【カナダ安楽死 #2】カナダ 安楽死 法ガイド:申請から手続き・保護措置まで全プロセスを徹底解説
- リップディー(RiP:D)

- 2025年12月1日
- 読了時間: 11分
更新日:1月3日
🎧音声による動画解説
カナダの安楽死制度(MAID)|
申請から手続き・保護措置まで全プロセス解説
本稿では、カナダにおける安楽死法を対象として、
・「安楽死の申請から終了に至るまで
の具体的プロセス」
・「患者に不利益をもたらさないために設けられた保護措置(セーフティガード)」
――以上の二点に注目しながら解説いたします。
カナダ安楽死法とは|外部リンク情報

カナダ政府公式ホームページ:一般人向けの『非常に分かりやすいサイト』

『安楽死および自殺幇助の審査法』のPDF
カナダ安楽死法の正式名称
Medical assistance in dying: Legislation in Canada
一般的にMAID(メイド)と呼ばれ、日本で言う『安楽死』に相当します。
カナダの安楽死は、ケベック州では2015年から、その他のカナダ地域では2016年から法制化。
【適格の条件】
カナダ安楽死法の適用対象と要件|誰が申請できるのか
公的医療の受給資格(居住や待機期間の条件を満たす等)
18歳以上で、医療判断の能力がある
自発的な申請(外部からの不当な圧力がない)
インフォームド・コンセント(緩和ケアを含む代替手段の説明を受けた上での同意)
『重大かつ治る見込みのない状態(grievous and irremediable medical condition)』:
‣ 重篤で治らない病気・疾患・障害
‣ 能力の不可逆的低下 (身体・社会・職業など、本人にとって重要な機能の重度の低下)
その状態が、『本人にとって耐え難く、本人の許容条件では緩和できない持続的な苦痛』を引き起こしている
苦痛評価の注意点
身体・心理・社会・実存の各側面を幅広く把握
本人の語りと臨床像・既往の意思表明との一貫性
苦痛の原因が病状や低下に起因しているか
苦痛が持続的であるか
主観性の尊重(苦痛は本人の主観に属する)
備考
・オランダの安楽死モデルに、やや近い(非末期疾患も許容)。
つまり認知症、頚髄損傷(首から下が動かない)などで実存的な苦痛を持つ患者も許容範囲内。
※ただし精神疾患が唯一の基礎となる病状への安楽死(MAID MD-SUMC)は、2024年3月17日からは合法の予定でしたが、残念ながら世界的なカナダ安楽死陰謀論の大流言の影響を受け、2027年3月17日まで延期を余儀なくされました。
カナダ安楽死:申請〜終了までの手続きの基本構造|保護措置(セーフティガード)
※事前に注意すべき点
2つの『トラック(Track)』という用語に注意。
・トラック1:(末期)
自然死が合理的に予見可能(reasonably foreseeable)な患者の申請。
・トラック2:(非末期)
自然死が合理的に予見可能ではない(Not reasonably foreseeable)人の申請。
→ 追加のセーフガード(90日間の待機期や、専門家コンサル等)が必要。
※MAIDは、トラック1安楽死、トラック2安楽死の、2種類に分けられ論じられます。
ザックリ言うと、安楽死申請時に患者が『末期か、非末期』どちらの状態かということ。
カナダは施行開始5年を過ぎた2021年から、非末期疾患の安楽死も許容範囲となりました。
カナダの安楽死において独自の表現となります。
詳しくは以前解説した記事を参照
↓
カナダMAID(安楽死)のプロセスイメージ

【安楽死 審査プロセス】
【申請段階】
主治医による医学的評価|
耐え難い苦痛と代替手段の検討
(患者の意思を初めて明確にする段階)
1.本人からの意思表示:
MAIDは本人の意思に基づくもので、他者の指示では決して行えない。
2.初期説明:
MAIDの仕組み/要件、緩和ケアを含む代替手段、撤回の自由(いつでも可能)などを説明。
(Track 2では)カウンセリング、メンタルヘルス・障害支援、地域サービス、緩和ケア等の情報提供と、必要に応じた専門職への紹介を提案。
3.書面リクエストの作成:
本人(または法が許す場合は代筆者)が署名・日付を記入し、独立した証人が同席して署名・日付。
4.守秘:
本人の同意なく、MAIDの申請・提供事実を開示しない。
※自発性・同意(Voluntariness & Informed Consent)についての注意事項
申請は自由意思に基づくことを確認(家族・医療者等からの不当な影響がない)。
同意は本人から直接取得(代理決定者による同意は不可)。
説明に含める事項:
合理的・受容可能な治療選択肢(利益・リスク・副作用)と緩和ケア
(Track 2)支援サービス(相談、メンタルヘルス、障害支援、地域・所得・住宅支援等)の案内と専門職への紹介提案
いつでも撤回可能であること(実施直前にも撤回の機会を提供)
方法ごとの合併症の可能性(提供者投与/自己投与、死亡に至らない場合があり得る 等)
自己投与を選ぶ場合:
上手くいかない/遷延する可能性があり、その際に他者からの投与へ切替えるには実施直前の本人同意が必要。
あるいは、事前取り決め(Advance consent for provider-administered MAID)を結んでおく。
【評価段階】
独立医師によるセカンドオピニオン制度|
二重確認の仕組み
評価者(主に医師)2名(1番目:プロバイダー + 2番目:別のアセッサー)。
互いに独立して別々に評価。
Track 1(自然死が合理的に予見可能=末期)
書面リクエストは独立証人の前で署名・日付。
コミュニケーションに困難がある場合は、理解・意思表明のための合理的配慮を提供。
実施直前:撤回の機会を与え、明示的な最終同意を取得(※下記の免除がある場合を除く)。
※最終同意の免除(Waiver of Final Consent):
トラック1に限り、判断能力喪失後の提供を予定した書面の取り決めを、本人とプロバイダーの間で結べる(条件・様式は各法域の規定に従う)。

Track 2(自然死が合理的に予見可能でない=非末期)
評価2名(独立)は同様
追加要件:
90日間の最短期間(評価開始日から90日の「待期期間」)。
本人に、苦痛緩和のための合理的かつ利用可能な手段(カウンセリング、支援サービス、地域サービス、緩和ケア等)を情報提供し、紹介を提案。
その手段を本人が「十分に真剣に検討」したかを、プロバイダーとアセッサーが合意して確認。
原因疾患に専門性を持つ実務家(Practitioner with expertise)へのコンサル(プロバイダー・アセッサーのいずれも当該疾患に専門性がない場合)。
90日の短縮:能力喪失が切迫している等、プロバイダーが短縮を検討する場合は、アセッサーの所見(能力喪失が差し迫っているか)を要する。

【実施・報告段階】
カナダにおける安楽死の実施方法|
手続きと医療管理体制
方式
提供者投与(Provider-administered MAID):
医師またはNP(専門ナース)が薬物を投与して死亡に至らせる。
自己投与(Self-administered MAID):
医師/NPが薬剤を処方・供与し、本人が自己投与して死亡に至る。
自己投与では、不成功や遷延の可能性を事前に説明。
事前同意(Advance consent)を取り交わしておけば、自己投与が不成功・遷延した際に、条件を満たせば提供者投与へ移行可能。
薬剤の安全管理
薬剤局への通知:
MAID目的で処方・受領する際は、薬剤師にその目的を伝達。
安全な処方・保管・返却:関連物質の安全な使用・保管・返却を確保。
・実施直前:
撤回の機会を与え、明示的な最終同意を確認(Track 1で最終同意免除または自己投与の事前同意が有効な場合を除く)。
・実施:
選択した方式(提供者投与/自己投与)に沿って、臨床ガイドラインと施設プロトコルに従い安全に施行。
・死亡診断書:
各法域の規則に従って記載。
・記録・報告:
医療記録に評価内容・同意・説明事項・連携などを記載。
連邦報告制度および州・準州の追加報告に従って届け出。
※留意事項:
・この説明は標準モデルに基づいて整理したもの。
州・準州の規定によって…書式・証人要件、最終同意免除や事前同意の具体的な手続き、報告様式・期限、 などが異なる場合あり。実務は必ず該当法域の規則・ガイダンスに従う。
・医師には良心的診断拒否の権利あり。(※これは世界共通の約束事)
カナダ安楽死|申請手続きの全体フロー
カナダにおける安楽死(MAiD)の実施プロセスは、概ね下図のように整理されます。

安楽死の可否判断は、独立した2名の医師が、それぞれの専門的見地から、必要に応じて医療・福祉分野の多職種と協議しながら決定します。
一部の反対論者からは「審査が緩い」との批判が見られます。こうした批判は、しばしば宗教的価値観に基づく傾向があり(後述)、ベネルクス三国の制度を引き合いに出して非難する例も散見されます。
しかし、オランダにおいては、独立した2名の医師による第一次・第二次審査に加え、第三のチェック機能に相当する行政組織(地域審査委員会)が存在し、実務上はより多層的な審査体制が構築されています。

これに対し、カナダには(アメリカも)オランダのような「第三チェック機関」が存在しないため、制度全体としては、保護措置(セーフティガード)が相対的に緩やかであるとの指摘も一定の合理性を持ちます。
こうした背景が、WHO や国連人権関連機関などから制度運用に対する懸念が示される一因ともなっています。
日本で話題にされる懸念との比較|
カナダ制度が示す現実的対応
ところで日本では、カナダの安楽死(MAiD)制度に関し、
「障害者や経済的弱者が強制的に安楽死に追い込まれている」
「生活保護より安楽死の申請手続きの方が容易である」
といった、いわゆる“ディストピア的陰謀論”が流布している状況が見受けられます。
しかし、これらの主張は 事実とは大きく乖離した誤情報であり、根拠を欠くデマであることを明確に申し添えておきます。
こうした誤情報の背景には、北米におけるキリスト教原理主義系メディアの『強い情報発信力』が存在します。
特に北米では、日本と異なり 宗教メディア(キリスト教系保守メディア)が政治・社会議論に強い影響力を持つという構造的特徴があります。
これらのメディアは、安楽死制度の成立が自らの掲げる
宗教的教義(死生観・禁忌)
道徳的価値観
関連団体の影響力(利権)
に対して脅威となると考え、強い危機感を抱く傾向があります。



キリスト教生命倫理に基づいて裁判(中絶の完全禁止)をくり返す組織
・「安楽死は自殺であって(キリスト教的)生命倫理に反する卑劣な行為である」
・「自殺は神様を裏切る極めて冒涜的で恥ずべき行為である」
・「キリストの受難がそうであるように苦しみには意味がある」
その結果、制度を否定する目的で、事実を誇張したり、一部の特殊事例を一般化したりする形で、情報操作的な論調が発信されることが多々あります(別記事で詳しく解説)。
日本に流入している「カナダは弱者に死を強制する社会になっている」といった誤情報の多くも、これら北米発の宗教原理主義的メッセージが翻訳・伝播したものです。もちろん日本にもキリスト教系団体が存在し彼らと密接に関係しています(別記事で解説)。
なお、日本においても事情は一部共通しております。
安楽死制度の導入が議論される際には、
組織の体面(沽券)
既存の社会保障領域における影響・利権構造
宗教団体の教義との整合性
といった要素を懸念する層が情報発信の「源泉」となる例が見られます。
これについては日本の安楽死の項で詳しく説明しています。
カナダ安楽死の、陰謀論およびデマ流布は、世界では沈静化している
また以下の事実も確認しておくと良いでしょう。
カナダの安楽死制度(MAiD)は、国際的にも透明度の高い統計・報告制度を有しており、すべての実施ケースが年次報告として公表されているため、“弱者に死が強制される”といった主張が事実であれば、統計上必ず可視化。
また、政府の統計のみならず国際的な調査会社が介入し、デマは否定され、カナダへのバッシングはすでに沈静化しています。
非末期のケース(トラック2)は依然として全体の約4%前後(2023年622人)に留まっており(ほとんどが寿命6~12か月以内の末期疾患)、制度が乱用されているという証拠は見つかっていません。
カナダ国内には、州ごとの倫理審査・医療監察制度が存在し、医師の判断が恣意的になることを防ぐ枠組みが整備されている点も強調すべき事項。
日本はカナダや安楽死合法国を揶揄している場合ではない
もし本当にカナダの社会的弱者の「強制的な死」について懸念を抱くのであれば、むしろ日本国内における、
生活保護の申請が適切に受理されず、困窮の末に餓死や自死に至る事例
病苦に耐えかね、鉄道自殺などに及ぶ人々が少なくない現状
日本では身体疾患の病苦に耐えかねて、自ら命を絶つ人々が多い現状
こうした“現実に発生している日本の問題”に、より強い関心を向ける必要があるのではないでしょうか。
カナダの制度に対する過度な危機論を唱える前に、まずは自国で既に顕在化している課題へ向き合う必要性を改めて考えるべだといえます(日本の自殺率については別記事で紹介)。





