コロンビア安楽死制度の全経緯|1997年判例から非末期拡大までの司法主導の歩み
- リップディー(RiP:D)

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要約図(自由使用可)

コロンビア安楽死制度の形成過程|司法主導で拡張された制度の全体像

コロンビアは、国民の多くがカトリック信仰を持つ、南米でも伝統的に保守的な国です。
その一方で、安楽死をめぐっては
司法が主導するかたちで制度の範囲が拡張されてきた国
として、国際的な注目を集めています。
・1997年の憲法裁判所判決
・2015年の保健省行政指針
・2021年の歴史的判断
・2022年の非末期患者実施
コロンビアは、南米ラテンアメリカで最初の安楽死合法国となりました。
以後は南米諸国も、この『コロンビアの遺産』を引き継いで合法化をめざしています。
ここでは、コロンビアにおける安楽死の制度が、どのような経緯で形成され、どこまで拡大してきたのかを、判例・制度・社会的議論の流れに沿って整理します。
1997年:憲法裁判所判決による安楽死の非罪化
――法律なき制度の出発点
1997年、コロンビア憲法裁判所は、一定の条件を満たす場合において、
安楽死(慈悲致死)を一律に処罰することは憲法に反すると判断しました。
この判決により、コロンビアでは
法律が存在しないまま、判例によって安楽死が非罪とされる状態が生まれました。
ただし、この時点では、
実施手続き
医療機関の役割
審査体制
といった運用面は整備されておらず、制度としては事実上「空白」の期間が続くことになります。
2015年:保健省行政指針による制度化と実施開始
――判例から運用へ
2015年、保健省による行政指針が整備され、医療現場で実際に安楽死が行われるようになりました。
これは、1997年の判例による非罪化が、約18年を経て、ようやく運用として具体化したことを意味します。
しかし重要なのは、この段階でも、
国会による明確な法律は制定されておらず
実施は行政ガイドラインと
医療機関の判断に委ねられていた
という点です。
この制度の下で、これまでに百件以上の安楽死が実施(2021年までに計124名が安楽死)されていますが、法制化は現在に至るまで行われていません。
2020年:ALS患者事例が示した制度の限界
――「末期要件」と苦痛の乖離

2020年、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患う女性が安楽死を申請しました。
しかし彼女の申請は、「末期状態ではない」という形式的理由で却下されます。
彼女は制度の不整合を訴え続けましたが、申請は認められず、その後、亡くなりました。
この出来事は、苦痛の深刻さと制度上の基準が乖離しているという問題を、社会に強く印象づけることになりました。
2021年7月:憲法裁判所が「末期要件」の歴史的転換
――「末期」という条件の転換
2021年7月、憲法裁判所は、安楽死の基準について次のような判断を示しました。
「末期状態でなくとも、深刻な不治の病により激しい身体的または精神的苦痛がある場合、安楽死の実施は罪に問われない」
この判断により、「死が差し迫っているかどうか」だけが基準ではなくなりました。
それまで末期患者を中心としていた運用は、ここで根本的な拡張を迎えることになります。
2021年10月:マーサ・セプルベダ事件と審査の透明性問題
――判断主体への問い
同年10月、審査を通過していた別のALS患者の安楽死が、医療委員会の判断で、」
「病状が改善している」とされ、直前でキャンセルされました。
この出来事は大きく報道され、「誰が、どの基準で決めるのか」という制度の不透明さが、社会的議論の焦点となりました。
マーサ・セプルベダ(Martha Sepúlveda)氏
2022年1月:南米初の非末期患者による安楽死実施
――制度が現実に動いた瞬間

2022年1月7日、ビクトル・エスコバル(Víctor Escobar)氏(60歳)が、
慢性肺疾患などによる耐えがたい苦痛を理由に安楽死を実施しました。

彼は末期状態ではありませんでしたが、憲法裁判所の判断を根拠に、
約2年にわたる法的闘いを経て、権利を勝ち取りました。

この事例は、
・非末期患者による安楽死として、
・南米で初めての実施例
として、国際的に報じられました。

コロンビアの詳しい事情は、こちらの動画から学べます。
むふむふチャンネル様の提供
翌日:別のALS患者も実施
――判決が現場で機能し始めた象徴
さらに翌日、先述した、前年に安楽死をキャンセルされていた女性ALS患者も、無事に安楽死を実施しました。

この連続した事例は、憲法裁判所の判断が、医療現場で実際に機能し始めたことを象徴する出来事となりました。
コロンビア社会の宗教的背景と価値観の変化
コロンビアは、国民の約95%がキリスト教徒(主にローマ・カトリック)とされ、自殺や安楽死は長く「神の領域への介入」と見なされてきました。
中絶についても、2006年まで(強姦などでも)例外なく禁止されていたほど、社会的には保守的な価値観が根強い国です。
それでも、司法判断を積み重ねることで、価値観と制度が少しずつ更新されてきました。
・音の谷ラテンアメリカニュース : コロンビアで行われる妊娠中絶の99.9%が非合法 年間40万人が堕胎する
世界の安楽死制度との比較|厳格型と寛容型
世界の安楽死は、導入時または導入後で、大きく2つの型にわかれます。
・厳格型:末期疾患が対象。余命要件あり
・寛容型:個人の苦痛の深さが要件
南米で初の安楽死合法国となったコロンビアは、以後の南米合法国の模範となりました。
つまり、南米では『寛容型』が以後も採用されることになりました。

※『フランス』は、現時点のままいけば、寛容型の安楽死制度となりそうです。
まとめ|制度の内容だけでなく「決まり方」を問う
――制度の「決まり方」を見つめる
コロンビアの事例は、
・裁判所が制度変革の主導権を握り、
・段階的に安楽死の範囲を拡張してきた
という点で、世界的にも特徴的です。
末期でない患者にまで対象が広がった経緯は、安楽死をめぐる議論が、
・「結果」だけでなく
・「どのように決められたのか」を問う必要性を示しています。
私たちは、この事例から、制度の内容と同時に、その形成過程にも目を向けていく必要があるのではないでしょうか。
※コロンビアの安楽死制度の成立に関わった団体や人物の歩み、
また、法制化がなされていない中で、実際にどのような審査手続きが行われ、どのようなプロセスを経て実施に至るのかについては、あらためて別の記事で詳しくご紹介いたします。







