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【オランダ安楽死 #2】オランダ安楽死法案の内容から見る 申請から終了までのプロセス 強制リスク回避のための保護措置(セーフティガード)の詳細

  • 執筆者の写真: リップディー(RiP:D)
    リップディー(RiP:D)
  • 11月21日
  • 読了時間: 12分

更新日:23 時間前

【オランダ安楽死法案の内容から見る 申請から終了までのプロセス 強制リスク回避のための保護措置(セーフティガード)の詳細】


本稿では、オランダにおける安楽死法を対象として、

・「安楽死の申請から終了に至るまでの具体的プロセス」

・「患者に不利益をもたらさないために設けられた保護措置(セーフティガード)」

――以上の二点を注目しながら解説いたします。


下記のサイトは、オランダ政府が一般市民向けに提供している公式情報であり、安楽死制度を極めて分かりやすく整理したものです。

制度理解の一助となりますので、ぜひご参照ください。


オランダの安楽死に関するホームページ



なお、実際の「安楽死法」および関連指針はこちらに掲載されています。

法的運用や臨床手続を確認するうえで極めて有用です。

 ⇩



オランダの安楽死制度は世界的に見ても早期に整備され、その後の各国の立法過程に大きな影響を与えてきました。多くの安楽死合法国の制度設計は、基本的な枠組みをオランダの仕組みに学びつつ、自国の土壌(文化的・社会的背景)に調整を加えたものといえます(ただし、スイスやアメリカの一部州の制度は、独自の歴史的経緯を持ち、構造がやや異なります)。


安楽死制度がどのような過程を踏み、どのような安全装置のもとに運用されているのかを把握していただくことで、制度の実像がより鮮明になると考えます。

以下に示すのは、オランダ安楽死制度における「大枠の流れ」であり、世界各国の制度も概ね、これに近い形を採用しています。


① 申請段階:

 主治医が患者の意思を初めて明確化する段階(第1チェック)

  ⇩

② 評価段階:

 法的基準への適合性を、別の医師が判断する段階(第2チェック)

  ⇩

③ 協議段階:

 外部の第三者医師(または機関)による再評価段階(第3チェック)

  ⇩

④ 実施・報告段階:

 安楽死の実施と、地域審査委員会への詳細な報告提出


この流れをより簡潔に示すと、次のとおりです。


1.主治医による相談受付および診断

2.(オランダの場合)精神科医を含む専門スタッフ、独立した第2医師による追加審査

3.第三者機関からの最終総合チェック

4.実施および報告


オランダは、「第三者機関の独立性」「地域審査委員会(RTE)による事後審査」が制度の信頼性を強固にしています。審査委員会は医師・法律家・倫理専門家等で構成され、毎年詳細な公開報告書を提出するため、制度の透明性も高いと評価されています。


もっとザックリ言ってしまうと、


主治医 → 第2医師 → 専門機関の総合チェック → 実施


――このように4段階制を踏む方式が基本とイメージしておきましょう。あとは、その国々独自の方法論が加わる形です。

ちまたの書籍では「二人の医師が別々に診断・審査が要する」とサラッと書いてありますが、その上で、“第3の審査”が存在することは注意しといてください(※3.がない国もあります)


たとえばイギリスで議論されている法案では、上記③最終チェック段階では「高等法院の裁判官も関与するパネルシステム(委員会方式)」の導入が検討されており、司法の関与がより明確に組み込まれる予定です。

このように、諸外国はオランダモデルを基礎にしつつ、独自の構造を持って制度設計を試みています。



【法律名】

『安楽死および自殺幇助の審査法』

(Wet toetsing levensbeëindiging op verzoek en hulp bij zelfdoding )略して『Wtl』


※オランダでは、いわゆる“安楽死”という用語は、英語でいうEuthanasia(ユーサネイジア)が一般的です(オランダ語ではEuthanasie)。



【適格の条件】


  1. 患者の要請が自発的かつ慎重に考え抜かれたものであること

  2. 患者の苦痛が絶望的で耐え難いものであること

  3. 医師が患者に対し、病状・予後について十分な説明を行っていること

  4. 医師と患者の双方が、他に合理的な解決策が存在しないと結論したこと

  5. 少なくとも1名の独立した医師が診察・書面による意見を提出していること

  6. 医療的行為によって安楽死が実施されること


6つの条件は、今となっては「当たり前」に映りますが、2001年当時は画期的でした。

更なる詳細な条件や適応対象、および2024年の状況についてはこちらオランダ安楽死♯1を御覧ください。



【審査プロセス】


【申請段階】

(患者の意思を初めて明確にする段階)


  • 開始条件:

    患者が医師に対し、安楽死を望む旨を明確に伝えることで開始。

  • 医師の対応:

    医師はこの希望が一時的な情緒によるものか、熟慮された持続的な意思なのかを慎重に聞き取り評価する。

  • 区別の必要性:

    この段階では、衝動的な自殺念慮と、安楽死を望む持続的な意志を明確に区別する必要がある。

  • 家族の関与:

    家族や親しい関係者がこの段階から関与することが推奨されているが、法的義務ではない個人の意思が全て)。


オランダ安楽死♯1 こちらでも強調して説明しましたが――

※自殺と安楽死の根本的な相違点は、医師の関与の有無、そして患者の意思が十分に熟慮されたものであるか否かにあります。衝動性の高い行為は、安楽死の対象とはなりません。


言い換えれば、医師との継続的な対話を経て、慎重な熟慮の末に双方の認識が一致し、合意に至るのであれば、安楽死を希望する理由そのものに特段の制限は設けられていない、ともいえます。

つまり――非末期の疾患による苦痛、精神疾患による深刻な生活の困難、生きづらさ、あるいは難治性の疾病など、理由の種類は問われず、「なぜ安楽死を求めるのか」という動機が明確であることが重要視されます。


ここでは、アメリカ・オーストラリア・イギリスなどの制度とは異なり、「現状の心理的な苦しみ」に焦点が置かれており、特定の疾患に限定する規定や、余命に関する明確な要件は存在しません

もっとも、患者の置かれた状況や疾病の性質に応じて、医師が合意に至らなければ次の段階に進むことはできず、決して容易に審査を通過できるわけではありません。

実際、申請段階で不適格となる方も少なくありません。


オランダの安楽死は「試験のある生命の終結」とも呼ばれ、審査と要件は確立されている


【評価段階】


・医師の初期確認

先ほどの6つの要件をクリアしているか、理解しているか、くりかえし話し合い、合意に至ること。

※先ほど言及したように「耐えがたい苦痛」という概念は、客観的な身体的痛みに限らず

『精神的・存在的苦悩』も含みます


・セカンドオピニオン

独立した専門精神科医によるセカンドオピニオンが義務付けられている。これは、残された治療選択肢、診断、および可能であれば意思決定能力の評価のため。


・他の医療専門職の関与

かかりつけ医、看護師、心理学者、スピリチュアルカウンセラーなど、患者のケアに関わっている他の医療専門職から情報を収集し、彼らと協議。

多職種連携が推奨され、困難な決定やジレンマがある場合には、チームでの協議を開催。


・家族、近親者の関与

プロセス全体を通して、家族や近親者の積極的な関与が極めて重要

患者には、家族が関与することについて事前に伝えられる。家族は形式的な意思決定権を持たないが、彼らの意見は考慮される。

患者が家族との接触を拒否する場合でも、医師は彼らを関与させるよう最大限の努力を払うべきであり、ごく稀な正当な理由がない限り、家族との接触を避けることはできない。


・自発的で熟慮された要請の確認

要請が外部からの圧力や、単に精神疾患(この場合、不安定な心理状態)の影響によるものではないことを確認。

患者は意思決定能力(認知能力、適切な感情、病的な価値観に基づかないこと、人生における重要な価値観との関連性)を持っている必要がある。要請は一貫性があり、持続的である必要がある。


・絶望的で耐え難い苦痛の評価

医師は患者の状況と苦痛について十分な洞察を持っている必要がある。

絶望的な苦痛とは、合理的な治療の可能性が残されていない状態を指し、セカンドオピニオンによって裏付けられる。

耐え難い苦痛は主観的なものだが、医師にとって理解可能である必要がある。


・状況と予後の説明

患者の診断、治療選択肢、治療の効果と副作用、予後(緩和ケアを含む)について、十分かつ理解しやすい情報が提供され、家族も関与。


・合理的な代替策の不在

過去に行われた治療と結果を調査し、利用可能な治療法とその成功の見込みについて患者と話し合う。

治療の合理性(期待される改善と患者への負担のバランス)と、治療効果が現れるまでの期間を考慮。もし患者が合理的な治療を拒否する場合、要請が拒否される可能性がある。



【協議段階】

(外部の機関による再評価)


・独立したコンサルタント医師SCENトレーニングを修了した医師に必ず相談。コンサルタント医師は独立している必要があり。


コンサルタントの役割適格基準を評価し、患者を診察し、必要に応じて家族や他の介護者と話すことができる。


意見の相違――コンサルタントと根本的な意見の相違がある場合、別のコンサルタントに相談することを検討。医師はコンサルタントの意見に従う義務はないが、異なる決定をする場合は強力な理由が必要。


※『SCEN(Support and Consultation on Euthanasia in the Netherlands)』:

オランダにおける安楽死や医師による自殺ほう助を適正かつ慎重に実施するための、

『専門的コンサルテーション体制』のこと。

オランダ王立医師会(KNMG)により、医師が安楽死要請に対応する際に専門的な相談とサポートを提供するために設立。

SCEN医は独立した第三者として、主治医の判断が偏りなく法的要件(自発的かつ熟慮的な要請、耐え難い苦痛、合理的な代替策の欠如など)を満たしているかを評価し

『正式な意見を文書で提出』



【実施段階】


・準備

家族や介護者との協議(別れ、場所、立ち会い)、地域担当検死官への事前通知(通常24時間前)が含まれる。薬剤師と薬剤の供給について協議。


・方法

患者と医師が、経口摂取(ペントバルビタール液)、または静脈内投与(注射)(バルビツール酸塩またはプロポフォールに続いて筋弛緩剤)のどちらの方法を選択するか合意。


・最終確認

実際の実施の直前に、患者は自身の願望を再度明確に確認する必要があり。


・死亡後の書類作成と報告

すぐに報告書を提出。

実施後、すべての経過と判断は『地域審査委員会(RTE)』によって後日レビューされる。判断が不適切と判断されれば、医師は行政処分や法的責任を問われる可能性もある。これにより、制度の乱用や不注意な判断が抑止される。


・アフターケア

死亡後6週間以内に、遺族や友人・知人と連絡を取り、喪失プロセスにおける合併症や感情的な問題がないかを確認します。また、ケアチームとの事後評価も推奨される。

ちなみに安楽死の要請が却下された場合、自殺のリスクが高いため、患者に対する継続的なケアを直ちに手配。



【その他 保護措置(セーフティガード)】


• 患者による要求の開始

プロセスは、患者自身が心理的苦痛を理由に安楽死を要請することから始まる。「疾患がどうのこうの」というより、まずは『心に過度の苦しみ』があるのか、ないか…それが第一義。


• 自殺願望との明確な区別

医師は、急性自殺願望と安楽死の要請を区別し、自殺リスクがある場合はその評価を行い、異なる治療方針を適用。自殺願望は通常、衝動的で一時的なものであるのに対し、安楽死の要請は「自発的で熟慮された、一貫性のある持続的な願望」である必要がある。


• 医師の拒否権と紹介義務

もし医師が個人的または倫理的な理由でプロセスを進める意思がない場合、患者にそれを明確に伝え、別の医師を見つける手助けをし、関連情報を適切に引き継ぐ責任がある。


※医師には『良心的兵役拒否』と同様の、『良心的診断拒否』の権利がある(全て合法国がこれを採用されてます)。


・絶望的な苦痛とは、合理的な治療の可能性が残されていない状態。


・SCEN医師は、治療担当医や患者との間に家族関係、個人的関係、チーム関係、治療関係がない独立した立場である必要がある。


• 他の医療専門職の関与

かかりつけ医、看護師、心理学者、スピリチュアルカウンセラーなど、患者のケアに関わっている他の医療専門職から情報を収集し、彼らと協議することが推奨される。困難な決定やジレンマがある場合には、チームでの協議やモラル・ディベートが開催されることもある。


• 審査委員会による審査

安楽死実施後に、地域検死官は、これらの書類を地域安楽死審査委員会(RTE)に提出し、Wtl(安楽死法)の注意義務要件が遵守されたかどうかを評価。

RTEは、事後のチェック機構としての役割だけでなく、今後の安楽死アップデートに関係する重要な機関


・ 未成年者

12歳以上の未成年者の要請もWtlの対象となるが、年齢が若いほどより慎重な意思決定能力の評価が必要とされ、12歳から15歳の場合は保護者の同意が必須、16歳から17歳の場合は保護者が意思決定プロセスに関与する必要あり


• 知的障害者

精神疾患に加えて知的障害がある場合、意思決定能力の評価に特別な注意が払われる。


• 法的保護下にある患者

後見人がいる患者、または強制入院中の患者の場合でも、要請は審査されるが、自由意思の確認や代替策の有無について、より厳格な評価が行われる。



【オランダ安楽死プロセス】(超簡略イメージ)

オランダ安楽死法案の内容から見る 申請から終了までのプロセス 強制リスク回避のための保護措置)


①かかりつけ医へ申請(第1チェック)

 ⇩

②精神科医を含む独立した医師、他ケアスタッフによる評価(第2チェック)

 ⇩

③SCEN(安楽死のプロ医師)による協議(第3チェック)

 ⇩

④実施後にRTEが審査(※ある意味、第4チェック)



備考


非常に厳格な制度であると、お感じになられたのではないでしょうか。


ここまで慎重な枠組みが整えられていると、国家方針や医師・ケアスタッフによる管理のもと、患者がある種の「強い制約」を受けているように映るかもしれません。

しかし、先ほどご紹介した図のとおり、安楽死とはあくまで


「試験のある生命の終結」


であり、制度が犯罪目的に悪用された事例は一度も確認されていません

問題が生じた場合も、医師側の書類記載の不備といった範囲にとどまっており、


制度そのものの危険性が問われたり、廃止論が生じたことは過去一度もありません


(※なお、もちろんですが、一部のキリスト教原理主義的団体やメディアは、従来より一貫して反対意見を表明しています。それどころかデマや陰謀論を流布しています)


安楽死制度のパイオニアであり、『国際的には比較的条件が緩い』と受け止められることの多いオランダにおいても、実際にはこれまで見てきたような厳格な規定と手続に基づき、制度は慎重に運営されています。

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