top of page

【スイス安楽死 #1】歴史と現状

  • 執筆者の写真: リップディー(RiP:D)
    リップディー(RiP:D)
  • 11月20日
  • 読了時間: 8分

更新日:5 時間前

【スイス安楽死 歴史と現状】


日本人(あるいは外国人)でも安楽死(より正確には「自殺ほう助」)が可能な国と聞いて、近年ではすっかり「スイス」というイメージが定着したように思われます。実際、スイスにおける安楽死の歴史は長く、興味深い経緯をたどっています。


まず、スイスの安楽死(自殺ほう助)の議論は、1942年に既存の法律を根拠として始まりました。

スイスの刑法115条には、以下のような記述があります。


利己的な理由で他者の自殺を誘導・手助けした場合は

5年以下の懲役または罰金刑に処される」


そして、これは以下のように解釈できます。


「それならば、利己的な理由でなければ他者の自殺を誘導・手助けするのはOKということですね?


これが、その後の安楽死団体(厳密には、自殺ほう助団体)の法的根拠となっていきました。意地悪な表現をするなら『こじ付け』、または『法律の隙間を突いた』とも言えるでしょう(文責者の印象)。


そもそも、この刑法115条は、“いわゆる安楽死のテーマ”とは、全く関係のなく、以下のような背景があったと言われています。


守永 審一郎の書籍、安楽死を考えるために、の文章
1930年代、名誉・ロマンスに動機づけられた自死は合法

キーフレーズは、

・『自分自身または家族の名誉を守るために自死する人々』へのお手伝い

・恋人に拒絶され、絶望したあげくの自死』そのお手伝い(?)


守永 審一郎の書籍、安楽死を考えるために、の文章
「自分の人生を終わらせたいと思っている絶望的な個人への支援」

キーフレーズは、

・『個人的な理由で自分の人生を終わらせたいと思っている絶望的な個人』その支援

・現代のような、医師が重度の疾患を患者に自殺ほう助をする意味合いは不在


守永 審一郎の書籍、安楽死を考えるために

出典:

【安楽死を考えるために: 思いやりモデルとリベラルモデルの各国比較】

単行本 – 2023/11/27 盛永 審一郎 (著)



このような背景・考え方が第2次世界大戦前、1930年代にスイスで醸成されていたようです。簡単な表現で説明すると、


・利己的な動機でなければ(ここは絶対ルール)

・(=金銭・遺産目的など犯罪行為などの意図がなければ)

・みずから(voluntary)自死したい人の希望を叶えるために

・それを『手伝うこと(assisted death)』は犯罪にならない


このように解されるでしょう。現在、世界中で論議の的となっている“一般論での安楽死”論議とは異なるという事です。

時々「スイスは1942年から安楽死が認められている、すごい」と称賛する方がいますが、その発端は医学的なテーマとは関係ないもので少し誤解されたものとも言えるでしょう。


あえて乱暴な例えをするなら、江戸時代では

切腹する武士の傍らで介錯する担当者は殺人罪に該当しない」という表現でしょうか…。

これは積極的安楽死の項で述べた


・「中絶の大原則は殺人行為に値するが、一定の条件下では小児科医に限っては合法(非刑罰化)」の論理

・「死刑のスイッチを押す係員」の合法性

「正当防衛による殺人」のテーマ…それらと通じる部分があるでしょう。




その後、1982年に「エグジット(Exit)」という世界初の自殺ほう助団体が設立され、これが現代のスイス安楽死の出発点となります。

※昔から小規模な自殺ほう助グループはあったようですが、知名度や現在も活動している団体となると、Exitが世界で初めての安楽死協会といえます。


スイスには現在、およそ7つの自殺幇助団体があります。その中で、日本でも特に知られているのは、


1998年設立の ディグニタス(Dignitas)

2011年にそこから分離して独立した ライフサークル(LifeCircle) でしょう。


スイスの自殺ほう助団体ライフサークルの説明文。会員数1500人。


スイスの自殺ほう助団体ライフサークルで亡くなる日本人女性

こちらのドキュメンタリーは下記ページから視聴できます(無料)


ライフサークルは日本のテレビ報道でも頻繁に取り上げられ、広く認知されておりますが、残念ながら 2022年以降は新規受付を終了しています。

また、ディグニタスの元コーディネーターが 2019年に設立した ペガソス(Pegasos) という比較的新しい団体もあり、徐々に知名度を高めております。


とりあえず、スイスでの安楽死(自殺ほう助)に関心を持たれる初心者の方には、以下の4団体を基本として押さえておくとよいでしょう。


  • 1982年:

    エグジット(Exit) — 国籍を問わないが、対象はスイス在住者のみ

  • 1998年:

    ディグニタス(Dignitas) — 国内外問わず利用可能

  • 2011年:

    ライフサークル(LifeCircle) — 同上(ただし 2022 年以降は新規受付なし)

  • 2019年:

    ペガソス(Pegasos) — 同上


「国籍を問わない」という意味では、他に Exit International や The Last Resort といった団体も存在します。ただしこれらはかなり特殊な性格を持つため、別の機会に詳しくご紹介したいと思います。


利用者数の推移を見ますと、年々増加傾向にあります。


スイスでの安楽死による死亡者の年間推移

スイス国内利用者と外国人利用者の比率は概ね以下のようになります。


  • 国内(スイス国民・在住者):年およそ 1000人

  • 外国人:約 500人

→ 合計で 毎年約 1500人 程度が自殺ほう助を選ぶ、というイメージで良いかと思います(※数年後にはもっと上昇してるでしょう)。


実際、2022年には 1594人 が報告されています。

スイスでは、先ほど挙げた ディグニタス と ペガソス の二つの団体が、日本人を含む外国人を受け入れている代表的な存在です。


なお、重要な点として、

スイスには「安楽死制度(国家により法制化された仕組み)」は存在しません

つまり、国家が医師による安楽死を制度的に義務付けたり保障したりしているわけではなく、「自殺幇助」が非犯罪化されている(ただし“利己的動機”がなければ許される)という形態です。


実際、一度は「国家システムとして安楽死(自殺幇助)を法制化しよう、または廃止しよう」という案が、州単位(チューリッヒ州)で住民投票にかけられましたが、反対多数により否決されています。

※2011年5月15日 の住民投票で否決され、禁止案は約85%が反対、ツーリズム禁止案は約78%が反対。つまり民間による安楽死という仕組みを、多くの国民が支持しているのが現状です。


オランダやカナダの医療制度に根ざした安楽死制度とはやや性格が異なる「スイス方式」であることを、頭の片隅に留めておいていただければと思います。

また、この制度の性質ゆえに、スイス国民以外の人々(外国籍の方)が比較的受け入れられているという背景があります。



補足:最近の注目すべき動向・最新情報(スイス安楽死)


・安楽死(自殺ほう助)件数の増加

スイス連邦統計局によれば、2023年には 1729人 が自殺ほう助を選んでおり、これは2022年の1,594人から 約8.5%の増加です。


このうち 女性が1036人(約59.9%)、男性が693人という構成で、女性比率の高さも継続しています。

加えて、2023年のうち 65歳以上が91% を占めており、高齢者での比率が非常に高い傾向です。


・団体の会員数増加

Exit(ドイツ語圏を中心に活動)では、会員数が過去最高を記録しており、2022年末時点で 約15万4000人 に達しています。

Dignitas も 2022年には 約1万2000人の会員を有しており、新規会員の多くはアメリカ、ドイツ、英国などから来ています。

スイスではオランダの記事で述べたように“カップル安楽死”が可能ですが、Dignitas では実際にカップル安楽死を選ぶのはごく一部で、2022年には 206人 となっています


・ガイドラインと倫理

スイス医師会(Swiss Medical Association)は 2022年に “判断能力を持ち、一貫した死の願望を表明する成人” に対して、自殺ほう助は倫理的に妥当とされうるというガイドラインを出しています。スイスの医師会は安楽死を支持しています。


・新技術・自殺カプセルの論議

世界中を驚かせた、フィリップ・ニチケ(Philip Nitschke)氏による 「Sarco(サルコ)ポッド」 と呼ばれる装置。これは医師を介さず、窒素を使って低酸素状態を作り出し、利用者が自身で操作することで死に至るという仕組み。スイスで初めて実行されました。


この技術は、自殺幇助をこれまでの医療‐制度的枠組みから離れて実現しうるという点で、倫理・法制度の観点から新たな議論を呼んでいます。サルコについては、いずれ単体記事で説明する予定です。



備考

・「スイスで安楽死する」…そのフレーズは間違いではないですが、厳密にいうと「スイスに“自殺ほう助”(AVD)を受けに行く」が正解です。


・スイス現地では、安楽死に相当する語はAVD(assisted voluntary death)です。

こちらの項目で述べたようにVAD(voluntary assisted dying)の亜型と考えてください。つまり、もし現地へ向かわれる方々は、間違っても、ユーサネイジア(euthanasia)や、メイド(Maid)という言葉は使用しないように気を付けてください。

もちろん現地スタッフは理解して接してくれますが、あまり良い印象は持たないでしょう。


・外国籍の人々の、スイスでの“安楽死サービス”利用者は、年々増加しています。

こちらの記事で示す通り、各国が自前の安楽死制度を創設するのは、もはやスイスの団体だけで“手に負えない”ほど希望者が溢れているからです。


スイス安楽死団体、Dignitasは「イギリスは、安楽死希望者の処理をアウトソーシングするな(スイスに送ってくるな)。自国で制度を作ってやれ!」と強い口調で声明を発表している程です(このことからも安楽死の合法化は世界の潮流となっています)。


つまり、いずれは外国籍としての日本人の受付は終了するだろうと推測しています。数年後には近隣諸国からの人々のみでアジア圏は対象外となりえそうです。日本でスイス行きの手続きをしている方々の間では、連絡不通や遅延等が始まっており、既にその兆候は見られています。

「いずれはスイスで…」と希望される方は“タイミングを計る必要性”があるでしょう。

bottom of page