【オーストラリア安楽死 #2】オーストラリア安楽死法案の内容から見る 申請から終了までのプロセス 強制リスク回避のための保護措置(セーフティガード)
- リップディー(RiP:D)

- 12月3日
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更新日:2 日前
【オーストラリア安楽死法案の内容から見る 申請から終了までのプロセス 強制リスク回避のための保護措置(セーフティガード)】
本稿では、オーストラリア(ビクトリア州)における安楽死法を対象として、
・「安楽死の申請から終了に至るまでの具体的プロセス」
・「患者に不利益をもたらさないために設けられた保護措置(セーフティガード)」
――以上の二点に注目しながら解説いたします。

オーストラリアはビクトリア州ホームページの、安楽死法に関するサイト
法律のPDFはこちら
【法律名】(オーストラリア安楽死法案の内容から見る 申請から終了までのプロセス)
『Voluntary Assisted Dying Act』
※オーストラリアでは『安楽死(Eauthanasia: ユーサネイジア)』という言葉は使わず、Voluntary Assisted Dying 、通称『VAD』と呼称します。
【適格の条件】
・18歳以上であること。
・オーストラリア市民または永住者であること、およびビクトリア州に通常居住しており、最初の申請時に少なくとも12ヶ月間そうであったこと。
・VADに関する意思決定能力があること。
・治癒不能であり、進行性で、死をもたらす疾患、疾病、または医療状態と診断されていること。
・その疾患により、数週間から数ヶ月以内、最長6ヶ月以内、
または神経変性疾患の場合は最長12ヶ月以内に死に至ると予想されること。
(※非末期の状態では対象外)。
・その疾患が、本人が耐えられないと判断する苦痛を引き起こしており、許容できる方法で軽減できないこと。
・精神疾患や障害のみを理由としてVADの資格は得られない。
※神経変性疾患:
ALS、パーキンソン病、脊髄小脳変性症、多系統萎縮症、多発性硬化症、ハンチントン病など。
【審査プロセス】
【申請段階 ①】
・VADへのアクセスを希望する者は、登録医療従事者に対して明確かつ曖昧でない個人的な要求を行う。
・要求は口頭、ジェスチャー、またはその他の利用可能な意思伝達手段で行うことができる。
・要求を受けた医療従事者は、7日以内にその要求を受諾するか拒否するかを患者に伝えなければならない。
拒否の理由としては、良心的診断拒否、多忙、資格要件の不適合などが挙げられる。
・ 受諾された場合、その医療従事者は患者の医療記録に記録し、調整医師(1番目の医師)となる。
・患者はいつでも要求を撤回でき、その時点でプロセスは終了するが、新たに開始することも可能。
【申請段階 ②】
・調整医師が、患者が適格基準を満たしているか評価する。
・評価開始前に承認された評価トレーニングを修了している必要がある。
・意思決定能力の判断が困難な場合(例:精神疾患による)や、神経変性疾患で予後が6〜12ヶ月と予想される場合は、
専門家(精神科医など)の意見を求めるための紹介が義務付けられる。
・適格と判断された場合、調整医師は患者に対し、診断、予後、利用可能な治療法や緩和ケアの選択肢、処方される薬剤のリスクと結果、および要求を撤回する権利について説明。
・患者の同意があれば、家族の一員に、関連する臨床ガイドラインや自己投与計画について説明する措置も講じる。
・調整医師は、患者の要求が自発的であり、強制されておらず、持続的であることを確認する必要がある。
・評価結果は患者に通知され、最初の評価報告書に記録され、7日以内に委員会に提出される。
・適格と判断された場合、患者は相談評価のために別の登録医療従事者に紹介される。
【評価段階 ①】
・別の登録医療従事者が相談評価の紹介を受諾または拒否(拒否理由は最初の申請と同様)。
受諾した場合、その医療従事者は相談医師(2番目の医師)となる。
・意思決定能力(例:精神疾患)や疾患に関して、専門家の意見を求める紹介を行うことができる。
・適格と判断された場合、最初の評価と同様の情報を患者に提供。
・要求が自発的であり、強制されておらず、持続的であることを確認する必要がある。
・評価結果は患者に通知され、相談評価報告書に記録され、7日以内に委員会および調整医師に提出。
・不適格と判断された場合でも、調整医師はさらなる相談評価のために別の医療従事者に紹介することができる。
・調整医師の役割は、患者を適格と評価した相談医師に引き継がれる場合がある。
【評価段階 ②】
・両医師による適格評価後、患者はVADアクセスを要求する書面による宣言を行なう。
・自発的であり、強制されておらず、その性質と効果(死に至るという結果)を理解していることを明記する必要がある。
・患者本人(または本人が署名できない場合は代理人)が、2人の証人および調整医師の立ち会いのもと署名。
・証人は18歳以上で、不適格な証人(遺言の受取人、治療中の医療施設の所有者/運営者/従業員、直接の医療サービス提供者)でないこと。
・家族構成員の証人は1名までとされている。
・証人は、署名が自発的であること、患者に意思決定能力があること、および宣言の性質と効果を理解していることを証明。
・通訳が関与する場合、通訳は認定を受けており、不適格な証人であってはならず、翻訳が正確であることを証明しなければならない。
【評価段階 ③】
・最終申請:
書面による宣言後、調整医師に対して患者本人から行われる。
最初の申請から少なくとも9日後、かつ相談評価完了から少なくとも1日後に行われなければならない。
死亡が9日以内に起こると予想される場合は、より短い期間が許容される。
・連絡担当者:
患者は最終申請後、18歳以上の人物を連絡担当者に指名する必要がある。
連絡担当者は指名を承諾し、患者の死亡後(15日以内)または自己投与を中止した場合に、使用されなかった薬剤を薬局に返却する義務を負う。
指名フォームは、患者と連絡担当者本人が18歳以上の第三者の立ち会いのもと署名。
委員会は、情報提供のために連絡担当者に連絡することがある。
・最終レビュー:
調整医師は、全ての関連フォーム(最初の評価報告書、相談評価報告書、書面による宣言、連絡担当者指名フォーム)をレビュー。
プロセスが法律の要件に従って完了していることを証明する。
最終レビューフォームのコピーと、レビューした全てのフォームを7日以内に委員会に送付する。
証明後であっても、患者はVADの継続を中止する決定をいつでもできる。
【協議段階】
・調整医師は、最終レビューの証明後、許可証を申請する。
・2種類の許可証がある。
1.自己投与許可証(Self-administration permit):
患者が自分で薬剤を投与できる場合に適用される。
調整医師による処方と供給、および患者による入手、所持、保管、使用、自己投与を許可。使用されなかった場合は、連絡担当者は薬剤を返却。
2.医療従事者投与許可証(Practitioner administration permit):
患者が自分で薬剤を投与できない場合に適用。
調整医師による処方、供給、および(証人の立ち会いのもとでの)投与を許可。この際、患者が意思決定能力を有し、自発的で持続的な要求があり、かつ要求後すぐにに投与される場合に限る。
3.担当省庁が申請を審査し(許可または拒否)、調整医師と委員会に通知する。
許可証は薬剤を特定し、指定された日から有効になる。
自己投与許可証は、未記入の処方箋が破棄された場合、または供給された薬剤が処分された場合にキャンセルされる。
自己投与ができなくなった場合、患者は医療従事者投与許可証の申請を要求でき、その際には未記入の処方箋の破棄と、すでに供給された薬剤の返却が必要となる。
※オーストラリアでは、安楽死薬の『自己摂取』『医師から注射』、どちらの方法でも可能です。国によっては『前者のみ』という場合もあります。
【実施・報告段階】
・処方/調剤(自己投与):
調整医師は患者に対し、自己投与方法、薬剤の取得や服用義務がないこと、施錠された箱での保管、未使用薬剤の返却方法について説明。薬剤師も調剤時に同様の情報を提供。
・表示:
薬剤には、その目的、危険性、保管要件、返却方針を警告するラベルを貼付する必要がある。
・記録/通知(薬剤師):
薬剤師は調剤を記録し、7日以内に委員会にフォームを送付。返却された薬剤の処分を記録し、7日以内に委員会に通知。
・投与申請(医療従事者投与):
患者は調整医師に投与申請を行う。その際、意思決定能力があり、要求が持続的で、即時投与を理解している必要がある。証人の立ち会いが必要。要件を満たさない場合、調整医師は拒否できる。
・投与の証人:
18歳以上で、調整医師から独立している必要がある。患者の能力、自発性、持続的な要求を証明し、調整医師が薬剤を投与したことを記載。
・調整医師による証明(投与後):
調整医師は、患者が自己投与できない身体状態であったこと、意思決定能力があったこと、自発的であったこと、要求が持続的であったことを証明する。7日以内にフォームを委員会に送付する。
・死亡通知:
登録医療従事者は、登録官と検視官に死亡と基礎疾患を通知し、VAD薬剤が自己投与されたのか、医療従事者によって投与されたのか、あるいは使用されなかったのかを明記。
死亡記録には年齢、性別、民族性、郵便番号、障害の有無、末期疾患の情報が含まれる。
※留意点
オーストラリアでの安楽死法では『自己投与の場合』においては、薬を自宅の金庫に保管(義務)して、いつでも好きな時に実施が可能。医師やナースが側に付いている必要はないです。
いわゆる“お守り”を自分の側に置いておけるイメージ。結局使用されないで亡くなるケースも多いので、既述の連絡担当者の存在が必要になっています。
日本人には不安視されそうですが、現状まったく問題は起きていないとの事。
以下のイギリス国会審議も参考にしてください。
オーストラリアの緩和医療学会の会長の発言
安楽死の資格を患者が得ることは
『大きな慰め』
『最終的な保険ポリシー』
と表現されていました。
【その他 注意事項】
• 良心的診断拒否(Conscientious Objection):
登録医療従事者は、VADへの参加を拒否する権利を有する。
また患者から要求されていないのにVADについて議論を開始したり、提案したりしてはならない(※2025年11月に撤廃)。
• 安楽死審査委員会(Voluntary Assisted Dying Review Board):
VADに関連する事項を監視し、法律の運用をレビューする独立した機関が設立されている。
委員会はコンプライアンスの促進、問題の調査、データ分析、および議会への年次報告を行う。
不正行為が疑われる場合、警察や検死官などの関係機関に情報を提供する権限がある。
• 責任の保護と違反行為:
本法に従って誠実に行動する医療従事者やその他の関係者は、民事または刑事責任、および専門的な懲戒処分の対象とならない。
不正行為や不当な影響力を行使して他者にVADを要求させたり、薬物の自己投与を誘発したりする行為は重大な犯罪であり、終身刑を含む懲役刑が科される可能性がある。
虚偽の陳述や書類の偽造、破壊もまた犯罪である。
これらの保護措置は、患者の脆弱性を保護し、VADのプロセス全体を通じて患者の意思の自由と尊厳を確保するために設計されている。
【豪ビクトリア州の安楽死プロセス】
①『調整』医師:患者が適格基準を満たしているか評価(第1チェック)
↓
②『相談』医師:別の登録医師が①と同様の評価(第2チェック)
↓
③『書面』による宣言:2名の証人と調整医師の前で署名(第3-1チェック)
↓
④調整医師が最終チェック:連絡担当者を指名(第3-2チェック)
↓
⑤安楽死許可証を申請:審査委員会と担当省庁が審査して発行(第3-3チェック)
↓
⑥実施
※もう少し簡略化。
①『調整』医師:患者が適格基準を満たしているか評価(第1チェック)
↓
②『相談』医師:別の登録医師が①と同様の評価(第2チェック)
↓
③『書面』による宣言後、最初の調整医師が最終チェックして、安楽死許可証を委員会および省庁(≒国、行政機関)に申請(第3チェック)
※オランダで言うところの『SCEN』に該当。
イギリスで言うところの『パネル審査』に該当。
↓
⑥実施
備考
オーストラリアの安楽死制度は極めて厳格な運用が求められ、その手続の複雑さは多くの専門家から指摘されています。
実際、オーストラリアの安楽死制度においても、厳重すぎる制度設計が現場の医療従事者から批判を受けていることは広く知られています。
もはや「厳重」という表現を超え、手続そのものが極めて複雑かつ煩雑であると評価されるほどです。
制度の基本的な枠組みは三段階のステップを進める構造となっていますが、各ステップに要する時間は相当長く、また多数の医療従事者の関与を必要とします。
中心的な監督者として配置されるのは調整医師と相談医師の二名ですが、実際にはこれに加えて複数の医師が手続に参画せざるを得ない場合も多く、制度運用の負担は決して軽いものではありません。
【参考動画】
むふむふチャンネル様の提供動画




