団体主導の自由型モデルとして確立されています。その背景には、ナチス期の反省に基づく「国家への不信」と「個人の権利尊重」という二つの思想的柱があります。
この「法なき合法化」という独特の構造は、倫理・法・歴史が交錯するドイツ社会において、人間の尊厳と自由をどのように守るかという普遍的な問いを今も投げかけています。
7.備考:日本の延命治療
ドイツの市民は、「個人の権利と意思」が国家の統制下に置かれたり、ましてや奪われるようなことがあってはならない。
そのような強い理念のもとに、ドイツでは、生と死に関する自己決定の自由が尊重されていますと述べてきました。
一方で日本においては、どうでしょうか?
現実として「国家」によって発行される医師免許医師免許を持つ医師集団が、その強力な権限のもとで個人の生死に関わる最終的な決定を握っている構造が存在します。
その結果として、多くの高齢者が本人の意思とは無関係に「延命治療」という名のもとに、苦痛を抱えながら“生かされ続けている”現状があります。
訪問看護を含めれば、そのような状況にある方々は全国でおよそ300~400万人にも上るとされます。これはまさに、制度的な因習といっても過言ではなく、被害者の“苦悩量”は、もはやアウシュビッツなどの収容所で虐殺された110万人の人々を遥かに超えているでしょう。
※当会メンバーが作成した、延命治療について詳細に解説した動画(ゆっくり解説)
安楽死に反対する人々の中には、「ドイツはかつてヒトラー政権下で“T4作戦”などの忌まわしい過去を経験した国だ」「安楽死を認めれば、同じように優生思想が再び実践されることになる」――このような懸念を声高に唱える方々もいます。
しかしながら現代ドイツでは、国家制度ではなく、市民団体主導の“仕組み”として定着しており、個人の尊厳と自由意思を守る制度として機能しています。
むしろ、本人の意思を無視して苦痛を延長し続ける日本の医療体制こそ、倫理的に深く問い直されるべき状況にあるのではないでしょうか。







