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【スペイン安楽死 #2】スペイン安楽死法案の内容から見る 申請から終了までのプロセス 強制リスク回避のための保護措置(セーフティガード)

  • 執筆者の写真: リップディー(RiP:D)
    リップディー(RiP:D)
  • 2 日前
  • 読了時間: 8分

【スペイン安楽死法案の内容から見る 申請から終了までのプロセス 強制リスク回避のための保護措置(セーフティガード)】


本稿では、スペインにおける安楽死法を対象として、

・「安楽死の申請から終了に至るまでの具体的プロセス」

・「患者に不利益をもたらさないために設けられた保護措置(セーフティガード)」

――以上の二点に注目しながら解説いたします。


スペイン政府のホームページ、安楽素に関するサイト画像

※スペインの安楽死について説明したサイト。一般の人々に向けた『非常に分かりやすいサイト』となっているので参考にしてください。


ちなみにスペイン(またはスペイン語圏&南米)では安楽死のことを『Eutanasia』と表現されます。つまり英語のEuthanasia(ユーサネイジア)と同じです。



※実際の『スペイン安楽死法』のPDFはこちらから

スペインの安楽死法の表紙


【法律名】 (スペイン安楽死法案の内容から見る 申請から終了までのプロセス)


『Ley Orgánica 3/2021, de 24 de marzo, de regulación de la eutanasia』


『2021年3月24日付け有機法3号 安楽死法』



【適格の条件】


年齢・居住地:

 18歳以上で、スペイン国籍またはスペインに法的な居住権を持つか、12ヶ月以上の居住を証明する住民登録証明書を持つ者。


意思決定能力:

 申請時に判断能力があり、意識があること。


情報提供の理解:

 自身の病状、利用可能な治療法、緩和ケアを含む選択肢、および依存症者への支援に関する情報(もしあれば)を全て書面で受け取り、理解していること。


医学的状態:

 担当医師によって、


重度で慢性的な身体機能不全を伴い、

耐えがたい肉体的または精神的苦痛を伴う状態


または


重篤で回復不能な病気で、耐えがたい肉体的または

精神的苦痛を伴い、生命予後が限られている状態


であると認定されていること。


自由意思と非強要:

 外部からの圧力の結果ではなく、自発的に、書面または記録可能な他の方法で2回申請していること。

2回の申請の間隔は最低15日間空ける必要がありますが、担当医師が患者の同意能力喪失が差し迫っていると判断した場合は、状況に応じてより短い期間でも認められる。


インフォームドコンセント:

 安楽死の援助を受ける前に、インフォームドコンセントを提供すること。これは患者の診療記録に記録されます。


※特例

 患者が上記の要件を満たす意思能力を完全に失っている場合でも、以前に事前の指示書(living will)同等の法的文書を作成しており、それが安楽死の援助を望む内容であれば、その文書に基づいて援助が提供されることがある。



※留意点

スペイン安楽死法案、法律第3条(定義)と第5条(要件)によると、対象となる疾患は

2つのカテゴリーに分類されます。


①「重篤で治癒不能な病気」

身体的または精神的苦痛が「耐えがたい」ほど続き、改善の見込みがない。

生命予後は「限定的」(数か月以内に限られない)。


②「重度・慢性かつ能力を奪う状態」

自立生活ができない、他者や機器に依存して生活するような重い障害や機能不全。

長期にわたり改善の見込みがない。

身体的または精神的に「持続的かつ耐え難い苦痛」を伴う。



つまり末期疾患でなくても許容範囲になります。

「末期(terminal)」であることは条件に含まれていません。オランダやベルギーと同じく、

慢性疾患や進行性障害で耐え難い苦痛があれば、適格基準の範囲内です。

(例:神経難病、完全麻痺、ALSなど)。

つまり、条件の幅は広いのが特徴です。


また精神疾患のみの申請も許容されます。

スペイン安楽死法案の法文上に「padecimiento físico o psíquico(身体的または精神的苦痛)」と明記。

ただし当然「慢性かつ改善見込みがない」「耐え難い苦痛」という厳しい条件を満たす必要があります。

実際の運用では、精神疾患を理由にするケースはきわめて慎重に審査されています(オランダ・ベルギーと同様)。



まとめると…

・スペインの安楽死は 『末期に限らない』

 → ALSや進行性難病、重度の慢性障害も対象。


精神疾患も法的には排除されていない。

 → ただし、厳格な審査と保証・評価委員会による多重チェックが必須。



【審査プロセス】


【申請段階① 】


最初の申請:

患者は、援助を求める明確な意思を示す書面または記録可能なその他の方法で最初の申請を行う。


文書には患者の署名と日付が必要で、患者が署名できない場合は、別の成人によって患者の目の前で署名・日付を記入し、その理由を明記することができる。


この文書は医療従事者の前で署名され、その医療従事者がこれを担当医師に提出し、診療記録に組み込まれる。



【申請段階② 】


担当医師による審議プロセス:

最初の申請を受け取った後、担当医師(médico responsable)は、2日以内に患者の資格要件を確認し、診断、治療選択肢、予想される結果、および緩和ケアについて患者と審議を開始。

医師は患者が提供された情報を理解していることを確認し、書面でも情報を提供。


2回目の申請:

最初の申請から15日(または担当医師が適切と判断した短縮期間)が経過し、その後2回目の申請を受け取った後、担当医師は2日以内に患者との審議プロセスを再開し、患者の疑問や追加情報への要求に対応する。


継続意思の確認と同意:

審議プロセス終了から24時間経過後、担当医師は患者に援助の継続意思を確認

患者が継続を希望する場合、担当医師はその状況を医療チーム(特に看護師)に伝え、患者が希望すれば家族や近親者にも知らせる。

また、患者からインフォームドコンセントの署名を得る。



【評価段階 】


顧問医師による評価:

担当医師は、患者が「重度で慢性的な身体機能不全を伴う状態」または

「重篤で回復不能な病気」であると判断した場合、


『顧問医師(médico consultor)』

(患者の病理学分野の訓練を受け、担当医師と同じチームに属さない医師)に相談し、

その書面による報告書を取得。顧問医師は患者の病状と治療可能性を評価。

顧問医師の報告が不承諾であった場合、患者は保障・評価委員会に異議を申し立てることができる。



【協議段階 】


審査委員会による検証


1. 担当医師による通知:

上記の手順が完了した後、担当医師は安楽死の援助を実施する前に、

『審査委員会(原文翻訳:保障・評価委員会)の委員長に最大3営業日以内に通知する。


2. 委員会の検証:

委員長は、2日以内に委員会から医師1名法務担当者1名を指名し、安楽死の申請要件と条件が満たされているか検証させる。


3. 情報アクセスと面談:

指名された委員は、診療記録にアクセスし、担当医師、医療チーム、および患者本人と面談することができる。


4. 報告と決定:

委員は7日以内に報告書を提出する。報告が承認であれば手続きは続行され、不承認であれば異議申し立てが可能。

もし2名の委員の意見が一致しない場合、検証は委員会の全体会議にかけられ、最終決定が下される。


5. 拒否に対する異議申し立て:

安楽死の申請が担当医師によって拒否された場合、患者は15日以内に保障・評価委員会に異議を申し立てることができる。

委員会がこれを拒否した場合、患者は行政訴訟を起こすことができる。



【実施・報告段階 】


安楽死の実施


1. 肯定的な決定後:

肯定的な決定がなされた後、医療従事者は最高の注意と専門性をもって安楽死の援助を実施し、適切なプロトコルを適用する。


2.患者の選択:

患者が意識がある場合、安楽死の援助を受ける方法を自身で選択します。選択肢は以下の通り。


・医療従事者による直接投与

担当医師が患者に薬剤を直接投与。この場合、担当医師と他の医療従事者は患者の死亡時まで立ち会う。


・患者による自己投与

担当医師が薬剤を処方・提供し、患者がそれを自己投与。この場合、担当医師と他の医療従事者は、患者が薬剤を自己投与した後、死亡時まで観察とサポートを行う。



実施後の手続きと監視


1. 保障・評価委員会への通知:

安楽死の援助が実施された後、担当医師は5営業日以内に、特定の患者情報や手続きの詳細を記載した2つの文書を保障・評価委員会に送付する。


2. 委員会の事後検証:

保障・評価委員会は、安楽死の援助が法律に定められた手順に従って実施されたかどうかの事後検証を2ヶ月以内に行う。


3. 死亡の法的考慮:

安楽死の援助による死亡は、全ての目的において、法的に自然死とみなされる。


4. 良心的拒否:

直接安楽死の援助に関わる医療従事者は、自身の信念と相容れない場合、良心的拒否権を行使できる。医療機関は良心的拒否者の登録を作成(※世界共通のルール)。


5. 障がい者への支援:

聴覚障がい者、聴覚困難者、盲ろう者には、情報へのアクセス、意思の形成と表明、同意、コミュニケーションを支援するための資源と手段が保証される。


6. 年次報告:

保障・評価委員会(審査委員会)は、安楽死法の適用状況に関する年次評価報告書を作成し、公表する義務がある。


※【保護措置(セーフティガード)】

・2回の独立した申請+熟慮期間

・患者本人の自由意思確認(外部からの圧力を排除)

・第三者医師のチェック

・保障・評価委員会(審査委員会)による 事前審査+事後審査



備考


【スペインの安楽死プロセス】

①担当医師(多くは主治医)に申請(第1チェック)

②顧問医師(最初とは全く別の独立した医師)の評価(第2チェック)

③安楽死『審査委員会(保障・評価委員会:第3者外部機関)』から指名された

新たな医師1名&法務担当者1名による評価(第3チェック)

④実施


※オランダ周辺国の形式をモデルとしています。



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